第9話 変装の潜入捜査5(キャラ名版)
ナッツ「ふむ、今回は黒服連中は現れなかったみたいで。」
ウエスト「単なる襲撃部隊だった感じだな。」
物凄い戦いになると踏んでの参加だったが、専ら疲れが出始めたトラガンの面々の補佐に回る形になった。マデュースシールドも射撃以外に鈍器としての殴り付けや、その防御力を活用しての大盾にもなる。むしろ今回は盾役が目立った感じだが。
ミスT「さて、お勤めを開始しますかね。」
ウエスト「了解。今回は前回より多めに持ってきましたよ。」
ナッツ「緊急車両の到着に時間が掛かるそうで、その間は俺達で何とかするしかありませんが。」
地面に倒れ込む特殊部隊の面々。試合が終われは全てファミリーの理の様に、急所以外を銃撃された彼らの治療を開始しだした。この流れはデュシアEの盟友であるビアリナのみ知っているようだが、他の面々は知らないようで驚いている。
驚いたのはビアリナが看護士と介護士の免許を持っていた事だ。しかも医師としての資格も取得したそうで、内科以外に外科も見れるという。更には簡単な手術も可能というのだから怖ろしい。デュシアEが俺達の元に彼女を送った理由が、今初めて理解できた。
ミスT「・・・ナッツもできるとは。」
ナッツ「ビアリナ嬢には敵いませんが、縫合ぐらいならできますよ。」
ウエスト「四天王中で医学に精通しているのは彼だからね。」
これも実に驚いた。ナツミツキ四天王の中で一番ぶっきらぼうな感じのナッツが、ビアリナに匹敵する医学のスキルを持っていた事に。このスキルはナツミAが病床の頃に独学で学び、看護士と介護士までのライセンスは取れたとの事だ。ただ実際にその道に走る事はなかったようだが。
ビアリナ「私がマスターの元へ派遣されたのは、この時を見越してのものでしたね。」
ミスT「彼の先見性の目は凄まじいわな。」
デュリシラ「ああ、デュシアEですか。ディル様やアマギH様も絶賛する程の、先見性溢れる千里眼を持っているとの事ですよ。それはデュシアLにも備わっていますけど。」
デュシアL「何ですかね、こう先の展開が読める時があるのですよ。多分母さんが仰られるそれは、兄さんのも含めてのものだと思います。」
ミスT「リーダー格の存在は、誕生の頃からその星の力があるみたいだの。」
ビアリナとナッツの力もあり、ハワイでの試合後よりも効率的に治療が進められた。更にはトラガン遠征部隊の中にも簡単な医学ができる女傑も沢山いた。彼女達の力を借りて、負傷した兵士達の治療は続く。
ミスT「・・・端から見ればバカげている様に見えるんだろうな。」
ウエスト「いや、生命重視は必須だと思う。それをあの軍服連中は根幹にしなかった。だから勝てる試合すらも勝てないんだよ。」
ナッツ「だね。前にマスターが言っていたように、相手の人間を責めるのではなく間違った行動を責める。人を責めてしまった瞬間、自身も堕落するのは言うまでもないっすよ。」
デュリシラ「人としての大切な理ですよね。」
敵兵に塩を送る行為は偽善者と取られてもおかしくない。しかし軍服連中の言動を見れば、特殊部隊の兵士達すら利用されているのは明白だ。言わば連中の野望達成の犠牲者でもある。俺達の行動に治療を受ける面々は驚愕しているが、ハワイの時と同じく人として扱われる姿に感動しているようだ。
ウエスト「それに、マスターのそれはミツキさん縁のものでしょうに。」
ミスT「“持ちつ持たれつ投げ飛ばす”だな。敬い・労い・慈しみの精神、でも。」
デュリシラ「その同じ精神を根幹に据えるエリシェ様方に、私も助けられた経緯がありますから。ミツキ様の生き様、強いてはマスターの生き様に心から同調します。」
デュシアL「あの堅物の兄が一目置くんですから、それだけ凄いものなのですよ。」
ミスT「・・・ますます頑張らねば張り合いがないわな。」
ほぼ簡易治療を終え、後はプロのビアリナとナッツに任せた。先程の会話からナッツが呼んだのだろう、緊急車両が駆け付けてくる。少なからず海外にいるエリシェの遠回しの計らいもあるようだ。
ハワイの試合後と同じく、負傷した特殊部隊の兵士達は緊急車両で病院に運ばれていく。既に適切な治療を受けているからか、運搬は非常にスムーズかつ迅速である。救急隊員の方々もその手際の良さに驚いているようだ。
そう言えばハワイ時でもそうだったが、負傷した兵士達のその後は傭兵化したそうである。自身の命を顧みない軍服連中に愛想が尽きるのは言うまでもない。日本で戦った彼らも同じ流れに至って欲しいものだが。
ただこうやって戦闘の度に治療を行うとなると、そこを付け入られる可能性も十分ある。まあだからと言って、この生き様は曲げるつもりは毛頭ないが。
後日分かる事だが、トラガン遠征部隊が今回の試合を経験した事。これが物凄い礎に至ったとの事だ。本部隊の面々とのレベル差がかなり開いたとも言っている。それだけ実戦で得た経験は何ものよりも凄いと言えた。更には治療の行動もである。
軍服連中も損な事をし続けるわな。こうやって細かく攻めて来る事が、逆説的に俺達を強化させるに至っている。ある意味感謝感謝であろう。連中が本気でこちらを潰したいと思うのなら、ぶっちゃけ無人機械兵器などを大量投入すべきだな。人間同士だとこういった慈愛の行動で相手をプラスに覚醒させていくのだから。
そう言えば数多くのゲーム作品も、魔王や大魔王は配下に主人公を潰させようとしている。その障害を毎回攻略する事でレベルアップし、ボスを潰すに至っているのだ。本気で主人公を潰したいのなら、親玉自らが出向くべきだわ。しかも成長する前の彼らを、である。非常に効率的ではあるが、その場合だと物語としては成り立たなくなるが。何とも・・・。
まあ何にせよ、どう考えても連中の方が絶対悪である。実働部隊の兵士達にとっても同じ考えを浮かぶだろう。それでも悪の方が手数は上なのが世の常だ。だからこそ負けられないのだがな。
トラガンと関わりだしてから半年近くが経過した。ナツミYUの最初の依頼を請け負った時から加算して、既に1年以上が経過している。身内の警護者としての実力は更に上がった感じである。
数ヶ月振りに海外からエリシェとラフィナが戻ってきた。参謀役のナツミYUも一緒だ。その彼女達が目にしたのは、三島ジェネカン日本支社の様相の変化である。
臨時の社長であれ、大役を担うからには徹底的に社長を演じ切った。社員の方々との連携を第一とし、1人1人を奮起させて覚醒させていった。その結果が日本支社全体のレベルアップであろう。短期間でそれをモノにした事に、本家社長のエリシェや補佐のラフィナは驚愕しているようだ。
エリシェ「社内の雰囲気が一変してますね・・・。」
ラフィナ「しかもこの短期間で、ですか・・・。」
ミスT「俺からすれば普段通りのコミュニケーションを優先させたんだけどね。」
高級チェアーの座り心地があまりにも悪いため、今ではパイプ椅子に反対座りしながらの雑務が当たり前になっている。その状態で各部署から集められた資料に目を通すのが日課だ。
とにかく社長が了承のサインを出すのが次へ進むステップらしく、後の雑務は全て社員が行ってくれるという。それがこの臨時社長を受け持つ時に交わした条件だった。まあ日本支社の社員の方々は物凄く優秀で、俺は社長の肩書きとして居るだけの存在で良いのだとか。
ナツミYU「はぁ・・・何か女性らしからぬ姿で・・・。」
ミスT「そうボヤキなさんなって。この姿がモチベーションアップに貢献しているらしいよ。それで効率が上がるなら安いものだわ。」
エリシェ「私の時はそんな流れには至らないのですけどね。」
全ての資料に目を通したら、それらを秘書のビアリナに渡した。そこで帰還後のエリシェとラフィナに重役を返却した。改めて一般人に戻る俺とビアリナ。重役の肩の荷が降りると、ここまで安堵するものか。う~む・・・。
エリシェ「トラガンの方も順調そうなので、そろそろ元の姿に戻ってもよろしいかと。」
ミスT「おっ? ようやく元の姿に戻れるか。早くトイレやその他諸々の気遣いからも開放されたいわな。」
ナツミYU「へぇ~・・・。」
物凄い殺気に満ちた視線で睨まれる。この場合、異性と絡む時の流れと同じだ。つまり俺自身が女性化した事で、女性姿の俺が野郎の俺に接するのを良しとしない感じなのか。こればかりは勘弁して欲しいものだが・・・。
ミスT「さて・・・喫茶店に戻るかの。ビアリナはどうするんだ?」
ビアリナ「私はデュシアE様から貴方の補佐をするよう頼まれました。お邪魔でなければ、引き続きお傍にいさせて下さい。」
ミスT「分かった。喫茶店の雑務・・・まあカウンター周りだが、それを頼むよ。」
ビアリナ「了解致しました。」
この数ヶ月、彼女と共に過ごした時間が多かった。今では姉のように慕われる間柄にもなっている。特に彼女もゲーム関連が好きとあり、意外にも話題の共通性があったりする。その姿を見たナツミYUから、再び殺気に満ちた視線で睨まれた。今度はエリシェとラフィナからも睨まれている・・・。
とりあえず当初の目的は達成した感じだ。性転換してまで潜入する必要はあるのかと思ったものの、トラガンに所属する女性陣の過去の経緯から正解であったようだ。それを見抜いたエリシェの先見性ある目は化け物だが・・・。
今じゃ全員男性のナツミツキ四天王が訪れても全く問題ないようだ。むしろ兄貴分に取れるのか、エラい慕われているそうである。ナツミツキ姉妹も同様に姉貴分として慕われている。この6人は本当に凄まじいわ。1人の人間が6人に分かれた感じにしか見えない。
更に6人の本気モードによる育成は、トラガンの面々を根底から叩き上げる事ができた。実力もさる事ながら、メンタル面の強化が顕著だろう。これなら特殊部隊の連中が現れても、何とかなりそうな感じである。
というかミュティ・シスターズと9女傑はどうしたのだろうか・・・。恩師シルフィアと共に海外で修行をしていると聞いてから半年以上が経過している。あれから何の連絡もない。まあ恩師がいてくれるのだ、心配は無用であろう。相当強くなってそうな気がするが・・・。
また9女傑とエリシェ・ラフィナの実力が開く怖れもあるため、数ヶ月前からナツミYUとシュームが直々に修行相手になっているようだ。シルフィアほどではないが、この2人も相当な腕前を持つ警護者である。その後の展開が楽しみだわ。
戦いは始まったばかりだ。あのハワイでの一戦が発端なのは言うまでもない。しかし今はこうして協力してくれる面々が数多く集まってきている。俺達だけではない、ここが本当に助かるわな。
それでも特殊部隊の連中の総力は今だに不明である。何処にでも現れるとなると、その場が戦場になりかねない。今後も油断なく進まねば・・・。
第10話へ続く。




