第10話 骨董品の威力2(通常版)
数時間後、広島は呉の港に来ている。造船業で盛んな地域だ。何より広島と聞けば、俺の世代だと史上初の核攻撃を受けた場しか浮かばない。原爆ドームが最もたるものだ。長崎も同じである。
不思議な事に、先日のハワイはパール・ハーバー。太平洋戦争の始まりの地で依頼を受け、後日に太平洋戦争の決着に近い一撃を受けた地にいるとは。ミュティ・シスターズにとって、俺達地球人はどう見えるのだろうか・・・。
しかしながら、今は己が使命を全うするのみだ。それが今を生きる俺自身の生き様である。それに俺達には力がある。これらを駆使してでも、世上から悲惨と孤児の二文字を少しでも無くせれば幸いだ。
「・・・海上ショーって、そう言う事か・・・。」
開いた口が塞がらない・・・。予想していたものが的中した形になった。Ta152Hの話が出て、それに近いものと伺っていた。更には船舶と広島と・・・。
目の前に鎮座しているのは、旧日本海軍の最強戦艦“大和”そのものだ。実際に現物を見るのはこれが初めてだが・・・。と言うか何時建造して何時完成したのか・・・。
「実はこれ、宇宙空間で建造したものでして。」
「・・・ギガンテス一族のテクノロジーか。」
「はい。宇宙空間なら重力の影響は受けません。更にペンダントの効果があれば、建造効率は劇的に向上しますので。」
なるほど、宇宙で建造して地球に運んだ形か。以前ミュティナが言っていた、転送装置を使ったのだろう。地球人の技術力では、これだけの超重量の戦艦を短期間で運べる訳がない。
「・・・で、何故にこれなんだ・・・。」
「以前、大和ミュージアムに実物大モックアップがありましたよね。当時の応用を活かし、実際に建造した次第です。ただ建造は前述の宇宙空間でしたが。」
「海上ショー・・・海上ショーねぇ・・・。」
確かに俺の世代や他の世代でも、戦艦大和となれば惹かれない訳がない。それが実物大となるなら惹かれるのがオチだ。Ta152Hの時もそうだったが、この変人染みた行動には本当に恐れ多いわ・・・。
「そう言えば、ハワイには戦艦ミズーリ号が駐留していますね。数多くの戦火を潜り抜けて来た生き証人でも。日本だと横須賀の三笠が唯一の生き残りですが。」
「当時の大多数の艦船は撃沈されているからな。多くの乗組員の方々と共に、今も深い海の底で眠っている。長門などの一部の戦艦は生き残るも、ビキニ環礁の核実験で沈められているからの。」
「海上ショーは一時的ですが、後にこの大和で数多くの艦船が沈む海域に向かおうと思っています。今の私達が存在できるのも、当時の先人の方々が戦ってくれたからこそです。それは日本もアメリカも他の国々という隔たりは全く関係ありません。全ての英霊方を弔えれば幸いです。」
これがエリシェの本音だったか。第2次大戦で亡くなられた方々を弔う旅路と。しかしその旅路の船舶を大和にしたのには合点がいかないが・・・。
「多分思われていると思います。それなら超大型豪華客船などでもいいのではないか、と。ですがあちらだとデカすぎて目立ち過ぎます。いくら模造品でも戦艦なら防御力は高いですので。」
「・・・特殊部隊の連中との交戦を視野に入れているのか。」
「この大和は言わば私達の決意の現れです。何処にどう出るか分からない特殊部隊への、完全な宣戦布告そのものですから。それに現行兵器でも目立ち過ぎですし、更に武装が強力過ぎます。戦艦大和なら仮に本武装したとしても、それは第2次大戦時のものでしかありませんし。脅威とまではならないでしょう。」
う~む・・・考えが逸脱している・・・。しかしあの超大型豪華客船だと、確かに目立ち過ぎでありデカすぎる。それに相手が武装勢力となるなら、こちらも武装を維持した方がいい。完全なガンシップそのものだろう。
「海底では“特殊潜水艦”が護衛に当たってくれてます。というか大和の船底にドッキング可能でもありますが。」
「超大型豪華客船の縮図な感じだな。」
「別プランではハワイのミズーリ号を用いようかと思いましたが、あちらは列記とした記念遺物ですので。」
「なるほどねぇ・・・。」
会話しつつ桟橋から乗船する。文献でしか伺った事がない伝説的戦艦に乗れるとは・・・。見える範囲だとほぼ寸分狂いなく再現されている。これを短期間で建造してしまう大財閥の力には恐れ入るわ・・・。
「ただ本来なら武力に武力で応じるのは、戦乱を助長する最悪のケースだ。それがこのレプリカで引き起こされるのは困るが・・・。」
「そこは今後の私達の生き様次第です。全ての兵器も扱い手により変わりますし。それに警護者専用のガンシップと捉えれば、ほぼ黙認させる事が可能ですよ。」
「確かに。今の世上、警護者の力が絶対的な地位まで登り詰めてますから。押し通す形で進む事は可能でしょう。」
「押し通す、か・・・。」
警護者という概念を出すのなら、ほぼ何でも罷り通るのがこの世界。それだけ警護者に掛かる期待は大きいという現れだろう。既存の軍隊や国家では担えない行動を全て引き受ける存在。傭兵と違う点はそれが大々的に認められたからだ。でなければこの奇想天外な発想を実現する事など出来る筈がない。
「まあこのレプリカ大和の件は分かった。本題は同艦に乗りつつ、東京まで護衛するという事だな?」
「何事もなければ、ですが。ハワイとトラガンの一件を考えると、何時何処で襲撃を受けるか分かりません。最低限の武装で問題ないと述べたのは、この艦の武装を用いれば良いと思った次第です。」
「レプリカなのに本物仕様という訳だな・・・。」
怖ろしい話だ。オリジナルの大和と寸分狂いなく創生された同艦は、その全てがオリジナルに準拠するレプリカのようである。つまり本当に戦える艦という事だ。日本は先の大戦後に最低限の武装しか持たないと決めたのが覆される。まあレプリカ大和自体をガンシップとし、警護者専用の戦艦とするなら話は変わるが。う~む・・・。
「全てが片付いたら、この艦はミズーリ号の近場に停泊させようと思います。モニュメントとしての余生を送れれば幸いです。」
「武装云々を除けば、このレプリカ大和を使えば観光地化させる事も可能だしな。」
「ハワイが一大艦船記念館になりますね。」
今の混沌とした世上に一撃を加えるための要素、か。現存する老中たるミズーリ号ですら敵わない巨漢の大和だ。観光地としてなら物凄い盛り上がりになる。過去の大戦の戒めとしての存在以外ではなく、次の世代へ語り継ぐための存在。それが担えるのなら、新たに誕生したレプリカ大和は重要な大役を任される事になるだろう。
「分かった。お前の決意とこの戦艦の使命、確かに受け取った。それら全て守り通すのが警護者たる俺の役目だ。俺にできる事は限られるが、可能な限り使命は全うしよう。」
「ありがとうございます。もちろん貴方だけに押し付ける訳ではありません。今では警護者の端くれとなった私です。共に荒波を乗り越えるパートナーとなりますよ。」
・・・なるほどな、彼女の本当の狙いはこれだったようだ。出逢ってから約1年が経過し、今では絶大な信頼を寄せてくれている。それが何時しか好意へと発展していったのだろう。ナツミYUやシュームと同じである。しかしそれは純粋無垢の一念だ。野郎としてはそれに応じねば失礼極まりない。
それに彼女の場合はその両肩に物凄い重圧が掛かっている。三島ジェネカンの全ての支社と従業員達、そしてその家族達を養っているのだ。並大抵の心構えでは担えるものではない。更には警護者の道にも走り出した。重圧が相当なものなのは言うまでもないわな。
それでも己の生き様を貫き通す、その姿勢に心から敬意を払いたい。生き様推奨派の俺からすれば、可能な限り補佐してあげたいものだ。そのための警護者としての力でもある。生き様を明確に示せる人生は本当に素晴らしいものだわ。
第10話・3へ続く。




