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剣魔神の記  作者: ギルマン
第1章
16/375

16.アルター指導員の講義――アストゥーリア王国略史――

 我が国アストゥーリア王国は、新暦665年に初代国王マキシムス1世が、当時この地に巣くっていた巨大な竜を退治し、その竜の狩場となっていた土地に移り住んで建国された、とされています。

 今年が1171年ですので、506年前の事となります。

 そして、豊かなその土地に多くの者が移り住んで立派な国となった、という事になっています。


 しかし、この話には疑問がもたれています。

 私は、こういった考えは知っておいた良いと思っていますので、あえてお伝えしますが、捏造された歴史なのではないかと言われています。


 疑問とされる事の一つは、竜を倒したとされる年の翌年から、いきなり豊かな実りを得る事ができた、とされている点です。

 おかしな話ですね。土地の開墾は何年も掛かる作業です。なぜ竜が支配していた土地から翌年いきなり作物が取れるのでしょう? 竜が開墾してくれていたのでしょうか?


 実は、隣国ブルゴール帝国の年代記を詳しく見ると、我が国の建国の頃の話しとして、西方の森の奥に直ぐにでも耕作できる土地があるという触れ込みで移民が募られた。多くの貧民がこれに応じた。

 良識ある者は嘘に違いないと思っていたが、どうやら真実だったらしく、先に入植した知り合いが豊かに暮らしているのを知って、自らも入植した者も少なくなかった。という話しが書かれています。


 つまり、直ぐに耕作できる土地が手に入ったというのは、恐らく史実なのです。

 単刀直入にいいますと、歴史学者などの意見では、竜を倒して土地を得たのではなく、そこに以前から暮らしていた先住民を追い散らし、彼らが耕作していた農地を奪ったのではないか。

 だからこそ直ぐに入植し耕作する事が出来たのではないか、と考えられています。

 私もその方が真実に近いのではないかと思っています。


 とはいっても、今更真実を明らかにする事は出来ないでしょう。王家にすら正しい歴史が伝わっているのかどうか分かりません。

 この話しからも分かるとおり、我が国の前半史は不確実なものが多くなっています。


 ちなみに、王都をこの場所から動かしてはならない。

 王は出来る限り王都から出てはならない。

 ヤルミオンの森は切り開いてはならない。

 という奇妙な国法が出来たのも、初代国王以来とされています。しかし、その主旨は不明です。


 エイク殿も疑問に思っておられましたか。

 そうですな、この地は国の中心ではなく王都としては不便です。

 ヤルミオンの森を切り開くのも禁止されているので、森の魔物の影響も大きいですし、合理的ではありませんね。

 この国法は、未だに遵守されています。ただの伝統というだけではなく、もっと現実的な理由もあるのではないか、と考える向きもありますな。


 いずれにしても、近隣諸国との交流も増え、それらの国の史書ともすり合わせる事で、比較的確実な歴史が明らかになって来るのは、オフィーリア女王による中興以後です。

 そうです、ハーフエルフの大精霊使いと出会い、力を合わせ国を再興し、精霊使いと結ばれた女王です。2人の出会いは新暦922年の出来事だったと伝わっています。

 ええ、これは確実な史実です。何しろ近隣諸国の歴史書にも強大な精霊魔法を使うハーフエルフに関する記述は数多く書かれていますからな。


 王家にエルフの血が流れている事への反感ですか?

 持つ者もいるでしょうな。

 世の中には人至上主義者や逆にエルフを高貴と崇める者もいますから。

 しかしほとんどの者は気にしていませんよ。

 この世にクォーターエルフなる者は存在せず、ハーフエルフと人の間には人しか生まれませんからな。


 耳の形など見た目も人と異なり、人の2倍以上もの寿命を持つハーフエルフが王となるならば、現実的にも影響があるでしょう。

 しかし、ハーフエルフの子であったとしても、本人は人でしかないならば、現実的な影響はありません。

 ですので、さほど気にはされません。


 まして200年以上も前の事ですからね。

 実際、エルフやドワーフの血が入っている家系というものは、我が国の王家だけではありませんが、そういう家が排斥されているということは特にありません。


 オフィーリア女王の時代に、我が国は近隣で最も豊かな国となりました。

 そしてオフィーリア女王が亡くなると、王配だった精霊使いも国を去ります。

 我が国が隣国に攻め込み、本格的な拡大を始めたのはその翌年、新暦977年からです。

 その基本的な戦略は、北の都市国家連合や東のブルゴール帝国とは友好関係を築き、南へと拡大するというものでした。


 以後約80年間に及んで我が国の領土は拡大を続けます。

 近隣の小王国を飲み込み、ヴィント王国、クミル王国を滅ぼし、その南のレシア王国に攻め込んで、最盛期にはレシア全土をほぼ占領。

 更にその東のラベルナ王国へと侵攻の手を伸ばしていました。当時我が国は間違いなく西方最強の国でした。


 しかし、1人の人物の登場により状況が変わります。

 遥か東方より、ハイドゥ・ルルカという武人がやって来たのです。

 彼は無双の戦士にして優れた将軍で、レシア王国の生き残りに雇われると、幾つもの戦いで勝利をあげます。

 ついに我が国の主力軍が打ち破られ、はっきりと我が国が劣勢となったのは、1057年の事でした。

 その後、ヴィント王国、クミル王国も相次いで独立し、我が国の領土は大幅に減ってしまいました。


 1100年前後に我が国は一度勢いを盛り返し、再びヴィント王国、クミル王国を圧迫した事があります。

 これに対抗して両王国は国家合同を成し、クミル・ヴィント二重王国となり、更にレシア王国に救援を求めました。

 我が国も同盟を結んでいたブルゴール帝国に助けを求め、大きな戦乱となりました。


 この戦乱は、最終的にクミル・ヴィント二重王国がレシア王国の実質的な属国となり、我が国の国土も一層削られ、レシア王国、ブルゴール帝国の力が増すという結果で決着しました。

 この時、我が国はブルゴール帝国に領土の一部を割譲し、その代わりに、レシア王国が我が国を攻めたならば、ブルゴール帝国が我が国に加勢する、という条約を結びます。

 以後レシア王国の直接的な我が国への侵攻は少なくなり、我が国は主に二重王国と争うようになりました。


 しかし、この戦いも概ね我が国の不利な状態が続いていました。

 何しろ、建前上は我が国と二重王国の戦いですが、二重王国は実質的なレシア王国の属国である為、レシア王国の手厚い援助を受けていたからです。

 また、時折レシア王国が直接攻めきてた事もありましたが、そのような時のブルゴール帝国の救援の動きは遅く、我が国が大きな被害を受けてしまう事もありました。


 ブルゴール帝国としては、自分達の救援がなければ国を守れないならば、いっそのこと属国になれ、と考えているのでしょう。実際そのような要求もあった聞き及びます。

 この点で同盟国とはいえブルゴール帝国も完全に信じる事は出来ません。


 このような苦しい状況にある我が国ですが、ここ十数年は状況はやや好転しているといえます。幾度かの戦で勝利を得ているのです。

 ええ、父君ガイゼイク様がご活躍されたのも、それらの戦いの中でです。

 しかし最大の功績者は、やはり、今も軍務大臣の地位にある、エーミール・ルファス公爵様でしょう。


 ルファス公爵様は、部隊長として、参謀として、総司令官として、幾つもの勝利に貢献しておられます。

 そして昨年、ボルドー河畔の戦いでレシア王国に、次いでランセス丘陵の戦いで二重王国に対して大勝利を納め、両国と約5年間の休戦条約を結ぶに至ったわけです。

 この大勝利は、我が国においてここ百数十年来なかった快挙だったといえますな。


 まあ、ボルドー河畔の戦いに関しては、いろいろと文句を言う者もおりますが。騙まし討ちだの、妖魔の力を利用しただのと。

 しかし、我が国の現状を考えれば、勝ち方に拘る余裕がないのは明白です。

 そもそも私に言わせれば、戦に策略はつきものです。騙し討ちは非難の対象になりません。

 まして、退却中に妖魔に襲われ被害が増えた事まで、我が国やエーミール大臣のせいにするのは言いがかりというものでしょう。


 この両方の戦いで、お父上ガイゼイク様は敵方の猛者を討ち取り、勝利に貢献しておられます。いや、これはエイク様には今更お伝えするまでもないことでしたな。

 いずれにしろ、ルファス公爵様やガイゼイク様のご活躍により、我が国はしばらくの間戦を免れる事になりました。


 この休戦条約についても、勝ちに乗じて更に攻めるべきだった、などと言う者がいますが、これもまた我が国の現状を理解できぬ者の言葉としか思えません。ルファス公爵様の判断は適切だったといえます。

 今はこの休戦期間を活用して、いかにして今後も戦が起こりにくい情勢にするのが課題といえるでしょうな……。

 いや、これは私のような隠居爺が考える事ではありませんでした。

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