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2.エミリティーヌ嬢との出会い

今日はお茶会で、婚約者となったエミリティーヌ嬢との顔合わせだ。

いや~、緊張する!

だって俺の好みどストライクな女の子に会うんだよ!?そりゃ緊張するわ!

前日から緊張で寝れなかったしね。


「はじめまして、エミリティーヌ・グリトリッチです。よろしくお願いいたします」


幼いながらに完璧なカーテンシーを披露するエミリティーヌ嬢には敬服する。

彼女は次期グリトリッチ公爵夫人である。

礼儀作法も完璧なんだな。

ただ幼いながらに大人として振る舞わなければいけないその姿に憐憫と、王子として俺も共感してしまった。


「はじめまして。クリストファー・ヴェルナーです」


王族ならではの、あのアルカイックスマイルとも呼ばれる、感情を見せない笑顔を披露する。

怖かったらごめんね……


「これをどうぞ。蜂蜜入りのレモンジュースなんだけどね。試飲してほしいんだ」


彼女にジュースを渡す。

試飲してほしいのは事実なんだけど、リラックスしてほしいとも思ったからだ。


「ありがとうございます。……あっ、美味しい」


やはり緊張していたのだろう。

強張っていた表情も幾分柔らかくなっている。

ふぅと息を吐く彼女は来たときよりもリラックスしているようで良かった。


それにしても、本当に美少女である。

間近で見れば尚更。

兄上が俺のことを羨んだのも無理はない。


「リラックスしたみたいで良かったよ。僕らは将来夫婦になるんだし」


「あっはい。そのことなんですが……」


ん?なにかお願いとか?


「その、愛人とかをつくるのはやめていただきたいんです」


おおう。7歳にしては考えること大人じゃね?

いや、自分一人だけを愛してと言う時点でまだ子供なのか。


「ああ、もちろん。そんなに僕が不誠実に見えた?」


心外だなと微笑むと、彼女はシュンとした表情を浮かべる。


「いや、そういうわけでは……」 


彼女のことだからそうではないと思っていたが、少し困った顔が見たくていじわるを言ってしまった。

俺転生前を含めるとかなりの年なはずなんだけど、子供っぽいな……と反省をしたのは俺だけしか知らない。


「クリストファー殿下?」


キョトンとした顔でエミリティーヌ嬢にそう問われる。

ああ、かわいいな。だけど、


「エミリティーヌ嬢、僕のことはクリストファーで良いよ。婚約者だし、『殿下』は無しね」


彼女との間に壁があると思った理由はやはり『殿下』呼びだ。

婚約者なのに他人行儀で絶対に嫌である。


「わ、分かりました。クリストファー様」


恥ずかしいのだろう。

頬を染めて上目遣いでエミリティーヌ嬢が言った。

あざと可愛い。え、これ無意識?嘘でしょ?


「うん、じゃあ僕はエミリーって呼んでも良い?」


「あ、はい」


一瞬ポカンとしたエミリーだが、瞬時に理解したらしい。

ただ、俺はそんなことどうでも良かった。

それよりも、エミリーと呼べたことにとてつもないほどの歓喜が襲ってきた。

そして同時に胸が温かくなった。

そして、これが『愛しい』という思いなのかと腑に落ちた。



「クリストファー様?」


カールが咳払いをする。

どうやら考え込んでいたらしい。


「ああ、すまない。少し考えごとをしていて。じゃあエミリー、好きな物とか教えて?」


にこりと微笑む。こういう時は愛想が必要と母上から教わったからだ。


「あ、はい。私は読書が好きで、特に…」


彼女が息せき切って話し始める。

その一生懸命さが可愛い。

本当に好きなんだなと微笑ましく感じた。


どれくらい経っていただろう。

彼女との会話が楽しすぎて時間が経っているのに気付かなかった。

それにだいぶ日も傾いてしまった。

こんなに人と笑い合って会話するのはかなり久しぶりではなかろうか。


「じゃあ、エミリー。次はいつ会えるかな?」

「あ、次は来週になりますね」

「気をつけて」

「ありがとうございます」



「クリストファー様、エミリティーヌ嬢と仲良くなれそうで良かったですね」


カールにそう言われる。


「そうだな」


本当はとても楽しかったし、彼女が俺の婚約者になってくれてとても嬉しかったのだが、ここで惚気けると恥ずかしすぎるからやめた。


「ああもう!クリストファー様は分かってないです!」


ん?カールが怒るのは滅多にないから驚いた。

どうかしたのか?

しかも、さっきのセリフから推察するに俺のせいらしい。

え、俺なんかした?


「クリストファー様、良いですか?

幼い頃から表情一つ変えなかったあなたが、女嫌いと言われるあなたが、あんなにもご令嬢と楽しく会話なさっているのは初めてなんですよ!?

ここでエミリティーヌ嬢と仲良くしなくて婚約が無しになったらどうするですか?」


え、仲良くしたよね?

視線だけでカールに問いかけると、


「クリストファー様、贈り物は?

ご婚約の際には子息側からご令嬢に贈り物をするのが通例でございます。

エミリティーヌ様は何もおっしゃいませんでしたが、贈り物が貰えなくて嫌われていると勘違いなさっておられてもおかしくありません」


え、そうなのか!?

じゃあエミリーは俺に嫌われると思っているのか?

今からでも茶会をやり直したい。

『婚約破棄してくださいませ』

……絶対に嫌である!

ぐるぐると思いが渦巻く。


「今から手紙と共にプレゼントを贈りましょう」


手紙は今から書くから良いとして、

「女性へのプレゼントって何が良いのか?」


「エミリティーヌ様は読書がお好きと言っておられましたよね?城下で有名な恋愛小説を贈るのがベストでしょう」


カール、ナイス!

ちょっと、うちの従者優秀すぎない?

これで7歳よ?

本当に将来有望な子だわ~

なんか近所のおばさんみたいなこと思っちゃたよ。

でも昔から一緒に過ごしているせいか、成長を感じることが良くあるな。


「母さんから聞いて小説は見繕っておきますから、お手紙を書いてください」


カール、マジ天使!うちの従者は神だった!

カールが神々しく見える。


「分かった。あとは頼む」


「かしこまりました」


手紙は秒速で終わらせた。

もちろん、エミリーに好感を持ってもらうために苦労はしたが。

それでも、今以上に『天才王子』に転生して良かったと思ったことはない。


「さすが、クリストファー様。これは城下で有名な『騎士と令嬢』でございます。今すぐ贈りましょう」


「あ、ああ」


でもうちの従者、優秀すぎてちょと怖い。

俺はカールの有能さに信頼しつつも、ちょっと恐れるようになった。

だって、カール、怖い。



後日、エミリーからお礼の手紙がきた。

え、超嬉しいんだけど。

7歳にしては綺麗な文字である。


〈ー『騎士と令嬢』はとても面白かったです。素晴らしいプレゼントをありがとうございます。〉


カール、ナイスセレクト!

乳母にもお礼を言わねばな。

やはり好きな子からの手紙というものはとても嬉しいものだなと実感した。



その後、週一ほどで彼女に会った。


貪欲に学びを吸収し成長する姿は眩しく、毎週会うのが楽しみだった。


「クリストファー様、お久しぶりです」


「ああ、久しぶり」


にこりと微笑む。カールに言われたように、エミリーに嫌われないように気を付ける。

エミリーと出会う前は考えられなかったな…


「クリストファー様、今日はここを学んだんです。先生からも飲み込みが早いって言われて……」


嬉しそうに笑うエミリーを見ると俺も自然に笑顔になった。

もうエミリー以外と結婚するなんて考えられない。


「クリストファー様、ごきげんよう」


エミリーが成長するのに喜びを感じるし、どこか距離が置かれたようにも感じるし、その華奢な躰を抱きしめたいという誘惑にも悩まされる。


はあ、こんな事に悩む時が来るとはな…


幼い頃から達観した俺は喜怒哀楽を表情に出さない。

ただ、エミリーに関わるとどうも取り乱してしまう。

本当に難儀だなぁ。


他の男に牽制する必要もあるし。

よし、俺の瞳の色のアクセサリーを贈ろう。


「なぁ、エミリーに渡すアクセサリーは何が良いと思う?」


カールに聞いてみる。こういうのは詳しそうだし。


「ネックレスか髪留めでよろしいのでは?

あまりに高価なものはエミリティーヌ嬢が気後れしそうですし」


なるほど、ネックレスは良いな。

で、なんでそんなに詳しいんだ?

俺と同い年だよね?

ちょっと怖くなってしまった。


「こちらで手配しましょうか?」


「いや、俺が見繕ってくる」


察せられると少し恥ずかしいからな。


「かしこまりました」


カールは俺の思いを知ってか知らずか何も言わない。

こういう時は詮索してこない従者を持って良かったと心から思った。



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