第175話 守備隊の奮戦
五章の最終話です。
(島田恭二)
「ごぼおおおっ!」
俺の腹に変異体という奴の、槍の様に尖った太い腕が突き刺さる。
ぐがぁ痛えええっ! だ、だがこの距離なら殺れるぜ!
俺は口から流れ出る血を無理やり飲み込み、痛みを堪え歯を食いしばって奴の口に銃口を突っ込んでぶっ放してやった。
(ズダダダダダッ!)
口から入った銃弾が、奴の後頭部を突き抜けて動かなくなる。
やったぜ! 俺が一匹倒したんだ!
だが、まだまだあいつらが避難するまで時間を稼がなくちゃならねえ!
煙であまり見えねえが、他の仲間はどうなったんだ。
荒井さん達は?
あれっ。
いつの間にか俺は倒れて空を向いて寝ているじゃねえか。
力も入らねえ。
そうか……俺はさっきので……
視界が急速にぼやけてゆく。
(……迎えに来たわ。あなた!)
(……私も来たよ。お父さん!)
お、お前達!
横には俺の死んだ妻と娘がいつの間にかいて、俺に笑顔を向けていた。
俺は死んだのか?
だが、やっと妻と娘に会えたみたいだ……
今までずっと言えなかった想いを伝えたい……
(済まなかった……俺のせいでお前達を死なせてしまって……今までずっと、ずっと謝りたかったんだ……)
(ううん、いいのよ。仕方なかった事だし。それにあなたは頑張ったわ。あれから弱い人達を守って来たのでしょう?)
(うん。お母さんの言う通りだよ)
ああ。
俺は、俺は許されたのか……
(お前達……ありがとう……ありがとう……ずっと、会いたかった……)
(さあ、神様が呼んでいるわ!)
(また三人で暮らせるね。行こうよ!)
(ああ、行こう!)
そして俺達は三人で手を繋ぎ、眩しい光の中に飛び込んでいった。
ーーーーー
(爺さんや。迎えにきたぞい)
(ば、婆さん!)
……
(お前にしちゃあ頑張ったな)
(お、親父!)
ーーーーー
(パパー荒井雅則)
「武田さん、渡していなかったけど、これを。もう駄目だと思ったらピンを抜いて下さい」
俺は武田さんに自分の持つ手榴弾を手渡した。
武田さんも嬉しそうにそれを受け取る。
「ありがとうございます。皆は無事に逃げられましたかね?」
「ああ、多分もう脱出口は虎太郎が塞いでいるはずです。万が一があるんで、追跡されないよう俺達で出来るだけ粘りましょうや!」
(ズダダダダダッ!)
(ズダダダッ!)
「ははっ! 私は商社努めでして、銃の扱いがこんなに上手くなるとは思いませんでしたよ! どうです?」
(ズダダダ、ズダダダダダダダッ!)
「それなら俺もシステムエンジニアだったんで似たようなモンです。ゾンビ映画が好きだったんで、こうやって銃をゾンビに向けてぶっ放したいなとは思ってたんですがね!」
(ズダダダダダダダッ!)
「最期だから言いますが、私は出来れば真理には冴賢君と一緒になってもらいたかったんです! 特別な力など無くても冴賢君は優しい子ですよ。真理は彼を裏切ってしまったというのに、迎え入れてくれましたし!」
(ズダダダダダダダッ!)
「まあ後は当人達の問題ですよ! なる様にしかならんでしょう! 彼らはまだ若くて、これから先も人生が続いてゆくんですから」
「荒井さん、私はおかしくなったのかも知れません。これから死ぬというのに不思議と全く怖くないんですよ! 真理や冴賢君や皆を逃がせたと思うとね!」
(ズダダダダダダダッ!)
「何かの本の受け売りですが、誰か自分の意志を継いでくれる者がいれば、人は死など怖くなくなるそうです。俺達の意志はきっとあいつらが継いでくれます。この化物共もいずれは冴賢達が倒し、いつか何処かに理想の社会を築いてくれると信じましょう!」
「そうですね! それを聞いて、更に力が湧いてきましたよ!」
「ああ! やりましょう!」
「「子供達の未来の為に!」」
(ズダダダダダダダッ!)
(ズダダダダダダダッ!)
……
ううっ……武田さんはもう亡くなったか……
俺も、もうすぐ事切れそうだ……
ママ、血圧がせっかく良くなってきたのに悪いが先に行く……冴賢達を頼む……それと、ずっと愛している……
玲奈、勉強もちゃんとして良い大人になるんだぞ……朝もちゃんと直ぐに起きろ、ハム達にもよろしくな……
明日奈ちゃん、莉子ちゃん、それから真理ちゃんも、冴賢を頼む。
心が折れて倒れそうな時は君達で支えてやってくれ……
サイコ部隊のみんな、お前達なら次はきっと勝てる。
だが自分の命も大切にしろよ……
平坂さん、川上先生、小谷さん、引き続き皆を支えてやって欲しい……
佐々木さん、一条さんも戦闘面でのサポートを頼むぞ……
武田さん、旦那さんは真理ちゃんを逃がして皆を守って立派に戦ったよ。
褒めてやって欲しい……
守備隊の家族の皆さん、守備隊の隊員は皆を逃がす為に命を使い果たした。
だが俺も含めて皆が満足して死んで行くんだ。
だからあまり悲しまないでやって欲しい……
光司君、後は頼んだぞ。
今後は参謀として冴賢を支えてやって欲しい。
美久ちゃんも元気で……ポテチは控えめにな……
秀彦君、君達を逃がして亡くなった、立派なご両親に負けない様な大人になるんだぞ……
真九郎君、君の頑張りはいつも見ていたぞ、いつか立派に道場を開けると俺は信じてる……
鈴花ちゃん、今後も遠慮なく家のママに甘えてくれ……その方がママも喜ぶ……
早苗ちゃん、君は凄く優しい子だからきっと幸せになれる……これからも子供達をよろしく頼む……
明人君、これからは君達の時代だ、皆で助け合い、人間らしく暮らしていって欲しい……
旧ホワイトフォートから着いてきてくれた他のみんな、小学校グループのみんな、モールグループのみんなも元気でな……
最後に冴賢……
お前なら絶対やれる!
きっと理想の社会を実現できる!
次は準備を整えて、ぶっちぎりの力であいつらを倒してくれよな!
それじゃあ、さよならだ。
俺は、俺達は空の上から、いつも皆を見守っているぞ……
ーーーーー
「ママ! 聞こえた!? 絶対パパの声だったよ!」
「聞こえたわ……あの人は自分の使命と責任を果たしたのよ……ううっ……」
「泣かないで、ママ……」
……
「明日奈ちゃん! 今の聞こえた!?」
「う、うん……それじゃあ、もう……」
「お父さん、おじさん達……ありがとう……」
「畜生が! 次は絶対に負けねえぞ……」
「虎太郎君……ええ、私達で絶対に仇を取りましょう!」
「お姉! 私もっともっと強くなりたい!」
「そうね……修練して、次は……斬って見せる!」
……
「ひさとお兄ちゃんのオジサンの声、聞こえた?」
「うん。聞こえたよ美久……荒井さんの意志は僕達で継いでゆこう!」
……
アイジスがパパの最期の想いを精神感応で皆に中継してくれたみたいだ。
パパ、武田さん、島田さん、守備隊の皆さん……ごめんなさい、そしてありがとう。
達也……待っていろ! お前は必ず僕が、僕達が倒す!
そして皆で平和を掴み取るんだ!
五章はこの175話で終わりとなります。
今までお読みいただきまして、誠にありがとうございました。
五章の読者様の評価などは実はあまり振るわなかったのですが、これは私のモチベーションが低下した事もあって推敲が足りておらず、話が雑になって見所も減ってしまった為かと反省しております。
ですが良い事もあり、なんと総PVが100万超えを達成しました。
これは特に目標としていたわけでもなく、これと言って何か貰えるわけでもありませんが、今までの作品の最高PVが10万にも届かなかった私にとっては快挙となります。
この場をお借りしましてお礼を申し上げます。
さて、続きの投稿ですが、先述した様にモチベーションの低下もあってかなり執筆のペースが悪くなってしまい、ストックもほぼゼロに近いため、六章以降に関しては公開まで少し纏まった時間をいただきたいと思っております。
(つまり、当分は更新が無くなります)
六章の最初に関して少しだけですが、小学校から脱出中の話から始まり、追手となる達也のゾンビ軍団から逃れるために最初は光司君を中心に活躍する感じになります。
また、時間が空くと思いますので最初の閑話に五章までのダイジェストを挟む予定です。
恐らく更新が無い間は埋もれてしまうと思いますので、よろしければブックマーク登録をしておいていただければと思います。
以上、よろしくお願いいたします。