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サイキック・オブ・ザ・デッド  作者: ぴっさま
五章 安住の地を目指して
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第164話 坂部市への襲撃

「航空機からの報告です! 現在、坂部市周辺に(おびただ)しい数のゾンビが集結中です!」


……


「報告します! 航空機からの報告にあった通り、坂部市周辺に数百万体以上のゾンビが集結しており、その数は続々と増え続けています!」


……


「報告です! 現在、坂部市の防壁に辿り着いている個体も多数おり、夜明け前から防壁上とヘリコプターから機銃での攻撃を行っていますが、この数では焼け石に水の状態です!」


……


「攻撃ヘリは全機撃墜されました! 現在、他拠点に救援を要請中ですが、弾薬と燃料不足により直ちに救援は出来そうに無いとの事です!」


……


「総理および各大臣、ご家族はヘリで脱出が出来るよう手配中です!」


……


「政府高官の皆さんも脱出の準備を!」


……


荒井家を選挙で破り、ホワイトフォートと呼ばれていたこの集落を坂部市に改名してから二か月半ほどが経過していた。


あれから坂部市には総理大臣を始め、生き残っている各大臣や各省庁の高官、そのご家族という様に、続々と移住が行われていた。


不思議な事に未だ電気・ガス・水道のインフラが使えており、今ではほとんど手に入らない部類の食料物資も大量に保管されているからだ。


それに加えて高い防壁が街を囲い安全圏となっている事も大きい。

しかもその防壁は、我々が持つ実弾兵器などの武器では壊せないほどの強度を持っていた。


その手の専門家がいないので詳しく分析は出来ないが、インフラの件も防壁も自衛隊や官僚の分析では未知のテクノロジーではないか? という事だった。


そのお陰で移住した人達は、崩壊する前の世の生活となんら遜色のない生活を味わえた。

その中にはもちろん功労者として私も入っている。



……



その坂部市が突如としてゾンビの大群に襲われているのだ。

坂部市に設けられた政府および自衛隊の防衛本部に、自衛隊から刻一刻と絶望的な報告が次々と上がってくる。


私の名前は栗山茂樹(くりやましげき)

防衛副大臣と市長となっている坂部氏と共謀し、この集落のリーダーだった荒井家を追い出す事に手を貸した男だ。


政府の人間で最初にこの集落を訪れたのは私だった。


突如として現れた高い壁に囲まれた安全地帯。

自衛隊と共にその場所の視察に訪れた私は、リーダーの男性に街を案内されて驚愕する事になった。


壁内は治安も良く安全であり、道行く人々は皆が笑顔だった。

子供達も楽しそうに学校に通い、給食も出るとの事。

それに美容院や治療院もあり、無料で利用できる食堂まであった。


牛乳や卵、肉類までがある充実した店舗は豊富な食料品や衣料品、生活用品であふれ、それが住民には全て無料で提供される夢のような理想郷だ。


だがリーダーの荒井さんは旧態依然とする体制を良しとしない人間だった。


既に日本政府、いや日本は防衛を含めたその機能の大半を停止している状況だ。

この緊急事態に一部の人間、とりわけ政府側の人間の優先度を高くして救助するのは仕方がないかも知れない。


突然起こったこのパンデミックで助けられた住民はとても僅かだった。

助けも無く見捨てられた形の彼らが怒りを覚えるのも無理はないだろう。

彼らは独自に戦力を保持し、壁の外側に住む民衆を助けつつも住民と協力して助け合って生きているのだから。


荒井さんは理想を求めるあまり視察以上の日本政府との関係を拒否し、こちらの要求を歯牙にも掛けず、甘い言葉にも耳を貸すことはせず、自衛隊の協力でさえ必要ないと断ってきた。


そして彼の息子を軸にして彼が主導する者達にはその力があるようだった。

私達は実際に物理的に叩きのめされる事でそれを目にしたのだ。

この集落の施設や物資は徴収したいが、武力制圧は絶対に無理だ。


だから私達は、荒井さんと以前から対立している子悪党のような元新聞社の者を担ぎ出し、選挙のノウハウを提供して荒井さんを負い落す事に協力した。


当然、不思議な力を持つ彼の息子は彼らに協力する仲間達と共に集落を去った。


正直、私はそんな事はしたくなかった。

私もこの集落の一員として彼らと平和に暮らせればどんなに良かった事か。


だがもう遅い。


この窮地に助けとなる彼らはいない。

自衛隊にも何百万体ものゾンビを撃退する人員も弾薬も無いだろう。


「北側のゲートが破られました! ゾンビが街中になだれ込んで来ており、もう逃げ場はありません!」


これが最後の報告かも知れない。

私たちの避難は間に合わないだろう。


とうとう愚かさのツケを払う時がやって来たのかも知れない……


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