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サイキック・オブ・ザ・デッド  作者: ぴっさま
五章 安住の地を目指して
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第142話 声を失った少女

僕達が聞いた内容では、子供達はこの地域に住む避難民の子供で、みな両親が亡くなってしまった孤児という事だった。


その人数は小学生10人、中学生4人の14名。


避難所で両親とも亡くなってしまって孤児となって追い出されたり、居辛くなって飛び出した子供達が助け合ってきたと言う事だった。

もちろん今ここに居る子供達だけではなくて、ここに居ない高校生の男女5人が主体となって助け合って生きてきたらしい。


パンデミック発生から8ヶ月以上、正直良く生きて来られたと思う。


何でも何処かに秘密の倉庫があって、主にそこからの物資で今まで生き延びてきたけど、その物資を取りに行った高校生達が二日前から帰って来ず、様子を見に行った高校生達も昨日から帰って来ないという事だった。


近隣の避難所とは追い出された事もあって対立しているらしい。

もしかしから近隣の避難所と何かトラブルでもあったのかも知れない。


「そうか……大変だったんだね…………ん? この子は?」


いつの間にかの僕の足元に、小学校低学年ぐらいの小さな少女がいて、僕の手を軽く握ってきたんだ。


真子(まこ)……その子は喋れないんです。両親がゾンビに喰われるところを見て、声が出なくなったらしいんです。多分だけど、お兄さんに食事のお礼を言いたいんだと思います。笑顔がその子なりのお礼なので……」


状況を伝えてくれた、今居る子供達の中では一番歳上っぽい中学生男子の(とおる)君がそう教えてくれる。


そんな、お礼なんて……まだ小さな低学年じゃないか。

本体なら親に守られて何も不自由しないで暮らせる年齢だ。


それなのにこの少女は食事のお礼の為に無理に僕に笑顔を作っている。

それを思うと僕は無性に可哀想で悲しくなった。


僕がこの子ぐらいの時は何も考えず暮らしていたはずだ。

両親が死ぬところを見て心に傷を負っただろうに。


「いいんだ。まだ子供なんだから。無理に笑わなくて、いいんだよ……」


僕はそう言ってしゃがみ、片膝を付いて少女を軽く抱き締めた。


抱き締めると本当に壊れてしまいそうなほど小さい。

こんな小さな子が、声も出せなくなるほど辛い目に遭ったなんて……


人が死ぬなんてパンデミック以降は当たり前の事なのかも知れない。

だけど僕は、このいたいけな少女の気持ちを想うと自然と涙が溢れてきた。


声が出ないのは精神的な影響だと思うけど、何とか僕の力で治せないんだろうか……


少女を抱いて流した僕の一筋の涙が、僕を心配そうに見る少女の頬に伝い落ちる。

すると辺り一面に真っ白い光が輝いた。


これは……治癒の光だ! 発動した覚えはないのに!


光自体は直ぐに消えて霧散して、皆が呆気に取られて沈黙が支配する。


「……お、おにい、ちゃん、なか、ないで……」


「「「「!」」」」

「ま、真子(まこ)が喋った!」


良かった! 治ったんだ!


精神的な事に起因する症状だと超能力は無力だと思ったんだけど、無意識に発動した僕の超能力、治癒(ヒーリング)真子(まこ)ちゃんを治癒出来たのかも知れないし、もしかしたら僕の涙を見た真子(まこ)ちゃんの優しい心が、自力で回復を促したのかも知れない。


僕にはどちらなのか分からなかったけど、声が出せた事に気づいた真子(まこ)ちゃんは、さっき見せたぎこちない笑顔より何百倍も良い笑顔を見せてくれたのだった。





ーーーーー





その後、治癒の奇跡を見て凄く素直になった子供達に、行方不明の高校生達の名前を聞いてアイジスにサーチで位置を表示してもらうと、五人全員が最初に見たもう一つの生存者グループと同じ場所にいる事がわかった。


「良かった! 少し反応が薄いけど、五人とも生きているみたいですよ」

「それは良かったです!」


僕と綾音さんはその情報を共有して密かに喜び合う。


「どんな状況かわからないけど、僕はこれから直ぐに行ってみます。悪いんですけど、綾音さんはここで子供達を守っていてくれますか?」

「……一緒に行きたいところですが、守りは必要ですね。承知しました」


その後、僕はパパに精神感応(テレパシー)で事情を説明し、子供達に告げる。


「僕はこれから君達の仲間の高校生達を探してくるよ。ここには、このお姉さんが残って君達を守ってくれるから安心してね。大丈夫! 僕が必ず全員を見つけて連れ帰って来るからね!」


「「「うん!」」」

「お願いします」

「お兄ちゃんありがとう!」

「よろしくお願いします」


それを聞いて子供達全員が笑顔になった。


そして嬉しそうに駆け寄ってきた真子(まこ)ちゃんの頭を軽く撫で、僕は小学校を後にするのだった。


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