第103話 変異体との接触
「ここに何かが近付いて来ています! 僕が見てくるのでここに居てください!」
「わ、わかった!」
僕は虎太郎さんにそう告げるとアパートの部屋を出て、近付いて来る方向を向いてバールを構えた。
やっぱりサーチでは紫だ。
紫色は初めて見る反応だから、これが白蛇さんが言っていた変異体かも知れない。
真っ直ぐここを目指している様にも見えるけど、こちらが感知されていたりするのだろうか?
そのまま数分待つと、遠目だけど姿を確認する事が出来た。
その姿は、元は人間である事が伺えるけど全身の筋肉が異様に発達し、皮膚が無く筋繊維がむき出しで見えているグロい感じだ。
顔も似たような感じだけど鋭い歯の口が顔の半分以上を占め、あとはギョロっとした目があり、鼻と耳の位置には何も無くただ穴が空いているだけだ。
これはやはり変異体で間違い無いだろう。
変異体は、僕を気味の悪い目で認識すると速度を上げて襲い掛かってきた。
「キシャーッ!」
「くっ!」
僕は口を大きく開けて噛みついてきた変異体の攻撃を横に転がって避ける。
凄い速さだ! もしかして僕よりも早いかも知れない。
変異体は転がって逃げた僕に向き直ると両手を高く掲げて襲い掛かってきた。
その爪は鋭く、引っ掻かれたら恐らく感染してしまうだろう。
僕はその攻撃を紙一重で避けていたけど、急にもう一段速度を上げて襲い掛かってきた攻撃を避けられずバールを水平に当ててやり過ごした。
「ぐうっ!」
だけどその勢いで押し倒され、さらに上から大きな口で噛み付いてくる。
(ガチン! ガチン!)
「うわわっ!」
その攻撃を僕はバールを盾にして、必死で顔を左右に振って避け続けた。
その間に腕に力を入れて押して引き剥がそうとしたけど、全然動かない。
何てパワーだ!
(ゴオォン!!)
この状況をどうしようかと思っていたら、僕を押し倒していた変異体が急に数mほど吹き飛ばされていった。
見ると虎太郎さんが金属バットを振り切ったポーズで近くにいる。
そのバットも少し曲がってしまっていた。
「何だあ!? ありゃあ!」
「虎太郎さん! ありがとうございます。あれは僕も初めて見ますが、多分ゾンビウィルス感染者が変異した変異体だと思います」
「くそっ! こんな化け物みたいな奴までいるのかよ!」
「虎太郎さん下がっていて下さい! あいつは僕が倒します!」
「でもよ! あんなのお前一人じゃ無理だろ!」
「大丈夫です! 奥の手があるので下がっていて下さい……はあっ!」
虎太郎さんの安全もあるし、僕は出し惜しみせずに超能力を開放して念力の青白い光に包まれた。
直ぐにサイコバレットを空中に5発ほど生成し、変異体の頭部を狙って放つ。
変異体はそれに反応して頭部を腕でガードして守り、ダメージは無い様だった。
僕はその隙に高速で接近し、身体強化した力で変異体を空中に蹴り上げる。
流石に変異体といえども空中では身動きが出来ないだろう。
僕も空中に飛び上がって念動力で変異体の後ろに周り込んでサイコブレードで変異体の首を切断し、落ちてゆく頭部をサイコバレットで破壊して倒す事が出来た。
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「……お前、一体何者だよ?」
虎太郎さんが驚愕した様子で、僕と首を切断されて沈黙した変異体を交互に見ながら呟く様に質問してくる。
「それは後で話します。まだ他にも変異体がいるかも知れないので、まずはここを離れましょう! 今直ぐ鈴花ちゃんを連れてきて下さい!」
「あ、ああ! 分かった!」
一応、サーチで範囲内を警戒していたけど他の変異体は近くにはいない様だ。
しかし変異体について少し気になるのは、まるで僕を狙っていたみたいだった事だ……ただの獲物としての認識だったのかな?
とりあえず待っている間にアイテムボックスからスマホを取り出して、変異体のグロい死体? を何枚か撮影しておく。
集落に持って帰るのはリスキーなので報告用に写真だけ撮っておこう。
こういう用途にはスマホもまだまだ使えそうだ。
その後、慌てたようにやってきた虎太郎さんと抱きかかえられた鈴花ちゃんを用意したキャンピングカーに乗せて飛び立つ。
「マジか!? この車、空を飛ぶのかよ! だ、大丈夫なのか?」
「ええ、特殊仕様なんです。大丈夫ですよ! とりあえず鈴花ちゃんを奥のベッドで寝かせてもらえますか?」
そして飛行しながら虎太郎さんからの質問に答えてゆくのだった。