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キャロライン・ルルイエの消息  作者: ヤミヲミルメ
アーカムでの滞在記録
33/72

アーカムからのエアメール 一通目と二通目

親愛なるオリヴィアへ


 インスマウスでのことについて警察の人と話したんだけど、何だかおかしな感じになってしまったわ。

 警察署へ行く前に、何をどういう風に説明するか、わたしたちしっかり打ち合わせをしたの。

 だって素直に全部を話したところで、信じてもらえるとはとても思えないし。

 それでも守ってもらう必要はあるわけだから、わたしたちがウソを吐いているように思われても困ってしまうわけだし。


 アデリン叔母さまがこういうのすごくテキパキしていて。

 まずルイーザは絶対に余計なことを言わないように。

 怯えて口も聞けなくなっているということで、ふてくされてないで怯えた顔をしていなさい、と。


 首なし騎士やジョン・セレストさんのことは黙っておいたほうがいい。

 生け贄の儀式について、信じてもらえそうな部分だけをアデリン叔母さまが見つくろって話すから、わたしはうまく相槌を打つ。

 そういう作戦で警察署に乗り込んだの。


 だけどね。

 警察の人がね。

 ありえないって。

 インスマウスに人が住んでいるはずがないって。

 二年ほど前に大きな事件があって、インスマウスは誰も住まないゴースト・タウンになっているんだって。


 事件の内容は、教えてもらえなかったわ。

 何だかこう、外国人なんかに話してやる義理はないみたいな雰囲気で。

 インスマウスの名前を聞くのも嫌だ、みたいな感じ。

「ありえない話をこれ以上続けるなら医者を呼ぶ」みたいな。

 実際はもう少しマシな言い回しだったけど、とにかくそんなたぐいのことを言われて、わたしたち、退散するしかなかったわ。


 それで仕方なくホテルに戻って、この手紙を書いているの。

 アデリン叔母さまは一刻も早くここから離れるべきだって言って、ニューヨーク行きの汽車のチケットを取りに行ったわ。

 ニューヨークの港からイギリスへ帰るの。

 わたしも叔母さまに賛成よ。

 いつインスマウスの人たちが、わたしたちを追いかけて、このアーカムにまでやってくるかわからないもの。


 ああ、だけどそれなのにルイーザは、ここに残っておじいちゃまを捜すなんて言ってるのよ?

「怖いなら二人だけで帰れ」ですって!

 もちろん引きずってでもルイーザも連れて帰るわよ!


 じゃあ、またね。

 ニューヨークに無事につけるように祈っていてね。


キャロラインより






親愛なるオリヴィアへ


 前の手紙を書いてから丸一日。

 今日はもうクタクタ。

 まだアーカムの、昨日と同じホテルよ。


 朝、起きたら、ルイーザが居なくなっていたの。

 ああ、でも安心して。

 もう見つかって、今はこうして手紙を書けるぐらいに落ち着いているから。


 前の手紙はルイーザが勝手に投函してきたものよ。

 ちゃんと届いているわよね?

 わたしがテーブルの上に置きっぱなしにしていた手紙をルイーザが黙って持ち出して、ポストに行くって言ってフロントの人に見せたから、朝早くに子供が一人で外に出ようとしても変に思われたり止められたりしなかったのよ。


 だから少なくともインスマウスの人に誘拐されたわけではないけど、でもこの不安がいつ現実になってもおかしくない状況なのは変わらないじゃない?

 それでアデリン叔母さまが警察に連絡して、わたしはホテルの周りの商店の人とかにルイーザの行方を訊いて回って。

 でもフロントの人の話があるから、誰も真剣に取りあってくれなかったの。


 郵便局に行っても手がかりはナシ。

 ルイーザはおじいちゃまが失踪したときのこと、つまり何十年も昔のことを調べているわけだから、町の資料館にも行ってみたんだけど、ルイーザは来ていないって。


 ただ、資料館の職員に事情を話したら、ルイーザはおじいちゃまとおばあちゃまの新婚旅行の足取りを追っている形になるんだから、新婚旅行にふさわしいおしゃれなホテルを当たってみたらいいんじゃないかってアドバイスをいただいたの。

 おしゃれで、おじいちゃまの若いころからあるような古いホテル。

 電話帳で探して、でもホテルの名前を見ただけでは新しいか古いかわからないから、結局、片っ端から電話して。

「小さな女の子が来ていませんか」って訊いて回って、どこも空振り。


 気が気じゃなかったのよ。

 一人で森の中で首なし騎士を捜しているならまだいいわ。

 もしもインスマウスに戻っていたらどうしようって思った。

 こんな電話なんかかけていないで、わたしもインスマウスに行かないといけないんじゃないかとか考えて、資料館の職員にインスマウスへ向かうバスがないか訊いてみたりして。


 インスマウスとはどういう町なのか。

 警察の人がゴースト・タウンだって言っていたのは本当なのか。

 本当ならどうしてそうなったのか。

 資料館の職員や、たまたま居合わせた利用者に、訊けば訊くほど答えはバラバラ。

 謎の伝染病だとか、マフィアによる大虐殺があったとか。

 全員一致して言っているのは、バスはないし、行ってくれるタクシーも期待できないって点だけだったわ。



 ルイーザは、墓地に居たわ。

 牧師さまと話してたの。

 ルイーザは本当に賢いわ。


 わたし、学んだの。

 恐ろしい経験というものにはいくつもの種類が合って、それが人に話せるものの場合は警察を頼れるけれど、話せない、話しようがない経験なら、神さまに頼るしかないの。

 だから教会には情報が集まるし、警察や資料館では消されてしまうようなウソみたいな記録も残されているわけなのよ。

 ああ、でも、知ってるからって簡単に教えてもらえるわけではなくて、牧師さまもインスマウスについては「あそこは悪魔の町だ」みたいに言うだけだったわ。


 それに汽車の時間も迫っていたから、ほとんど話さずにルイーザの手を引いてホテルに戻って、迷子探しの協力のお礼とチェックアウトの手続きを済ませて、アデリン叔母さまとも合流して三人で駅へ走ったの。


 それなのに汽車には乗れなかったの。

 アデリン叔母さまが、発車の時刻を勘違いしてらしたのよ。

 それでまた、出たばかりのホテルに逆戻り。


 大丈夫よ。

 次の手紙はきっと汽車の中で書くわ。


キャロラインより

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