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剣魔神の記  作者: ギルマン
第3章
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5.捕虜からの情報

 ロアンの屋敷に着いたエイクは、早速セレナからの報告を受けていた。

 内容は、エンリケ達の襲撃の際に捕らえた男達から得た情報についてだ。


「レイダーの目的は、エンリケ達を使ってボスの力量を測る事だったそうよ。

 エンリケ達がボスを殺せればそれにこしたことはないけれど、多分無理だと思われるから、せめて次に活かせるように戦いの様子だけはしっかり確認するつもりだった。ということね」

 そのセレナの言葉に対してアルターが意見を述べた。


「それは随分贅沢な使い方をしましたな。

 エンリケらはエイク様には遠く及ばないものの相応の使い手だったはず。

 本命の刺客や仕掛けは他にあるかも知れないとは思っていましたが、よもやエイク様の力量を測るためだけに使い捨てるとは……。

 しかも、レイダーはエイク様の戦う姿を自分の目で一度見ているわけですし、エイク様の力量を測るというのが、今更そこまで重要なこととも思えません」


 エイクも自分の見解を述べる。

「策を練るのが間に合わなかったのかも知れない。まず、あの時期に襲って来たのはエンリケの意向だったはずだ。奴は直にもこの国をでると言っていた。そして、その前に俺を殺すつもりだと。

 レイダーもエンリケを支配下に置いたわけではなかっただろうから、エンリケがそう決めたなら、無理やり覆すことは出来ないだろう。

 で、エンリケが決めた襲撃の時期に他の策が間に合わなかったから、毒を渡したり俺を誘き出すくらいの支援しか出来なかった。

 それで奴らが俺を殺せるとは思えなかったから、せめて戦いの様子だけでも確認して、今後に活かそうとした」


「確かに辻褄はあいますな」

「いずれにしても、様子を見ていた男は捕らえたのだから、レイダーはその目的すら果たせていないわ。

 今回の一件はこちらの完勝と思っていいのではないかしら」

 セレナがそうまとめた。

 そして報告を続ける。


「様子を見ていた男は、それなりの重要人物よ。

 レイダーの部下には4人の幹部がいるのだけれど、その中の1人だった。

 でも、その男ですらレイダーの居場所は知らなかったわ。レイダーの居場所を知っているのは、幹部の中でも1人だけのようね」

「その捕虜と直接話す事はできるか?」

 エイクはそう聞いた。

 はっきり言ってしまえば、セレナに対して全幅の信頼を置いているわけではないので、念のため自分でも尋問をしたいと思ったのだ。


 エイクのその言葉に、セレナは気まずそうに答えた。

「ごめんなさい。それが、そいつはもう普通に話せないのよ」

「殺したのか」

 エイクは眉をひそめた。

 それではエイクに聞かせたくないことがあったので口を封じたと思われてもおかしくない。


「殺してはいないわ。ただ……、少し尋問をやりすぎてしまって、会話が出来ない感じになってしまったのよ。

 聞くべきことは全て聞いた後だから支障はないはずだけれど、口封じをしたと思われても仕方ないわよね。反省しているわ」

 そう述べるセレナからは深い陰りが感じられた。


(……聞くべきことは全て聞いた後にやったなら、それは尋問じゃあなく拷問というべきなんじゃあないか?)

 エイクはそう考えたが発言する事は控えた。セレナの様子からそんな茶化すような事は口に出来ないような、どす黒い雰囲気を感じ取ったからだ。

 そして事情を察した。


 セレナが囚われていた時、レイダーは4人の部下と共にセレナを犯したらしい。

 その4人の部下が幹部達であり、今回捕らえた者もその1人だったということなのだろう。

 つまり、その者はセレナにとって直接的な怨敵というわけだ。


(そういえばドロシーが“猟犬の牙”は出来るだけ苦しめてから殺す技に長けていたと言っていたな)

 エイクは“黒翼鳥”のギルド長から聞いたそんな情報を思い出した。

 “猟犬の牙”の前の長の秘蔵っ子と言われていたセレナも、そんな技に長けているのだろう。

 そして、直接的な敵に対して、やりすぎてしまったということなのだと思われた。


(もしも俺が動かずにセレナがそのまま殺されていたなら、どうということもなかったんだろうが、結果としてその男は最悪の相手に手を出した事になったわけだ……。

 俺も他人事と笑っていられる話じゃあないな……)

 己の行いを顧みれば、それはエイクとしても身に詰まされる出来事といえる。まあ、それで行いを改めようとは思わないエイクだったのだが。


「ごめんなさい。何とか回復させるように手をつくすことにするわ」

 押し黙るエイクの姿を見て機嫌を損ねたと思ったのか、セレナがそんな事を言った。

「いや、まあ、今後気をつけてくれればいい」

 エイクはそう返して、話しを次に進める。


「レイダーの居場所を知っている者を特定出来たなら、そいつを押さえれば片がつくな」

「その通りだけれど、それほど簡単でもないわ。その幹部はかなり身の安全に気を使っているし、容易く捕らえられるとはいえない。

 それに、捕らえたところで即座に口を割らせるというのも流石に無理でしょうから、いきなりそいつを捕らえれば、異変を察したレイダーに逃げられてしまうかも知れない。

 どうせなら、慎重にそいつの動向を調べて、予めレイダーの隠れ家を特定してから動いた方が良いと思うのだけれど、どうかしら」


「そうだな、その通りだ。

 隠れ家を特定する手がかりを得ただけでも大きい。無理をせずに慎重に対応してくれ」

 エイクはそう判断した。

 彼自身レイダーを逃がしたくないと思っているのも事実だったし、自分以上にセレナはその思いが強いだろうということも察せられたからだ。


「ええ、捕虜から得た情報を元に、レイダーが逃げ出さない程度に奴の組織の力を削ぐ方法も考えているから、それを実行するつもりよ」

「任せる」


「それから頼まれていたボスの功績を広める件も、順調に進んでいるわ。

 今日報告できる事はこれくらいね」

「ああ、ありがとう。今後もよろしく頼む」


 エイクはセレナをねぎらうと、先ほどからひと言も話していないロアンに声をかけた。どこか心ここにあらず、といった様子だったからだ。

「ロアンからは何かないか?」

「いえ、エイク様にわざわざ聞いていただく必要がある事は何もありません」

「それはつまり、聞く必要がない程度の何かはあるって事だろう。それを聞かせてくれ」


「は、はい、すみません。本当にくだらない事で、その、実は店で働いている料理長が体調を崩してしまったんです。

 元々そろそろ歳で引退したいと言っていたのを無理に働いてもらっていたのですが、だいぶ厳しいようなんです。

 うちの店は一番上のお客様には料理も最高のものを提供していたので、代わりが勤まる料理人も簡単には見つからなくて、正直苦慮していました。

 本当は予め後継者の育成も進めておくべきなんですが、いままでグロチウスの要求が過酷すぎでそこまで余裕が持てず、今更あわてる事になってしまいました……」

「そうか、それは確かに俺にはどうにも出来ないな」


 エイクの活動はロアンからの多額の上納金に支えられている。

 その上納金がなくなれば全ての前提が崩れてしまう。

 この点で、ロアンの店の経営は重要な問題だ。だが、だからといってエイクにどうこう出来る事ではない。


「悪いがそれはロアンの方でどうにかしてくれ。もちろん協力できることがあれば俺も協力する」

 エイクは改めてそう告げた。

「私も何か耳寄りな情報がないか気には留めておくわね」

 セレナもそう発言する。

 確かにエイクよりは役に立つだろう。


「じゃあ、今日はこれで終わりでいいか」

「ええ」「はい」

 エイクの問いかけに、セレナとロアンが答える。


「それじゃあ、このまま訓練を始めたいが、セレナは大丈夫か」

 それはセレナを雇った時になされた、情報収集の見返りとして戦い方を教えて欲しいという要望に応えるということだった。

 エンリケの行動に関して十分に役立つ情報収集をしてくれたと考えたエイクは、次の会議の時に約束どおり訓練に付き合うと予め伝えていたのだ。


「ええ。問題ないわ」

 セレナがそう答える。

「場所は俺がグロチウスたちと戦った大広間にしよう。あのくらい広い方がいい」

 そう言ってエイクは席を立った。

「……分かったわ」

 セレナは僅かに眉を寄せたが直ぐにそう答えて、エイクの後に続いた。

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