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3.波乱の予感

「ハァ、なんでこんなに忙しいんだ?」


今は王城の繁忙期。第二王子である俺は年齢的に学園に入れないため、こうやって書類の決裁をさせられているのだ。


「しょうがないでしょう。陛下も文官達も皆睡眠を削って働いております」


いや、分かってはいるんだけど。

カールにそう言われ、俺は反論する気も失せた。

王城の忙しさも理解しているが、文官がフラフラになりながら働いているのを見ると、可哀想になってくる。


ただ、疲れた。それはとても疲れたのだ。

そして、エミリーに会いたい。本当に会いたい。

疲れているからこそ会いたいのだ。

カールにおねだりしてみる。


「カール!エミリティーヌと会えるか確認して、会えるんなら予定を調整しろ」


「クリストファー様、書類の決裁は済まされたのですか?」


それはもちろん。仕事を投げ出すのは俺の主義に反するし。『人に迷惑をかけない、かけてはいけない』という考えは前世の記憶によるものだろう。

自分が仕事を投げ出して尻拭いをする人の大変さを俺は良く分かっているからな。


「もう終わった。ってかなんで俺が決裁しなきゃなんないわけ?こちとらまだ学園にも入学してない子供なんだぞ」


「ご自分の有能さを恨んでください、クリストファー様」


あれ?うちの従者、年々辛辣になってない?

昔は素直で可愛かったのに。

時の流れとは残酷なものよ。


「はぁ、クリストファー様。

毎度毎度クリストファー様のご褒美としてエミリティーヌ様を呼び出すのはいかがかと思いますよ?

エミリティーヌ様も領地経営などの勉強でお忙しいらしいですし」


「だから、エミリーが忙しいのなら別に俺は我慢すると言っているだろう」


なんか自分が駄々こねている子供に思えてきた。

それでも、エミリーと会えるのなら手段は選んでいられない。


「分かりましたよ」


カールがため息をつく。根負けしたからだろうか。

なんかすまん。



そしてエミリーが訪ねてきてくれた。


「エミリー、今日は来てくれてありがとう」


相手に好印象を与える笑みを浮かべる。

エミリーには好意を寄せて貰いたいからな。


「いえ、私も息抜きがしたかったのでありがたいです」


あー、エミリー忙しいのか。急に呼び出してしまってすまない。

そんな俺の気持ちなどつゆ知らず、柔らかく微笑むエミリーはもう聖女のようである。

やっぱりエミリーは最強だな。


あっ、エミリーへのプレゼントを渡さねば。 

気に入ってくれるだろうか。


「エミリー、今日はプレゼントをしたくて。ほら、このネックレス綺麗だろう?」


俺が見せたのは紺色の宝石が付いたネックレスだ。

ちなみに、カールが手配した。


プレゼントの紺色のネックレス。

紺色は俺の瞳の色である。

相手の瞳や髪の色を纏うということは相手のものになったということだ。

子息が婚約者に自分の色を纏わせるということは他の男を牽制する意味合いもある。


若干側仕え達が引いている。

いや、酷くね?

エミリーはこんなにも可愛いのだから牽制しないと男が寄ってくるんだぞ。

婚約者としては当たり前のことをしたまでである。


「綺麗ですね。ありがとうございます」


さすが。エミリーのこの、聡明なのにこういうところで鈍感な性格はとても可愛い。

本当に可愛い。

二度言った。大事なことだからな。


そして今日も様々な会話をした。

最近ハマっている小説。

仲の良い友達。

好きな食べ物など。


相変わらずエミリーとの会話は楽しいものだ。

それでも、時間は無情にも過ぎ去っていく。

ああ、このまま時間が止まってしまえばいいのに。


「ありがとうございました、ネックレス」


エミリーが帰っていく。

悲しいが、こればっかりはしょうがない。


「うん、またね。気をつけて」


「ありがとうございます」


エミリーが乗った馬車が見えなくなっていく。


「クリストファー様、あのネックレス…」


カールにそう問われる。聡明であるがゆえにネックレスの意味も気づいたみたいだ。


「言うな。しょうがないだろう?もう少しで舞踏会があるからな。牽制しなければ」


この俺の言葉に、カールは若干の苦笑と憐憫を含んだ表情を見せた。


「なんだ?」

 

「いえ、そんなにアプローチしているのにエミリティーヌ様には届いておられなくて不憫だなぁと」


カール、それは思ってても言うもんじゃない。

心の中に閉じ込めておけ。

あと、俺じゃなかったら不敬だったぞ、それ。



そしてあと少しで王立学園に入学することになる14歳の時のお茶会で、エミリティーヌが暗い顔をしていたから少し気になった。

側近からはなにも問題は無いと聞いているが、どうしたのか?


「あの、クリストファー様?学園の入学式についてですが……」


いつも優しく話してくれているのに、今日は表情が暗いと思ったらそういうことか。


「うん、僕に挨拶をしてほしいんだね?」


「それはもちろんそうなのですが、今年は隣国から王女様がいらっしゃるのです」


ああ、カナルック王国の第三王女か。

たしか数年前にパーティーで会ったはずだ。

それにしても、


「『あの』第三王女が我が国に留学かい?」


皮肉になってしまったがしょうがない。 

カナルックの第三王女は、優秀な兄と姉を持つ平凡な王女だからだ。


いや、平凡ならまだいい。彼女は母親である王妃から特に愛され甘やかされたせいで自己中心的な考えをしている。

それが王族としてどれだけ危険か、王も王妃も分かっていないようだ。

彼女の兄や姉がいなければ、彼女のせいで他国のお偉方を怒らせてしまったのは一度や二度ではきかないだろう。


『クリストファー様〜!』

あ、ちょっと待って。

前世の妹を思い出して拒否感を示すわ。

やだ、怖い。絶対にエミリーに会わせない。

それでも、もし会う機会があってエミリーを傷つけたら絶対に許さない。


「これは王妃様から聞いた話なのですが、第三王女はクリストファー様に一目惚れして絶対に結婚すると息巻いているそうです。あの国の王妃は第三王女には甘いですから」


ん?でも、彼女の父親はまだちゃんとした頭を持っていたよね?


「その、王が会議に出席して国を離れている際に王妃が独断で行ったと」


なるほど。今頃王は慌てているだろうな。


「それで、僕に聞きたいことでもあったの?」


話を戻す。

だいぶ論点がズレてしまったからな。


「第三王女はお忍びということで、入学式を含め学校生活で独善的な行動をしないように見張ってほしいと」


「それは誰からのお願いかな?」


「カナルック王国の王太子と第一・第二王女からです。妹姫が他国でやらかさないか心配なのでしょう」


ああ、彼らは賢いからね。

パーティーで会ったけど、あの王妃の子供なのか疑うくらいに聡明だ。特に王太子は若いながらも王の器に足る男だ。

たぶん王太子がダメダメだったらあの国は終わっていた。


「分かった。注意するよ」



茶会が終わったあと、カールが近づいてきた。


「クリストファー様、カナルック王国の第三王女について調べておきます」


「ああ、頼む。それとカナルックの弱味を握っておけ。どうせあの第三王女のことだから、何かやらかす気しかしない。早急にお帰り願うために脅しの材料でも探っとけ」


「かしこまりました。クリストファー様、このあとはどういたしますか?」


「カナルックの王太子に手紙を書く。なんでうちに送ってきたんだっていう嫌味とさっさと回収しろっていう脅しが九割、あとは友好関係の継続を望むこちらの要望が一割ってとこか」


「早急に紙とペンを用意しておきます」


うん、やっぱりうちの従者は優秀だなぁ。

それにしても、カナルックの第三王女とか荒れる気しかしないんだが。

まあ、エミリーとの接触は何があってもさせないがな。


それでも、俺はこれから来る大変さに頭が痛くなり、ため息をついた。



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