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覆面の警護者 ~大切な存在を護る者~  作者: バガボンド
第1部・生き様の理
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第10話 骨董品の威力4(通常版)

 突然だった。凄まじい銃撃音や爆発音が辺りに響き渡る。それに周りは騒然とするが、何とそれらは全てレプリカ大和を中心に掻き消されていた。淡い虹色の膜が辺りを覆っている。


 大慌てしだす見物客を避難させる面々。ただ膜の外に出るのは危険極まりないため、急遽レプリカ大和内部に避難させる事にした。俺達は手持ちの護身用武装で不測の事態に備える。



(やはり来ましたか。)


 全ての見物客や運営に携わる面々を艦内に避難させた頃、脳内にエリシェの声が聞こえた。東京湾に到着後、彼女は日本支社に戻った。今も現地で雑務中らしく、向こうからの念話による会話だ。


(東京に襲撃とか、政府が殺気立たないかね。)

(反撃に出るには法案云々やら責任問題やらで、当面は動けないと思いますよ。それが今の日本の欠点ですから。)

(だからこその警護者よね。)

(大和魂を見せてやるわぅ!)


 俺達警護者は独自の武装を展開している。更にエリシェ達企業連合やウインド達警察群とも連携し、自衛隊の方々との独自連携も可能だ。今の日本政府ではこれらテロリストまがいの連中に対して、有効な手段が取り難い。揚げ足を取り合うのが関の山だ。


(それとレプリカ大和に乗船している限り安全です。その淡い虹色の膜はバリアですので。ギガンテス一族のテクノロジーにより、地球の現行兵器は一切役に立ちません。更に緊急避難なら、船底にドッキング中の特殊潜水艦を使って下さい。)

(ここなら安全という事だな。)


 バリアとはこれいかに。しかも先程の襲撃を見る限り、相当な火力の一撃でさえ防ぐようだ。となると、相手の目を引き付けるために移動した方が無難か。


(うむ、Tちゃんのそれが正論わぅ。一旦東京湾外に出て、そこで反撃した方が良いわぅよ。見物の方々は特殊潜水艦で避難すればOKわぅね。)

(有言実行ね、後は任せて頂戴な。)


 颯爽と艦橋に向かう彼女。というかこの艦の指揮系統はどうなっているのか。これだけのデカい戦艦を動かすとなると、10人や100人じゃ無理な話だ。


(艦内の機動や運営は躯屡聖堕チームの方々が担っています。まあ殆どがコンピューター制御によるものですが。レトロな外見とは裏腹に、内部はイージス艦を超える最新設備を搭載していますので。)

(正に宇宙戦艦“大和”わぅ!)

(警護戦艦でいいんじゃないか・・・。)


 確かにこれで空を飛んだら、間違いなく宇宙戦艦“大和”化する。しかし劇中の船体は宇宙船に近い様相なため、レプリカ大和には荷が重すぎるものだが。



 船外を見て気付いたが、既に艦は動き出している。東京湾外に向かっている様子だ。今も攻撃を加えられているレプリカ大和だが、バリアのお陰で全くの無傷である。しかしいくらバリアに守られていても、周りに被害が及ぶのは言うまでもない。


 と言うか、確信した事がある。特殊部隊の出所だ。忽然と姿を現して攻撃を加える様相は、ギガンテス一族の転送装置の類が使われている証拠だ。でなければ平和国家の日本とは言え、武装勢力が出現した事に気付く筈である。


 これ、俺達は国内に居られないかも知れないな。国内にいたらそこが戦場となり、周りに多大な迷惑を掛けてしまう。エリシェはそれを見越して、このガンシップたるレプリカ大和を建造したのだろう。


 ・・・あの時、3姉妹と共に動くと思ったのは間違いだったか。いや、生き様推奨派の俺としては絶対に断れなかった。彼女達の決意を無解にはできない。当時の経緯から結果がどうあっても、今後をどうするかで決めていくしかない。道はまだまだ半ばだ。




 東京湾外に出た頃、見物客や運営の方々を船底にドッキング中の特殊潜水艦に乗船させる。同船はレプリカ大和から分離し、再び東京湾に戻って下船させてくれるという。


 俺達はレプリカ大和に残り、特殊部隊の目を引き付ける役を担った。艦長役が何とナツミAなのには驚くが、彼女の類希なる指揮は躯屡聖堕チームを奮起させているとか。何とも。


 そして相手の攻撃は遠距離から近距離へと変わっていった。今までは爆撃に近いものだが、何処からともなく現れる特殊部隊の連中。甲板に忽然と姿を現したのだ。


 エリシェの言い分だと、船内への侵入はほぼ不可能との事だ。外見とは裏腹に多重防御壁を完備しているようで、外装の防御壁から内部へは入れなくなるという。確かに連中が侵入してきたら一大事だ。


 俺はミツキとビアリナと共に甲板で特殊部隊と交戦を開始した。ただ武装が最低限だったため、重力制御ペンダントの恩恵たるバリア能力を盾に肉弾戦を演じるしかなかった。




「このペンダントは万能だわな・・・。」

「自身の表面上にバリアが発生するとの事わぅよ。これなら至近距離で銃撃を受けても、全く無傷でいられるわぅね。」


 予備のマガジンを持参していなかったため、撃ち尽くした拳銃などは役に立たなくなる。鈍器としての役割にはなるが、それでは相手に致命傷を与えかねない。ここは自らの肉体を駆使した肉弾戦しかない。プロレス好きな俺にとっては真骨頂の業物である。


「おおぅ! 見事な体術わぅ!」

「趣味程度でしかないが、俺はこっちの方が性分に合うわ。」

「その応用で警護者のスキルが冴え渡ると。」


 ミツキやビアリナに襲い掛かる特殊部隊を、彼女達を持ち上げでヌンチャクの如く扱う姿に圧倒されている。特にミツキの方は慣れものなのだろうが、ビアリナは全く見た事がない技に目を白黒しているのが何とも言えない。それでも瞬時に連携に応じれる部分に、2人の基本戦闘力の強さを垣間見れる。


「俺はこうしたタッグの方が一番戦い易い。お互いに適切な一手を入れつつ支え合う。正にここはプロレスのリングだわ。でなければ不殺を貫く事などできはしない。」

「それに試合後はリスペクトし合えるから、爽快感は一塩わぅよ。」

「貴方が何故そこまで自分の生き様を貪欲に貫き通せるのか、その理由がやっと分かった気がします。この戦いの中にユーモラスさと言いましょうか、それを用いるからこそでしょうね。」

「まだまだ、Tちゃんの本気はこんなもんじゃないわぅ!」


 ナツミツキ姉妹の怖ろしさは肉弾戦にこそあり、だ。俺の趣味に共感し、何と実際に放つ事ができるようになったのだ。特殊部隊の兵士相手にシャイニングウィザードやスープレックスを華麗に放つ様は見事としか言い様がない。ビアリナの方は慣れていないようで、ストレートやジャブなどの打撃しかできていないが。


「あの伝説の戦艦大和の甲板で格闘術か、見事だわな。」

「むしろ最後が人と人の対決なら、この壮大なリングは戦艦でしか成し得ないわぅね。」

「戦う艦で戦うレスラーですか。」


 特殊部隊の方も戦う様に感化されだしたのか、銃器を使わずに肉弾戦を展開しだしている。しかしこの場合は相手が悪い。こちらは体術のスペシャリスト達に手解きを受け続けている。そう簡単に負けはしない。


「俺は誇りに思う。味方の手強さもさる事ながら、敵の強さやその存在も。彼らと共に戦えるその瞬間は、紛れもない幸せそのものだ。」

「フフッ、正に純粋無垢の極みです。敵を憎むは人ではなくその行い。そこに回帰するなら、余程の事がない限りは殺意など出る筈がありません。それに明確な悪は見えていますし。」

「ここを履き違えると、連中と同じになっちまうんだろうな。十分注意しないとね。」


 根底に定まる一念がブレると、その瞬間から右往左往が始まるだろう。特に敵に敬意を示せなくなれば全て終わりである。相手も同じ人間である事を忘れてはならない。



(お3方、東京湾からかなり離れたわ。ここなら攻撃を受けても問題ないから、できる限り暴れて頂戴な。)

(横槍すみません。遠方から加勢してくれるとの事なので、今暫くは耐えて下さい。)

(遠方ねぇ・・・。)


 東京湾から小笠原諸島の間に退避したレプリカ大和。今も特殊部隊の兵士が現れているが、全く止みそうにない。一体何処から沸いて出るのかと思うが、やはり転送装置の類だろう。


(連中は3姉妹以前に俺を狙っているのかね。)

(多分それもありますね。今は恐らくレプリカ大和への攻撃が主軸でしょうけど。)

(ミュティ・シスターズがここにいるとも思っている訳よね。実際にはシルフィアさんの元で修行しているけど。)

(灯台下暗しわぅね。)

(それ、ちょっと違うような・・・。)


 ビアリナのツッコミにニヤケ顔で応えるミツキ。それに俺は笑ってしまった。このユーモラスさがなければ、成せるものも成せないのは明白である。



 その後も甲板での半ばプロレスバトルは続く。格闘術に不慣れだったビアリナも、今ではすっかり慣れだしている。更には特殊部隊の兵士もそれに当てられ、今では銃器ではなく拳での戦いに至っていた。正に喧嘩大乱闘状態である。


 あの軍服連中は一体何をしたいのか分からない。俺達を本気で潰し、3姉妹を捕獲したいなら手段は問わないだろう。俺なら多岐多様の手段を投じて挑むわ。この場合は手探り状態と取るべきか。それにより俺達の結束力や経験力を高めるに至っている。実に皮肉な話だ。


 ただ、連中がこの程度で終わるとは思えない。別のプランを考えているのは明白だ。しかしその矛先が今は俺に向いているのが不幸中の幸いである。


 それに過去では大きな戦歴を得られずに眠った戦艦大和。しかし今のこのレプリカ大和は本当に日本の盾となっている。しかもそれが地球規模への火種に発展しかねない最前線だ。文字通りの最後の壁に近い。


    第10話・5へ続く。

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