第146話 大切な人(生駒麗華)
私の名前は生駒麗華。
この地域に唯一ある県立高校に通う二年生だ。
私は小さい頃から気が弱くて大人しい子供だった。
勉強は少しだけ出来たけど運動は全然駄目で、何かと幼馴染達に助けられながら過ごしてきた。
私には仲の良い幼馴染が二人いて、同じ高校に通っている。
遠藤雄二君と大友有紗ちゃんだ。
雄二とは家も近くで、男子では一番仲の良い男の子だ。
優しくて正義感が強く、小学校の時に私が虐められそうになった時も率先して庇ってくれて、雄二に密かに恋心を抱いているのは秘密だ。
有紗ちゃんも保育園の頃からの友達で、ずっと一緒にいようと誓い合った親友だ。
有紗ちゃんは空手も習っていた事もあるし、気が強くて私とは正反対の性格だけど、なぜかとても気が合って仲良くなった。
私達はいつも三人一緒だった。
有紗ちゃんも何となくだけど雄二が好きなんだと思う。
微妙な関係で中学時代は何事もなく終わり、私達の住む地域では高校が一つしかないので幼馴染達とは高校も同じになった。
高校で雄二と友達になった吉田翼君、渡嘉敷直哉君も加え、私達は仲の良いグループになった。
勉強に部活、仲の良い友達グループと私達は充実した学生生活を過ごしていた。
そんな中でパンデミックが起こった。
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高校からは即時の避難指示が出て、私と有紗ちゃんは雄二に守られながら無事に家に帰る事が出来た。
それからは雄二や有紗ちゃん、近隣の人達と協力して役所の避難所などを転々としながら、最終的にはショッピングモールの避難所に入った。
その過程で親達は私達を守るため亡くなり、私はご両親がゾンビに殺されてしまった近所に住む鹿島真子ちゃんを保護する事になった。
悲しい事に真子ちゃんは両親が目の前で亡くなったショックで、言葉が出なくなってしまったらしい。
だけど嬉しい事も一つだけあって、それは私を含む高校の仲良しグループの五人皆が、奇跡的に揃って一緒の避難所に入れた事だった。
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ショッピングモールの避難所に入って二ヶ月ほどして、責任者が大津さんという食品加工工場の工場長だった人に代わった。
噂では大津さんが自分の工場にあった食料を大量に提供したからだったみたい。
私は責任者なんて誰でも良いと思っていたんだけど、大津さんは仕事も出来ず役に立たない孤児を追放すると言い出した。
雄二を中心に反対した私達は、最終的に追い出される孤児達を連れて避難所を出て独自に生活する事になった。
金網で囲われた近くの小学校を拠点とした私達は、亡くなった雄二のお父さんから託されていた鍵で、市内の地下にある秘密の食料倉庫から入手した物資でかろうじて食いつないで生きてこれた。
でもある時、倉庫に調達に行った三人が帰って来なかった。
そして子供達と留守番をしていた私と渡嘉敷君が探しに行ったところ、待ち構えていたモールの避難所の人達に捕まってしまったのだ。
どうやらモール責任者の大津さんが、私達の命綱である食料倉庫の場所を聞き出すために、私達を監禁しているらしい。
それに私と有紗ちゃんをイヤラシイ目で見て誘って来る。
雄二も怪我をして凄く具合が悪いし、残してきた子供達も心配だ。
でもここを出る事も出来ない。
どうすれば良いの……
そんな絶望的な状況の中、私達を救ってくれる救世主がふらりとやって来たの。
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「事情は分かりました。とりあえず彼を治してここを脱出しましょう。少し下がっていて下さい」
彼がそう言って手を鉄格子の代わりとなる防犯シャッターに触れると、触れた部分がグニャリと曲がり、人が通れる大きさに開く。
「「「「!」」」」
私達は驚いて声も出ない。
手の込んだ手品なんだろうか?
「驚かせた様ですみませんが、先に怪我人を見せてもらえますか?」
荒井と名乗った彼はそう言うと雄二の側に膝を付いて様子を見る。
「雄二は頭を怪我しているの。それと熱も下がらなくて……」
「分かりました。これなら大丈夫そうですね」
私は少しでもに治療の助けになればと症状を伝える。
彼は少し様子を見た後、頷いて私に答えてくれた。
「本当?」
微笑みながら頷いた彼は雄二の頭に手を翳した。
すると手から眩しい光が溢れだして雄二の全身を包み込んだ後、何事も無かった様に消える。
私達はその光景に呆気に取られていたんだけど、次の瞬間、雄二が自分で頭を振りながら起きだした事に驚愕する。
「あれ、ここ何処だっけ? みんな大丈夫?」
上半身を起こしてキョトンとしている雄二に私達は泣きながら抱き着く。
「「「雄二!」」」
「雄二〜。良かった!」
とっても不思議だけど雄二を救ってくれたんだ、彼には本当に感謝しか無い。
今はまだ言えないけど私の大切な人を助けてくれて、本当にありがとう。