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忘却ノ世界  作者: しんしん
9/11

5.5話

二章


 1


何かを求めていた。何かを探していた。

 父親が消えたあの日から、自分の人生は停滞していた。

 頼れるものを失って、只々生き抜くことに必死だった。

 今は只、生きることが優先だと、己に言い聞かせて生きてきた。

生きていれば、きっと探している何かが見つかるだろうと、そう信じてきた。

だから、変化が恐ろしかった。死ぬことが、酷く怖いと感じた。

父親に連れられ、よく足を運んだあの場所へ行くのも躊躇う程に、恐れていた。

けれど、気づいてしまった。

父親を奪ったあの場所に、足を踏み入れて実感した。

ただ生きるために生きていた自分は、死んでいるのと同義であったと。

あの化物と対峙した時に、己の死と対面した時に、感じとった感覚。

あの瞬間——鉄刀を握りしめたあの瞬間、心が踊っていた。恐怖の中に少しの喜びが芽生えていた。

生の実感。ずっと忘れていた感覚。

自分は何のために生きているのか。何を求め生きているのか。そんなことはどうでもよくなるような高揚感がそこにはあった。

結局、生と死は隣り合わせで、生を実感することは同時に、死を見つめるということ。

生きたいという生存本能は、死を感じてから生まれるものであると。

そう、実感した。

これは、絶望的だと吐き捨て諦めてきた人生に、終止符を打つような出来事だった。


求めていたものが分かったわけではない。

探していたものが見つかったわけではない。

けれど倒れる瞬間、確かに心は満たされていたのだった。



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