ロサンゼルスでのアデリンの日記
十月○日
映画館で、思わず声が出そうになった。
いきなりスクリーンにアランの顔が大映しになったから。
主役だった。役名はアーサー。
驚きすぎてストーリーだとかは全然覚えていない。
エンディングのテロップによればジョン・スミスという芸名だった。
頭に“主演”って書かれていたから、これがアラン。
『恐怖の吸血ミイラ』のテロップはジョン・スミスだらけだった。
アランだけでなく、他の俳優も全員ジョン・スミス。
女優はジョアン・スミス。
音楽も音響もメイクも衣装も。
ジョン・スミス以外にはジョアン・スミスしか居ない。
芸名というより偽名。
そもそも、なにゆえ、ジョン・スミスなの?
本名のアランのほうが、かっこいい。
芸名ってもっと派手なのをつけるものなんじゃないの?
本名だったらもっと早く見つけられた?
イギリスに居ても噂ぐらいは届いて――
ルイーザが、明日は別の映画館で同じ映画を観ると言っている。
アタシもお供する。
アランの姿をもっと観たい。
今度はちゃんとストーリーも観ておかないと。
主演俳優。
目指していた場所に行けたのね。
ずいぶん遠くへ。
あれから何年?
アタシは立ち止まったまま。
十月△日
同じ映画を場所を変えながら何度も観る。
銀幕のアランは別れたときそのままに若々しくて――
最初は“元気そうで何より”みたいに思っていたけど、さすがにおかしい。
ホテルの部屋で、映画を思い出しながら、鏡のアタシと比べてみる。
ハリウッドのメイク技術の力?
映画スターは輝いているから年を取らない?
それだけでこんなに差がつくものなの?
これではアランの前に出られない。
アランを捜して、アランを見つけて。
だけど逢えたとしてアタシは何をするの?
十月□日
画面のアランの顔が変わった。
確かにアタシと同い年な三十代の顔に。
でもストーリーは前のまま。
役柄も若者。
アラン以外のキャストの顔は変わっていない。
アラン一人だけがアタシの望みにつき合うように老け込んだ。
驚いてルイーザに話したら『この映画はそういうもの』って言われた。
望めばほかの配役も、ストーリーも変えられるらしい。
『劇場に入るときに自分がヒロインの恋物語を観たいと念じてみろ』って。
それをやったらいろいろオシマイな気がする。
ルイーザはやっているようなので黙っておく。
十月✕日
映画館を点々とたどりながら、少しずつハリウッドへ近づいていく。
別れたとき、アランはハリウッドへ行こうとしてたけど、本当にそこに居るの? 今も?
あの映画はアタシの望みを映しているだけだから、あの主演俳優はアランではなく、ただの幻。
ルイーザの目当ての相手は居るらしい。ハリウッドに。
ニャルなんとか。
何べん聞いても名前を覚えられない。
ルイーザは、覚えないほうがいいって言う。
人間ではないらしいけど、それじゃあ何なのかは、知らないほうがいいの一点張り。
ただ、ニャル――の力があれば人捜しなんて簡単で、アランもすぐに見つけられるらしい。
ニャル――の力があれば、クトゥルフとも戦えるらしい。




