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5.断罪劇とエミリーとの仲直り

数日後、王立学園始まって以来の珍事が起きた。

王立学園に近衛兵が入ったのだ。


目的はトゥタリー伯爵令嬢ことカナルック王国の第三王女を捕まえるためだ。

エミリー殺人未遂の教唆といったところか。

まったく。俺のエミリーに手を出してただで済むと思うなよ。

俺は怒りを込めた目で第三王女を見る。


「トゥタリー伯爵令嬢、いえカナルック王国第三王女様。エミリティーヌ・グリトリッチ公爵令嬢様の殺人未遂教唆の罪で捕らえさせていただきます」


近衛団の団長を務めるハザード団長がそう言った。

ちなみに、ハザード団長は俺の幼少期の剣の師匠で旧知の仲である。


「汚らわしい!!私はカナルック王国の第三王女よ!

私を捕まえてただで済むと思っているの!?

離しなさい!」 


近衛兵が、だからなんだという目を向ける。

彼女は驚き、俺に助けを求めた。


「クリストファー様、助けてください!」


本当に愚かだ。こんな愚かな人間に権力を持たせてはいけない。カナルックの王はいったい何をやっているのだ。

俺はため息をつく。


「何を言っているんだ君は。王族の権力が法の権力を上回ることはない。王族であっても罪は償うべきだ」


その言葉に第三王女が押し黙る。

周りを見ると子息令嬢達が集まっており、トゥタリー伯爵令嬢が実は王族であることがバレてしまった。


「えっ、トゥタリー伯爵令嬢ってカナルック王国の第三王女なのか!?」

「だから、クリストファー殿下は拒否できなかったのか!」

「えっ、なんでうちの国にいるわけ?」


もっともな疑問だが、最後は不敬じゃないのか?

そう思いつつも、突っ込むのはやめておいた。


エミリティーヌを害そうとしたんだからそれ相応の罰は受けなければいけない。

ただ、カナルック王国と我が国の友好が途絶えてしまった。


これについては、カナルック王国の王太子から俺の今世の妹を次期王妃にしたいいう申し入れがあったらしい。

妹には『彼は王の器に足る聡明な男だから』と説明しておいた。

今世の妹は可愛く優しい自慢の妹である。

王族特有の政略結婚だが、妹には幸せになってほしいものだ。


「ではクリストファー殿下、失礼いたします」


ハザード団長がそう言った。


「ああ、あとはカナルックの王太子に頼んである。カナルックから副宰相が来ているらしいから、引き渡しておけ」


「かしこまりました」



騒動が落ち着き、エミリーが俺に問いかけた。


「あの、クリストファー様。

トゥタリー伯爵令嬢、というかカナルック王国の第三王女のことがお好きになられたのでは?

第三王女とよくお会いになられていましたし、私と婚約破棄するという噂も流れていましたしね」


エミリティーヌが言う。えっ!?まさか誤解している?


「何を言っているんだい、エミリー。

『愛人をつくらないで』と言ったのは君だろう? 

僕が約束を破り他の女性と浮気した不誠実な男だと思っているのかい?」


俺は心外だなと苦笑しつつエミリーに言った。


「その約束、覚えてらっしゃるのですか?

てっきり忘れていらっしゃるのかと」


エミリーが目を見開く。

どうやら、本当に婚約破棄をすると思い込んでいたらしい。

え、俺そんなに不誠実な男と思われていたわけ?

ひっどーい!俺、泣いちゃう!

……少々芝居がかっているだろうか。


「当たり前だ。だいたい僕はエミリーのような外見の方が好みなんだよ。それに、エミリーは僕の初恋だからね」


その言葉にエミリーが驚いた。


「えっ?」


「というかエミリー、僕達の関係が政略だとでも言いたいのかい?」


「違うのですか?」


エミリーが不思議そうに言う。

俺はこの言葉には苦笑してしまった。

ここまで自分の想いが伝わっていなかったことに。


「好きだよ。親愛の情ではなく、一人の男としてね。

最初は政略だったけどね、君の学びに対する貪欲な姿勢や困っている人を放っておけない優しい性格を好きになったんだ」


「ふえっ?」


ああエミリー、その無防備な表情と火照った頬はとても可愛らしいけど他の男に見せちゃ駄目だからね?


俺は今まで以上に男共を牽制しなければと思った。



さて、俺達は卒業式を迎えた。

ちなみに、俺とエミリーの結婚式は卒業式の翌日である。

明日から俺達は夫婦。そう、夫婦。いい響きだな。

楽しみだなぁ、とても!


「ここヴェルナー王国の王立学園を卒業できたこと、とても嬉しく思う。これからは……」


はい、今度は卒業生代表として答辞を述べています。

三年間の学校生活はとても楽しかった。

エミリーと共に色々な経験をすることができて嬉しかった。

今までの思い出が脳内に走馬灯のように流れた。

あんな事も、こんな事もあったな…

懐かしい思い出でいっぱいである。


ちなみに、エミリーがどんどん可愛くなっていて、触れたいのを理性でなんとか抑え込むのに大変だったのも、今では良い記憶だ。


一年目はカナルックの第三王女のせいで色々あったが、母国に強制送還して、俺の頭を悩ませる人間がいなくなったおかげでエミリーと青春というものを楽しむことができた。


そして、卒業式が終わった。


「クリストファー様。答辞、かっこよかったです」


そう言ってくれたのはエミリー。

待って!?エミリーに『かっこいい』って言われるの、これが始めてじゃない?

超嬉しいんだけど!!


「あ、ありがとう」


とても嬉しく、そして少し照れくさくて顔が赤くなってしまった。


「はは。照れてるのか、クリストファー?」


茶化すようにそう言ったのは父上。王立学園の卒業式には国王陛下も出席するのが普通である。

ちなみに、俺をからかうのが好きらしい。

意地が悪いな、父上。

でも、俺もその遺伝子を受け継いでいるという自覚があるので何も言えない。


「父上、茶化すとクリストファーがむくれるからやめてくださいね」


と助け舟を出してくれたのは兄上。

昔に比べてだいぶ成長しており、今では国王に相応しい王太子である。 

それでも優しいところは変わらない。

ちなみに、婚約者もできた。随分と婚約者を熱望していたらしいので良かった。


「ヴィンセント様、お久しぶりです」


そう言ってこちらに駆け寄ってきたのは兄上の婚約者である、シェパード侯爵令嬢だ。

あの、第三王女に虐めの冤罪をかけられた俺たちの同級生である。

ちなみに成績はエミリーの次。

孤児院や病院の支援を積極的に行っている、ボランティア精神に溢れた女性だ。

民衆からの信頼も厚い、次期王妃に相応しい才色兼備なご令嬢である。


「久しぶり。卒業おめでとう」


「ありがとうございます」


兄上に良い婚約者ができて良かったな。

二人ともかなり仲が良いし。

ちなみに、シェパード侯爵令嬢は俺の未来の義姉でもあるので仲はそこそこ良い。


ただ、あまり兄上に会えなくて俺でストレス発散するのはやめてほしい。 

と言っても、俺とエミリーとシェパード侯爵令嬢でお茶会して愚痴を聞いているだけなのだが。

兄上からは『ストレス溜め込みやすい子だから適度に発散させて』と言われているし。


彼女と会って、兄上の言う事が良く分かった。

聡明であるがゆえに怒りや悲しみを感じても迷惑をかけてしまうと思って我慢してしまう。

周りはそんな彼女の様子に気づかず、慰めもしない。

それは彼女がそういった負の感情を表に出さないせいでもあるのだが。


兄上は人のそういうところをよく見てる。

聡明で気遣い屋、そして人の感情の変化に気付きやすい兄上とはお似合いではないか。

まあ、俺の自慢の兄上だしね。


「ねえ、エミリー。明日は結婚式だね。楽しみ?」


「はい。とても楽しみです」


恥ずかしげに頬を染めて答えるエミリー。

愛おしさで俺は抱きしめたくなった。

ただ、人前でするとエミリーに嫌われる気がするので理性で我慢した。


待って。明日の結婚式まで持つかな、俺。

不安になってきた俺だった。



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