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聖剣は君に輝く  作者: 柴崎 猫
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プロローグ1 ラム ド クロニクル

1.


 その町には一つの人工島があった。北に七甲山しちこうさんを頂き、海と挟まれたわずかな土地に広がる町の南の海上あるその島は、七甲アイランドと呼ばれる。一台のスーパーコンピューターを中心に物流、経済、政治の最先端の情報システムが収束する施設を多数持つ地方有数都市として、この町はこの島を中心に現在、急速に発展している。また、この島は、ある教育を目的とした、小学校から大学まで一貫教育の学校が存在し、平日でも多くの子供達で賑わう区画がある。その学校で教えられる事…とは、勉学、体育、芸術…そして、最近、この国の教育機関が他国から後れを取ること数十年、ようやく重い腰を上げて教育を開始した「魔法」である。


 と、舞台設定の話は一旦置くことにし、ここでこの物語の主人公を紹介しよう。堀田大和ほったやまと17歳、花も恥じらう高校2年生。ちなみに、気持ちの悪い紹介をしたが、彼はれっきとした男である。今彼は、この七甲アイランドの中央街を走っている。初夏の日のさわやかな朝、学校に遅刻しそうになって急いでいるのである、実にライトノベルの出だしのような微笑ましい光景である。そう、彼は、この世界において中の中。ごく一般的な高校生である。

 彼は目の前に同じように走っている女子の姿を見ると、急に笑顔になり、走って追い付く。


「おい、華!遅れるぞ!もっと走れ!」


「はあ…」


 華と呼ばれた女子は、振替って彼の顔を見て、大きくため息をつく。


「朝っぱらから人の顔見てため息をついてんじゃねーよ!!」


「私さー。幼馴染の男の子って、こういう時、バイクかなんかで私を乗っけてくれて助けてくれるもんだと思ってた」


「無茶言うな!俺、免許持ってない。ウチ、バイクは校則違反!そもそも遅刻はしないで!」


「それ、アンタが言う事じゃないでしょ?せめて、時間加速アクセル系の魔法とかでこう、ビューンとさ。」


「それ、陸上自衛隊のエースでも、対人戦闘で2秒とかしか使えないやつ!魔法で助けて欲しいなら、異界の亜人の人とでも幼馴染になっとけ!」


「ツッコミが長いのよ。あんた。しょうがないわねー。じゃあ、校門まで背中押すだけで勘弁してあげる」


「は?なんで、俺がお前の遅刻を助けなきゃいけないんだよ!?」


「え?助けてくれないの?可愛い幼馴染が頼んでるのに?いや、別にいいんだよ?見捨てるってなら見捨てるで」


 と、彼は彼女に見つめられ、一瞬戸惑う。


「ああ、わかったよ!ちくしょー!!」


 彼は彼女の背中を押して、力いっぱい走った…。彼女は「よろしくねー」と後ろを振り向きもせずに言う。この何とも微笑ましい?朝の情景を見てお分かりだと思うが、大和という少年は、彼女、華に人知れず…っていうか、周囲にはモロばれであるのだが、思いを寄せている。残念ながら、華の方は、昔から一緒の友達…以上の感情を持っていないようである。佐藤 華、17歳。大和と同じ高校に通う、彼女もまた見た目はどこにデもいる女子高生である。アイドルや女優のような…という程ではないが、そこそこイケてる容姿(本人談)を持ち、また、明るく誰とでも仲良くなろうとする人懐っこい性格は本人が思っている以上に男子受けが良い。スクールカースト…なるものが、彼女の学校にあるとすれば、彼女はトップのカーストに属するような男子生徒からも人気が高い。当然、大和もその事を承知している。一般家庭で元気にすくすくと育っている彼女。高嶺の花…と呼ばれるような女子には到底持ち得ない(なまじ手が出せそうと感じてしまう)親しみやすさが大和にとっては不運であった。他の男子生徒から彼女にラブレターを渡して欲しい…とか、頼まれたことも一度や二度ではない。プロ入り確実の野球部のエース…などと言った自分では到底勝ち目のないような、先輩男子が彼女を狙って動いている事も知っている。しかし…大和はそれで良いと思っている。他の男子から人気の女子に、他より少し近い立場にいる。今もこうやって、漫才するかのように仲良く話ができる。それ以上、大和は何も望んでいない。だがこれは所謂、今の関係が好き…という…とんでもない勘違い。彼は今の所、華にとって、男性と認識していない…故に他の男子と違い気兼ねなく話せるだけであり、彼女にもし決まった男性が現れたら存在自体が邪魔者になる他ない運命である…その事を彼は未だ気付いていない。


 そして…、もう一つ、彼の恋路にとっては不運だった事がある。それは、彼女が…

2.


「聖剣…ですか?あのエクスカリバーのような?」


「そう…。しかし、アーサー王伝説に当てはめるなら、その聖剣は、聖剣と言うより聖杯と言う方が近いかもしれない。その剣は、世界の生まれた時からこの星に存在していたとされ、世界を異界とこの現世…二つに分かつ為に剣の形状をとったとされている…。」


「それが本当なら、とんでもない代物ですね。」


「本当さ。存在する。剣の名は、ラム ド クロニクル」


 ラム ド クロニクルと、老教授の前に立っている青年…晴樹は復唱した。多くの古い本や古文書が積み上げられているとある、とある大学にあるこの教授の私室である。この文献のかび臭いようなホコリ臭いようなにおいがこの青年は苦手であった。青年は教授の机を挟み合い、高そうな椅子に深く腰掛けているその教授の話を聞いていた。


「あまりピンときませんね…?存在したとして…それが、何だと言うのです?」


「君がその剣を手に出来るとしたら?」


 青年は言われた意味が解らず、一瞬戸惑う。が、すぐに我に返る。


「僕は歴史学科の学生ですよ。だいいち、そんな物、欲しくない。」


 使いこなせるわけがない…と、青年は思った。


「手に入れたいのは、君や私…まして大学じゃない。もっと上の誰かだよ…この国の政府…いや、もっとだな。…名目上は、敵対勢力にその聖剣を持たれたら困る…と言う事だが…。まあ、間違いなく自分達の私欲のためにその力を使う気だろう。」


 老教授は、言うと自分の机の上にあったコーヒーをすすって言った。もう、相当ヌルくなってるんじゃないか?晴樹は思う。この教授は話が長いことでも有名である。こうして話の本題に入る前も小一時間、昨日のゼミの課題となった古代魔術の文献について延々と彼の持論を聞かされている。正直どうでも良い。今日は親が遅くなるらしいから、早くカナの病院に行ってやりたい


「なんか、話は急に大きくなってきましたが、それを手に入れる為に僕は何をすれば良いのですか?」


「そうだな。まずは、その前提を話さないといけない。詳しく話そう。君もな。いつまでもあの海の向こうの人工島にある学校にでかい顔をされたくないとは思わんかい?」


 教授は、自分の背後にある窓の向うを指すようにアゴをくいっとあげた。

 晴輝は、その窓の向うを見る。山の中腹にあるその大学の窓からは山麓に広がる美しい港町が見える。そして、その海のほんの少し先にある人工島、七甲アイランドを見つめた。その人工島の少し向うには、小さいが飛行場がある。その飛行場に飛行機が一台、着陸しようとしているのが見えた。

あっちの大学も何かかんけいがあるのか?そういや、大和と華は未だあっちに住んでるんだっけ?元気にやってるのか?


「君にとってもそんな悪い話じゃない。妹さん…、彼女を救えるとしたら、その聖剣しかない…そう思わないか?」


 その話を聞くと晴樹は目を見開いた。


3.


 男は飛行機があまり好きでは無かった。かつて、軍隊に所属していた時…何度か戦場への輸送機に乗ったことがある。その時の正直な感想は、落とされたら終わりだろこの乗り物…だっだ。船か車なら、攻撃されても乗り切る方法はいくらでも考えつく、だが、こんな上空で落とされたら、もうどうしようも無い。だから、こんな乗り物がこんな街近くの人工島に着陸できるようなこの国を男はつくづく「平和ボケ」した国だと思う。

 飛行機が到着して、男は空港で降りる手続きをする。元々、国内便専用の空港として市民の大反対を押し切って作った小さな空港だ。しかし、直後から始まった島の急速な発展により、その空港はさらに肥大化を繰り返し、今では近隣の空港を経ず国際線が直接乗り入れする一大ターミナルとなった。空港のロビーを通る時、男は、ロビーに様々なカメラを手にした、報道…というか芸能レポーターのような人だかりを見た。周囲に随分と頑強な警備員が何人も見えた。何事かと思って見ると中から小綺麗なドレスに身を包んだ3人の少女が出てくる。どの娘もまるでこの世の者ではないかのような美しい整った顔立ち…、よく見ると少々人間離れした横に長区伸びた耳…そうかエルフ…異界から友好の証としてエルフのお姫様の三姉妹が、この島の学校に留学に来る、とかなんとか…今日の朝のニュースでやっていたな。あまり興味は無いが珍しい物を見れた…と、男はその場を立ち去ろうとした。ふと、その三姉妹の長女という長身で素晴らしいプロポーションを持つエルフが男の方に視線を送った。男もそれに気づく。が、すぐに男は踵を返し立ち去った。


 空港を離れてとりあえずクライアントが用意してくれたホテルにチェックインすると、男は荷物を置くとすぐに部屋を出た。指定された時間までまだ余裕がある。少し街中を見ておこう。


 パーティーの会場があるのは別のホテルだ。町の中央の繁華街をそのホテルに向かい歩き位置関係を把握しておく。ふと前を見るとチャラついた服装をした数人の若い男が歩道一杯に並んで歩いてくる、男は面倒くさそうに若者に道をゆずろうと道の隅に立つ。しかし、何かの話題ではしゃいでいた男達は、さらに道の端まで広がり、男の肩に当たった。男は「失礼」と声を掛ける。が…。若者はニヤニヤと笑い、数人で男に絡みついてきた。


 本当に面倒くさい…


 男は静かにため息をつく。場所は町の路地裏に移り。案の定、現金かクレジットカードを出せとか定番のカツアゲが始まりそうになった所で


…銃声が響く…


 男は懐から取り出した大型口径の拳銃で数発、リーダー格であろう男に向かって発射していた。弾は全て男の顔の周り数センチに外れて(外して)当たり、彼の背後にあった壁やガラスがバラバラと崩れている。リーダー格は、腰を抜かしその場にへなへなと倒れ込む。男が他の男に視線を送ると、彼らは慌ててリーダー格の男を起こし逃げていった。


 まったく、反社まで平和ボケしてるのか?この国は…と、男は無表情のままその場を去った。

 そのまま路地を抜け、再び大きな通りに出ると、背の高い建物が見えてくる。上部が鉛筆のように尖っている。あれが、今日のターゲット。パーティーのあるホテルか…。なんのパーティーだったか…確か誕生日?だ。誰かこの町で権力を持っている人の息子って言ってたな。なんだって、そんなガキの誕生日にこんなに人が集まるのか?それは男が知る所では無かった。


4.


 時間は少々前後して、再びあの空港…エルフの三姉妹。へと視線を移す。

 ちょうど、あの男が三姉妹を見ていた直後の話だ。


「ローラ姉さん。どうしたの?」


 三姉妹…ちょうど、3人は大中小という身長差なのだが、その真ん中の姫が長女に話しかけた。周りをとりまくファンや記者に聞こえない程度の声で。あくまでファンへの笑顔を崩さないまま。話しかけられた長女は、今の男に自分が視線をやっただけで、その違和感に気付いた妹を流石だと思う。


「少々、手練れの男がいた…。それだけだ。」


「今の男が?人間にしては、でしょ?さしたる魔力は感じなかった」


「魔力だけが強さの尺度ではない。それだけで敵を測るのはお前の悪い癖だ。イオ。」


 イオと呼ばれた次女、イフェイオンは「ふーん」と鼻で返事をする。姉、ローレンティアは、強い。その一点において彼女は誰よりも姉を信頼している。しかし…


「エルフも憧れる美しさとプロポーションを持ってるんだから、もう少し女っぽくてもいいのにね」


 イフェイオンは小さくため息をついた。


「何か言ったか?」


「いいえ、何も」


「色気が無いのは、イオ姉も一緒…」


 イフェイオンよりさらに小柄な三女、ヘリオトロープがぽつりと言う。


「へりオ。うるさい」


 イフェイオンは妹の頭にポン手おくように叩いた。 

 3人は一先ず今日はホテルに泊まり、なんとかって町の有力者の息子のパーティーに参加しなければならないららしい。


「面倒くせえ…」


 と、3人は同時に言う。ホテルのロビーに差し掛かる。既に案内役の人間がチェックインを終えているらしく、部屋へと案内してくれるらしい。前方から人が一人歩いてくる。いわゆるイケメンというやつだ。背も高いし着ている服装もかなり高級なものをそろえ、それをセンス良く着こなしている。おそらく、高校生くらいか。絶対女の子にもてる…っていうか、勝ち組中の勝組ってやつね。イオは、その少年に見覚えがあった。確か、あの少年…。と、イフェイオンは首をかしげる。確か今日のパーティーの主役の有力者の息子の男の子じゃないか。当然、私達がパーティーに参加する事も知っているだろう。しかし、少年はその視界に入ったであろうエルフの三姉妹に興味すら示さず、構わず通り過ぎていく。随分失礼なやつだ。いくら顔が良くてもあの手の男はあまり好きではないな…。と、彼女は思う。よく見ると、その少年の影にもう一人、こっちもそれなりのイケメンで、清楚な服装をしているが、小柄で線も細い…その嫌な男に付き従うように歩いている。


「あ、エルフの…異界からようこそ。僕たち今日のパーティーで…」


「おい、誠人!さっさと行くぞ。早く来い!」


既に数歩先を行っていた、その嫌な感じの少年に怒鳴られ、気弱そうな少年はぺこりと頭を下げて彼の後を追っていってしまった。3姉妹はエレベーターを待ちながら彼らを見送る。


「まあ、いろんな奴がいる。今はこちらの人間と、あまりもめごとは起こすなよ」


 ローレンティアが視線も変えずに言った。姉が強さ、以外男に興味がない事をイフェイオンは知っている。2人とも空港で見かけた男程度すら魔力を持っているようには見えなかったし、今の姉の反応を見るに実力は大した事無いのだろう。


「そんなことより2人とも気付かなかった?」


 ヘリオトロープが退屈そうにあくびをしながら言った。「何を?」と、イフェイオンが効く。ヘリオトロープは小さくつぶやいた。


「今の2人…あの指輪してた」


4.

 

 エルフの三姉妹とすれ違った少年2人は、ロビーのソファに座る。そして、一杯1000円はするコーヒーを躊躇わずに注文した。


「客寄せパンダにいちいち挨拶してんじゃねーよ。チビ!」


「ごめんよ。修ちゃん。でもせっかくパーティーに出てくれるのに、悪いじゃん」


「ああ!?」


 と、修ちゃんこと嫌な感じの少年、修一にすごまれて、誠人と呼ばれていた気の弱そうな少年は黙る。無礼な態度はどう考えても擁護する余地はなかったが、あの女好きの修一が、まさに目の覚めるような美人三姉妹を前にして興味を示さなかったのは凄いと素直に思う。それだけ、今回、例の聖剣とやらがヤバイシロモノなのだろう。と誠人は思う。しばらくすると、ロビーにやはり高校生の一団かと思われる男女4人組が入ってきた。4人の内2名の男女は、きっと、そこそこの家の子供だ。自前の衣装をキッチリと着こなしている。もう二人は…、多分、一般的な家庭の子かな。着ている服は多分、貸衣装だ。悪いが「着られている」印象がぬぐえない。こういうホテルに来る事が少ないのか


「あれだね。」


 誠人は修一に言う。


「青いドレスの方か?」


 誠人は、スマホを確認する。


「いや、ピンクの方だね。間違いない。」


「マジかよ。庶民じゃねーか」


 いや、僕たちも立派な庶民だよ?と誠人は心の中で言う。


「あれなら、楽勝かもな」


「声…かける?」


「そうだな。先に動いておけばそれなりに有利かも。」


 修一が足を大きく組み換えながら言った。修一の左手の薬指に少し独特なデザインをした指輪が嵌っているのを誠人は見た。そして、自分の薬指に目を落とす。誠人の薬指にも少し似たデザインの指輪が嵌っているのだった。


5.


「やっぱ、凄いねー。このホテル。わー凄い、絨毯がフッカフカだよー」


「いや、華、ちょっと押えろ。恥ずかしい」


 修一と誠人が見たロビーに入ってきた4人の内2人とは、大和と華である。当然庶民の方の2人である。あと2人は、2人の共通の友人で同級生、西田太一という男と三条 椿という女である。修一が見立てた通り、こっちの2人はそれなりに裕福な家庭の出身である。


「いやー。だってテンション上がるでしょ?高校受かった時に、ここの最上階のバイキングレストランにお父さんに連れてきてもらって以来だよ」


「バイキングレストラン…、やめていただけません?たまの贅沢がバイキングレストランとか、あまりに悲しすぎて…」


 椿が華を見下したように言う。椿は華とは同じピアノ教師を師に仰ぐ言ってみれば姉妹弟子といった所である。ずっとライバルとして切磋琢磨し、こと中学の時2人で受けたコンクールで華の方が若干成績が良かった事が椿のプライドを大きく傷つけたようで、それ以来ずっと、こんな風に彼女は華に食ってかかっている。


「そんな事、言って、あのバイキングのローストビーフ凄いのよ?食べた事無いの?じゃあ、今度一緒に行く?凄いんだから、あの肉汁。」


 と、こんな風に華の方は全くそれを気にかけず、椿を仲の良い友人のように扱い、椿も結局いつもそれに負け、腐れ縁のように華と一緒にいる事が多いようだ。見た目ほど仲は悪く無いのだ…と、大和は思っている。そんな女子2人の様子を西田太一は微笑ましく見ている。


「でもさ。太一。俺達来てよかったのかよ。そのパーティー。知らない人の誕生日なんだろ?」


「俺だって、親にそんなの出ろって言われたの今回初めてさ。なんか、三条の方も同じ事言われてたみたいでさ。華ちゃんは連れて来いって言われてたらしいが…」


「ああ、でもさ。やっぱあまりに場違いで…」


 ここで、太一は大和の体をぐっと引き寄せて、小声で話す。


「いいだろ?お前、俺が他の奴連れて行って良かったのかよ。」


 改めて、大和は華のドレス姿を見る。誠人はさっき、着られているいると称したが、大和にとってはめったに見れない花の晴れ姿である。


「一生の恩に着る。心の友よ…」


 大和は太一を抱きしめ、太一はそれを不気味がり引き離そうとしている。そんな4人に近寄ってくる男がいる。


「華、大和、久しぶり…」


 その声に4人は振り返る…。


「あ…晴兄ちゃん!うそ?なんで、ここにいるの?」


 大和が急に大きな声を上げる。華も「晴兄!」と、大きな声を出し、晴樹に抱き着く。あの大学で教授と話をしていた、晴樹がやはり正装に身を包みそこに立っていた。


「大げさだな。島は出たけど、同じ町に住んでるんのに。元気そうでよかった。多分、僕も同じパーティーに出るんだと思うよ」


 華が、うそー!と叫び晴樹に抱きついた。しまった。華は昔から晴樹に必要以上に懐いて…と、大和はマズイ顔をする。


 話していると、晴樹を入れた5人に二人の男が近づいてくる。先ほどの修一と誠人だ。


「三条さん久しぶり。」


 言ったのは、修一だ。さっきまでの嫌な男修一が信じられない、爽やかな笑顔である。


「あ、修一さん。お久しぶりです。今日はお招きいただきありがとうございます。」


 椿が少し必要以上に、テンションを上げて言う。一つに修一が三条家よりもはるかに権力も資産もつよい家の御曹司である事。もう一つは、そんな今日のパーティーの主役でもある修一と知り合いである事を華にアピールしようとしていたのだ。


「こちらは?」


 修一は、椿に最低限の笑顔を向けてから、華の事を椿に聞いた。


「あ、私の友人で、佐藤 華さ…」


 言い終わる間も無く一瞬だった。修一は花の前に膝まづき、華の手を取りその甲に静かに口漬けた。

華、当人は「ほえ?」と変な声を上げ固まっている。大和は、まさにガビーン!という昭和のオノマトペがぴったりな驚きの表情を見せ、太一、椿はただただ目を丸くした。晴樹は若干冷ややかな目でその光景を見ている。誠人は冷静に状況を見ていたが、無関係の人間だと思っていた、晴樹の指に光る変わったデザインの指輪を見て、思わずその顔をしっかりと見た。


 そして…


 その様子をこっそり、遠くから見ていたのはエレベーターを待っていたはずのエルフ3姉妹である。3人は彼らの様子…、というか、華の顔を真剣な表情で物陰から隠れてみていた。

 また別の場所…こちらはさっきの拳銃男がラウンジの椅子に座り、やはりそのキスを眺めている。彼のコーヒーが乗っている机の上にはスマホが置いてある。男はスマホを軽くスワイプする。すると、スマホに華の顔が映し出された。


 かくして…、このロビーにこの聖剣ラム ド クロニクル に招かれた各陣営が集結した。ただ、その半数以上は、自分がこれから何をしなくてはいけないのか…知る事すらないのだが…。


ラブコメ…になるはずです。

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