第10話 骨董品の威力1(通常版)
トラガンへの性転換潜入捜査の完了から数日後。今は普段の流れに戻った。女性化を止め、今は男性の姿に戻っている。その姿を初めて見たビアリナとデュシアLに絶句されるという事があったが・・・。まあこれが本来の姿なのだ、黙認して貰うとしよう。
そう言えば、驚いた事があった。例の特殊部隊が世界各国で出現し、無差別に襲撃を繰り返したのだ。ただハワイでの国家間外交にて、連中への対策が全会一致で賛成可決された。これにより奇襲はどうしようもないが、何時何処に攻撃を仕掛けられても問題はないレベルまで至っているという。当然両者とも死者は皆無である。
また正規軍を持たない日本や他の国々では、シークレットサービスや警護者が活躍するしか道がない。表立って軍隊を動かす訳にはいかない、これが国家としての限界である。よって最近は警護者への物資提供が凄まじい。非常に有難いものだわ。
単独で軍備を持つ警護者は忌み嫌われる存在だった。戦争屋やテロリストだと扱いを受けていた。その偏見は見直されつつある。今や俺達が切り札的要素になっているのが現状だわな。
「骨董品ねぇ・・・。」
カウンターに座り、紅茶を啜るエリシェ。今し方来訪し、今度の依頼内容を提示してきた。その傍らではビアリナが喫茶店の雑務を一気に引き受けてくれている。俺の方は厨房に専念できる訳だ。
「今度の海上ショーで使う模造品の代物がありまして。それを広島から東京に運輸するのを守るのが目的です。」
「広島から東京を海路だと、大体1日程度ですね。」
「1日も缶詰か・・・。」
警護者内でトップクラスの実力を持つ故に依頼が来るのは分かる。しかしその場が大問題だ。高所と水は勘弁して欲しいものなのだが・・・。
「多分ですが・・・その苦手な部分は払拭されると思いますよ。」
「運輸するブツに興味を惹かれる、という事か・・・。何時ぞやのTa152Hとかを運ぶんじゃないだろうな。」
「フフッ、大きさが更に凄いですけど。」
意味ありげに微笑む彼女に、変な興味が湧いてくる。第2次大戦時の遺物となれば、それは確かに骨董品のレベルである。しかもTa152Hよりもデカいとなると、爆撃機などになる可能性もあるが・・・。
「・・・広島か、まさかとは思うが・・・。」
「まあ楽しみにして下さいませ。」
広島となれば造船で有名である。第2次大戦時の遺物、しかも日本・・・まさかな・・・。そもそも本物レベルまで造船する必要があるのかと思うが・・・。う~む・・・。
「しかし・・・やはり男性の姿の方がお似合いですよ。」
「ですです。初めて拝見させて頂いた時は絶句しました。」
「あれから暫くは野郎時に女性の言動が出掛かったんだけどね・・・。」
実に大問題である。女性化している時なら、野郎の言動があっても様にはなる。しかし元の野郎時に女性の言動をしようものなら、変態まっしぐらそのものだ。それが実際に出掛かったのだから怖ろしい。この場合だと常に女性化している方が有利なのかも知れないが・・・。
「ただ不思議な事に、女性時で培った直感と洞察力は受け継がれるのね。」
「ほ・・本当ですか?」
「ビアリナにも言ったんだが、女性化していた時の先見性ある目線などが今でも発揮しているよ。直感と洞察力は手前通りで。」
「実際にマスターの女性化する前のお姿を見た事はありませんが、おそらく前よりも活性化している感じでしょうか。」
「それで体躯のパワーが戻るとなると、正に無双な感じですね。」
彼女が言う様に、野郎に戻ってからの溢れるパワーには驚いた。前々から思っていたが、女性の場合だとパワーが抑えられるのは確かだったようだ。その代わりに直感と洞察力、そして女性ならではの先見性溢れる目線が備わる。野郎がパワーなら女性はスピードだろうな。
「何度も言うが、本当に女性は偉大だわ。次の世に新しい命を誕生させ育む。野郎なんか破壊と混沌しか生み出さない最低のものだしな。」
「まあそれは一部に過ぎませんよ。マスターの様に女性の目線を持たれて動かれる方々も多いのが実状です。特にマスターは実際に女性化して、女性ならではの力を会得した。それが今の礎になっていると思いますので。」
サンドイッチセットを完成させて手渡した。それに頭を下げて頬張りだす彼女。何度も言うものだが、野郎が罪深き存在である事を本当に痛感させられる。特にそれが思い起こされるのはトラガンだろう。所属する殆どの女性陣が野郎から虐待を受けていたという事実だ。
「・・・今度トラガンに正式に謝罪しに行くわ。いくら潜入捜査とはいえ、女性化という仮の姿で接していたから・・・。」
「ああ、それですか。全く問題ないと思います。ミツキ様が貴方の男性時の写真を何度か見せて回っていましたよ。今は今後あるであろう、潜入捜査の礎を築くための修行をしていると仰っていましたし。」
「はぁ・・・。」
見事と言うか何と言うか・・・。そう言えば俺がトラガンの女性陣と接していた時、何処となくソワソワしていたのはそのせいか。幾ら外見が女性でも中身が野郎だと知れば、過去にトラウマがある彼女達には痛いものだろう。ナツミツキ四天王は実際に対面して慣れた経緯があるだけに、俺の場合は全く別の流れからそれに至っているとも言える。
「それにトラガンでも青髪の鬼神の話は有名ですよ。シルフィア様の直系の弟子たる貴方の事も知っていらっしゃいますし。その貴方が盟友と位置付ける四天王の方々です。直ぐに打ち解けたのは敬意を以て、もあると思いますので。」
「恩師様々だよな・・・。」
「逆を考えれば、女性化してまで自分達に関わろうとした。ここに少なからず恩義を抱いていると思います。まあ発案は私でしたけど、実際に行動をされたのは貴方ですし。」
ギガンテス一族のテクノロジーがあってこその業物だわな。性転換なんか普通できる事ではない。衣服により女性の変装もあるが、俺の野郎の体躯からして不可能なものである。先日の女性化での関わり合いは、本当に奇跡とも言えるものだったのだろうな。
「・・・奇っ怪な跡、奇跡か・・・。」
「文字としては奇妙ですけど、言葉としては素晴らしいものですよ。まあ奇跡は自分自身の手で引き起こすのも1つの例ですけど。」
「だからこその実力ですよね。警護者としての力も、それ以外での力も。」
食べ終わった食器を手渡してくるエリシェ。それを洗って棚に戻す。今度はビアリナに同じサンドイッチセットを手渡した。それに同じく頭を下げて頬張りだす。
「今後の俺達次第という事だな。」
「そうですね。幸いにも私達には超絶的な力もあります。それらを用いてでも、ミツキ様が仰っていた誓願に近付ければ幸いですよ。」
「世上から悲惨と孤児の二文字を無くす、だな。恩師がそこに回帰しようとしているのだから、弟子たる俺も同調せねば失礼極まりないわ。」
シルフィアも大切な恩師だが、今ではミツキやナツミAも大切な恩師である。彼らが思う誓願に少しでも近付けるのに一役買えるなら、俺は何でもする決意だ。
「しかし、ナツミYUとシュームがザ・シークレットサービスに至るとはねぇ。」
「私やラフィナ様の補佐をして頂いています。」
トラガン潜入捜査時に代理で動いてくれていたナツミYUとシューム。その毅然とした態度や実務能力を買われ、今では三島ジェネカンなどのオブザーバーを担うまでに至っている。本来ならシークレットサービスを担いたいと言うが、あの2人だと社長クラスの実力はある。
「シューム様は主婦上がりでしたが、ナツミYU様は総合学園の校長を担っていますので。それらが役立っている感じでしょうか。」
「学園の運営も企業の運営も、殆ど変わりありませんからね。」
「今の学園は弟子のメルアが担っていると言ってたな。」
警護者の道がなければ、ナツミYUは総合学園校長を担っていただろう。シュームに至っては普通の主婦である。本来ならその道が彼女達の安寧なのだろうが、自らを過酷な警護者の道に進ませるのも皮肉な話である。
「それでも、己が生き様を刻み続ける。男女問わず、その姿勢は貫き通したいものよ。」
「愚問です。貴方の生き様が正にそれですよ。それに少なからず惹かれましたし。」
「今の世上はメンタル面の力が左右される。貴方が常日頃から心構えをしている一念は、私達の模範となるものですよ。」
「ますます頑張らねばの。」
こうやって共に切磋琢磨できる盟友がいるのは幸せな事だ。だからこそ負けられないのだ。道は厳しくとも、彼らとなら必ず乗り越えられるわな。
「さて、そろそろ向かいますか。こちらの方は・・・。」
そう言うと、丁度入店してくる複数の面々。躯屡聖堕チームのメンバーだ。出張時の喫茶店の運営は、全て彼らに任せてある。顔馴染みとあって大助かりだわ。
「武装は色々と見繕いますので、簡単な身なりで大丈夫ですよ。」
「一応、医療キットっと・・・。」
「お前は医者の鏡だわ・・・。」
雑務道具よりも医療道具を優先する部分に脱帽する。ビアリナの腕は先日のトラガン遠征部隊への襲撃事変だ。その時の治療技術は目を見張るものがあった。身内に医療関係の強者がいるだけで、これ程安心するものとはな・・・。
喫茶店の方はメンバーが運営してくれるそうなので、俺達は簡単な道具を持って出発した。ただ東京から広島への移動に飛行機を使うとの事・・・。新幹線か車でよかろうに・・・。まあ急ぎに近い様なので、今は飛行機で我慢するしかない・・・。
これ、今度の広島から東京へは船と言ってたな。行きも帰りも地獄とは勘弁して欲しいものだわ・・・。
第10話・2へ続く。




