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キャロライン・ルルイエの消息  作者: ヤミヲミルメ
失われたフィルム
49/72

ロサンゼルスでのアデリンの日記

十月○日


 映画館で、思わず声が出そうになった。

 いきなりスクリーンにアランの顔が大映しになったから。

 主役だった。役名はアーサー。

 驚きすぎてストーリーだとかは全然覚えていない。


 エンディングのテロップによればジョン・スミスという芸名だった。

 頭に“主演”って書かれていたから、これがアラン。


『恐怖の吸血ミイラ』のテロップはジョン・スミスだらけだった。

 アランだけでなく、他の俳優も全員ジョン・スミス。

 女優はジョアン・スミス。


 音楽も音響もメイクも衣装も。

 ジョン・スミス以外にはジョアン・スミスしか居ない。

 芸名というより偽名。


 そもそも、なにゆえ、ジョン・スミスなの?

 本名のアランのほうが、かっこいい。

 芸名ってもっと派手なのをつけるものなんじゃないの?

 本名だったらもっと早く見つけられた?

 イギリスに居ても噂ぐらいは届いて――



 ルイーザが、明日は別の映画館で同じ映画を観ると言っている。

 アタシもお供する。

 アランの姿をもっと観たい。

 今度はちゃんとストーリーも観ておかないと。


 主演俳優。

 目指していた場所に行けたのね。

 ずいぶん遠くへ。

 あれから何年?

 アタシは立ち止まったまま。






十月△日


 同じ映画を場所を変えながら何度も観る。

 銀幕のアランは別れたときそのままに若々しくて――

 最初は“元気そうで何より”みたいに思っていたけど、さすがにおかしい。


 ホテルの部屋で、映画を思い出しながら、鏡のアタシと比べてみる。

 ハリウッドのメイク技術の力?

 映画スターは輝いているから年を取らない?

 それだけでこんなに差がつくものなの?


 これではアランの前に出られない。

 アランを捜して、アランを見つけて。

 だけど逢えたとしてアタシは何をするの?






十月□日


 画面のアランの顔が変わった。

 確かにアタシと同い年な三十代の顔に。

 でもストーリーは前のまま。

 役柄も若者。

 アラン以外のキャストの顔は変わっていない。

 アラン一人だけがアタシの望みにつき合うように老け込んだ。


 驚いてルイーザに話したら『この映画はそういうもの』って言われた。

 望めばほかの配役も、ストーリーも変えられるらしい。

『劇場に入るときに自分がヒロインの恋物語を観たいと念じてみろ』って。

 それをやったらいろいろオシマイな気がする。

 ルイーザはやっているようなので黙っておく。






十月✕日


 映画館を点々とたどりながら、少しずつハリウッドへ近づいていく。

 別れたとき、アランはハリウッドへ行こうとしてたけど、本当にそこに居るの? 今も?

 あの映画はアタシの望みを映しているだけだから、あの主演俳優はアランではなく、ただの幻。


 ルイーザの目当ての相手は居るらしい。ハリウッドに。

 ニャルなんとか。

 何べん聞いても名前を覚えられない。

 ルイーザは、覚えないほうがいいって言う。

 人間ではないらしいけど、それじゃあ何なのかは、知らないほうがいいの一点張り。

 ただ、ニャル――の力があれば人捜しなんて簡単で、アランもすぐに見つけられるらしい。

 ニャル――の力があれば、クトゥルフとも戦えるらしい。


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