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剣魔神の記  作者: ギルマン
第2章
54/375

10.辺境の村の妖魔②

 その場所に接近したエイクは、木陰に身を隠して様子を伺った。

 そこには16体の妖魔がたむろしていた。感知したオドの数と一致している。

 内訳は、ゴブリンロード1体、ゴブリンシャーマン1体、ボガード5体、ゴブリン9体だ。

 ボガードの内1体は見た目にも筋肉が発達しており、他のボガードとは格が違うように見えた。

 だがエイクが見て取った限りでは、その強そうなボガードを含めても警戒するほどの相手ではない。

 他に特殊な存在も確認できない。


 そして、敵が警戒しているかもしれないと考えたのは杞憂だったようで、見張りすら立っておらず大半の妖魔は地面に寝そべっていた。

 その場所は特に開けてもいない森の只中で、クレイモアを振るうには木々が邪魔になりそうだったが、注意すべき点はそのくらいだ。

 エイクは、この場の妖魔たちを今倒してしまう事に決めた。


 エイクは身を隠すのを止め、悠然と妖魔たちに近づいていった。

 当然妖魔たちもエイクに気付く。

 ゴブリンロードが「殺セ!」と叫びを上げ、その声に従って妖魔たちがエイクに向かって来る。

 先頭に立ったのはあの強者らしきボガートだった。

 だが、そのボガートもエイクのクレイモアの一閃で深々と胸を切り裂かれ、一撃で倒される。

 後に続く妖魔たちも同様だ。


 もちろん、妖魔たちもエイクを囲んで次々と攻撃を仕掛けて来る。

 普通ならば、周りを囲まれて四方から攻撃されればその全てを避けるのは難しい。だが、相手がゴブリンや並みのボガード程度ならば、エイクにとっては何の問題もなかった。

 エイクは妖魔たちの攻撃を全てかわした。


 業を煮やしたゴブリンロードが「死ネ!」と叫んで突っ込んで来て攻撃に加わる。

 エイクはあえてゴブリンロードを攻撃するのは最後にした。

 ゴブリンロードを倒してしまえば、残った妖魔たちは恐らく逃げ出してしまう。散り散りになって逃げるゴブリンを皆殺しにするのは至難なので、妖魔たちの士気を維持するためにゴブリンロードを最後に残しておく事にしたのだ。


 エイクの目論見どおり、ゴブリンロードに指揮されたゴブリンとボガードは、最後の1体になるまで戦い続けた。

 また、ゴブリンシャーマンもエイクに魔法を撃ち続けている。しかし、そのほとんどはエイクにダメージを与えなかった。


 ゴブリンとボガードを全滅させたエイクは、ついにゴブリンロードを攻撃した。

 エイクが特に力を込めなかったこともあり、ゴブリンロードは一撃必殺とは行かなかった。しかし二撃目で死んだ。


 最後に、逃げようとしたゴブリンシャーマンを、エイクは後ろから蹴倒して踏みつけた。

 直ぐに殺さなかったのは情報を聞き出すためだ。

 エイクは最初から、比較的賢くてさほど意思も強くないゴブリンシャーマンを尋問するつもりだった。


「誰の命令で動いている?」

 エイクはいきなりそう聞いた。

 ゴブリンシャーマンは直ぐには答えなかったが、クレイモアを首筋に突きつけられると直ぐに話し始めた。

「ド、ドルムド様ダ」


 エイクは重ねて問い詰める。

「そいつの事を詳しく教えろ」

「ドルムド様ハ、魔法ヲ使ウ、スゴク強イ、トロールダ」

 本当の親玉はゴブリンロードの他にいるという、エイクの推測が正解だった事が明らかになった。


「他に仲間は? 全部言え」

「トロールガ、他ニモウ1体、オークガ5体。オークノ内1体モ魔法ヲ使ウ。モウ1体ノオークモ、スゴク強イ」


(トロール2体とオーク5体か。魔法を使うオークや特別に強いオークもいるとなると、面倒だな)

 それは、ゴブリンなどとは比べ物にならない強敵と言えた。

 そしてそれ以上に、予めどれほど強いかはっきりとは分からないという点が厄介だった。


 トロールやオークは、鍛錬を積み研鑽を重ね己を鍛えるという性質を持つ。その結果、個体ごとの強さの差が激しい。

 これはゴブリンなど下級の妖魔にはない性質である。


 ゴブリンにもシャーマンやロードのように上位種といわれる、一般よりも強い者が存在する。

 だが、それらは努力や経験の末に強くなったのではない。そのような能力を持って生まれて来たというだけだ。


 ゴブリンの中には、時折生まれながらにして精霊魔法の素質を持つ者や、身体能力が他よりも優れた者が生まれる。それらの者は自然に成長すると、ゴブリンシャーマンやゴブリンロードになるのだった。

 そして、その強さに個体差はほとんど存在しない。シャーマンの素質を持って生まれた者は、成長すればどれも大体同じ位の強さのゴブリンシャーマンになる。

 ロードの素質を持って生まれた者も同様だ。


 つまり彼らは、特殊な力を得た個体ではなく、そういう種類のゴブリンなのである。

 彼らがゴブリンの“上位種”と呼ばれる由縁である。


 必然的に、相手がゴブリンシャーマンやゴブリンロードだと事前に分かれば、そして彼らの強さを知識として知っていれば、実際に戦う前からその強さを予め把握して対策を練る事ができる。

 エイクが、チムル村周辺の妖魔の動きがゴブリンロードに率いられたものとは思えないと判断したのも、ゴブリンロードの能力はどれもほぼ同じだという理解に基づいてのことだった。


 だが、自らを鍛えるという性質を持つトロールやオークの強さを予め把握することは出来ない。彼らは人間と同様に1体1体異なる強さを持つ。

 そして、彼らの中には時折飛びぬけて強い固体が存在する事もある。


 ちなみに、ボガードにも自らを鍛えるという性質はあり、このためエイクはゴブリンロードよりも、むしろ普通より強いというボガードの方を警戒していた。

 といっても、ボガードの場合はその限界はさほど高くない。

 少なくとも、最強クラスの人間に匹敵するようなボガードの存在は今まで知られていない。


 しかし、トロールやオークの個体差はボガードよりも遥かに幅が広い。

 特に妖魔の中でも上級の存在と呼ばれるトロールには、英雄並みと評される者も実在している。

 実際エイクは、父ガイゼイクから、若き日の自分と互角に戦ったトロールの猛者の話を聞いたことがあった。

 そのようなエイクよりも強いトロールがいる可能性も否定は出来ないのだ。


「そいつらがどんな事ができるか教えろ」

 エイクはゴブリンシャーマンから出来る限り情報を収集する事にした。

「ドルムド様ハ、俺ト違ウ魔法ヲ使ウ。ソノ魔法デ傷ヲ治ス。力モ強イ。

 オークノ魔法モ俺ノ魔法ト違ウガ、ヨク分カラナイ。コイツモスゴク強イ。10ノゴブリンヨリ強イ、20カ30カモット沢山ヨリ強イカモ知レナイ」

 エイクはその後もしばらくゴブリンシャーマンを尋問し、トロールとオークの強さをより具体的に知ろうとしたが、要領を得なかった。


 エイクは質問を変えた。

「この後お前らはどうするつもりだった」

「夜ニナッタラ、ドルムド様タチガ来テ、一緒ニ村ヲ襲ウ」

 どうやらエイクの救援は、本当にギリギリ間に合ったようだ。


 そして、襲撃が起こってしまっていた場合、チムル村はベニート村長が想像していたよりも更に悲惨な事になっただろう。

 村の戦力では勝てないという点では相手がゴブリンロードでもトロールでも変わりはないが、オークがいるのが問題だった。


 オークという種族には男だけしかおらず、他の生き物の女を使って子供を成すという習性がある。

 通常はゴブリンやボガードなど自分よりも弱い妖魔を使うが、光の担い手たちの女が襲われることも少なくない。

 当然オークたちは他種族の女に対して性欲を持つ。しかもその欲望は相当に強く、彼らは子をなすためという目的以上に女を嬲り、挙句の果てにそのまま殺してしまう事すらあった。


 更に、悪食なオークは光の担い手達を好んで食べると言われている。

 ゴブリンやトロールも他に食い物がなければ、やむを得ず人の死体を食べたりもするが、それは好んでの事ではない。他の食い物があれば当然そちらを選ぶ。

 だが、オークはむしろ人の方を食おうとするといわれている。それも生きながらに、だ。

 これらの性質により、オークは光の担い手達から特に忌み嫌われていた。


 もし、オークを含む妖魔に襲われたならば、チムル村では女は犯され、男達は生きたまま食われるという悪夢のような事態に陥った事だろう。

 そのようなことになるのを避けるためにも、今の内に出来る限りのことをすべきだった。

 エイクは問いかけを続けた。


「ドルムドと仲間達はどこにいる」

「洞窟。アッチノ……」

 ゴブリンシャーマンが指し示したのは、確かにベニートやラルゴから聞いていた洞窟の方だった。

「ドルムドに最後に報告したのは何時ごろだ」

「報告? 何ヲ?」

「そうか、参考になったよ」

 これ以上の尋問は無駄と考えたエイクは、そう言うとゴブリンシャーマンの首を切り、あっさりとこれを殺した。




(しかし、ゴブリンロードだと聞いて討伐に来たら、実は敵はトロールでした。とは、物語の筋にありそうな話しだな。

 こういうのが、伝道師さんが言っていた「運命のかけら」って奴なのかな)

 エイクはそんな事を思った。


 しかし、だとすると中々過酷な筋の物語と言わざるを得ない。

 もしも、ゴブリンロード討伐に見合うだけの実力の冒険者が来ていたならば、魔法すら使い複数のオークを従えるトロールに太刀打ちできるはずがない。

 その冒険者もチムル村も悲惨な事になっただろう。

 そして、エイクならばそうならないという保証はないのだ。エイクは油断しなければ、数十のゴブリンを率いるゴブリンロードを余裕をもって倒せる。だが、予め強さを知ることが出来ないトロールを倒せるとは限らないのだから。


(これでトロールにやられてしまうなら、主人公登場前に、敵の強さと凶暴さを見せ付ける為の噛ませ犬役、ってところかな。俺は今、そういう「運命のかけら」の筋に乗っているのかも知れない。

 だが、そんな筋は関係ないし、定められた役を演じるつもりもない。

 どんな「運命のかけら」が現れても振り払う。伝道師さんに言われた通り、そのくらいの覚悟で鍛錬を積んできたんだ。今は出来るだけのことを全力でやる。それだけだ)


 敵の首魁たるトロールは洞窟におり、恐らくエイクが妖魔たちを次々に討っていることをまだ知らない。不意を打つ事は出来るはずだ。

 トロールの実力が分からない以上危険はあるが、その強さを探る為にも、今の内に一度攻撃を仕掛けてもみるべきだ。


 それが今出来る全力の行動だ。

 エイクはそう考え、洞窟へと向かった。

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