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剣魔神の記  作者: ギルマン
第1章
15/375

15.アルター指導員の講義――歴史――

 一般に“母”とともに神々が異なる空間へと姿を消してからが“担い手”たちによる歴史の始まりとされていますな。


 とはいっても、その初期の歴史は今日余り知られてはいません。後に魔術師達によって建国された国が、すべてを塗りつぶしてしまったからです。

 その国は自らをマーニス帝国と称しました。

 そう、この大地そのものの名を自らの国名としたのです。このことからも当時の魔術師達がいかに奢り高ぶっていたかわかりますな。

 今では、その国は古代魔法帝国、或いはただ魔法帝国と呼ばれています。


 古代魔法帝国の魔術師が操る古語魔法は凄まじいもので、空間を越えて瞬時に移動し、まったく異なる異世界からデーモンを召喚することに成功し、数多のアンデッドも作り出しました。


 そして、生命の創造にすら手を染め、既存の生物を合成し、或いは作り変えて魔獣を創造し、スライムやガスト、イミテーター、ホムンクルスといった人造の生物を作り上げ、魔法仕掛けの動く人形、ゴーレムも作り出しています。


 また、既存の生物を己に隷属もさせました。

 古代魔法帝国の魔術師らにかかれば、大竜や老竜すらもその支配を逃れる事は出来なかったといいます。


 中でも、妖魔に対する支配の魔法が特に発展し、中には部族丸ごと、その子孫に至るまで支配する事すら可能だったといいます。

 このため、今に至るも魔法帝国の遺跡を代々守り続けているゴブリンやオークの部族、トロールの一族、などというものが存在します。


 魔法帝国は妖魔を都合の良い使い捨ての尖兵として使っていたようですな。

 まあ、サキュバスに限っては他の用途だったわけですが……。いやいや、エイク様がお気になさるような話しではありません。失礼、失礼。


 このような強大な力を持った魔法帝国は広大な領域を支配しました。

 少なくとも、このアースマニス大陸の主要部分は支配され、他の大陸にも勢力は及んでいたといわれます。


 そしてまた、魔法帝国を支配する魔術師達は、極めて残虐でもありました。

 彼らは魔法が使えない者たちを蛮族と蔑み、これを徒に虐殺して楽しんでいたといいます。

 各地に拷問の為の施設が作られ、蛮族を虐殺する目的で闘技場が作られました。


 現在多く残る魔法帝国の迷宮も、蛮族を虐殺する事に、迷宮攻略という遊戯の側面を加えた目的で作られたといいます。

 魔術師達はそれぞれ意趣を凝らした迷宮を作り、互いに蛮族を駒として扱って迷宮攻略を競ったり、あえて迷宮内に宝物を配置し、それを狙って進入した蛮族が罠にかかって死ぬのを見て楽しんだのだと。


 そのような狂気のごとき繁栄を謳歌した魔法帝国でしたが、突如終焉を迎えます。

 謎の敵が襲ってきたのです。


 その敵は、既存の生物の背に金色の羽が生えた姿をしており、どこからともなく無数に現れ、魔法帝国の施設を無差別に攻撃しました。

 魔法帝国末期の資料によると、魔法帝国の魔術師達がその敵を“特殊敵性存在”と呼んでいた事が分かっています。このことは当時魔術師達にはその敵が生物であるかどうかすら断定できていなかった事を示しています。


 その敵の特性は、古語魔法の完全無力化でした。

 ありとあらゆる古語魔法はその敵を傷つける事はできず、補助魔法や支配の魔法もその敵の前ではたちどころに解除されて、魔法で支配した竜やデーモンは戦力にならなかったといいます。

 作り上げられた時点で、最初から命令を聞くものとされていたゴーレムやアンデッドを操る事は出来ましたが、それでもその力は大きく削がれたそうです。


 その敵の正体は、新種のデーモンであるとか、全く異なる異世界からの侵略だったとか、悪辣なる魔術師を滅ぼす為に使わされた神の使いだ、などともいわれますが、全くの謎です。


 魔法帝国の魔術師達は、敵の正体も分からぬままともかく戦いました。そして、ゴーレムとアンデッドの大軍で敵との決戦を行います。

 結果、敵にも大きな打撃を与えたものの、ゴーレムとアンデッドの部隊もほぼ壊滅しました。


 そこで、魔術師達は蛮族を戦力として使わざるを得なくなりました。

 戦後の地位の向上を約束して、蛮族と蔑んでいた者たちに強力な武器を持たせ敵に当たらせたのです。

 

 この作戦は成功し、既に相当の打撃を受けていた敵はついに壊滅しました。しかし、魔法帝国の崩壊を防ぐ事はできませんでした。

 強き武器を手にした蛮族たちは魔術師に反旗を翻したのです。

 その頃には、高度な古語魔法を使える魔術師の数は相当減っていたようで、魔術師達はこの反乱によりついに滅びました。

 これが、古代魔法帝国の終焉であり、その年が今も使われている新暦の始まりとされています。


 新暦が始まった当初も混乱が激しく、詳しい事は分かっていません。

 当時確実に起こったと言われている事柄としては、大陸西方を中心にした三英雄の活躍が上げられます。


 と言っても、これも詳しい内容は不明で、三英雄は戦士と神聖術師と魔法使いの3人だったと言われていますが、神聖術師がどの神の魔法を使ったのかはっきりしません。

 “魔法使い”と呼ばれた者に至っては、使った魔法が、古語魔法なのか精霊魔法なのかすらはっきりしません。

 一般的には実際には古代魔法帝国の生き残りの魔術師だったが、当時は古語魔法への反感が余りにも強かったので、精霊術師だったことにされたのだ、と言われています。

 精霊術師説では、その魔法使いはエルフだったとされていますな。


 当然ながら、彼らが行ったとされる事績のどこまでが真実かも分かりません。

 しかし、彼らが大きな力も持つ者たちであり、最後に非常に大きな功績を成し遂げた事は確実視されています。

 その功績とは、名無き邪神の再封印です。


 それが確実視されるようになったのは、大陸全土の交流が盛んになり、各地の伝承が学術的に研究されるようになった結果です。

 研究の結果、魔法帝国崩壊後間もない頃に、大陸全土で頻繁に似たような内容の神託が下っていた時期があったことがわかりました。


 その神託の内容は、最初は「名を語ること許されぬ者の封印を守れ」という主旨でした。

 それがやがて、「再び封印せよ」とか「最も激しい戦いを覚悟せよ」とかいった内容に代わり、そしてある時期を境に、突然「封印」に関する神託はくだらなくなります。

 その時期が、大陸西方において、三英雄が復活した名無き邪神を再封印したと伝わっていた年号とピタリと一致したのです。


 従来三英雄の伝承が知られていなかった地域に、このような神託の伝承の存在したことから、その時に多くの神々が危惧するような封印が一度は解かれ、しかし何らかの形でその問題が解決したのは確実だといえます。

 そのような重大な封印とは、名無き邪神の封印以外に考えられない。

 つまり、三英雄による邪神再封印は史実だった、というわけです。


 そして伝承では、これが三英雄の最後の活躍となっています。

 一般的には邪神の再封印と引き換えに、英雄達も息絶えたと考えられています。


 ええ、そうです。

 つまり、名無き邪神の封印は、“母”の封印のように異なる空間にあるのではなく、三英雄が主に活躍した、この大陸西方のどこかにあるというわけです。


 まあ、幸いにも三英雄最期の地の伝承は数多くあり、どこに邪神が封印さているのかは分かっていません。

 いえ、分からない方が幸いでしょう。場所が分かってしまえば、不心得者がいらぬ事をしてしまう危険が増えますからな。


 さて、大陸の歴史を語り始めたらいくら時間があっても足りません。

 ですので、今日は新暦が始まった後の歴史において、最も重要な出来事と私が考える事だけをお教えしましょう。


 その出来事とは、大魔道師ヨシュアによる古語魔法の復権です。

 ヨシュアは新暦500年代に大陸東方を中心に活躍した人物です。

 史上最高とも言われる偉大なイスマイム神の神官であり、若き日から数々の功績を成し遂げていました。


 彼は古代魔法帝国の魔術師達がいかに悪逆だったとはいえ、技術に罪はないと考え、その魔法技術が失われるのを惜しみました。

 そして、古語魔法の復興活動を起こします。

 当然ながら激しい反発もありましたが、彼のそれまでの功績やその深い人徳により徐々に支持を集めていきました。


 ついに彼は、現在では大陸全土に広がった賢者の学院を創設し、組織的に古語魔法を学べる体制を作り上げました。

 また同時に、魔術師が守るべき倫理や社会との関わり方も確立します。


 その中でも最も重視されているのは、魔術師は権力を求めてはならない、という規律です。

 まあ、これは古代魔法帝国の悪逆な政が古語魔法に対する悪評の根本的な原因であることを考えれば当然ですな。

 これに付随して、国は魔術師を要職に就けるべきではないし、戦において古語魔法を利用すべきではない、ともされています。

  

 これらの規律は今もってよく守られています。

 魔術師が政治権力を目指した場合、即座に周りから危険視されて排斥されてしまいます。


 古語魔法が戦において有用なのは間違いないので、一見すると王侯貴族はこのような規律を無視して魔術師を徴用しようとすると思われるかも知れません。

 しかし、実際にはそのような事は稀です。

 なぜなら、もしも魔術師がかつての魔法帝国のように政治の実権の握る事を目指した場合、最初に攻撃されるのは、現在政治の実権を握っている王侯貴族になるからです。

 このことを恐れて、多くの王侯貴族は魔術師を徴用することを躊躇うのです。


 そうはいっても、やはり中には魔術師を戦争で利用しようとする国もありました。

 しかし、そのような国に対しては各地の賢者の学院が、古代魔法帝国の再来を狙っていると、強く非難する声明を出します。


 こうなるとその国の民は動揺し、国全体が不安定化してしまいます。

 また、周りの国々からも危険視されてしまいます。

 このため、むしろ情勢は不利になる事が多く、結果的に戦で古語魔法を扱う国はほとんど存在しないわけです。


 他にもヨシュアは魔術師が冒険者として民の為に活躍する事を推奨していますな。

 この影響も未だにあり、冒険者になる魔術師は比較的多くなっています。


 更にヨシュアは戦闘に使う魔法よりも日常生活を過ごし易くする魔法の開発を重視すべきだともしており、これに従って多くの魔法が開発されました。

 ある研究者によれば、日常生活を豊かにする魔法に限るならば、現在の魔法の方が古代魔法帝国の魔法よりも優れている、とすら主張されています。


 ヨシュアはこれらの業績を残し120歳の長寿を全うしました。

 しかし、その生涯は平坦なものではなく、盟友に裏切られたり、道を誤った弟子を自ら討たねばならなくなったり、といった苦難もあったといいます。


 いずれにしても、ヨシュアの業績は大陸全土の社会や生活に大きな影響を与えています。

 私はこの大魔道師ヨシュアの活躍こそ、史上最も重要な出来事だったと考えています。

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