第11話 記憶の中に8 原点回帰4(キャラ名版)
定期的に吐血を繰り返し、そして両脚の壊死に至ったミツキT。身体の方は更に弱くなり、食事を取る事が不可能になってきた。直接胃袋に入れる手法はあるのだが、彼女はそれを拒み点滴のみ続けている。
そう言えば、ばあさまから伺った事がある。人は口から食事を摂取して初めて生きられるのだとも。それが不可能になった場合、その人の命運は尽き掛けているとも。それ故に、直接胃袋に食事を入れる手法を取り入れるのだとも。
ただこれは彼女の価値観であり、決して他者を貶している訳ではない。事実、彼女は数多くの病人を支えてきたとも語っていた。ミツキTに降り掛かる病状の人物を見守り続けたとも。今し方挙がった、直接胃袋へ入れる手法も同様との事だ。
この決断を若かりし頃のスミエの知り合いに迫られた事もあったようで、その際に思ったのが今の命運云々の部分との事だ。非常に辛くも重要な決断である。彼女はそういった人物を数多く見てきたからこその価値観であろう。
挙がったその言葉の真意を受け止めるのは人それぞれだが、大事なのは普通の行動自体がどれだけ大切であるかの例えになる。俺はそう痛感させられた。当たり前だと思われる行動の全てが、どれだけ奇跡に近いものであるという意味合いだ。
話を戻すが、映像のミツキTは日に日に弱まっている。眼光こそ衰えないのだが、全てにおいて弱くなっていた。ベッドから上半身のみ起こす事はできても、両足を失った現状は1人で立つ事すらできない。
当時の俺も最大限の補佐を行ってはいるが、それでも明確に限界が表れだしている。何れその時が来る事も、当時の俺は覚悟していたのだろうな。
そして、両脚を失ってから数週間後。ベッドから起き上がる事すらできなくなった彼女。両脚の壊死は序の口的で、身体全体にガン細胞が転移し続けていた。膵臓ガンだけの話ではなかった。
医師が挙げたのが印象深い。今の様相だと意識を保つのすら無理なのに、彼女は半ば平然としている点に驚いていた。肉体面での衰えがあろうが、精神面さえ堅固であれば恐れる事はない、であろう。
しかし当時の病状を窺えば、俺でもまともな精神状態でいる事は不可能だとも思わされる。それだけ現状は非常に厳しい様相だった。
若きミスターT「とまあ、そんな感じだったらしい。」
若きミツキT「フフッ・・・皆さんらしいです。」
当時の俺自身にあった何気ない出来事を話すのだが、それに最大限の笑顔で微笑む彼女。本当に女性の真の力を垣間見させられている感じだ。これが男性であれば、多分耐える事は非常に厳しいだろう。
それでも最後は精神面での力量に掛かってくるため、女性だろうが男性だろうが関係がなくなるとも思える。実際に警護者の世界では、己の一念で全てを覆す存在が数多い。こと病魔ともなれば、それは正に己自身との対峙に他ならない。
若きミツキTは己自身と対峙し続けている。外部的要因の補佐はあるが、実際には彼女1人で全てと戦っているとも言えた。
若きミツキT「あの・・・弱音を吐きます、約束は守れそうにありません・・・。」
若きミスターT「・・・そうか。だが、最後まで諦める事はしなさんな?」
若きミツキT「それは勿論です。ただ・・・言える時に言っておかないと、絶対に後悔しそうな気がしているので・・・。」
若きミスターT「“諦めなければ0%にはならない”、それを肝に銘じておけよ?」
若きミツキT「ハハッ・・・相変わらず手厳しいですね。」
サラッと語るその一言に、何れその時が来る事を直感しているのを感じる。若きミツキTの言葉には、その一念が力強く込められていた。
しかし、“諦めなければ0%にはならない”、そう告げた当時の俺。それは過去にナツミAの病床時に、彼女やミツキや四天王にも挙げた一言だ。記憶を失った俺がそれを語ったのは、若きミツキTとの激闘と死闘の名残なのは間違いない。
実にぶっきらぼうに語る当時の俺に、苦笑いを浮かべる若きミツキT。手厳しいと挙げるのだから、今の俺からすれば朴念仁も良い所である。
だが、当時の様相を踏まえれば、飾り付けた言葉など無意味である。お互いに魂と魂の会話こそが最大の力であろう。事実、これは先にも挙げたナツミAの闘病生活時がそれだった。それ故に、今のナツミAがあるのだから。
この次元に至ると、ミツキが得意としている生命の触発が最もたる力量だ。彼女はそれを平然と繰り出しているのだから。ミツキとミツキT、同じ名前を持つ者同士として凄い事だと言わざろう得ない。
映像の方も時間跳びが多くなってきた。手厳しいと言ったあの流れからは、今も映像が継続している。しかし、若きミツキTはベッドに横たわったまま目を閉じている事が多くなる。
傍らで雑用に明け暮れる当時の俺や、偶に訪れるスミエとシルフィアにデュヴィジェ。当時の俺達には為す術がない状態だと言えた。
タラレバになるが、もしこの時のデュヴィジェが本当の力に目覚めていたのなら、ミツキTの病魔は即座に消え失せ、失った両脚は直ぐに再生に至っただろう。だが、所詮タラレバであると頭を振った。
皮肉な事だ。この時の流れを知るからこそ、今の万夫不当のデュヴィジェへと化けるのだ。若きミツキTの生命、その生き様を吸収するからこそ得られる力量である。
人とは、数多くの大切な存在と共に生きている。そして、遅かれ早かれ、大切な存在は必ず旅立っていく。最後に残るのは己自身でしかない。だからこそ、その瞬間をどう生きるのかを痛感させられるのだ。
若きミツキTが己の生き様を映像に残そうと思ったのは、恐らくここに帰結するのだと痛感している。苦痛に苛まれる姿から、生きる事がどれだけ大切かを知って学んで欲しい、と。
俺には理解し難い概念ではあるが、完全に理解できない訳ではなくなった。こうして映像を通して、当時の彼女がそれを教えてくれているのだからな。
人は1人では絶対に生きていけない。それを再確認させられた思いである。
それから数日後。若きミツキTは眠るように息を引き取った。先の会話が最後の対話で、それからはベッドで眠る日が続いていた。そして、気付いたら眠るように逝去していたのだ。
最後の最後まで頑張り続けていたのだろう。可能な限り明るく振る舞おうとしていたのが痛感できた。最後に交わした会話が、彼女にとっての文字通りの最後の力だったのだろうな。
映像の最後は、ベッドで横たわる彼女を診断する医師達。腕時計を見つめつつ、その時刻を挙げた。午前2時11分である。映像に記録されている時刻も同様だった。
映像からはハッキリとは窺えないのだが、涙に暮れる病室内。当時の俺は無論、スミエやシルフィアにデュヴィジェも涙を流しているようだ。
僅か7歳でこの世を去った若きミツキT。度重なる病魔の襲来に敢然と立ち向かい、そして長い旅路へと赴く。本当に早過ぎた生涯である・・・。
死去が確認された後、彼女は荼毘に付された。そして、後から見つかった遺言に基づき、その遺灰は散骨する事になった。これは傍らの本人に伺うと、実際にその遺書は認めたとの事である。
ただ、それは生前の彼女の意識上であり、その後の流れはスミエとシルフィアに伺った。こちらも若きミツキTが認めた遺言通りの流れにしたという。記憶を失っている俺は、当時の事を伺い知る事は今もできない。
しかし、散骨して欲しい、か。生前のミツキTらしい生き様だろうな。旅行に行きたいと挙げていた部分から、恐らくそうしたい部分があったのだと思われる。これも傍らのミツキTに伺うと、俺が思った通りの返答を頂けた。
それから数日後の映像が最後のものとなった。映し出されたのは見知らぬ場所なのだが、恐らく何処かしらの建物の中のようである。
そして、そこにいるのは若き俺だけで、ビデオカメラをセッティングする所から始まった。高さからして三脚に固定しての録画であろう。当時の俺と対面する形で置かれている。
若きミスターT「・・・シメの録画記録とするが、俺なりの一念を挙げさせて欲しい。」
ボソッと語りだした当時の俺。その表情は悲壮感に包まれており、同時に見た事が無い様な抜き身の真剣と化している。触れれば斬り捨てられそうなぐらいの雰囲気だ。
それに、そこには殺気や闘気も含まれている。その一念は相手、この場合は対人となるが、その相手に対してのものではない。俺なりに推測すれば、相手は理不尽・不条理の概念への明確なる怒りと憎しみだろう。
今の俺はそう考えるため、当時の俺も同様の事を考えていてもおかしくはない。この頃から今の俺の基礎ができあがったのだろうな。
若きミスターT「彼女が何を思って、この映像を残そうとしたのか。その真意は全く分からない。唯一分かるのは、彼女の生き様がそこにあった事だと思う。」
続けられた言葉に、我ながら同様の意見が挙がる。この映像は若きミツキTの生き様を、正確に残すために行っていたのだと。
また、この映像を誰に対して残すとかとではなく、純粋に人としての生き様を残すという部分に集約したのだろう。その遺志を受け継いだのが、映像に移る若き俺自身だと思う。
若きミスターT「・・・今後、俺は彼女の様な存在を絶対に見捨てない。俺にできる事があれば、死力を尽くして支え抜く。その誓いをここに残しておく。」
・・・なるほど、この時の流れが今の俺だと痛感した。苦悩に苛まれる存在がいれば、手が届く範囲で必ず助けに入ると。俺の気質からすれば、若きミツキTの生き様を窺えば、否が応でもそこに行き着くのは言うまでもない。
これが当時の俺なのだ。この生き様がなければ、今の俺はとても存在し得ない。そこまで俺を激変してくれたのが、先程まで映像に映っていた若きミツキTである。
今の俺があるのは、彼女のお陰だと断言できる。同時に、俺は彼女の分まで生き抜かねばならいとも断言できた。警護者の生き様を通して、今後も彼女と共に有り続ける事を誓った。
第11話・9へ続く。
お久し振りです、数ヶ月振りの更新となります><; 大艦長の方の第1話を一気にアップさせて頂いていましたので@@; 警護者の方ですが、同話はもう少し続きます。
「約束守れなかった」と「2時11分」の部分は、14年前に逝去された盟友の実際のものです。その時の様相は、今に至るまで1日たりとも忘れた事はありません。流石に一瞬たりともは不可能ですが・・・。
それでも、何らかの形で彼らが存在した証を立てられるのは、本当に光栄な事です。こうして少しでも皆様方に知って頂ければ嬉しい限りですので。
この場になりますが、当時の盟友達のご冥福を心からお祈り申し上げます。同時に、まだまだ頑張らねばと思う次第ですわ。




