11.アルター指導員の講義――異種族――
なお、よく議論の対象となるのが、神々から世界を託された“担い手”とはどの種族の事なのか、という問題です。
神話によると、“担い手”が知性を持ち、神々の言葉を理解する者のことを指しているのは明らかです。
そして、暗黒神アーリファに従った担い手の内、人はオーガに、エルフはダークエルフに、ドワーフはドヴォルグになった。と明示されているので、人とエルフとドワーフが“担い手”の一員なのも明らかです。
しかし、他にも神聖魔法を扱える種族はおり、一般にはそれらも“担い手”の一員と考えられています。
ただ、中にはマンティコアのように、明らかに魔物としか思えないが神聖魔法を使う存在もおり、どこまでが“担い手”に含まれるのかが議論となっているわけです。
エルフやドワーフの説明ですか?
確かにこの街では彼らを見ることは多くはありませんな。ヤルミオンの森にはエルフの集落はないようですし。王都近辺にはドワーフの街もありません。
エルフは主に森に住み、狩猟の技に長け、その容姿は美しく、多くの場合魔法、特に精霊魔法に優れています。
人よりやや小柄で尖った耳が特徴です。その寿命は500年ほどになります。
成人すると外見年齢はほとんど変わらなくなります。
深い森に村を作って自給自足の生活を送っている場合が多く、人と係わり合いになる事は稀です。偶に変わり者のエルフが人の街にやってくるくらいです。
ドワーフは、主に山岳に住み、鉱山や鍛冶の技に長けています。魔法を使える者は少ないようですが、全くいないわけではありません。
身長はエルフより更に低いですが、一般に力は人よりも強くなる傾向があります。
寿命は200年ほど、その成長は、人の目から見ると奇妙に見えるものです。
ドワーフの男性は、人から見ると若い内から中年の姿をしているように見え、女性はいつまでも幼い姿のままに見えます。まあ、ドワーフからすれば、人の男性は何時までも幼い姿のままで、女性は直ぐに老いて行く、と見えているのでしょうが。
エルフに比べると人との関わりは深く、人の街に住むドワーフも少なくありませんし、人の街の近くにドワーフの街があることもあります。
そのようなドワーフの街は人の国に取り込まれている事もあれば、自治を認められている事もあります。
ドワーフの自治都市には小さな国くらいの規模のものもありますな。
ちなみに、ダークエルフは、エルフが色白なのに対して黒や黒に近い褐色の肌を持ち、アーリファから魔法に対する強い耐性を授けられています。また、氷水によって傷つく事がありません。
ドヴォルグはドワーフが褐色や色黒な肌の者が多いのに対して、純白の肌をしており、毒や病気などの肉体を蝕むものに対する耐性が強く、炎によって傷つく事がないという加護を得ています。
オーガは、頭に1本から3本の角がある他は人と同じ姿をしています。しかし、その寿命は1000年にも及ぶとも言われており、更に魔法全般を使うのに長けています。
これがアーリファから与えられた加護なのです。
それから、人と他の種族が交わると、確率は低いですが、ハーフエルフやハーフドワーフが生まれる事があります。他の種族同士のハーフの存在は知られていません。
社会全般としてハーフが特別に排斥されているわけではありませんが、ハーフの存在を嫌う者達もいないわけではありません。また、保守的な集落などでは虐げられてしまう事もあります。
それに寿命がそれぞれの種族の中間くらいになるために、元々の共同体に居ずらくなる事も多いようです。この傾向は特にハーフエルフでよく見られます。
ハーフエルフの寿命はおよそ200年。100歳まで生きる者は相当稀な人間と比べるとその寿命は長すぎ、いつまでも若々しい事も周りに馴染めない理由になります。
そして500年を生きるエルフと比べると、余りにも早く老い過ぎるのです。
結果としてハーフエルフは生まれ故郷を出て、冒険者や旅芸人などの流れ者として生きる者が多くなります。
オーガなど闇の担い手と呼ばれる者と人間の間にハーフが生まれる事もありますが、これはハーフエルフなどが生まれる事よりも更に稀だと言われています。
しかし、そのように生まれて来た者は、苦しい生涯を送る事になる可能性は高いでしょうな……。
え? 進化の理ですか?
ええ、そうです。そういうものがこの世にはあると言われています。
強き親からは強き子が生まれ、種をより強くする。それがこの世界の法則だと……。
いえ、まあ、この法則は神々が異なる空間に姿を消した際に、非常に弱まったと言われており、今では例外も多々あります。
今や種全体が強くなること、まして新しい種が誕生する事は極めて稀であるとも。
おお、鍛錬に戻られますか、ではこのアルターがお相手を務めましょう。
ええ、こちらこそよろしくお願いいたします。




