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アデリン・アンダーソンの日記

十月X日


 三等船室に奇妙な女が居る。

 廊下で突然、魚臭さを感じて振り向いたら、ギョロリとした目で睨まれた。

 ジューリャにそっくりだった。

 ジューリャか、ジューリャの死後にアタシの夢に出てきた女に。


 年齢が違うから別人だってのはわかるけど、他人にしては似すぎてる。

 年齢さえ違わなければ、双子かって思うぐらい。


 それを言うとその女は、ちっとも似ていないって怒鳴った。

 霊能者の顔は新聞で見たと言っていた。

 その女の故郷では良くある顔らしい。

 彼女に言わせれば、故郷の外の人間のほうが、全員同じ顔だそうだ。

 故郷はインスマウスだと言っていた。

 それ以上は聞き出せなかった。

 地図を調べたら、アタシ達が向かっているアーカムのすぐ近くだった。


 キャロラインはちょろちょろしていて捕まらないから、ルイーザに先に話した。

 ルイーザはおとなしくしているけれど、キャロラインは十八にもなって落ち着きがない。

 ルイーザが珍しく声を出して応じて、キャロラインには黙っているように言われた。

 どうしてかは聞いても答えなかったけど、すごく真剣な目をしていた。

 ブルーダイヤと同じ色の瞳。逆らっちゃいけない気がした。

 ルイーザのことを、少し怖いと感じた。




十月X日


 姪っ子たちにバレないように、船酔いで寝ているふりをして、魚女の周囲を探った。

 収穫はなし。




十月X日


 イルカが回った日。

 キャロラインが海に落ちたと聞いて、甲板に飛び出した。

 皆は海のほうを向いていたけれど、セレスト夫妻だけが違った。

 気づいたのは皆より遅れて甲板に出たアタシだけだった。


 セレスト夫妻の二人だけが、ひどく場違いに思えることをしていた。

 夫が船の模型を抱えて、妻がそれに向かって呪文を唱えていた。

 見ていたら、ひどい目眩に襲われた。


 人に話しても船が揺れただけだと言われるだろうけど、あれは普通の目眩じゃなかった。

 あの夫婦は、どこか別の世界から無人の船を呼び出して、アタシ達が乗っている船とすり替えたのだ。


 アタシ達は一瞬でそっちの船に乗り換えて、もと居た船は、海に沈んだ。

 アタシの他には誰もそれに気づいていない。


 新しい船はもとの船にほとんどそっくりだし、多少の違いがあっても、あれだけ揺れていろいろ壊れたあとだから誰も気にしない。

 アタシ達がもともと乗っていた船の名前がタイタニア号だったことを、アタシ以外の誰も覚えていない。




十月X日


 魚顔の女が消えた。

 船員に訊いたら、該当する人物はそもそも乗船していないと言われた。


あなたへ



 ゆうべの夢のことはあまり怖がらないでください。


 ただ、覚悟だけはしておいてください。


 ただの夢ではないのですから。

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