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剣魔神の記  作者: ギルマン
第1章
14/375

14.アルター指導員の講義――闇の神々の教義――

 闇の神々の教義についてもご説明します。

 最初は暗黒神アーリファです。

 アーリファ神は、他者を認識するための光などは必要ではなく、闇の中で己の事のみを一心に思い、他者を省みずに、唯ひたすらに己を高め続けることが重要だと説く神です。

 そうして得た力を、他者に対して詳らかにする必要も、世の役に立てる必要もなく、むしろ闇の中に隠し、己1人のものとすべしとしています。


 これによって力強き個人が多く誕生することになり、その結果世界全体が発展するのだ、としています。

 他者との関わりなどを配慮することは堕落であるとしています。

 ただし、強者となった者が他者から搾取することは、強くなるための動機になるとして肯定しています。


 端的に言えば、「強くなれ、強くなるためなら何をしても良い。そして強くなれば、その強さを用いて何をしても良い」というのがその教えの本質だといえます。


 アーリファは神々の集いから最初に離反した神です。

 その離反の際に、アーリファは己に従えば新たな力を与えるとして、担い手たちを誘いました。

 この誘いに乗り、新たな力を得た者が、闇の担い手と呼ばれる者たちで、具体的には人が変じたオーガ、エルフが変じたダークエルフ、ドワーフが変じたドヴォルグ等です。


 更にアーリファは自らの教えを体現する者として、己の力のみを用いて、妖魔を作り出しました。

 主な妖魔はコボルド、ゴブリン、インプ、ボガード、オーク、グレムリン、トロール、サキュバスです。

 ただし、力を求めることを至上の行為と説くアーリファによって創造されたにもかかわらず、下級の妖魔とされる、コボルド、ゴブリン、インプには力を求め強くなろうとする意思が欠如しており、失敗作といわれています。

 闇の担い手と妖魔は合わせて魔族とも呼ばれます。


 しかし、闇の担い手への力の付与と、妖魔の創造の為にアーリファは神の力を使い果たしてしまいました。

 このため、神々の戦いにおけるアーリファの活躍は全く見られません。


 更に、アーリファによって力を授かった闇の担い手や、創造された妖魔も、その多くが力を失ったアーリファを見限り、他の闇の神々を信仰するようになってしまいます。

 他を省みるなと説くアーリファに従った者たちは、実際にアーリファそのものをも省みなかったわけです。

 この結果を見てアーリファを愚かな神、哀れな神と見なす者も多く存在します。


 現在においてもアーリファの信者はごく少数です。

 しかし、その少数の信者の中には、時折飛びぬけて強大な力を有する者が登場します。

 数万以上の魔族の集団を率いる者は、魔族の王「魔王」と称されますが、アーリファの信者が強大な魔王となった例も少なからず存在しています。


 そして、歴史に名を残す程の者達の中にも、アーリファ信者と言われる者がいます。

 オルシアル王国を率いて各国を侵略し、大陸中央部に大混乱を招いた女王アルシノエ。

 人の身で魔王となり祖国を滅ぼした堕王リオンハルト。

 巨大迷宮の主となってある国の王族を次々と殺した地下の魔人カロン。

 史上最大の魔族帝国を築いたといわれる、端麗なる魔帝ゼノヴィア。

 いずれもアーリファの信者だったと考えられています。


 それから、お気づきかもしれませんが、神話におけるアーリファの行いは矛盾に満ちています。

 強くなることこそ至上と説きながら、自らは力を失い弱くなってしまっているからです。

 このようなアーリファの行いは、多くの場合ただの失敗であり愚かな行為であったと解釈されています。


 しかし、異なる解釈を行う者もいました。

 その解釈によると、アーリファは自らの意思で信徒らに自らの力の全てを分け与えたのであり、最も慈悲深い神なのだとされます。

 この考えに基づき、アーリファを尊崇するという者たちも稀に存在します。




 破壊神ムズルゲル。

 ムズルゲルは、無条件無制限の、際限なき戦闘の繰り返しの果てにこそ、真に世界は発展すると説く神です。


 無制限の闘争によって社会そのものが破壊されたとしても、その様な脆弱な社会は必要ない。新たに社会を作りだし、戦闘の果てにより強くすれば良い、としています。


 特に女性に対して酷い考え方を持っている神ですな。いえ、エイク様は詳しく知る必要はありますまい。それほど興味をお持ちになる必要もない誤った考えです。


 必然的に信者の大半は暴力的な男です。

 また、魔族、特に短絡的な暴力に走りやすい妖魔には、ムズルゲルを信じる者が多いですな。

 他にも戦いや残虐行為を行うのに特別に理由を求めないので、信者には戦ったり殺したりする事を楽しみむ者なども見られます。


 その余りにも破壊的な教義から、光の担い手たちの社会に紛れ込んで存在することはほとんどなく、その教団はほぼ全て魔族の領域にあります。

 あえて言えば、山賊や海賊などの集団が、そのままムズルゲル教団になっているなどという例はあります。




 劫掠神ネメト。

 幻惑神、或いは他の呼び名もある神です。

 ネメトは奪い合いこそが世界の本質であり、世の者たちは互いに奪い合うのがあるべき姿だと説きます。


 単純な暴力による掠奪も肯定していますが、直接暴力に頼らず、脅したり騙したり、あるいは惑わしたりして掠め取る方が拠り洗練された行為だとしています。

 いかがわしい内容での搾取や収奪も司っています。いえ、これもエイク様が詳しく知る必要はない事です。


 短絡的な暴力行為に走りがちな下級の妖魔には、この神を信じる者は余りいません。

 また、その信者は概して魔族の領域よりも、豊かに発展している光の担い手たちの社会にまぎれて存在することの方が多くなっています。


 泥棒や詐欺師などが信仰していることも多く、都市の裏社会を支配する盗賊ギルドが、そのままネメト教団でもある、という事例も存在していますな。





 冒涜神ゼーイム。

 ゼーイムは飽くなき知識の探求と、新たなる技術や理論を生み出すことこそが、世界のためであるとし、そのためにはいかなる犠牲が払われてもかまわないと説く神です。


 実験の為に人命を犠牲にしたりといった無茶な行為も、必要と思えば躊躇わずに行うべきだと説き、どれほど危険な研究でも肯定します。

 研究や開発の目的も一切問わず、私利私欲のためや邪悪な目的の為に研究する者も広く受け入れています。

 真っ当な研究機関を追われた魔術師・賢者などがこの信仰に走ることも多数見受けられます。


 小難しいことを嫌う闇の担い手や、特に妖魔がこの神の信者になる事は稀です。


 信者は基本的には知能の高い者が多く、光の担い手の社会に巧みに潜んでいることが少なくありません。

 しかし、世間の常識に無頓着で、自重できずに悪事を働く信者も少なくはなく、その様な者たちは、あっという間に正体がばれて処刑されるか魔族の領域に逃げ込むことになります。

 闇の神々の信仰の中でも特に協調性が欠如した信仰で、魔族の領域ですら、煙たがられ排斥されることもあると言われておりますな。


 そして、神話の時代には、ゼーイム自身も探求と研究にのめり込んでいたといわれています。

 その結果、この神が開発してしまった技術が、アンデッド創造の呪法でした。


 そして、あろう事かゼーイムはこの呪法を世界に撒き散らし、アンデッドが自然発生する事態を生じさせてしまいます。

 この行為は世界最大の冒涜行為と言われており、冒涜神という呼び名はこの行為に起因します。あるいは狂神とも呼ばれます。


 アンデッドとなった魂は転生の輪からはずれ、アンデッドとなった体は循環の輪から外てしまいます。

 いずれも世界の法則を乱す行為であり、ゼーイム以外でアンデッドの存在を許している神は悪神ダグダロアのみです。他の闇の神々すらアンデッドの存在を許しません。

 なお、ゼーイムの信者はゼーイムのことを冒涜神とは呼ばず、深智神と呼んでいます。




 そして最後に悪神ダグダロアです。

 ダグダロアは、他の闇の大神と比べてすら異質といえる神です。

 神々は基本的に世界のあるべき姿の実現や、世界の発展を目的として、その為の教義を説いています。


 一見破滅的な教義を掲げる破壊神ムズルゲルですら、絶え間ない闘争こそ世界のあるべき姿であり、その激烈な闘争の果てに生物も世界も発展する。と説いています。


 このような他の神々に対して、ダグダロアは世界のあり方や発展について何一つ説いてはいません。

 その教義は、ダグダロアこそ至上の神であり、ただひたすらそれを崇めるべきである。

 そして、他の神は劣った存在であり、その信者もダグダロアの信者に比べて劣っている。よってダグダロアの信者は他の神々の信者に対して何をしてもよい。というものです。

 あえて言うならば、ダグダロアを至上のものとして崇める状態こそがあるべき世界の姿だと考えている、といえるのかも知れません。


 ダグダロアは神々の時代に、世界の創造の為に力を行使するのを怠り、自らの力を蓄えていたといわれています。

 結果、神々の戦いが始まった際、最も多くの神の力を残していたのはダグダロアだったといわれています。


 そのダグダロアも“母”を封印するためには己の力も使わざるを得ませんでした。

 このことは、“母”を封印するためには全ての神の力が必要だったという神話が正しい事を証明していると考えられています。

 もしも、自分が力を出さずとも済んだならば、ダグダロアは力を出さなかっただろうと考えられるからです。


 そして、最も神の力を残していたのがダグダロアだというのは事実のようで、現在最も多くの神託を下し、最も神聖魔法の使い手が誕生しやすい神はダグダロアだといわれています。


 ダグダロアの現在の目的は、自分だけが“母”の封印から手を引き、現世に降臨することだと考えられており、信者はそのために行動しているとされています。

 しかし、それが具体的にどのような方法なのかは分かっていません。

 ただ、ダグダロアの信者には、他の神々の信者、特に大きな力を持つ信者を殺そうとする傾向があると言われています。


 特定の思想や生活態度を掲げてはいないので、身勝手な性格をしているものならば、誰でもこの神を信仰する可能性があります。

 中には、ダグダロアの説く事を完全に信じ込み、最初から全ての神がダグダロアに従っていれば、神々の戦いなどという無駄な事は起きなかった、として、熱烈にダグダロアに帰依する者も存在しております。


 信者が神聖魔法を使えるようになる可能性も他の神々よりも高いので、神聖魔法の恩恵に浴するために、その教えに帰依する者も多く、闇の神々の信仰の中では、最も多くの信者を獲得している神だと考えられています。

 信者達はダグダロアの事を、至上神或いは神王と呼んでいます。まったく不遜な事ですな。


 それから、古代魔法帝国時代に異世界からデーモンを呼ぶ魔法が開発されますが、この魔法を開発した魔術師は熱烈なダグダロア信者だったと言われています。

 そのためか、もともと異世界の存在であるにも関わらず、この世界に召喚されたデーモンの多くはダグダロアを信仰しています。

 このことから、デーモンを召喚する魔法は、純然たる古語魔法ではなく、ダグダロアの神聖魔法も併用したものだという説もあります。


 デーモンは異世界からの侵入者であるため、神々のほとんどがその存在を許してはいません。

 デーモンを認めているのは、ダグダロアの他には冒涜神ゼーイムのみで、他の闇の神々もこれを認めてはいません。




 最後に一つ、闇信仰全般に関わる事ですが、この国では闇の神々を信仰することそれ自体を犯罪とはしていません。通常の犯罪行為をして始めて処罰の対象となります。


 このような制度になっている国は沢山あります。これも光の神々の寛容さの表れだといえますね。

 例え闇信仰信者だろうと、具体的に誰かに被害を与えていない限りは罰しない、というわけです。

 もっとも、闇信仰を行っている者が何の犯罪も犯していないというのは、ほとんどありえないといえるほど稀ですがね。


 そして、犯罪者が闇信仰を行っていた場合、普通の犯罪者よりも重い罰が下される事は非常に多いといえます。

 なぜなら、闇信仰を行っている犯罪者の処罰は、多くの場合ハイファ神殿やトゥーゲル神殿が組織する闇信仰審問会の管轄となり、彼らは犯罪を犯している闇信仰信者に対して苛烈な罰を与える傾向があるからです。


 ただ一応、闇の神々を信仰するだけでは罪にならないということは、よく覚えておいてください。

 相手が闇信仰をしていると知っただけでいきなり攻撃した場合、逆にこちらが罪に問われる可能性もあるわけですから。

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