上映内容 一
●映画館に居合わせた観客Aへのインタビュー
A「そうね、何か起きないかなって、期待していた部分はあったのよ。
毎日が退屈だったしね。
だからあの映画館を選んだの。
『恐怖の吸血ミイラ』をやっていたところって、もともとあんまり多くなかったし。
水道管が破裂した映画館って、火事があった映画館の一番近くだったじゃない?
だから次に何かあるとしたら、水道管の映画館に一番近いあそこかなって思ったワケ。
一つ目の怪異は後ろの席からポップコーンが飛んできたことね。
髪の毛のカールの中に入り込んじゃって大変だったわァ。
二つ目の怪異はそのポップコーン女が映画の中に現れたコト。
画面に映るなりタタラを踏んで、カップに残ってたポップコーンを残らずぶちまけてしまっていたわ。
そうしたらそのポップコーンに、鳩みたいなモノがワッと集まってきたの。
鳩じゃないのよ。
大きさはカラスくらいで、鳥じゃあないの。
トンボのようなハチのような。
まあ、バケモノとしては小さい部類ね。
ポップコーン女、なかなか優秀なスクリーミング・ヒロインだったわ。
あとはあの停電。
ほんと、ただの停電だと思ってたのよ。
客席はそれなりにザワザワしていたわ。
だけどまさか外があんなひどい騒ぎになってるなんて夢にも思わなかった」
●映画館から少し離れたカフェに居た人物の証言
「良く晴れた休日で、店内も相応に賑わっていました。
ええ、良く晴れていたんですよ。
あんなことが起こるような天気ではなかったのです。
私は新聞を読み終えてコーヒーをすすりながら窓の外を眺めていました。
例の映画館は私が居たカフェの正面にありました。
穏やかな午後のはずだったのに――
にわかに空が曇り出したかと思うと、見たこともないような巨大な稲妻が映画館に襲いかかったのです。
普通、稲妻というのはギザギザと折れ曲がりながら落ちてくるものでしょう?
ところがあの稲妻は、真上からまっすぐに映画館目がけて打ち下ろされたのです。
それが……ああ、神よ……
神の怒りを悪魔が跳ね除けたのです……!
稲妻は映画館の屋根に触れる直前にシャワーのように枝分かれして、映画館を避けて周囲の建物や人々を襲いました。
皆、たまたまそこに居ただけの、罪なき市民たちでした……」
●その日の上映内容についての観客BとCの証言
B「全体的にわけのわからん映画だったが、そのキャロラインってキャラクターの登場シーンは特に妙ちくりんだったよ。
パトリシアっていったかな? 魔法使いの女が森の奥の洞窟のそのまた奥の魔法陣で儀式をしているところに、キャロラインが空中から転げ出てきて祭壇に倒れ込んだんだ。
うまい具合に祭壇の上に、きれいに乗っかったわけだな」
C「パトリシアの台詞ね。
ええと――
『あなた、ニャルラトホテプへの生け贄になっちゃったわよ』
ってのと――
『生け贄はお魚でじゅうぶんだと思ってたんだけど』
と――
『ニャルラトホテプ自身があなたを祭壇に引き込んだのなら仕方がないわね』
とかも言ってたかしらね」
B「ンで、キャロラインってのが逃げようとして洞窟から飛び出すと、アトランティスの町のど真ん中に出るわけサ。
森の奥だったはずなのに。
振り返ると洞窟も消えていて、パトリシアが立ってるだけなんだ」
C「で、パトリシアの台詞。
『無駄よ。これ、映画だもの。場面は勝手に変わるし、ストーリーも勝手に進むわ』
だったわよ。たぶん」
●映画にまつわる手紙 5−1
親愛なるオリヴィアへ
少し落ち着いたので手紙の続きを書いてみるわね。
映写室のドアを開けたところで、わたし、映画の世界に吸い込まれてしまったの。
そこにはおばあちゃまじゃないパトリシアのルイーザがいて――
若いころのパトリシアおばあちゃまの姿をしたルイーザがいて、わたしは生け贄にされてしまったの。
されそうになったの。
生け贄に選ばれたんだけど生け贄にはされてなくてその前に逃げ出して――
ごめんなさい。まだ混乱しているわ。文章がメチャクチャ――
でも書くわ。書かないと前に進めない気がするから――
生け贄って聞いて逃げ出して――知らない町にいきなり来ちゃうのは三回目だから、それ自体ではそんなに慌てなかったんだけどね。
町の景色はフェブラリー・タウンの地下で見たのに良く似ていたわ。
ただ、フェブラリー・タウンはまだちょっと照明とか壁の色とかが明るくてメルヘンチックと言えなくもない雰囲気だったのに、こちらは全体的に灰色とか赤茶色とかで、不気味で荒んだ感じなの。




