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キャロライン・ルルイエの消息  作者: ヤミヲミルメ
ブルーダイヤを継ぎし者
14/72

ルルイエ邸からの手紙 2

親愛なるオリヴィアへ



 パパがブルーダイヤをどこかへやっちゃおうとするのは、昨日今日に始まったことじゃなかったの。

 うちのパパは物心ついたころからおじいちゃまを憎んでたって話は前にしたわよね?

 パパはおじいちゃまに捨てられたって思ってるから。

 だからパパは、おじいちゃまに繋がるブルーダイヤも憎んでた。


 もしおじいちゃまが結婚詐欺師とかそういうのだったとしたら、高価なダイヤを置いていくわけないと思うんだけど、それは今はどうでもいいわ。

 とにかくパパは、ブルーダイヤが視界に入るのも嫌で、そのせいでおばあちゃまとはギスギスしてて、わたしが実家に居たときから、ほとんど口も利いていなかったのよ。

 だからってパパは、おばあちゃまの指輪を無理やり取り上げるような人ではないわけなのよね。



 で、最初は学生時代。今から二十年以上前ね。

 さっきパパから聴いたばかりの話よ。

 そのころパパは、あまり良くない友達と付き合ってて、その人がブルーダイヤを盗もうとしてるのに気づいてたんだけど、これ幸いと見て見ぬふりをしたんですって。

 その人は、ブルーダイヤの呪いの噂が本当かどうか確かめてみたかったらしいの。


 本当かどうかはわからないわ。

 噂がじゃなくて、その人が言ってた目的が、ね。

 本当にお金目的じゃなかったのかどうか。


 その人、三日後に、ブルーダイヤを返しに来たそうよ。

 三日連続でひどい夢を見た上に、起きている間も夢で聞いた声が聞こえて、夢と現実の区別がつかなくなりそうになったんだとか。


 もともと感受性が強い上にオカルト趣味な人が、泥棒の罪悪感から悪夢を見た。

 それだけの話だって思うでしょ?

 パパもこのころはそう思ってたそうよ。




 次は九年前。

 ルイーザが生まれて、ママが死んで、パトリシアおばあちゃまの痴ほうが始まって、わたしが遠くの寮付きの学校に編入させられた年。


 長年仕えてた使用人がごっそり入れ替わった年でもあったわね。

 そのせいで噂が広まったみたいで、もともとブルーダイヤに目をつけていた宝石コレクターが、ここぞとばかりに何度も屋敷に押しかけてきたの。


 ママのこともおばあちゃまのことも、全てはブルーダイヤの呪いだみたいに吹き込んで。

 その宝石コレクターが本当に呪いの存在を信じているなら、そんな危険なダイヤをほしがるわけがないわよね?

 だからさっさと追い返せばいいのに、パパはいろいろ重なって心が弱っちゃっていたから、そのコレクターをついつい屋敷に上げちゃったの。


 そこに電話がかかってきて、たぶんこれもコレクターが仕込んだんだろうけど、電話に出るために席をはずしたパパが、外国の僧侶を名乗る誰かのありがたぁいお話に聞き入っている隙に、コレクターは札束を置いてダイヤを持っていってしまったそうなの。

 おばあちゃまと話がついたとか言って。

 おばあちゃまは話ができるような状態じゃなかったのに。


 その宝石コレクターの家、その日の夜に、火事に遭って全焼したそうよ。


 ねえオリヴィア、ダイヤって普通、燃えないわよね?

 炭素だけど石炭みたいには燃えないのよね?

 ダイヤモンドを燃やすのには大量の酸素が必要だから、熱で色が変わるぐらいはあっても、火事でダイヤモンドが燃えてなくなることはない、で、合ってるわよね?


 でもね、燃えたっていうのよ。

 コレクターのコレクション。

 ブルーダイヤ以外は全て。

 たくさんのダイヤモンドが失われて、それでいて同じ部屋にあったブルーダイヤには傷一つなく、変色一つしていなかったなんていうのよ。


 コレクター自身は命は助かったけど重傷で……

 治療費が必要だからブルーダイヤを買い戻してほしいって、コレクターのお嬢さんがパパを訪ねてきたの。


 パパは、お金は返すけどダイヤはそのまま持っていてほしいってお嬢さんに言ったそうよ。

 それでお嬢さんにすごく感謝されてしまったものだから、呪いが怖いから持っていってほしいだけだとは言えなかったんですって。


 だけど三日後、おばあちゃまの部屋の窓からブルーダイヤが投げ込まれて、それっきりコレクター親子とは連絡がつかなくなってしまったんですって。




 そうして三度目の博物館の館長の件で、とうとう目の前で死者が出たの。

 ひいおじいちゃまの時代の話が本当だとしたら、もう何人目の犠牲者なんだかわからないわ。


 こんな話、前にあなたがした時は、わたしはバカにしたわよね?

 あれ、本当は、怖かったからなのよ。


 呪いが怖いんじゃないわ。

 呪いなんかあるわけない、偶然が重なっただけだって、今でも信じてる。

 そうじゃなくて、パパが呪いなんかを信じているのが怖いのよ。


 パパがわたしを遠くの寮に入れたのは、わたしを呪いのダイヤから遠ざけるため。

 パパはもともとはそんな人じゃなかったわ。

 ママが生きていたころは。

 パパがそんな人になっちゃったって、認めるのが嫌で、だからわたし、あなたに呪いの話をされるたんびに怒ってたのよ。


 パパね、霊能者を呼んだんですって。

 午後にはうちに来るわ。

 今は午前。

 パパはそんな胡散臭い人にまで頼るようになっちゃって……


 わたしは騙されないわ。


 またね。


 何だか書き散らかしてるみたいな手紙だけれど、気を悪くしないでね。




キャロラインより


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