第9話 変装の潜入捜査3(通常版)
トラガンへの潜入捜査、それは彼らを鼓舞して実力を上げる事だったようだ。エリシェはこれらを見越して俺を送り込んだようである。彼女の先見性がある目は怖ろしいものだわ。
う~む、性転換をさせてまで送り込む。その意図が読めずにいたが、トラガン自体に自分を信用させる部分が最大の課題だったようだな。そこに俺自身の戦闘力を見せ付け、その実力の差で奮起させる。
案外俺も海外で修業中のシルフィアと全く変わらないわ。お節介焼きの世話焼き、という。それを彼女に言ったら、自分もそうなのだから仕方がないと一蹴されたが。何ともまあ。
まあここまでレベル差があるのは本当に危ない。ここは徹底的に彼らを叩き上げ、日本国内で最高峰と言わしめる程のレベルを持たせるしかない。その大役は彼らが一番適任だろう。
「この位で音を挙げてはダメですの。」
「相手はこちらを殺しに掛かってくる事をお忘れなく。」
数日後。エルシェナの元に修行のスペシャリストを引き連れて向かった。ナツミツキ姉妹・ナツミツキ四天王、そしてウインドとダークHという実力者ばかり。特に四天王は男性だ。先日の条件提示だが、それは男性を連れてきていいかと許しを得た。
「姉妹と四天王はローテーションで頼む。ウインドとダークHはトラガン自体が重武装が可能なのかという判断をしてくれ。」
「判断も何も、基本戦闘力は申し分ないレベルです。それに他者を敬い、お互いに信頼する面は私達も見習いたいもので。」
「問題ないですよ。この点に関して打ち合わせをしましょう。」
「すまんな。」
俺の姿に違和感を抱く彼ら。姉妹は今の流れを知っているが、四天王とウインド・ダークHは今日が初めてである。まあ慣れれば問題ないだろう。俺もこの女性の姿に慣れてきた。
「なるほど、男性に虐待を受けていた経緯が。」
「はい。私達の殆どがその過去がありまして、それで男性恐怖症になっているのが実状です。ミスT様が条件を提示された時、どうしようかと悩みました。ですが、貴方達なら問題なさそうです。」
トラガンに四天王が現れた時、在籍の女性陣全員が顔を強張らせていた。それはリーダーのエルシェナが語る通り、過去に野郎に虐待を受けていた経緯があったからだと言う。だから男人禁制の軍団を構築した訳だ。その理由が今やっと知れた。
「4人は自分が心から信頼する盟友中の盟友よ。エルシェナ達も心から信頼し切っていい。でないとね・・・。」
「ああ・・・2人に何をされるか・・・。」
ウエストの言葉を察してか、こちらを向きニヤリと不気味に微笑むミツキとナツミA。それに彼や他の3人共々、顔を青褪め震え上がる。四天王にとって、とにかく怖い存在がこの姉妹になる。確かにナツミAとミツキを怒らせた場合、どうなるかは全く以て未知数だ・・・。
「ま・・まあ大丈夫ですよ。俺もマスターに何度も戒められていますので。」
「今後は女性の時代だと何度も仰っています。」
「その先駆を切っているのがミツキさんとナツミAさんですから。」
「2人が貴方達を信頼するのなら、俺達も信頼しなければ失礼極まりない。できうる限りの支援はさせて頂くよ。」
四天王の一度定めた一念、強いては生き様は絶対に崩す事がない。それは内面の生命力の強さに言い換えられる。ナツミAやミツキには及ばないが、それでも俺が知る中では最強の力を持つ猛者と言えた。その一念を察知したエルシェナ、そして他のメンバー達。幾分か強張っていた表情が和らいでいる。
案外四天王の方が女性っぽいのかも知れない。更に言えば姉妹の方が男性っぽいのだろう。それらに回帰できるからこそ、相手が誰であれ敬い・労い・慈しめるのだな。俺も6人のその生き様には肖りたいものである。
数週間後。基本戦闘力は素晴らしいものだったからか、6人のローテーションによる修行効果は絶大な威力を発揮した。僅か短期間で俺を圧倒する様な動きを見せだしたのである。やはりエリシェが見込んだだけあるわな。
と言うか今となっては女性化している意味はないのだが、周りからそのままでいろと強く言われ続けている。まあこの姿だと色々な部分で強みになるのだが。
ちなみに久し振りに会ったナツミYUとシュームも、俺の女性化姿に絶句していた。2人もかなりの美女だが、それを超えるのだと豪語するぐらいである。この場合は女性の姿をするも男らしい部分が引き立たせている感じか。
ともあれ、何時あの特殊部隊が攻めて来るか分からない。万全の体制で待ち構え続けるとしよう。まだまだやるべき事は数多い・・・。
「ふむ、これが今度の予算か・・・。」
トラガンの強化と同時に、それぞれが多岐多様のスキルを持つのだと修行をしだしたのもこの頃からだ。今はエリシェと共に三島ジェネカンの運営に携わっている。ラフィナは臨時の相棒ナツミYUと一緒に世界の支社を飛び回っていた。シュームは喫茶店業務に戻って貰っている。
「天文学的な金額は何時見ても慣れないわ・・・。」
「まあそう仰らずに。日本ないし世界各国の支社を支えるものですから。そのぐらいないと話になりません。」
「これがまだ氷山の一角だというのもバカげてるわな。」
ナツミYUが見繕ってくれた妖艶なドレスから、今は黒スーツにミニスカートと外交様相になっている。背中には非常用として脳波起動型の人口腕部を背負ってもいる。女性の体躯で扱えるか気になるが。対してエリシェが黒スーツに黒ズボンと、本来俺が着用したい姿なのが何とも。
「フフッ、本当に何処からどう見ても女性そのものですよ。」
「はぁ・・・今じゃもう慣れたよ。それに女性特有の武器がこれ程効果があるとはね。」
「あまり使いたくないものですが、今のマスターなら申し分ないと思います。」
彼女は三島家の長女で、妹が2人いるとの事だ。何れ妹達に財閥と継がせたいと思っているようだが、当の本人達は女性まっしぐらの生き様を刻んでいるそうだ。つまり当面は彼女が担うしかないのが現状だとの事。う~む、何ともまあ・・・。
「お前も自由な生き様を刻みたいのだろうに。」
「ああ、妹達の事ですか。これはこれでいいのですよ。本当に大変な時は担って頂く形になるでしょうけど。今は私が努力すれば問題ありませんから。」
「・・・お前は経営者の鏡だよ。」
一服しながら彼女の頭を優しく撫でた。それに笑顔で微笑んでくる。ラフィナとは双子の様な関係に近いが、俺の場合は完全に姉と妹という感じだ。特に異性じゃない分、心から甘える事ができるようである。女性化の長所、ここにも健在だな。
と言うか俺が女性化しているからか、ナツミYUやシュームが全く嫉妬心を出して来ない。これはこれで有難い反面、何時もの様相ではないため何処か物悲しいわ。まあもし元に戻り今の流れに至ったら、それこそ殺されそうな感じになりそうだが・・・。
この女性化により、今まで分からなかった事が本当によく分かる。女性の視点による物事の解釈の度合いだろう。当初はただ単に女性化するだけで見えるものかと思っていた。しかし実際は心以外の全部が女性化するようで、周りの女性陣が考えている事を手に取るように理解できる。まあ全部は無理だが・・・。
顕著なのが異性、つまり元の俺からして同性への感情だろう。ここだけは全く以て女性としての感情が出て来ない。恋愛感情などが正にそれだ。元野郎として男性の心も理解でき、女性化している事から女性の心の大多数を理解できる。本当に不思議な力である・・・。
まあ力があるなら使ってこそのもの。それが奇想天外の性転換という凄技であろうが、全ての人の役に立つのなら何でも用いる決意だ。
第9話・4へ続く。




