第10話 生命の力7 宇宙に帰る(通常版)
ナツミAが挙げた通りの、実に呆気ない様相で幕を閉じた。天の川銀河に匹敵する存在を、同様の力量で完全消滅させてしまった。
5大宇宙種族の面々も、それが実現できるかどうかは半信半疑だったようである。つまり、今回の戦略は行き当たりバッタリ感が否めなかった。
それが、最後の最後で黒いモヤ嬢の加勢により、一気に形勢逆転に至った。こちらの奥の手を駆使する事なく、生命の力で対応を可能としたのだ。
皮肉な事に、広大な宇宙で生命の理を痛感させられた。それは即ち、生命の起源が宇宙であるとも言えるのだろう。細かく言えば、惑星の様々な環境、特に水分が起源でもあろう。
それでも、その水分も分布しているのは広大な宇宙だ。頭の悪い俺には理解不能な領域の概念だが、実際にこうして宇宙空間にいると自然と痛感させられるようだわ。
今し方、真黒のモヤは完全消滅したのだが、それと同時に半身とも言える黒いモヤ嬢へのダメージも凄まじいもののようだった。目の前に漂う彼女の姿は、既に寿命が尽き掛けている様子だ。
己の胸中の一念に回帰し、己がすべき行動を行った結果がこれなのか。理不尽・不条理の概念にはホトホト嫌気が差してくる。
これが彼女が、かつては悪道に走っていた事への因果応報の理と言えるのかも知れない。それでも、目の前の生命が尽き掛けている彼女を目の当たりにすれば、助けたいと思うのは言うまでもない。
宇宙戦艦の甲板で、おぼろげな姿の黒いモヤ嬢と宇宙空間を見つめる。共に眼差しを向ける先は、今し方完全消滅させた真黒のモヤがいた場所だ。
(・・・最後の最後で、正しい行動ができた事で安心できました・・・。)
(そうか・・・。)
ボソッと語る彼女の言葉に、全てが込められている。当初は真黒のモヤと同様に、全てを消滅させるのを目的としていたのだろう。それが何時の間にか、それが正しい事ではないと抱きだしたようだ。
誰もが善悪の概念を内面に持つ。それが表面に現れるのは実に当たり前の事だ。まあでも、黒いモヤ嬢の元の姿の様な巨大さだと、色々と大問題を引き起こす事にはなるが・・・。
(・・・貴方様にお願いがあります・・・。私も完全消滅させて下さい・・・。)
(・・・それは本心の願いなのか?)
(・・・はい・・・。)
次に語られた言葉に、居た堪れなくなる。だが、彼女の一念も察知できる。悪道の極みたる真黒のモヤが全ての死となるなら、自分自身もそれに該当してくる。
生まれて来てはいけない存在は決してない。しかし彼女の場合は、全てにおいて不運だったと言うしかない。特に規模と力量の問題は、宇宙種族達すらも超越する様相だ。一歩間違えば総意の破滅になるのは言うまでもない。特に俺達側からすれば、彼女の存在は後の災厄を招く事にもなる。
となれば、彼女の消滅は避けては通れない。総意を守るためには、彼女を実質的に殺害する必要がある。本当に、警護者という存在は嫌な役回りだわ・・・。
(・・・分かった、お前さんの願いを聞き届けるよ。)
(・・・本当にありがとうございます・・・。)
断腸の思いで彼女の願いを聞き入れると、今までにない穏やかな雰囲気で礼を述べてくる。フワッとした彼女の身体ことモヤが、俺の周りへと纏わり付いてきた。宇宙服からの抱擁な感じだろう。
だが、そこには嬉しさと哀しさが織り交ざっており、こちらとしては居た堪れない思いになってくる。しかし、彼女の消滅は総意を守るために必須の行動だ。先にも挙げた通り、断腸の思いで実行するしかない。
問題は、彼女をどうやって完全消滅させるかだ。幾ら弱体化したとはいえ、元は天の川銀河に匹敵する黒いモヤである。その超大な生命体を踏まえれば、俺如きか弱い人間など朝露の如き儚い存在だ。
有効手段は殺気と闘気の心当てを応用した、プラスの力をぶつけるしかない。俺だけでは非常に難しい手法とも言える。
そんな俺の思いを察知したのか、こちらに集まってくる面々がいた。ミツキTを筆頭に、デュヴィジェやヘシュナやルビナなどの宇宙種族筆頭である。自然と向けてくる目線には、俺だけには担わせないといった雰囲気だ。
特にミツキTの実力は、俺の傍らにいる黒いモヤ嬢に匹敵する。またデュヴィジェの実力も全宇宙種族の中で最強クラス。それに技術的な部分に関しては、他の面々の追随を許さない。他の人物の力を増幅する力も備えている。
彼女達の力を併せれば、黒いモヤ嬢を問題なく消滅させる事ができるだろう。そんな俺の内情を察知した黒いモヤ嬢が、今までにない安堵感を抱いている。
(・・・お前さん達には、辛い役目を担わせてしまうな・・・。)
(小父様、それは何を今更な感じですよ。)
(本当ですよ。それに今回は、この方を新たな生命に生まれ変わらせる意味合いもあると思います。)
(気質が極善に近いのなら、必ず良い方に傾きますからね。)
近場にいる3人が、気にするなといった雰囲気で語ってくれた。特にミツキTは短期間で広大な宇宙を旅してきた存在だ。その言葉には非常に説得力がある。本当に頼もしい女性に育ってくれたものだわ・・・。
そんな俺達の雰囲気に、黒いモヤ嬢は更に安堵感の雰囲気を放っている。己の存在が総意を破滅に追い遣るのだから、嫌なぐらいの思いに駆られるのは言うまでもない。俺だったら発狂していたかも知れないわな。
今もこちらの身体に纏わり付く黒いモヤ嬢。その俺の身体に手を沿えてくるデュヴィジェ・ヘシュナ・ミツキT。
本来ならば、この様相でハイパーレールガンへと力を増幅させ、天の川銀河に迫る黒いモヤを消滅させる流れだった。それがハイパーレールガンを使わずに、俺達の生命力を駆使した力で黒いモヤ嬢を消滅させるのだから、正気の沙汰とは思えない感じだ。
だがこれが成功すると確信している。黒いモヤ嬢もそれ望んでいるのもある。放つ相手がその結末を望んでいるのなら、その結果に限りなく近づくのは言うまでもない。
こちらの身体に触れる3人の女傑の生命力、それが俺の身体へと伝わってくる。その力と俺の生命力を駆使し、殺気と闘気の心当てを放っていく。本来ならばマイナス面の力が発揮されるのだが、今はその力量をプラス面へと変える事もできる。
増幅されたプラス面の殺気と闘気の心当てが、俺の身体に纏わり付く黒いモヤ嬢へと放つ。神々しい光が出現し、それが黒いモヤ嬢へと同期していく。そう、同期していくのだ。
先の真黒のモヤは、殺気と闘気の心当てをマイナス面の力で消滅させた。相手が極悪の属性であれば、これは超絶的に特効として発揮していた。先程実際にこの目で確認をしている。
そして今はマイナス面の力ではなくプラス面の力。その属性を持つ殺気と闘気の心当てが、黒いモヤ嬢には超絶的な特効となっている。これに関しては、今正にこの目で目の当たりにしているため、初見の感じにはなっているのだが。
神々しく輝きだした黒いモヤ嬢が、モヤの状態から薄っすらと人型へと変化しだす。その彼女の顔の部分に、表情らしき部分が現れだした。皮肉な事に、黒いモヤ嬢が今正に消滅する瞬間に真の生命体として具現化しだしたようなのだ。これに俺達は驚愕するしかない。
顔の部分の表情が、何とゆっくりと微笑みだしている。その顔は、人の臨終の時の穏やかな相の様だ。その顔を見て、無意識に涙が溢れてくる。
今の心情は、かつて目の前で逝去したミツキTを見取った時のようだ。今の俺は当時の記憶を失っているが、周りから語ってくれた内容と心中の深層から思い出しているのだろう。
光の様相を醸し出しながら、黒いモヤ嬢がサッと飛散していく。細かい光の粒となり、俺達総意を優しく包み込むように広がっていく。そして、そのままゆっくりと消滅していった。
生命体の消滅というのは、本当に呆気ないものだと痛感させられる思いになる。特に人の逝去は非常に呆気ない。ある日突然、その人物が亡くなる事もあるのだから。
先の真黒のモヤは殺すつもりで完全消滅させたが、今し方消滅した黒いモヤ嬢は正に人の逝去の時のようである。それに、両者とも俺が任意で殺害したも当然である。
目の前の宇宙空間に飛散していった黒いモヤ嬢。その彼女に右手を胸に当て、哀悼の意を捧げさせて貰った。すると、周りの面々も右手を胸に手を当てて哀悼の意を捧げている。
生まれて来てはいけない存在など、この世には絶対に存在しない。だが、真黒のモヤと黒いモヤ嬢はそれに該当する存在だった。本当に可哀想としか言い様がない。
それでも、この2人は消滅させねばならない存在だった。そうしなければ、俺達の方が完全消滅させられていただろう。ならば、こちらは心を鬼にしてでも排除すべきである。
警護者の生き様は、本当に苦労人そのものだと言わざろう得ない。
第11話へ続く。
同話の完成が昨日というギリギリの状態でした><; 一部変な部分、前話と食い違っている可能性がありますが、その場合は後で改修しておきます><;
この黒いモヤ嬢は、後の探索者での彼女となる訳ですが、この時はまだ半敵対状態とも言えるのかと。それが宇宙での時間と空間の概念が影響し、1億年経過しているという部分も見事なものです(-∞-)
ともあれ、山場となった黒いモヤ事変は終了といった形でしょうか。そろそろラストに入らねばと思う今日この頃ですm(_ _)m




