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覆面の警護者 ~大切な存在を護る者~  作者: バガボンド
第1部・生き様の理
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第1話 闇の風来坊4(通常版)

 どれぐらい眠っていただろうか。不意に肩を叩く感覚で目を覚ました。今も俺の頭を膝に乗せているナツミYUがいる。


「現地に到着しましたので、起きて下さい。」


 寝惚け状態で聞かされた事実に驚愕し飛び起きる。慌てて窓の外をと窺うと、何と空港に着いているではないか。


「・・・あれから何時間経ったんだ?」

「ざっと12時間です。」

「・・・お前さんの癒しの膝枕は化け物だわ・・・。」


 僅か短時間ほど仮眠と思っていたのが、半日近く寝てしまっていた。これには、ただただ驚くしかない。そう言えば、出発前にナツミYUが全て任せろと言っていたのは、この事だったのだろうな。


「すまんな。すっかりお世話になっちまって。」

「いえ、お気になさらずに。」


 身支度を済ませると、特殊ジャンボから降りる。相変わらずこの規格外の巨大さには驚愕してしまう。しかし、航空機としては最高峰の安定感だろう。


「それで、これからどこへ向かうんだ?」

「ニューヨークまで来ましたので、後は会議場へと赴くだけです。その間の移動が問題になりますが。」


 貨物室から運び出された、大盾火器兵器を背中に担ぎ、手配されたリムジンに乗り込む。彼女や俺の他には、3人の戦友も一緒である。ただ、彼女達の面持ちはかなり厳しいものになっていた。



 このリムジンは半ば専用車両に近い。そこで、俺は大盾火器兵器を展開して武装を施しだした。拳銃を両脇のホルスターに仕舞い、日本刀を左腰に装着する。今は分解格納されている特殊武器は出さなくていいだろう。


「よくこれだけの重武装を運べましたね。」

「日本では、警察庁長官直々に許可を得たからね。彼女達を護衛した時、素手で応戦した経緯からだよ。」

「お話は窺っています。マフィア相手に格闘術で応戦したとか。」

「仕舞いには、戦闘車両すら出しやがったからねぇ・・・。」


 ナツミYUを含む4人は、簡単な武装しか装備してない様子。その彼女達に予備のマガジンを手渡した。自分達で準備は済ませているのだろうが、素直に受け取ってくれた所に優しさを感じずにはいられない。


「で、そろそろ本題を聞いてもいいか?」

「はい。今回の護衛内容は、会議場でのボディガードそのものです。」

「先日、身元不明の犯行声明文が送り付けられまして。それを警戒してのものです。」

「3人の腕には絶大な信頼を置いていますが、それでも相手が未知数なため保険と取って頂ければ。」

「なるほど・・・。何か釈然としないが、かなりヤバいのは痛感できる。」


 ネイディア・セフィヌ・ヴァディメラの腕は相当なものだ。その3人と共闘しても厳しいと判断したのだろう。それに、伝説のガンマンたるナツミYUが危ないと判断している。この時点で考えれば、相当な危険度が潜んでいるとも言えた。


「俺のスタイルだが、既に知っているだろうけど、殺人はご法度だからな。」

「それもご存知ですよ。だからこそ、貴方の腕が広まったのですから。誰1人として殺害せずに任務を遂行する。それは相当な腕がない限りは至れません。」

「なら話は早いの。まあ何だ、打撲や骨折は当たり前とするけどね。」


 俺が両拳を鳴らすと、それに釣られて4人の方も両拳を鳴らしだす。それを見ると、お互い笑ってしまった。この場合は阿吽の呼吸は完璧と言えるだろう。


「さて・・・到着したら言ってくれ。もう一寝入りするわ。」

「フフッ、分かりました。」


 再び膝枕はどうだと促してくるナツミYU。その彼女に断りを入れ、腕を組んで瞳を閉じた。この場合だと、何時でも動ける様にしておかねば危険すぎる。それに、彼女の膝枕の安眠度も非常に危険だ・・・。


 仮眠に入るも、リムジンは現地へと疾走する。ここがアメリカはニューヨークとは思えないほど静かである。それだけ嵐の前の静けさとやらか・・・。




 今は大会議場にいる。ここで重役が集まり、何やら会議を行うという事だ。それに対しての襲撃予告との事である。確かにこの広さからして、ナツミYU達では厳しいものだろう。


 ちなみに、ナツミYUも参加すると思いきや、どうやら周辺警備に回されるとの事だった。伝説的なガンマンを警備に回すとは、首脳陣の目は節穴だわな。何とも。


 まあ何だ、今は要らぬ詮索はいい。俺は俺の役目を担うのみ。依頼された内容を確実に遂行する、それが俺の任務である。



「暇だねぇ~・・・。」

「まあそう言いなさんな。」


 仲間の3人の中で一番気難しそうなセフィヌがボヤキ出す。このギャップが何とも言えないのだが、これも彼女のウリだろう。


「警備体制は完璧で、部外者の侵入は実質不可能な状態。これで入れたら見事なものだと思いますよ。」

「早く帰ってシャワーでも浴びたいわねぇ~。」


 俺はタキシードに黒コートの出で立ちだが、4人の方は戦闘用レザースーツに着替えている。ボディラインが見事に出るキワドい衣装だ。言わば現代版クノイチだな。


「依頼が終わったら、お時間頂けませんか?」

「私情は厳禁と言いたいが、昔お世話になっているよしみから応じるよ。」

「フフッ、あの青年がこうも成長するとは驚きですよね。」


 俺の言動に笑みを浮かべる。ナツミYUの年代からすれば、彼女は俺の姉に当たるだろう。彼女の言動は弟を見守る姉の如く、だな。


「ミスター、ご質問が。喫茶店ザ・レミニッセンスはご存知ですか?」

「ああ、ミツキとナツミAが非番時に営業している奴だね。前は俺が趣味程度に営んでいたのを、双子が大々的に広めたのが今だから。」

「今度お伺いしてもよろしいですか?」

「何時でもおいで、2人が喜ぶよ。」


 喜ぶと言うか、格好のカモにされそうな気がするが・・・。この4人、ツッコミ所が多いのが何とも言えない。ミツキからしたら正にネギを背負ったカモそのものだ。




 突然だった。凄まじい音量で警報サイレンが会議場に鳴り響く。そして、和んでいた4人の表情が、一気に本気モードと化していった。腰に装備しているそれぞれの武装を手に持つと、散開し出していく。


「3人には一組で動くように言いました。貴方は私と動いて下さい。」

「了解。」


 金色の本体に、黒い装飾が施された拳銃を両手に持つナツミYU。資料で見た彼女の獲物であり、その戦闘スタイルそのものだ。俺は装備した武装以外に、大盾火器兵器も持っているため、彼女の護衛に回った方がいいだろう。


(大会議室で銃撃戦が発生中。各員は現地に急行して下さい。)

「要人を直接狙ってきたか。」

「それだけならまだ構いません、本題は・・・。」


 まるで黒豹の如く駆け抜ける彼女は、正に暗殺者そのものだ。対して俺は、大盾火器兵器が原因で早く走れない。まあ内部にまだ武装があるため仕方がないが。


 この場合の動き度を指し示すとこうか。ナツミYUはサササッとすると、俺の方はエッホッエッホッか・・・。何とも・・・。


 というか、ナツミYUが言う本題の件が気になる。まあ多分だが、破れかぶれに繰り出す究極の一手という事かな。大体そんなものだろう。



 大会議室の扉前では、数人の警備員が倒れている。安否を確認するが、命に別状はなさそうである。安全な場所まで引っ張り、簡単な応急処置を施す。護衛内容とは掛け離れているが、俺の執念と信念は全員生存での依頼達成だ。誰1人とて死者など出してなるものか。


 ちなみに、大盾火器兵器には応急救護セットも配置されている。簡単な縫合までできる精密装備だ。これらで負傷した警備員達を治療できている。


「応急処置完了。」

「フフッ、覆面の警護者の異名は伊達じゃないわね。それ即ち、死者を一切出さない猛者でもある。」

「お世辞は構わんよ。で、内部の様子は分からず仕舞いか?」


 俺の言葉にアイコンタクトをするナツミYU。その先には扉に複数のナイフが突き刺さっている。それが見事に反射して、内部の様子が薄っすらと確認できた。


「人質は重役全員、襲撃者は10人。全員サブマシンガンと拳銃の武装ね。」

「警備員の傷からして、殺す目的で立て篭もった訳じゃなさそうだな。」

「どうするの?」

「お嬢の戦略分析からして、現状の打開案はこれだの。」


 そう言いながら、ゆっくりとその場に立つ。持参していた大盾火器兵器を構え、一気に内部へと突入した。驚愕するナツミYUだが、同時にサブマシンガンが一斉に放たれる。


 予想した通りの出来栄えだわ。大盾火器兵器は、サブマシンガンや拳銃の弾丸を見事なまでに弾き返している。というか、当たった弾丸はどれも押し潰されているのだ。それだけ、この大盾火器兵器が堅固である証拠だ。


 大盾火器兵器を構えつつ、ゆっくりと室内に侵入する。襲撃者達の火砲が全部俺の方に向いたのを確認したナツミYU。颯爽と俺の背中を踏み台に飛び上がった。


 何と、大会議場の天井中央にあるシャンデリア、そこに両脚を引っ掻けてぶら下がるではないか。そこから、襲撃者に目掛けて獲物を打ち出したのだ。何という運動神経だ・・・、俺には絶対に真似ができない。


 また、彼女の拳銃は独特の発射音をしている。それが合図となったのだろう、遠方の扉からネイディア・セフィヌ・ヴァディメラが突入してきた。まるで踊っているかのように侵入し、襲撃者の両手両脚を正確に撃ち抜いていくのだ。


 僅か数分で襲撃者達は沈黙する。しかも、誰1人として殺害していない。ただ、両手両脚を撃たれた彼らは、その場に転がり呻り声を挙げて蹲っているが。



 すると、その中の1人が気力を振り絞り、大会議室中央に置かれた物体に触れようとする。それを見た俺は、大盾火器兵器内に格納されている武器を使ってみる事にした。


 これ、取り出すだけで組み上がる仕組みらしい。そう取説に書いてあったのを思い出した。無理して動こうとする襲撃者への距離は十分だろう。柄のような部分を手に持ち、引き抜き様に相手に向かって一閃した。


「え・・ええっ?!」


 シャンデリアにぶら下がった状態のナツミYUが驚愕している。ふと見ると、展開された物体は巨大な槍であった。しかも、見事なまでの装飾が施されている。それが、無理をして動こうとしていた襲撃者の胸に見事に当たっている。そのまま白目を向いて気絶したのだ。


「ほ・・方天画戟じゃないですかっ!」

「うぇ?! あのゲームの奴か・・・。」


 改めて手にしている獲物を見つめると、ゲームは真・三国無双の作品で登場する武器だった。俺もお気に入りの天下無双の武将、呂布奉先の獲物・方天画戟そのものだ。見事なまでに再現されている。


「これで叩かれちゃあ・・・ノックアウト間違いなしだわ・・・。」

「何とも・・・。」


 この方天画戟、それほど重くないのに凄まじい重圧感である。やはりレプリカであっても、天下無双の武将の獲物だからだろうな。


 一部始終を窺っていたナツミYU。今の流れに呆気に取られた拍子で、両脚の力を抜いてしまった。真下に落下した彼女を慌てて抱きかかえる。その真下には黒い物体があり、一歩間違えば激突していただろう。


「危ねぇなぁ・・・。」

「あ・・ありがと・・・。」


 顔を赤くしながらも、申し訳なさそうに礼を述べてくる。これが、あの超絶的な動きをした伝説のガンマン、か。普通の女性にしか見えないのが何とも言えない。


「危なかったでした。その真下にあるの、広範囲型炸裂装置です。」

「素直に爆弾って言ってくれ・・・。」


 薄々は気付いていたが、直下にあるのはかなりヤバい爆弾のようだ。淡々と語るネイディアだが、後から駆け付けた特殊部隊員達が相当青褪めている。


「案外、ナツミYUのヒップアタックで壊せたんじゃないか?」

「アッハッハッ!」

「も・・もうっ!」


 机からゆっくりと降りながら冗談を語ってみる。それに3人は大笑いし、ナツミYUは一段と顔を赤くして膨れている。う~む、普段はこういった雰囲気なのか。



 僅か短期間で決着が着いた。本当に僅か短期間である。大盾火器兵器がなければ、絶対に成し得なかった流れだろう。それに、内部に格納されていたレプリカの方天画戟も。


 そして、これらを発案したミツキ達には脱帽するしかない。これを面と向かって言ったら、今度は何を持たされるか分かったもんじゃないが・・・。


 ちなみに、ネイディアが語る広範囲型炸裂装置は即ち爆弾である。だが、その威力はこの大会議場を完全に破壊する力を持っていたらしい。不測の事態ではあるが、それに激突しそうだったナツミYUは見事としか言い様がない。


 ともあれ、誰1人として死者を出さずに事態を収束させられた。怪我人は多く出たが、十分過ぎる程の結果だろう。終わり良ければ全て良し、だ。




 大会議場の後始末はスペシャリストに任せるとして、俺達は用意されたホテルへと向かう。今から日本に戻るには時間が在り過ぎるため、一泊してから戻る事にしたそうだ。


「へぇ~・・・ミツキさんは相当やり手ですねぇ~・・・。」


 リムジン内でレプリカ方天画戟を持つセフィヌ。何でも彼女は三国志に興味があるようで、文献やマンガなどを読み漁っているとの事だ。ネイディア・ヴァディメラも同じで、果てはナツミYUもかじっているとの事だ。


「引き抜くだけで展開して、しかも堅固さも維持しているというのは見事としか。」

「あとこれ、もしかして十字戟でしょうかね?」

「出してみるか。」


 更に大盾火器兵器内に格納されている武器を取り出してみた。小さく折り畳まれているのだが、いざ取り出してみるとその場でデカい十字の獲物に化けたのだ。一歩間違えばこちらの顔に突き刺さるぐらいのデカさである。


「はぁ~・・・ミツキさんも本当にやりますね・・・。」

「これを奥の手としているとは驚きです。」


 呆れ気味の4人を尻目に、どうやって格納するのかと思う。だが、意外にも本体中央部分の突起を押すと、再びコンパクトに折り畳まれたのだ。これ、一体どうやって作ったのやら。


「最近だと某ゲームの影響で、語末に“の”を付けていた事があったな・・・。」

「あー、吸血鬼姫嬢の口癖ですね。」

「スタンドアロンなのがネックよねぇ。みんなでワイワイできれば楽しいのに。」

「でも色々と楽しめますから問題はないかと。」

「お前らヲタクか・・・。」


 先程の戦闘の気迫はどこへやら。ワイワイガヤガヤとゲーム話を展開する3人の女傑。本気の姿はフェイクで、実際にはこれが彼女達の本当の姿なのだろう。


「明日、日本に戻るのか?」

「今からでも戻れますが、この時間だと出発時間との時差ボケが相当出ますよ。ここはゆっくり戻りましょう。」

「俺的には飛行機がね・・・。」


 考えるだけで身体が震え上がる。あれだけ安定感があった超巨大ジャンボジェットでさえ、表を見ただけで震え上がった。今度はそうはいかないだろう。気絶必須かなぁ・・・。


「大丈夫ですよ。また膝枕をすれば解決します。」

「そうなると、以後の飛行機移動はお前さんが必須になっちまうわな。」

「フフッ、ご用命とあれば喜んで。」

「何とも・・・。」


 彼女の膝枕は本当に効果絶大である。移動に関して必須になると冗談を伝えると、エラい真顔で応じだすではないか。う~む、案外彼女の口車に乗せられてしまったのかもな・・・。



 まあともあれ、依頼された内容は完遂できた。しかも、死者を1人も出さずに、だ。後は日本に帰るだけだが、今夜はこの美女達にひっぱりだこにされそうな気がしてならない。


 それでも、普段から殺伐とした生き様を貫いている4人。その彼女達の明るい一面を見れて嬉しい限りだわ。女性はこうじゃなきゃダメだわな。


    第2話へ続く。

補足。大盾火器兵器は「トライガン」で有名なパニッシャーが淵源です@@; また、某ゲームはスカイリム、吸血鬼姫嬢はセラーナさんですね><;

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