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6.待ち望んだ結婚式

やっと、やっと待ち望んでいた結婚式がやってきた。

ちなみに、エミリーは別室待機。

新郎と新婦は結婚式まで違う部屋で待機するのがこの国の慣習だからだ。

前世が日本人の俺にとっては『別に同じ部屋でも良いじゃん』とは思うが。


エミリーのウエディングドレス、絶対に綺麗だろうな。 

俺はエミリーのドレス姿を想像し、頬が緩んだ。


周りにエミリーの可愛らしいさを隠したいとも思うし、自分の女だと見せびらかしたい気持ちもある。

本当に、こればっかりはしょうがないよね。


「良かったですね、クリストファー様。

やっとエミリティーヌ様と結ばれることができて」


そう言ったのは、カール。

幼い頃から俺達が仲良くできるように尽力してくれて、とても感謝している。

ちなみに、カールはグリトリッチ公爵家に転職する気らしい。

まあ、有能で気心も知れているカールがいるのは心強いな。


「おめでとう、クリストファー」


そうお祝いしてくれたのは兄上。

隣には婚約者であるシェパード侯爵令嬢もいる。

仲良くて良かったな。

二人の結婚式は今年の秋に控えている。

兄上の結婚式も楽しみである。


「兄上、ありがとうございます」


「おめでとうございます、クリストファー様」


シェパード侯爵令嬢にそう言われた。

義姉妹にあたるエミリーとの仲も良く、俺としては微笑ましいと同時に羨ましく感じてしまう。 


「義姉上、ありがとうございます」


「まあ、私達は結婚はまだしておりませんよ?」


ふふと微笑むシェパード侯爵令嬢。

この平和な空間をいつまでも守りたいものである。


「おめでとう、クリストファー」


そう言ったのは父上。

横には王妃である母上もいる。


「父上、お久しぶりですね。そしてありがとうございます」


ちなみに、父上に久しぶりと言ったのは、父上が最近ずっと国王同士の話し合いのため、我が国を離れていたからである。

結婚式に間に合うか不安だったのだが、心配はいらなかったようだ。


「クリストファー、おめでとう」


母上がそう言う。

十八で父上に嫁ぎ、十九で兄上、二十一で俺を生んだ母上は四十路の声もぼちぼち聞こえ始めるはずだが、とても美しい。

この国の公爵令嬢だったが、他国の王族からも縁談が来ていたほど器量良しの母上。

そんな母上に父上はぞっこんなのだ。


「ありがとうございます、母上」


「あなたが人を愛することの幸せや喜びを感じてくれて嬉しいわ。幼い頃からエミリティーヌ嬢に引き合わせたかいがあったわね」


やはりエミリーが婚約者になったのは母上のおかげだったのだ。 

昔から心配してくれていたのだな。

そう思い、心の中で感謝の言葉を述べる。



そんなこんなで話をしているともう結婚式の時間である。

エミリーのウエディングドレスをやっと見れるのかと嬉しくなる。



さて、エミリーが父親であるグリトリッチ公爵と共にバージンロードを歩いてくる。

妖精のような美しさと神々しさを持つエミリーのウエディングドレス姿に俺は見惚れてしまった。


「殿下。娘をどうぞよろしくお願いします」


グリトリッチ公爵にそう言われた。

言われるまでも無くそのつもりである。


「ああ、もちろんだ。ではエミリー、行こうか」


「はい」


緊張した面持ちでエミリーが答える。

まあ、この国の重鎮が勢揃いしているからな。

俺もエミリーほどでは無いが、緊張している。


「新郎、クリストファー・ヴェルナー。

あなたはエミリティーヌ・グリトリッチを妻とし、病める時も健やかなる時も妻を愛し、その命ある限り真心を尽くす事を誓いますか?」


神父による誓いの言葉。

やっとエミリーを妻にできることがとても嬉しい。


「はい、誓います」


「新婦、エミリティーヌ・グリトリッチ。

あなたはクリストファー・ヴェルナーを夫とし、病める時も健やかなる時も夫を愛し、その命ある限り真心を尽くす事を誓いますか?」


「はい、誓います」


エミリーのその強い肯定に俺はとても嬉しくなった。

ありがとう、エミリー。


「では、誓いのキスを」


ヴェールがとれ、エミリーの表情が良く見える。

照れくさくて、恥ずかしいのだろう。

少し頬が赤い。


俺達はキスをするために顔を近づけた。

その時の俺の気持ちは言うまでもない。


 ✣ ✣ ✣ ✣ ✣ ✣ ✣ ✣ ✣ ✣ ✣

   side国王陛下


「やっと結婚したのか」


『天才』と呼ばれながらも、婚約者にはヘタレな次男を見る。

幼い頃はサイボーグと呼ばれるほど表情が無かったのに。

婚約者であるエミリティーヌ嬢と出会い、表情が豊かになった。

あんなに完璧なのに婚約者にはヘタレなことを知った時は驚きもしたが、同時に納得した。

婚約者一筋なのは俺に似たらしい。

昔の俺とそっくりな目の前の次男に苦笑をこぼすしかなかった。


「父上、どうかしましたか?」


声を掛けてきたのは王太子である長男。

昔は次男のサイボーグっぷりに自分に自信が持てなかったが、現在では有能な王太子である。


「いや、クリストファーが大きくなったなと思ったんだ。おまえもシェパード侯爵令嬢と秋に結婚するだろう?歳月の早さを感じさせるよ」


「それはそうでしょうね。それにしても、クリストファーが幸せそうで良かった。

昔は『人生に楽しみなんて無い』っていう顔してたからなぁ」


そう長男に言われ、昔の次男を思い出す。

幼い頃から王族のあり方を理解して過ごしていた。

自分はスペアとして、兄の王太子より目立たないように気を付けていた。

その時のクリストファーの顔は今とは違い、無表情だった。

変わるものだよなぁ。

俺は次男の成長に目を細めた。


「母上」


長男がそう言った。ということは……


「陛下、お帰りなさいませ。お久しぶりですわ」


言うまでもない。俺の妻。つまり、王妃である。

なんで久しぶりなのかというと、俺が近隣国の国王同士が集まる話合いに参加していたからだ。

その後、視察なども行ってから帰ったため、我が国に帰るのも久しぶりなのだ。

ちなみに視察は結婚式ギリギリで、そこから直行したため、王城にも帰っていない。


「ああ、べルティーネ。久しぶり」


「陛下。一度王城に帰ってからこの結婚式に向かえば良かったのに」


「それはすまない。ただ、王城に帰ると結婚式に間に合わなくなってしまうからな」


「そうでしたか。夫婦喧嘩で王城に帰りたくないのかと思っていましたよ」


えっ、今ここで言うか!?

クリストファーの結婚式なんだぞ?

ギョッとベルティーネを見る。

まぁベルティーネの言う通り、結婚式に直行したのは、ベルティーネと顔を合わせて気まずくなるのが嫌だからである。


「父上、また母上と喧嘩されたのですか?

どうせ父上が母上に勝つことは無いのですから、早々に謝られては?」


クッ。長男が辛辣だ……

だが、ベルティーネと喧嘩をして勝った試しが無いので何も言えない。


「で、何で喧嘩されたのですか?」


「私の誕生日を忘れてグリトリッチ公爵と呑みに行っていたんですの。

ヴィンセント、シェパード侯爵令嬢にそんなことをしてはいけないわよ。分かった?」


「もちろんです。ジョージアナには今年の誕生日、旅行に連れていきましたよ。

もちろん、プレゼントも贈りましたし」


「ふぅ。ヴィンセント、陛下に似なくて良かったわ。クリストファーもそんなことしてないわよね?」


ベルティーネがちらりとエミリティーヌ嬢にデレデレと頬を緩ませている次男を見る。

えっ、俺に似たら駄目なのか?


「カールに聞きましたが、エミリティーヌ嬢に自分の瞳のアクセサリーを贈ったとか。

クリストファーにも心配はありませんよ」


うわ……次男の嫉妬というか、牽制がエグい。

ベルティーネもそう思ったのか、少し頬を引き攣らせた。


「ベルティーネ!それに関しては謝ったし、プレゼントも後日贈っただろう!?」


話を戻す。

後日土下座で謝り、ベルティーネ御用達の仕立て屋で作らせたドレスを贈ったのだが。


「そういう問題では無いでしょう!?」


ベルティーネも負けじと言い返す。

どういう問題なんだ!?

ベルティーネが肝心なところを言わないせいで俺はベルティーネが何を言いたいのか分からない。


「ああ、なるほど。そういうことでしたか」


ヴィンセントが頷いた。

どういうことか教えてくれ!


「ヴィンセントが察しが良くて助かったわ。

というか、市井の情報網に精通しているのね。

私に似たのかしら?」


「そうでしょうね。母上は浮気を疑ったのでしょう?結果的にグリトリッチ公爵と呑みに行っていてはいましたが、そこで女性をはべらせたと母上は聞いた、とか?」


ヴィンセント、それは違うぞ?

その時は……


「さすがね、ヴィンセント」


えっ、そういうことだったのか?

確かに女性と一緒にいたが、はべらせていたわけでは無いぞ?


「そうなんですの?」


ベルティーネが心底不思議そうに言う。

そんなに俺って信用が無かったのか。

少しショックである。


「あの時はグリトリッチ公爵の妹君に引き合わされてな。隣国への輸出におかしなところがあると言われたんだ」


グリトリッチ公爵の妹君は隣国の公爵家に嫁ぎ、我が国との友好関係をより良いものにしてくれている。

彼女は聡明で政治や経済に明るく、我が国からの輸入に対して不審に思い、グリトリッチ公爵に助けを求めたらしい。

ちなみに、視察はその輸出について調べるためである。

居酒屋だったのはお忍びで彼女が来国しているため、公に会うわけにはいかなかったからだ。


「そう、あの子が……」


ちなみに、ベルティーネとグリトリッチ公爵の妹君は学園時代からの友人である。

その親友の聡明さは彼女もよく理解している。


「ちなみに、何の輸出で?」


ここで初めてヴィンセントが声を掛けてくる。


「麦の輸出だ。どうやらあの国の麦の値段が最近値上がりしているらしくてな。我が国の値段の倍だとか」


「なんと……」


ヴィンセントもベルティーネも絶句している。

関税がかけらているといっても倍の値段など聞いたことがない、そう言いたいのだろう。


「それで陛下、黒幕は?」


「クリストファーに全権託しといた。

ちなみに数日後、通関局に出頭したらしい」


通関局とは我が国の輸出入の全てを握る、隣国との架け橋となる省庁のことである。


「はっ?クリストファーが?結婚式の準備も忙しいでしょうに」


クリストファーならできるだろう。そう思ったのだ。

現に数日で黒幕を引っ張ってきたのである。


「陛下、クリストファーに嫌われますよ?

もともとそんなに好かれていないのに」


クリストファーに好かれていないのは悲しい。

だが、もう過ぎたことなのだ。


「まあまあ、母上。浮気で無いのなら良かったでは無いですか」


ヴィンセントがベルティーネをなだめている。

それで随分ベルティーネの機嫌が良くなった。 ヴィンセントには後日何か贈ろう。


「ベルティーネ、祝いの席なのだから、怒りの矛を納めてくれ」


ベルティーネがふぅとため息をつく。

根負けしたらしい。


「分かりましたわ。ですが陛下、そういう時は事前に私に言ってくださいませ」


「ああ、もちろんだ」


ヴィンセントいわく、俺たちの喧嘩は犬も食わないらしい。

ヒロインはどこに行ったと思った方へ

ヒロインは王立学園で子爵令息と出会い結婚しました。

ヒロインは子爵夫人となり、幸せな生活を送りましたとさ。


これで一応完結です。

長らく(?)お付き合いいただき、ありがとうございました。

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