第7話 怒りの一撃1(通常版)
先日の依頼後、宇宙人姉妹ミュティラ・ミュティナ・ミュティヌと一緒に住む事になった。種子島から宇宙に上がった3人の家族に訳を言うも、簡単に同意する展開には呆気に取られるしかなかった。
またこの宇宙人姉妹を半ば匿う事は、彼女達を利用しようとする連中の目を引く事になる。そこは三島ジェネラルカンパニーと躯屡聖堕フリーランスが何とかしてくれるとの事だ。特に泣く子も黙ると恐れられる躯屡聖堕チームの力は絶大だ。
ちなみに3姉妹は見た目がミツキと大差ないため、3人には悪いがカムフラージュも兼ねて地下工房で働いて貰う事になった。それもその筈、3姉妹の超絶的な腕力は特殊兵器を作成するのに打って付けだからだ。
鉄板を片手で簡単に潰し、鋼鉄パイプも片手で簡単に曲げてしまうのだ。人知を超えた能力に唖然とするナツミツキ四天王だが、作業手が増えたとあって喜ばしいとの事である。それにミツキやナツミAを慕う姿が頬笑ましいとの事だ。
ナツミツキ四天王が願う事は、ナツミツキ姉妹の笑顔に他ならない。姉妹に笑顔をもたらす3姉妹であれば、その3人をも纏めて守り通すのが彼らの信条だ。俺もそれには心から賛同したい。
それに本来ならリュリアと同じ学年に編入とも考えたのだが、明らかに人知を超えた存在は人目に曝すのは危険すぎる。ここは地下工房で動いて貰うのが無難だろう。
(わたの目が黒いうちは見逃さんわぅぜぇ!)
(片っ端から殴り倒す様はモンスターそのものよねぇ。)
喫茶店のカウンターから店内隅を見つめる。今もミツキとナツミAのラジオは続いていた。姉妹の気質は誰もが虜にされるのか、今では絶大な人気を誇っているとの事だ。ただ暗黙のルールとして、姉妹に会いに来るファンの方々はいないのが見事なものである。
「しかしまあ・・・お前達も料理ができるとはね。」
「見様見真似ですが、何とかできますね。」
厨房ではミュティナが料理を作っている。流石は年の功と言うべきか。10万年も生きているだけに、見様見真似で直ぐに習得してしまう。それはミュティラやミュティヌも同じだった。
「全てにおいて万能過ぎるわねぇ・・・。」
「戦闘センスも怖ろしいまでのものですし・・・。」
シュームは専業主婦から喫茶店の厨房運営に変わったが、ナツミYUは総合学園の運営を後輩のメルアという女傑に任せたという。今ではシューム共々、喫茶店に常駐している。それにここが警護者の事務所になっているため、今では2人もここに合流した形になった。
「そう言えば、ミュティナちゃんのお母さんのお歳は?」
「シューム様と同じ29歳です。正確には・・・。」
「29万歳ね・・・。」
3姉妹の母親、ミュセナ。シュームと同じ29歳だが、それは29万歳というとんでもない年齢である。ただ実際はシュームとリュリアと同じ母娘の間柄な感じだ。
「大差ないと思うけどね。時間の流れが違うだけで、実際は殆ど変わらないだろうに。俺には8人が普通の何処にでもいる家族にしか見えんよ。」
「あ・・ありがとうございます。」
実に嬉しそうに微笑む彼女。確かにぶっ飛んだ年齢だが、地球での姿形では全く変わらない。別世界の人と決め込まず、自分達と同じく接する事こそが大切だわな。
「ミツキちゃんがお淑やかになった感じよね。」
「でも失礼ながら、明るさではとても勝てないと思います。」
「そうねぇ~。ミツキちゃんの明るさには勝てないわね。」
もはや誰もが認めるミツキの明るさ。天然とも言えるノホホンな姿は、見る者を魅了して止まない。もはや自然体のレベルであり、理路整然と解釈できる物事の話ではないのかもな。
「・・・今の世上、彼女の様な一念があれば。」
「争いなどは消え失せる、ですか。」
「敬い・労い・慈しみの精神、よね。」
本当にそう思う。ミツキの一念は、俺からすれば殺伐とした世上に降り注ぐ太陽の如くだ。彼女の明るさがあれば、世上から争いは消えるかも知れない。
「地球での様相がどうあれ、宇宙視点から見ればミツキ様のお姿は太陽。いや、逆を言うのなら全てのマイナス要素を喰らい尽くして飲み込むブラックホールが相応しいかと。そしてプラス要素たる幸せを放出するビックバンでしょうか。」
「ハッハッハッ! ブラックホールか、正に当てはまってるわ。」
ミュティナが例えたそれに笑ってしまう。ミツキはある意味ブラックホールそのものだ。その先だとビックバンそれだろう。宇宙と言う視点から見れば、案外的を得たものだな。
「そう言えば、ミュティナちゃん達の紛争解決法とかはあるの?」
「アレですね、ミツキ様縁の“持ちつ持たれつ投げ飛ばす”で。」
「ぶっ・・アッハッハッ!」
「ご自身方の超絶的な力に、宇宙を移動できる要素があるなら可能でしょうね。当初は理路整然と解釈できませんでしたが、今はむしろ力こそ全てな感じがします。」
「武力外交じゃなく、格闘外交だわな。」
このギガンテス一族を考えると、武装は最小限な感じがする。肉弾戦こそ彼らの真骨頂で、それを補佐するのが超絶的な身体能力だ。前に伺えたが、何と銃弾やロケットランチャーすら止めてしまうという。物質の持つ推進力を時間と空間という概念から止めてしまうのだとか。正に無双そのものである。
「まあそれでも、俺の出来得る限りの力で守り続ける。それは今も変わらない。お前達からすれば無力に近いだろうがね。」
「いいえ、本当に嬉しいです。私達の信条は一念次第、それは痛烈な強い思いそのもの。私達の力を以てしても、おそらくお兄様の前では足元にも及びません。」
「心の強さならトップレベルだからねぇ。」
ミュティナに代わり厨房に立つシューム。このミツキの体躯にも充たない少女が、凄まじい戦闘力を秘めている事には驚かされる。それでも幼子には変わりないのだ。
「私達ギガンテス一族は直感と洞察力も鋭いもの。お兄様の心情や決意も全て承知済みです。そして何よりも、人の痛みを知っていらっしゃる。」
「他者への痛みを知っていれば、傷付けるような事はしなくなりますね。」
「はい。しかし、警護者という存在も肯定します。力をプラスに働かせるもの。そしてマイナスで動く方を阻止する。そこに傷付けるという行為が発生しようも、相手が何をしたのかという事を忘れてはなりません。」
「因果応報の理だわな。まあ俺は裁きなんか柄じゃないし、そんな偉そうな奴でもない。しかし、守るべきものは守る。ただそれだけの事だ。貪欲なまでに生き様を貫き通す。今後もこの姿勢は絶対に曲げんよ。」
一念次第ではどうにでもなってしまう現状。そして最後は己自身との対決に至る。となれば、やはり胸中の原点回帰が据わっているかどうかで変わってくる。実に大切な事だ。
「やはりその一念が根底ですね。初めてお会いした時も、その一念が身体中からオーラとして出ていました。生命エネルギーとも言いましょうか。」
「初見で読み取るのねぇ~。私やナツミYUは彼の強さを知るのに、結構時間が掛かったのにねぇ。」
「フフッ、それだけお兄様を好かれたじゃないですか。」
見事な一撃だ。ミュティナの発言で顔を赤くするナツミYUとシューム。この2人からは時間を掛けて俺を知って貰い、そこから今の関係に至った。ミュティナ達は俺の心情を速攻で見抜いたため、速攻で絶大な信頼を置いてくれている。要は遅いか速いかの差だけだ。
「多分・・・この何とも言えない思いが恋愛感情だと思います。私もお兄様にその感じがありますので・・・。」
「時間の流れ、か。」
顔を赤くするも、真剣な表情で語る。ミュティナ達は俺達地球人と時間の流れが違う。いや、多分同じなのだろうな。ただ超広大な宇宙空間からすれば、それは止まっているに等しい。彼女達に流れる時間は遅くも速く、ナツミYUやシュームが抱く感情を即座に抱いたと取るべきだろうな。
「何かこの凄まじさだと、君を簡単に取られちゃいそうよね。」
「人知を超えた凄まじさ故に、か。」
「とんでもありません。確かにお兄様への思いはありますが、深浅レベルではお2人の方が遥かに強いものです。私達はまだ出逢って数日に過ぎませんから。」
「思いは時として時間や空間を超越する、深浅なんか関係ないと思うよ。ナツミYUもシュームも、そしてお前も女性ならではの力強さは健在だ。野郎なんか足元にも及ばないものだ。」
一服しながら思う。今後の流れは女性の時代だ。野郎は破壊と混沌を招く悪そのもの。何時の時代も争いは身勝手な野郎が起こし、その都度泣かされるのは女性や子供である。本当に野郎とは業深き生物だわな・・・。
「何時の時代も争い事を起こすは野郎、だな。」
「あら、そうでもないと思うわよ。実際はどうかは分からないけど、クレオパトラや卑弥呼は悪女とも言われているし。」
「妲己なんかそうらしいわね。架空の可能性もあるけど。」
悪女の例えを示すナツミYUとシュームが湿気っ面を浮かべている。実際はどうなのかは分からないが、同性として許せない部分があるのだろうか。それでも野郎が発端とする争いは枚挙に暇がない。
「女性は輝いている方が美しいわ。」
「それ即ち、生き甲斐を持つとも言いますね。正にミツキ様とナツミA様の姿が顕著だと思います。」
彼女の話を聞き、今もDJを担うミツキとナツミAを見つめる。この姉妹は本当に凄まじい女傑だ。確かにナツミYUとシュームも凄まじいが、この姉妹は本当に何から何まで逸脱している。超絶的と言うべきだろうな。
「・・・あの2人のためなら、俺は命を差し出してもいい。ミツキとナツミAの存在は、今の世界に本当に必要だ。・・・あ、これは恋愛感情を除くものだからね。」
「フフッ、君がそこまで思うのだから間違いないわ。」
「幾分か嫉妬はしますが、それが純粋無垢となると失礼極まりないですよね。むしろ君の思いは師弟不二の理そのものとも言える。」
「そう思える時点で、お2人はお兄様のパートナーに等しいのでしょうね。」
「この2人も守るべき存在だの。というか守られっ放しになりそうだが・・・。」
ミュティナの羨ましそうに語る内容に、顔を真っ赤にするナツミYUとシューム。パートナーは即ち夫婦そのものだろう。何れこの2人からの申し出を受ける時が必ず来る。それもまた俺の使命だろうな・・・。
「まあ何だ、今は各々の使命を全うしますかね。やるべき事を全て達成せねば、無様な生き様を曝す事になっちまう。」
「そこは大丈夫ですよ。ミツキさん縁の“持ちつ持たれつ投げ飛ばす”、これで全て解決していきますから。」
「正に格闘外交よね。」
結局は各々の原点回帰、ここに戻る。毎度ながらの自問自答に近いが、それでも己の生き様を何度となく見直すのは必要だろう。警護者の存在からして、何時堕落するか分からない。心こそ大切に、本当にそう思うわ。
「さて・・・何か依頼が来たみたいだの。」
「あ、では工房の方に戻ってますね。何かありましたら仰って下さい。」
ノートパソコンに依頼のメールが届くのが分かった。それを確認しだすと、工房の方に戻るミュティナ。ミュティラとミュティヌは今も工房で四天王と獲物の製作中である。3姉妹の力が加わってからは、一段と作業効率が激増した。見事なものだわ。
第7話・2へ続く。




