記事類
美術雑誌の出版社のデスクの奥にしまい込まれていた草稿
ここ最近のサロンでもっとも話題となっているのは『嘆きの巫女の肖像』と名づけられた十二枚の絵画についての噂である。
十二枚はいずれも同じ構図の肖像画であり、十二枚同時に画廊へ持ち込まれた。
モデルとなったローブ姿の婦人は、ギョロリとした目や、ぬめりのような光沢のある顔などの過度のデフォルメのために同一人物のようにも見えるが、注意をもって観察すれば全て別人だとわかる。
いずれのタッチも良く似ており、サインも一致しているが、鑑定士は十二枚すべて異なる画家の手によるものとしている。
なお、サインは見たことのない文字で記されており、読み方はおろかどこの国の文字であるのかすらも判然としない。
この十二枚の絵が話題となっているのは、芸術的な価値からではない。
この絵を持つ者には富と権力がもたらされるという、オカルト的な売り出し方をされたのだ。
多くの良識ある芸術愛好者が一笑に伏す一方で、十二人もの購入者により『嘆く巫女の肖像』は完売となった。
しかし実際は購入者は
※草稿にはこのあと、何度も書き直した跡が見られるが、少なくともこの紙片においては記事として完成していない。
同出版社にて旧号を調査。
該当記事、発見できず。
タブロイド紙の記事より
『嘆く巫女の肖像』購入宅・連続不審火事件
『未明のロンドンに燃え盛る炎』
昨夜未明、○○街○○‐○にて火災発生。
火元である○○宅が全焼。
この火事により一家五人と使用人二人が死亡。
犠牲となった○○(十六歳)の友人は、○○の父親が家族の反対を押し切って『嘆く巫女の肖像』を購入したことがこの悲劇の原因だと語った。
『奇妙な偶然』
ロンドンで火災が相次いでいる。
それも、ただの火事ではない。
一家全員が死亡するという悲惨な火事が、金曜日ごとに、三週間連続で起きているのだ。
出火元は書斎や廊下など火の気のない場所で、鍵のかかった屋内であり、放火とは考えにくい。
何より奇妙なことに、被害宅の三件全てで、火事の直前に『嘆く巫女の肖像』を購入していたことが、親族の証言や画廊の記録などから確認されているのである。
そのため、相次ぐ火災は闇の巫女の呪いによるものだとする噂が広まっている。
ロンドンタイムズの記事
『真昼の惨劇!! 青年を大量殺人に駆り立てたものとは!?』
本日昼過ぎ、悲鳴が聞こえたとの近隣住人からの通報を受けて駆けつけた警察官が、女性六名の遺体を発見。
遺体の輪の中にたたずんでいた男を殺人の容疑で逮捕した。
被害者は全員、注射器で生きたまま大量の血を抜かれたことによって失血死しており、現場からは血のにおいはほとんどせず、代わりに妙な魚臭さがただよっていたという。
死亡したのはいずれも美術集団シャーマーメイズに所属する画家。
現場となったのは同団体のアトリエである。
同団体による作品は「火事を招く呪われた絵画」と噂され、信じがたい話ではあるがその絵画を購入した家庭では実際に不審火が相次いでいる。
被疑者の知人は、今回の大量殺人事件の動機を、呪いによる十二件目の火災によって婚約者を殺されたことへの復讐ではないかと語った。
逮捕された男は容疑を否認。
自分がアトリエを訪れた時には画家達はすでに死亡していたと供述している。
シャーマーメイズには総勢十二名の画家が所属していたが、惨劇を免れたはずの残り六名の行方は不明である。
犠牲者から抜き取られたはずの血液も発見されていない。