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覆面の警護者 ~大切な存在を護る者~  作者: バガボンド
第4部・大切なものへ
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第11話 記憶の中に9 偲び酒(通常版)

 過去の出来事が記録された映像の視聴が終了した。終了後に室内の電気が灯るが、店内は静まり返っており、誰も口を開く事はなかった。まるでお通夜の状態である。


 和気藹々な感じを期待していた面々は、その内容を窺って完全に意気消沈し切っている。俺の過去の出来事に大いに期待していたのだろうが、そんな生易しいものではなかったのだと思い知ったと思われる。


 俺は航空機事変で記憶喪失となっているためか、大きくショックを受ける事はなかった。しかし、映像が記録していた出来事は確実に存在していた。ミツキTという幼い少女が、文字通りの激闘と死闘を繰り広げていたのだから。


 現状は精神体として返り咲いた本人がいるが、それでも生身の身体を失った事は事実だ。それ即ち、彼女の本家は7歳で逝去した事に変わりはない。



 徐に立ち上がると、周りの誰もが息を飲むのを感じた。この中で一番辛いのは、間違いなく俺であると痛感したのだろう。誰も声を発する事はない。


 その足でカウンターへ赴き、近場にあったショーケースの冷蔵庫から缶ビールを取り出す。先に挙げたショックを受けていないとは言ったものの、無意識的に動いている事から俺自身もかなりのショックを受けているのだろうな。


 こういった強烈な出来事を前にすると、己自身を客観的に見る事が多い。第3者視点とも言える。だがそうする事で、現状の苦痛から少しでも身構えようとするのは十分理解できた。端から見れば不謹慎的な感状だが、当の本人はそれどころの話ではないのだから。


 缶ビール片手にカウンター前の椅子へと腰掛け、缶の蓋を開ける。そのままビールを口にした。相変わらずの不味さだが、今はアルコール類を摂取しないと落ち着きそうにない。


 一定量を飲み終えると、徐に一服をする。口内のビールの味と合わさってか、この上なく不味く感じた。いや、今の俺自身がそう思ったに過ぎないのだろう。実際にはこの連携が上質なものであると語る方も多い。



 カウンターにて気の紛らわしをしていると、俺の両サイドに座ってくる人物がいた。左側にナツミAが、右側にミツキである。両者共に缶ビールを持っており、座るや否や蓋を開けて飲みだした。更には俺の煙草セットを奪うと、豪快な感じで喫煙を始める。


 雰囲気からして荒くれ者的な感じに思えるのだが、そこに漂う悲壮感は相当なものだった。一言も発する事なく、俺と同じ行動をし続けていた。


 2人の胸中は如何ほどかは分からないが、今は共に居てくれる事を心の底から感謝したい。もし今の現状が俺1人だけだったら、もしかしたら押し潰されていたであろうしな。


「・・・あの時・・・私を助けて頂いて、本当にありがとうございました・・・。」


 静まり返った店内に響く声はナツミAのものだった。いきなり語り出したため、一瞬だけ驚いてしまう。しかし、語られた内容は彼女と初めて出逢った後の流れのものだ。


 そこに込められた思いは、間違いなく彼女の生存に関わっている。俺がミツキTとの激闘と死闘を経ていなかったら、ナツミAは病魔に倒されていたのは想像に難しくない。それだけ彼女の時も相当な様相だったのだ。


「俺にできる事をしたまでよ。だから気にしなさんな。」


 そう返しつつ、彼女の頭を左手で軽く叩いた。するとその手を右手で掴み、ガッチリと握手を交わしてきた。力強い掴みに驚くが、幾分か震えているのも感じ取れる。


 更に今度は俺の右手を掴み、自分の左手と握手をするミツキ。ナツミAと同じ様に力強い掴みだ。同時にそこに込められた一念は、姉妹共に全く同じものを感じ取れた。


「・・・今後も、必ずTさんと共に在る事を誓わせて下さい。楽しみがあるなら倍にして、悲しみがあるなら半分を受け持ちます。」

「ああ、ありがとな。」


 心からの決意を述べてくる。そう感じれるのは、今もお互いに手を握り合っている事からの伝わり様だ。念話の力量で痛烈なまでに伝わってくる。ナツミAも同様の事を思っているのを感じ取れた。


 盟友の存在とは、こうした出来事で開花していくのを痛感している。実際にナツミA達を支えた時から、その繋がりは現れだしたのだから。そして、今し方の過去の出来事を知った事により、より一層堅固なものとして現れたようだ。


 同時に、姉妹が思った事が俺へと伝わり、それが念話を通して店内にいる総意にも伝わって行くのを痛感する。生命の次元による触発とはこの事だ。過去にも色々とあったのだから。



 姉妹との結束的な握手を終えると、徐に背中に抱き付いて来る人物もいた。そちらを窺うと何とシルフィアである。滅多な事ではタッチ的な厚意をして来ないため、とにかく驚くしかない。そして、そのまま俺の頭を撫でてくる。


「・・・改めて思ったけど、よく頑張ったよ・・・。」

「ありがとな。」

「激闘と死闘の連続。よくぞまあ耐えたと思います。」


 何時の間にか厨房へと移動しているミツキT。その彼女が手渡してくるのは、今し方拵えたと思われるツマミである。それを受け取りつつ、小さく頭を下げた。


 彼女の雰囲気からして、一緒に一杯挙げようと思ったのだろう。だが、彼女は生身の身体ではないため不可能だ。故に手渡してくれたツマミに一杯の思いを込めたのだと思われる。


「私も姉ちゃんの戦いを経て、同じ様な経験をしました。ですが、Tさんほどではない事を痛感しましたよ。」

「私の時は病魔ではあるけど、ミツキTさんほどではなかったからね。」

「ただただ、ご無事に切り抜けた事に心から安堵しています。」

「本当よね。」


 堰を切ったように会話を始める4人。そうしないと現状に押し潰されるのを恐れているのもあると思われる。俺の場合は缶ビールを飲むという行為がそれだったしな。


 それでも、こちらの苦痛を和らげようとする一念が痛烈なまでに伝わってくる。同苦する心そのものだ。本当に盟友の存在には感謝しか浮かばないわ。


「・・・俺の方も誓わせてくれ。ここに居る総意を、何が何でも厳守し続ける。俺の目が黒いうちは、誰人たりとも悲惨や不幸になどさせんよ。」

「ええ、重々承知しています。私の方こそ、Tさんを支えていきますよ。」

「みんなで支え合えば、どんな難局だろうが乗り越えられますからね。」

「そうね。持ちつ持たれつ投げ飛ばす、と。」

「大丈夫ですよ。皆様方が居れば万事解決ですから。」


 それぞれの思いを挙げてくれる4人。ただただ感謝するしかない。同時に、俺の生き様が問われるのは今からだとも痛感した。先の映像が見事なまでの起爆剤になってくれたのだ。


 確かに辛い出来事ではあったが、大切な出来事でもあった。それだけ、人の逝去とは大きなものだと痛感させられた。故に警護者の道を通して、総意を守り通すべきだとも痛感する。


 皮肉なものだわ。警護者の存在は他者の生命を奪う職だ。その職にいる俺がこの考えを抱くのは、実に烏滸がましい事この上ない。いや、だからこそ回帰する一念なのだろうな。



 ミツキT本人が逝去した後の航空機事変。もしそこに彼女の出来事を持っていなかったら、恐らく航空機事変を乗り越える事はできなかったと確信できた。彼女との激闘と死闘があったからこそ、総意を守ろうと動いたのは想像に難しくない。


 むしろ、ミツキTとの激闘と死闘が警護者への道を拓いたとも断言できる。彼女が願っていた、総意への強い思いが正にそこに至る。絶大な力を持つ存在である事も、大きく後押ししてくれたとも言い切れる。


 人は些細な出来事により、大きく開花する事がある。それをマザマザと見せ付けられた。しかも、それが自分自身の過去の行動であれば尚更だ、感化されない訳がない。


 ・・・タラレバになるが、そこに至るまでの一念、それがミツキT本人の逝去を以て至る事がなかったらと思う・・・。だが、今となってはタラレバ論理に過ぎない。


 ならば、今の思いを大切にし、今後をどうするかが重要である。幸いにも、周りには苦楽を共にしてくれる多くの盟友がいる。彼らと共に進めば、全く以て問題はない。



 和気藹々と会話を続ける俺の身体を、椅子ごと180度回転させるシルフィア。その先には缶ビールやワインなどを片手にいる盟友達がいた。雰囲気的には偲び酒になるが、今後の決意を新たに思う部分もあるのだろう。


 乾杯とはいかないが、背面にある缶ビールを手に持ち、ゆっくりと上へと掲げた。それを見た総意も、ゆっくりと酒群を掲げていく。7歳で逝去したミツキTへの哀悼の意を込めて。


 そして、総意が胸中に抱く。それは、目の前の苦痛に苛まれる存在を、何が何でも厳守するという一念。警護者としての道を用いて、それを貫いて行く事を心から誓い合った。


    第12話へ続く。

 現実の盟友達を偲びつつ。同話の題材は、実際に不二の盟友方の逝去が淵源となっています。端から見れば、それをネタとして挙げるのは不謹慎と思えますが、挙げなければ誰にも伝わらずに流れ去っていく。忘却ほどこの上なく怖ろしいものはありません。


 逆にどんな形であれ、語り継いでいけば永遠に生き続ける事ができる。無論アクドイ事以外での語り継ぎ(具現化)ですが、彼らの事を思えば無粋な感情など抱くはずはありません。愚の骨頂極まりないですから。


 ともあれ、後の風来坊の劇中でも訪れる流れですが、今回の警護者の真髄は亡き盟友達に捧げるものでも。今後も彼らと共に突き進んでいきますよ。頑張らねばね。

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