第6話 ダンシングレディ2(通常版)
「おかえり~。」
「たらも。」
「お邪魔します。」
全ての作業を終えて喫茶店に戻る。ナツミYUの専用ガレージは近場にあるため、徒歩で戻れる距離だ。店内では獅子奮迅の活躍をするシューム。更に奥の一角ではミツキとナツミAがラジオDJをしていた。
「・・・お客さんに邪魔にならないかね・・・。」
「大丈夫でしょう。内容に笑っている姿も見られるし。」
「自称、歌って踊れるDJですか。」
ヘッドセットを装着し、新人DJとは思えない口調で繰り広げるミツキ。ナツミAの方は彼女の補佐に回っているが、その取り回しは妹に劣らないものだ。本当にこの姉妹は全てにおいて逸脱している。
「あ、そうそう。さっきウインドちゃんから連絡があって、これを君にって。」
「・・・メール経由での依頼内容ねぇ。」
厨房で調理をする片手間、喫茶店に固定で置かれているパソコンに送られてきたメールを見せてくる。カウンターに座り内容を伺うと、それは今度の依頼内容のものだった。
「空港に到着した要人を指定場所までの護衛、ですか。」
「今回は私達も呼ばれているわよ。しっかりしないとね。」
「・・・ダンシングレディの再始動、か。」
ノホホンとしていたシュームの表情が完全に変わっている。この眼光は警護者としてのもの。感化されたのか、ナツミYUの方も眼光が本気モードになっていた。
「日本国内での専属の護衛依頼、それだけ事がデカい証拠でしょうね。しかも先輩が召集されるとなると、相当なものだと思いますよ。」
「ブランクが在り過ぎるから、数日間は踊りでもしているわね。」
「踊り、ねぇ・・・。」
シュームの戦闘スタイルは、某ゲームの妖艶なお嬢が得意とするダンス風の戦い方を模している。ナツミYUとは異なり、彼女の場合は踊りがモノを言うのだろう。ブランクの相殺を踊りと述べたのが正にそれだ。
「しかしまあ・・・最近の警護事情は複雑化しているわ。」
「仕方がないと思いますよ。警察や自衛隊の方々だと、国内での行動は制限されてしまいますから。だからこその警護者ですよ。言わば傭兵と言った形でしょうか。」
軽食を取りつつ、ウインドに依頼承諾のメールを送った。ミツキやナツミAは暫くDJの仕事があるとして、今回は俺達だけでの依頼となる。シュームの実力は凄まじいだろうが、かなりのブランクがあるとすると厳しい所か。
「シュームさ、貶している訳じゃないんだが・・・。」
「ああ、ブランクの部分ね。数回はフォローをお願いするわ。久し振りの戦いだから。」
「取り越し苦労だと思いますけど・・・。」
俺の心配を他所に、意味ありげに語るナツミYUに不気味に微笑むシューム。もしブランクがあっても戦闘力を維持しているとなると、彼女の実力は相当なものになる。う~む、これは変な意味で興味が湧いてくるわ。
「まあ警護者は依頼を完全成功をさせてナンボだからね。全部終わり切るまでは、絶対に油断しない事よ。」
「フフッ、久し振りに先輩の本気を見れるのが楽しみです。」
「本気・・本気ねぇ・・・。」
一服しながら呆れ返る仕草をした。冗談とも取れる会話だが、それが冗談に取れないような感じなのだから怖ろしいものだ。それだけこの美丈夫の戦闘力が凄まじい証拠だろう。
「ともあれ、数日後を目指してウォーミングアップでもしてるわね。」
「動き過ぎて筋肉痛になったとか言うなよ。」
「さあ、どうかしらね。」
態とらしくふざけるシュームに、ただただ呆れるしかない。それに小さく笑うナツミYU。この2人はある意味姉妹そのものだろうな。何ともまあ・・・。
それから数日間はウォーミングアップに奔走するシューム。逆に喫茶店の厨房は俺が担い、臨時のウェイトレスにナツミYUが行ってくれた。
というかシュームが赴いた先は、舞踊・バレエ・カンフーの入門体験の場。これでブランク解消になるのかどうか不安だが・・・。
だが彼女の戦闘スタイルがダンスによるものなら、これらの踊りのウォーミングアップは絶対に無駄にならない。全ての踊りから駆使するバトルダンスは、相当なものになるだろう。
シュームもナツミYUも、これで娘達がいるのが不思議でならないわ。どこにでもいる主婦そのものだ。それが凄腕の警護者という事実に、同じ警護者として脱帽するしかない。
数日後、羽田空港の裏口にて要人を待つ。移動はリムジンを改造した車両での護送になる。俺達は機動力重視として、以前無償提供を受けたウアイラを使う事にした。2人乗りの同車だが、強引に乗り込む事にした。これも先日の護送手段が役立つとの事だ。
数週間前に行われた、グローブライナーでの護送の一件。武骨な車両故に襲撃者の目を欺くには打って付けだった。今回は逆に警護者側の車両をハイパーカーにして偽装し、更に車両の機動性を生かす事にした。
まさかウアイラをこういった事で使うとは。まあ窃盗団を追撃した時も同じ車両だったし。俺にとっての足回りは、今後もこのウアイラになりそうだわ。
「武装が小規模なのが厳しいわ。」
「大盾火器兵器持参なら、大盾に使ったり内部のカーゴを使ったりできたからね。」
今回も出で立ちは豪華客船時と同じにした。俺はタキシードに黒コート。その中に両脇に各4挺の拳銃、両腰にマグナムと右腰に改良型の日本刀を。鞘にライフル機構を内蔵した、小太刀のものだ。当然背中には格納式の方天画戟を装備している。
対するナツミYUも黒いドレスを身に纏う。ポシェットに仕舞う数発式の小型拳銃に、例の太股の付け根には愛用の拳銃2挺が隠されている。絶対にそこにあるとは思えない。女性故のシークレットゾーンか、本当だわな・・・。
そしてシュームも負けじと黒いドレスを身に纏っている。変わったのは髪形だろう。普段はポニーテール状に纏めているが、今は解放してストレートヘアーだ。一見して邪魔かと思うその髪の毛も、いざ戦う時は絶好の武器に化けると言う。逆にナツミYUは普段はストレートヘアーだが、警護時はポニーテール状にしている。真逆とは正にこの事だわ。
ちなみにシュームの武装は両腰にマグナムと拳銃を装備している。以前ミツキが言っていた戦闘スタイルとは異なるが、それは実戦時に現れるとも言っていた。ここは是非とも彼女の動きを見てみたいものだ。
待つ事、数時間後。要人を乗せたジャンボジェット機が到着する。以前エリシェ達が使っていたものではなく、普通の機体である。カモフラージュとしてのものだろう。
機内から降りてきた人物は、大柄の親子と子供が6人。全員銀髪で、見た目から海外の血筋が強いのは分かる。この8人の警護が今回の目的だろう。
ちなみに同席者にエリシェとラフィナがいる。2人ともすっかり警護者としての姿が定着していた。俺と同じタキシードを着こなし、バトラーの風格を醸し出している。これでもこの2人は大企業連合の総帥なのにな・・・。不思議なものだわ・・・。
リムジンに乗車した8人。護衛でエリシェとラフィナが乗り込み、追加同席でシュームが着いた。俺はナツミYUと共にリムジンを囲む警護車両の後方で、ウアイラを運転しながら付いて行く事にした。
護送先は都内の邸宅という。警護者の暗黙の了解として、依頼内容を根掘り葉掘り聞く事はタブーだ。クライアントから口を割らない限り尋ねてはならない。ここは目的地に向かう事を最優先としよう。
第6話・3へ続く。




