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サイキック・オブ・ザ・デッド  作者: ぴっさま
三章 集落での生活
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第81話 見捨てられない人々

この避難所のリーダーや勇敢にも立ち向かった人たちは、結構な人数が殺されてしまったようだ。


まだ息がある人もいるし銃撃以外の怪我人も多い。

だけどここで僕が怪我を治療したりすると、なぜ力を持ちながら今まで助けに来なかったのかとか糾弾されてしまうだろう。

でも、僕は神様じゃないし全員を助ける義務も責任も無いんだ……


「お父さん! お父さん、起きてよぉ〜!」


小さな子が、銃で撃たれて瀕死の父親に縋り付きながら泣いている。

母親の姿が見えないので父子二人きりなのかもしれない。


あの子にとっては父親だけが全てなんだろう。

必死に父親を求める姿に胸が締め付けられる……


……もういいか。

非難するならしろ! 僕は助けたいんだ!


僕は駆け寄って倒れている父親の銃創に手を触れると治癒(ヒーリング)の光を流し込んだ。


患部に光が届き、やがて光がおさまると父親が目を開ける。

そして上半身を起こして泣きながら子供を抱き締めた。

子どもは父親に抱きついて泣いているけど、今度はさっきまでとは違って嬉し泣きだ。


こうして僕はこの避難所でまだ生きている人々の怪我を癒やしていった。

治癒の奇跡を目にした人々は、口々に僕を神様の使いなのかと噂しながら囁き合うのが聞こえる。


生存者の中には以前物資調達で一緒だった人たちもいた様子で、武装グループの撃退や治療の事を凄く感謝された。

あの時、指を失った高校生たちも2人は生き残っており、もう反省していた様子なのであの時の指を再生してあげたらこれも凄く喜ばれた。


今回の襲撃で50人以上の死者が出ており、その殆どが男性だった。

避難所のリーダーを含めた主要な人物が亡くなってしまったので、これからこの避難所がどうなるのか生き残った人々も凄く不安そうだった。


そこかしこで啜り泣く声も聞こえる。

絶望して項垂れる人々をみて、僕は自重を辞める事にした。





ーーーーー





「お父さん、これすっごく美味しいね!」

「うん、温かくて美味いなあ!」


先程の親子が笑顔でカツ丼を頬張る。


父親の方は久しぶりの味の為か、子供に美味しい物を食べさせる事が出来た為か、涙を流しながら食べている。


「まだ取りに来ていない人がいたら来て下さーい! 飲み物もありまーす!」


真理が長机に用意してあるカツ丼やジュースなどの飲み物を、声を張り上げながら受け取りに来た人に配ってゆく。


「豚肉が苦手な人は親子丼もあります! お代わりしてもらっても良いですよ!」


緊急度の高い人達の治療を終えた僕は、アイテムボックスから温かいカツ丼や親子丼を取り出して生き残った避難民に配っていた。


真理も最初は驚いていた様子だったけど、僕の役に立てると思ったのか疑問の声を上げずに配るのを手伝ってくれている。


人間は強い。

こんな状況でも人は美味しい物を食べれば笑顔になれるようだ。

もちろん家族が死んで悲しんでいる人もいたけど、皆久しぶりの美味しい食事を楽しんでいるようだった。


「真理、一旦落ち着いたから君もカツ丼を食べて。それとも親子丼の方が良い?」

「じゃあ、親子丼をお願い……」


僕は親子丼をアイテムボックスから取り出して真理に手渡す。

真理はその様子をじっと見ていたが何も言わずに食べ始めた。

久しぶりの味だからなのか真理の目にも光るものが見える。


「悪いけど、お代わりをもらえるか?」

「いいですよ。どうぞ」


アイテムボックスからカツ丼を取り出す僕を見ても、その男性は何も言わない。

今、食べられる事が重要であって、僕の秘密を探っても仕方がないと思っているのかもしれない。


僕自身はもう恐れられようが非難されようが関係ないと思っている。

僕が助けたいから助けるだけだ。


後悔するかもしれないけど僕が正しいと感じる心のままに生きようと思う。

もう子供が泣き叫ぶような光景は見たくないんだ。


「私もいただいて良いかしら?」

「はい、もちろん良いですよ。カツ丼で良いですか?」


「ええ、それで」

「はい、どうぞ。熱いので火傷しないように食べて下さい」


女性自衛官だった。

銃撃された傷は僕が治療してある。

一人だけ放置するのも可愛そうだったので治療してあげたんだ。


僕はわざと目の前で何もないとわかる状態から、アイテムボックスでカツ丼を取り出して女性自衛官に渡した。


それを見ても女性自衛官は何も言わずにカツ丼を受け取り食べ始める。

最初は確かめるように小さく一口だけ食べ、美味しいと判るとガツガツと凄い勢いで食べている。

この人、実は結構ワイルドな人なのかもしれない。


僕は皆の胃袋が落ち着くまで避難民に暖かい食事を提供し続けた。


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