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覆面の警護者 ~大切な存在を護る者~  作者: バガボンド
第1部・生き様の理
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第7話 怒りの一撃2(通常版)

「・・・今度は総出になるかも知れないな。」


 依頼の内容を見て顔を曇らせる。傍らで雑務をしているナツミYUが顔を覗かせ、厨房のシュームがカウンターを乗り上げるように覗いて来た。俺と同じ様に2人も顔を曇らせる。


「ほむ、今度は海外のようね。」

「ハワイなら近場じゃないですか。」

「ただ規模が不明、万全の準備をした方がよさそうね。」


 乗り上げ状態のシュームがバランスを崩し落ちそうになる。慌ててナツミYUと共に支えるのだが、その勢いでこちらに圧し掛かり一緒に床に倒れ込んでしまった。咄嗟に思い切り両手を拡げて2人を庇ったまでは良かったが、その分背中を強打してしまう。


「いってぇ・・・。」

「だ・・大丈夫?!」

「無茶し過ぎたね・・・ごめん・・・。」

「2人が無事ならいいが・・・。」


 こう見えても体躯が素晴らしい2人。その2人が勢いによる圧し掛かりとあって、凄まじい打撃になったようだ。幸いにも背中に格納してあった方天画戟がクッション代わりになり、幾分かは軽減されている様子か。


「おおっと?! 場外乱闘の始まりわぅか?!」

「あー、失礼。ちょっと軽い事故がありまして、気にしないで下さい。」


 直ぐさま俺達の安否を気に掛けてくるミツキとナツミA。しかし周りのお客さんに心配を掛けないように、咄嗟にギャグ化するのは見事なものだ。不本意ながら笑ってしまう。それに釣られてナツミYUとシュームも笑っていた。


 しかしまあ、シュームの無茶な行動には呆れるしかない。まあナツミYUも含めて無傷が不幸中の幸いだろう。俺の方も携帯式方天画戟のお陰で強打には至らなかった。これ、背中に獲物を格納するのは防御面でも有効という現れだな。


 日常での何気ない小さい事故が、時としてデカいものになる場合もある。ここは今の教訓を活かした方が良さそうだわ・・・。




 ミュティナ達の存在には驚かされているが、更に人間とは異なる力に驚愕するしかない。今は喫茶店の地下工房にいるのだが、驚きの様相を見せ付けられている。


 この3姉妹が時間や空間を超越し、地球人では在り得ない力を出せるのはご存知の通り。しかしそれ以外にも凄まじい能力が備わっていた。先も挙げたが、重力制御というとんでもない力もそうだ。


 超重量火器兵器の大盾火器兵器、これを軽々と持ち振り回せるのだから怖ろしい。更に簡易版で開発していた背負う形の義手。右手タイプで丁度某マンガのキャラの人工腕部と同じものだ。それに大盾火器兵器の元ネタとなるオリジナル兵装を持たせる荒業もしたのだ。


 そして恐れた事態が正にソレだ。両手と義手腕部に大盾火器兵器を装着という。作上にて彼が猛威を振るった様相を、この3姉妹は簡単に実現してしまったのだ・・・。


「こんな所でしょうか?」

「まさか軽い物を持つ用に開発した人工腕部で、これ程の事ができるとはなぁ・・・。」

「これだと、人工腕部はヘッドセットを駆使した脳波コントロールで操作可能ですね。」


 左右の手と背中の義手に大盾火器兵器を持つミュティナ。重力制御が織り成す超絶的な姿だ。この華奢な身体でよくぞまあ可能だと思うわ。


「見事なものだよな・・・。」

「大盾火器兵器・・・大盾マデュースと言うべきか、それを9挺以上揃えるかね。」

「開発費が幾らあっても足りなくなりそうですけど。」


 俺が使わせて貰っている大盾マデュースを含め、今現在は合計3挺存在している。カーゴ型の大盾マデュースは試作品で、これも使わせて貰っているのが1挺だけだ。製造にはかなりの費用が掛かるようで、机で伝票の計算に明け暮れるサイバーである。


「そうだ、私からも資金提供しますよ。今までの報酬も全部使い切れずに、貯金ばかりでしたので。」

「総合学園を賄えても余るぐらいの資金郡だからねぇ。」

「俺も有りっ丈の資金出すか。でもここの建て替え資金は残さないとな。」


 ナツミYUの資金提供は相当な金額になりそうだ。彼女も俺と同じく報酬の使い道を持て余している状態である。警護者の報酬は依頼に見合う凄まじいものだが、逆に使えずに残り困る場合もある。


「あ、そうだ。T君さ、エリシェちゃんから小切手預かってるんだけど。」

「持ち歩いているのか・・・。」

「まあ・・記載された金額が金額なだけにね・・・。」


 懐から取り出す折り畳まれた小切手。どうやら俺が不在時に、以前請け負った依頼の報酬金をシュームに預けてきたようだ。確かに俺宛のものだが、記載されている金額を見て驚愕した。


「ブラジャー作戦時の本当の報酬らしいわ。」

「・・・桁が相当間違ってないか・・・。」

「まあねぇ・・・。それにほら、エリシェちゃん以外にも11人から総合という事らしいからね。しかもデュリシラちゃんからも加算されているし。」

「それだけ爆弾解除が厳しかった証拠でしょうね。」

「う~む・・・。」


 記載されている金額は、もはや一個人が保てる額を超越している。複数の都道府県を丸ごと維持できるほどのものだ。こんな金額いらないのに・・・。


「とりあえず、金爆弾は君に返したわよ。後は任せるわ。」

「金爆弾ねぇ・・・。サイバー、これ任せていいか?」

「どれどれ・・・。」


 シュームから受け取った小切手をサイバーに手渡す。それを見た彼が同じく驚愕している。そんなに凄いのかと作業を中断したウエスト・ナッツ・エンルイが見るも、同じく驚愕していた。


「す・・凄いな・・・。」

「正に無双な感じですね・・・。」

「う~む・・・。まあ何だ、これでもマスターがしてくれた事に比べたらね。」


 ウエストの言葉にウンウン頷く3人。その意味合いはナツミAを窮地から救った事だろう。病床の彼女を健康にし、かつミツキを含む6人全員を守った事があった。正にその事だな。


「了解です。大切な力、確かにお預かりしますね。」

「金銭的な力なんぞ、生命の力の前では朝露の如き儚さよ。まあ資金がなければ生きるのは厳しいけど、ここを履き違えると堕落する事この上なしだからな。」

「ハハッ、お前達からすれば愚問だろうに。」

「ナツミツキ及び四天王、永遠なり! ってな!」

「より一層奮起せねば張り合いがありませんね。」


 一段と燃え上がる四天王。原点回帰をしつつ、それぞれの作業に戻っていった。やはり彼らの根底は6人全員が揃っていなければ意味がないのだ。その彼らを守れる俺自身、本当に幸運である。


「・・・本当に凄いですよね。この師弟不二の理、生命の力と言いますか。」

「上でも言ったが、この6人こそ俺の追い求めてきた力そのものだからね。6人全員が揃わなければ意味がない。この6人を厳守してこそ、俺の生き様もそこにあるわ。」


 ナツミツキ姉妹とその四天王。彼らの純粋無垢な姿勢は、本当に見習うべきものだ。彼らの存在こそが、人間として当たり前の敬い・労い・慈しみの精神に回帰する。特に彼らを代表して、ミツキの生き様が顕著だろう。


「お兄様の生き様には本当に感嘆します。今まで長い事、流浪の旅路をしてきました。しかしお兄様の様な強い方にお会いした事はありません。ミツキ様方もお兄様が覚醒させたとも思えますよ。」

「そうね。ナツミYUや私も同じクチよね。T君のその力強さの影響で、私達は今に至る。これは理路整然と語れるものじゃないけど、間違いなく存在しているものよ。」

「ありがとう。だからこそ一層奮起せねばならん訳だな。膝など折ってなるものか。」


 四天王の生き様を通し、己の生き様を再度振り返る事ができた。ミツキが概念の敬い・労い・慈しみの精神、それが今の世上には必要不可欠なのだ。いや、これは本来人間に備わる利他の一念とも言える。それを爆発させているのがミツキやナツミAだろう。


 人は些細な切っ掛けで覚醒も堕落もする。それを良い方に軌道修正してくれる存在、それがいてくれるかどうかに掛かってくる。俺は恩師シルフィア冥利に尽きるが、今ではミツキやナツミAも含まれるだろう。


 俺は俺の生き様を貫き通す、今はそれしかない。己の実証を示し、この生き様が間違っていなかったと表すために。それが善悪かは後の歴史に委ねる。先ずは己の生き様を示す事、それが一番大事である。




 それから数日後、恩師シルフィアから連絡が入る。久し振りの連絡に驚いたが、その内容に愕然とした。ミュティナ達を捕獲するための部隊が編成されたという裏情報だ。


 各国が絡む事がない、秘密裏に構成された別の軍隊という。日本は自衛隊の方々、他の国々ではそれぞれの部隊。その実力を凌駕する様相というのだ。


 そこまでして3姉妹を捕獲し、人体実験をしたいのか・・・。これだから人間は・・・。


(厄介な事になりそうよ、十分注意してね。)

「了解です。」


 連絡を終えると、近場の壁を殴り付ける。丁度喫茶店のカウンター端だったため、その衝撃音で周りは騒然としてしまう。隣にいたナツミYUや厨房にいるシュームが一番驚いている。


「おおぅ、ゴキーラの出現で一撃必殺わぅね!」

「まあそう言う事にしておきましょう。」


 俺の心境を察知してくれたのか、ミツキとナツミAが咄嗟にフォローしてくれた。今もDJを行っているため、リスナーの方々に向けても話した形だ。


「・・・もしも、だ。」

「な・・何です?」


 怒りの雰囲気を出している俺に戦々恐々のナツミYUとシューム。静かに語り出した事に驚くも、俺の方は懸念する内情を吐露した。


「俺が押し殺している不殺生の一念を忘れそうだったら、迷わず俺を撃ってくれ。」

「は? そんな事になるのですか?」

「あ・・悪い、事の内情を話さないとね。」


 半ば呆れ顔のシュームに少し笑ってしまうが、今さっきシルフィアから語られた内容を2人に話した。それを聞いた彼女達も、同じく怒りの表情を顕にしていく。


「分かったわ、殺さない程度に阻止するわね。」

「難しそうですけど、可能な限りで行いますよ。」

「はぁ・・・まあ有難い事には変わりないけど。」


 俺の本気とも取れるその内情に、2人も本気で阻止に掛かる事を約束してくれた。警護者同士の全力戦いとなると、それこそ壮絶なものとなるだろう。ただ俺が我を忘れている状態なら、2人の方が遥かに有利だ。ここは彼女達に全て任せよう。


「と言うかさ、君の根底の一念だと大丈夫だと思うわよ。相手が絶対悪と分かるなら、全力を以ての半殺しもOKだし。」

「そう言うものかね・・・。」

「相手の愚行を阻止するには、死なない程度の痛め付けは必須ですよ。本来警護者は護衛対象を厳守し、敵対者を潰すのが目的。最悪は敵対者の殺害も視野に入れる。」

「そうね。しかし君や私達の実力なら、殺さずに制圧する事も容易よ。それこそ格闘外交が一番合うと思うけど。」

「まあ・・・大いに期待してます。」


 この2人の実力からしたら問題ないだろう。しかし相手の愚行がどれ程のものになるのか、ここが少々気になるが・・・。


 ・・・あの警護時にミュティナ達を預かる事になったのは、要らぬ火種を呼び起こす事も覚悟しなければならなかったようだな。家族全員を宇宙に上げておけば、この流れにならなかったかも知れない。


 しかしあの時の3姉妹の内情は本物だった。それを無解にする事はできる筈がない。これも全て必然というものか。ならば全力で挑むしかないわな・・・。



 今の現状を全員に知らせる事にした。情報源は恩師なので彼女は除外するのだが、詳細を知っているという事でご足労して頂いた。


 この流れが確定的になるなら、今度の依頼かそれ以降は正規軍が相手になる。生粋のプロ集団だ。本当の殺し合いになるかも知れない。


    第7話・3へ続く。

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