第66話 包囲からの脱出
翌早朝、太陽が昇ってくると周囲が見渡せるようになった。
サーチではほとんどの反応が重なってしまっているので数は数えられないけど、目算では数千体の感染者が辺りにはいるようだ。
もしかしたら県庁所在地から発生した群れが近くを通っていたのかもしれない。
こちらの明かりが消えて生存反応が捉えられなくなったためか、このキャンピングカーにしつこくまとわりつく感染者は、周囲の100体ほどの様子だった。
恐らくこのキャンピングカーに人間が乗っていることを知った感染者だけが固執しているんだろう。
結局、朝までにキャンピングカーが横倒しになるほどの動きはなかったので念動力の出番はなく寝ていても特に問題は無かったはずだ。
まあそれは結果論でしか無いけどね。
子どもたちもそろそろ起きてきたので、僕たちは音を立てないように注意していて、朝は火を使わないで用意できる菓子パンを食べる事にした。
そしてなるべく感染者を子どもたちに見せないように注意する。
見たらトラウマ級の景色だしね……
食事が終わった後も感染者は消えるわけではなく、相変わらず包囲されたままだ。
僕は朝までの間にコーヒーを飲みながら考えていた脱出案を提案した。
「じゃあ、まずは私と早苗ちゃんで左右から煙玉をたくさん撒けば良いのね?」
「うん。ここに集まった感染者は、僕たちを目で追っていると思うから有効だと思う。最初に撒く時は僕と光司君も手伝うよ」
僕の考えた脱出案はこうだ。
まずキャンピングカーの左右に煙玉をばら撒いて、近場の感染者の目をくらます。
次に電池式のCDラジカセ数台を紐に繋いで地面に降ろし、大音量で音楽を奏でる。
そして感染者の目と耳を封じた状態で僕がキャンピングカーを念動力で空に浮かべ、一旦進行方向とは逆に移動して複数のCDラジカセで逆方向へと誘導する。
最後に煙玉を撒きながら、群れが見えない安全距離まで移動するという物だ。
念のため光司君には運転の準備をしてもらい、キャンピングカーは最初は地上から2.5mほどの高さとし、最後に余力があるようなら上空まで飛行する事にした。
ずっと上空で飛行出来れば良いのだけど、キャンピングカーごと念動力での移動がどれだけの負荷になって、何処まで行けば良いかわからない為だ。
たぶん大丈夫だと思うけど僕が疲れてしまってキャンピングカーが地上に落ちてしまう危険性もある。
僕たちは一時間ぐらいかけて入念に脱出の準備を行なった。
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「よし! 浮かすよ!」
僕は地面に置いたCDラジカセから流れる大音量に負けないように声を搾りだす。
周囲はたくさんの煙玉から出された煙りで充満している。
ゆっくりとキャンピングカーが地面を離れて浮き上がった。
僕が念動力で浮かせているからだ。
そのまま水平を保つように3m弱の高さを保つ。
「移動するよ!」
僕は浮かせているキャンピングカーを逆方向にゆっくりと移動させる。
窓からは大音量で別のCDラジカセの音が響いていて、周囲の感染者を引き付ける。
最初の位置から200mぐらい戻ったところで再度CDラジカセを地面に降ろし、煙玉を撒き散らした。
「よし! 脱出だ!」
僕はキャンピングカーをさらに高く、高く昇らせてゆく。
感染者が豆粒よりも小さくなって、群れの全体が見渡せるところまで上昇する。
本来であればこの高さを上から覗くと絶対に怖くなるはずだけど、自分で浮かせているからか不思議と怖さは感じなかった。
「高所恐怖症の人は、下を見ないようにね!」
「は、はい!」
光司君は恐怖を感じるようでブルブルと震えている。
運転席はガラス張りで景色が良いので無理もないだろう。
明日奈さんと早苗ちゃんも同じ様な感じだったけど、子どもたちは外を見て楽しそうにはしゃいでいる様子だ。
僕たちはこうして感染者の群れの包囲から脱出出来たのだった。




