5.5話
二章
1
何かを求めていた。何かを探していた。
父親が消えたあの日から、自分の人生は停滞していた。
頼れるものを失って、只々生き抜くことに必死だった。
今は只、生きることが優先だと、己に言い聞かせて生きてきた。
生きていれば、きっと探している何かが見つかるだろうと、そう信じてきた。
だから、変化が恐ろしかった。死ぬことが、酷く怖いと感じた。
父親に連れられ、よく足を運んだあの場所へ行くのも躊躇う程に、恐れていた。
けれど、気づいてしまった。
父親を奪ったあの場所に、足を踏み入れて実感した。
ただ生きるために生きていた自分は、死んでいるのと同義であったと。
あの化物と対峙した時に、己の死と対面した時に、感じとった感覚。
あの瞬間——鉄刀を握りしめたあの瞬間、心が踊っていた。恐怖の中に少しの喜びが芽生えていた。
生の実感。ずっと忘れていた感覚。
自分は何のために生きているのか。何を求め生きているのか。そんなことはどうでもよくなるような高揚感がそこにはあった。
結局、生と死は隣り合わせで、生を実感することは同時に、死を見つめるということ。
生きたいという生存本能は、死を感じてから生まれるものであると。
そう、実感した。
これは、絶望的だと吐き捨て諦めてきた人生に、終止符を打つような出来事だった。
求めていたものが分かったわけではない。
探していたものが見つかったわけではない。
けれど倒れる瞬間、確かに心は満たされていたのだった。