第1話 宇宙からの使者5(通常版)
・・・夢を見た。何処かの病室だろうか、そこのベッドに横たわる人物を見つめる過去の自分。更にその自分を見つめる今の自分だ。ただ、その横たわる人物が全く分からない。
しかし、その様相からして、その人物が余命僅かであるのは分かった。これは、恐らく俺の過去の記憶だろう。となれば、その後の結末は全て同じ流れに至る。
金縛りを振り解く応用を駆使すれば、夢を夢と判断する術を学ぶ事ができた。これは俺の唯一の特技とも言えるが、それは避け難い夢を覆す事をしようとしてきた事の裏返し。
その人物が死地に向かう、それを支えられなかった事。それ故の、理不尽・不条理な対応への明確な敵意と宣戦布告だろう。過去の俺の最大限の抵抗だろうな。
今回初めて見る内容に、それを阻止しようと夢を抗い、無理矢理に振るい起き上がった。目を覚ました途端、その勢いで丸椅子から転げ落ちてしまう。ところが、床に転ぶ瞬間、俺の身体が宙に浮くではないか。
「だ・・大丈夫ですか?!」
「あ・・ああ、お前さんだったか・・・すまん。」
ルビナ十八番の超能力が発揮できる、超能力ペンダント。先の各事変で覚醒した身内は、このペンダントの力を最大限発揮できるようになった。デュリシラもその1人で、今正に床に落ちる俺を浮かせて留めたのは彼女である。
「寝られて暫くしてから、急に魘されだしたのですが・・・。」
「ああ・・・大丈夫。何処か分からない病室の夢だった。」
「・・・それ、恐らくTちゃんの過去の夢ですよ。」
俺の身体を難なく起こし上げるスミエ。彼女もシルフィアも、ナツミツキ姉妹が十八番の力の出し加減の触りを習得している。ただ、姉妹ほどの力ではないが、それでも俺の巨体を難なく起こす事は可能のようだ。
「多分ですが、ヘシュナ様が記憶を読まれた事により、失われた記憶が呼び覚まされたのだと思われます。」
「・・・すみません、また不適切な事をしてしまいまして・・・。」
「ん? お前さんが気にやむ事はないよ。記憶読みは俺がお願いして、それを実行してくれたのがお前さんだ。責任は俺にある。」
再び丸椅子に腰を降ろし、静かに一服をした。物凄い脱力感に襲われるが、それでも何も知らないよりは良いだろう。
「そう考えると、ヘシュナ達の能力は治療にも役立つ訳か。」
「何らかの事故により、記憶障害に至った場合の治癒ですか。」
「そう。ただ、俺みたいに一度読む事をするとなると、相当な苦痛を味わう事になるが。」
俺のボヤきに、多数の医療のライセンスを持つビアリナが語る。今では身内のドクターで、数多くの治療などに携わっている。更にはナッツは無論、ウエスト・サイバー・エンルイの四天王も医療ライセンスを取得している。仕舞いにはナツミツキ姉妹もである。
「お前さんや、ナツミツキ姉妹に四天王は、もっと別の生きる道があったんだろうがの。」
「何を仰いますか。これは私が自分で決めた道ですよ。貴方が貫く姿勢と変わりません。」
「最終的には、己自身の生き様こそが全てになりますからね。以前、ヘシュナ様が悪役を演じ切っていらっしゃったように、私達は私達の生き様を演じ切るべきです。」
「・・・一生涯、か。」
何度となく帰結する先がここである。これは、俺自身が無意識にまで貫き通したものだろう。それが、今では周りの女性陣に根強く脈付いている。特に女性は、根底の一念は計り知れないぐらい力強い。野郎の俺なんか足元にも及ばないわな。
「今の小父様は、何処からどう見ても女性そのものですよ。ここまで女性を会得されていたのには驚きましたが。」
「会得ねぇ・・・。」
「キュピーンッ! Tちゃんは女性心を閃いたっ♪」
「アッハッハッ!」
颯爽とボケをカマすミツキ。それを聞いたシュームや周りは爆笑した。元ネタは、閃きの要因を導入した、“浪漫作品2”からだろう。以後の派生作品でも、閃き要素はある。
「となると、私達はマスターへの恋心を閃いたとも言いますか。」
「んにゃ、“生命を盗む”ならぬ、“魂を盗む”わぅね!」
「その表現、マジモノで頂きですよ。生命も魂も吸われる、本当に言い当ててますし。」
「生命と魂の吸収か。それを言うなら、俺の方がお前さん達に身も心も満たされ続けられているんだがの。」
再び一服しながら、自身に装着している覆面を指差す。その意味は、覆面自体で己自身を押し殺しているというアレだ。これがなかった場合、周りの女性陣の魅力に当てられ、自我を保つのは難しいだろうな。
「うーん・・・そこまで覆面に依存されているとは。」
「野郎の心なんざ、超大な広さと深さを持つ女性の前では、為す術無く没していくわ。最初は理解できない概念だったが、こうして性転換を繰り返す事で痛感させられたしの。」
厨房から紅茶を手渡してくるラフィナ。小さく頭を下げつつ、それを受け取り啜る。
前にも挙げたが、世上はまだまだ男尊女卑の流れが色濃い。しかし、俺としては女尊男卑の方だと確信している。いや、同じ立ち位置にすら至らない。偉大な女性の前では、野郎なんざ足元にも及ばない。
それを踏まえると、今回の宇宙大帝の偽デュヴィジェは、相当な手練れになるのは間違いないだろう。人為的に悪道に陥り、悪役を担っていたヘシュナですら、あのパワーを誇っていた。偽デュヴィジェは、そのヘシュナを完全悪にしたようなものだ。
「・・・本物のデュヴィジェ嬢を見つけられれば良いが・・・。」
「あー、そこですが、既に目星は付けてあります。ただ、今は偽デュヴィジェ様自身が、どの様な姿なのかを世上に見せ付ける必要がありますし。」
「南極事変のあの3人みたいに、だな。」
同じく厨房で簡単な食事を作り、手渡してくるミュセナ。最近は料理に目覚めたみたいで、こうして手料理を味わせて貰っている。パートナーのネデュラには大変高評らしい。
「・・・偽者ならば、容赦なく叩き潰しても問題ないか・・・。」
「人工生命体から派生した、クローン体であれば問題ないと思いますが。」
「T君が懸念するのは、そのクローン体ですら個人として見ている部分よね。」
「確かに生命体ではありますが、偽者の時点で慈悲は無用な気がしますけど。」
「判断が難しいわな。」
それぞれの女性陣が語る中、軽食を取りつつ、前の自分の発言を思い巡った。
生命体総意にマイナス要因になるなら、容赦なく叩き潰すというアレだ。ミツキが補佐してくれたのは、それは殺害も厭わないというものでもある。
しかし、それは大いなるオリジナルと言うべきか、その人物の場合に該当するとも言える。偽者がクローン体であるなら、そこに慈悲など抱く必要もない。ただ、その人物すらも個人と取るなら、俺の行動は殺人そのものである。
「5姉妹ちゃん、Tちゃんの魅力で、一撃必殺させる事も可能わぅ?」
「母をですか? うーん・・・どうなのでしょうかね。」
「私達が気付いた頃には、既に偽者に摩り替わっていたみたいですし。本当の母は一体何処にいるのかも分かりません。」
「ミュセナ様方は粗方掴んでいるとは思いますが、今の私達には力はありませんので。」
この5姉妹しても、母デュヴィジェには敵わない感じだろうか。しかし、その据わりは半端じゃないぐらいに据わっている。俺自身の記憶上では、出会ってまだ数日のみだが、実際には彼女達が生まれる前から知っている事になる。
「まあ何だ、今は一歩ずつ進んで行くしかないか。できれば、誰1人として傷付かずに終息すれば良いんだがの。」
「それはアレですよ、今後の私達次第と言う事になります。どんな逆境だろうが、乗り越えられない壁など存在しませんから。ポチ縁の、諦めなければ0%にはならない、と。」
「本当ですよ。」
茶菓子を漁りつつ、現状の様相を監視するミツキ。ナツミAの方はデュリシラに代わり、各種コンピューターの操作に回っている。デュリシラの方は、再度同じポジションを維持すると、俺の背中を抱き締めてきた。
「シューム様やナツミYU様が、女性の全ての姿で貴方に接していた意味を、今やっと理解できました。むしろ、形作って接していた私は、貴方に嘘を言い続けていたと。」
「んー、それが言わば個性じゃないかね。お前さん達は個々人の生命体であり、意思と一念は全く以て違う。スミエが所以、異体同心の理と何ら変わらない。」
「そうですね。ただ、デュリシラ様方のそれは、Tちゃんに対しての特別な思いが前面に出ていますけどね。」
「お祖母様も大変ですよね。」
「フッ、何をご冗談を。己が定めた生き様は、貪欲なまでに貫き通すと。Tちゃんが指針の概念でも。今では私達の誰もが、ここに帰結していますからね。」
キセルを薫らせつつ、小さく笑ってみせるスミエ。今に至るまでの紆余曲折は、全メンバーの中で一番大きなものを経験して来たであろう。それ故の、この小さく笑う姿だ。前の俺には理解できなかったが、今は痛烈なまでに理解できる。
スミエが全盛期は、全力を以てして戦い続けてきた闘士だ。しかも、今ほどの技術力もない状態である。バリアやシールドの概念すらもない。伺う所、過去に重傷を負った事もあるとも言っている。
それでも、己が生き様を貪欲なまでに貫き通してこそ、今の姿が顕然と出来上がる。もはやこの方程式は確固たるものだ。実際に俺自身も体現し、その実証を示してきたのだから。
そして、これは己自身との対決に他ならない。後にも先にも、最大の壁は自分自身だしな。
「ちょっと着替えてくるわ。」
「あ、はい。戦闘用衣服にですね。」
「何時でも暴れられるようにせんとな。」
デュリシラに退いて貰うと、そのまま喫茶店の4階へと向かう。今の出で立ちは野郎の時と変わらない。このままでは、恒例の肌蹴る事変に至ってしまう。過去にシューム達が考案してくれた、ダブルバトルスーツに着替えておいた方が良い。
しかしまあ、今ではすっかり性転換状態が板に付いてきたわ。それだけ、現状での有効打になるのは間違いない証拠だろう。俺としては遣る瀬無さがあるが、それでもそこに力があるのなら使ってこそ真価を発揮するしな。
着替えを終えて1階に戻ると、更に慌ただしくなっている。先程以上に殺気だった雰囲気が色濃い。サーバーブースやテレビの様相は、成層圏に鎮座する宇宙船団からの使者の到来で持ち切りである。
「・・・ついに来たか。」
「漸くと言った感じですねぇ。」
ダブルバトルスーツとコートを身に纏った状態で、ナツミAの隣に座る。相変わらずの腕前を展開する彼女は、デュリシラ達を超えるブレインそのものだわ。
「これ、ナツミA様はそれ程活躍されていないのに、何時何処でこの業物を得たのかが気になってますが・・・。」
「シルフィアさんと同じく、幼少の頃から徹底的にやり込んでましたよ。一時期は病弱になって、停滞を余儀なくされた期間がありましたけど。」
「姉ちゃんのやり込み度は恐ろしいですからね。」
愛用の二対の爪銃を調整するミツキが語る。姉の様相を間近で見てきただけに、今の姿は安心の何ものでもないのだろうな。特にあの病状の時は、居た堪れなかったのは間違いない。
「まあ、元は生粋のゲーマー魂炸裂のヲタクでしたからね。それがこうして、警護者として皆さんのお役に立っている事は、本当に警護者冥利に尽きますよ。」
「まさか娯楽の世界から、こうして人を守る側にまで至るというのは驚きよね。」
その場で展開式パイルバンカーの調整をするシルフィア。そこにサラとセラが加勢していた。何時ぞやからのミュティ・シスターズみたいな、職人肌が色濃くなっている。
「そう言えば、5姉妹の準備は万端か?」
「全く以て問題ありません。それに、この準備万端の心得は、小父様が記憶を失う前に口癖のようにいってらっしゃいましたし。」
「何とも・・・。」
「小父ちゃん魂炸裂わぅね! ウッシッシッ♪」
誰よりも準備を整えて、出撃の時を待ち構えていると言う5姉妹。その淵源は、俺が記憶を失う前の自身が彼女達に助言したそうだ。今の俺には全く以て記憶にないのだが・・・。
「それと・・・この様相、デュヴィジェ以外に何か蔓延ってる感じがするが・・・。」
「やはり、貴方も感じられますか。私の推測ですが、偽デュヴィジェ様は言わば斥候です。真の巨悪は他にいると思われますよ。」
「しかもこれ、地球上ではなく宇宙ですよね。」
4大宇宙種族のヘシュナとナセリスが語る様相。今の俺の懸念を裏付けるには、十分過ぎる程のものだ。ただ、今現在は漠然としており、それが何なのかまでは分からないが。
「大丈夫ですよ。今は目の前の壁を1つずつ攻略して行きましょう。それからでも十分遅くはないと思います。」
「そうだな。ばあさまが熟練者魂のその一念に賭けるとしよう。」
「ほほ、それはそれは、光栄な限りで。」
「ふふり♪」
スミエの直感と洞察力は、身内の中でトップクラスの様相だ。それを信じると語ると、何時になく嬉しそうに微笑んでくる。それにニヤリと笑うはミツキだ。
宇宙からの使者、か。ただ、今現在の様相は、とても使者とは言えない感じだ。某“宇宙戦艦”の劇中が当てはまるなら、それは完全に屈服させるかのようである。
それでも、劇中と違う点が多々ある。顕著なのが4大宇宙種族の加勢だ。幾ら全宇宙種族内で最強クラスの力を持つデュネセア一族も、他の4大宇宙種族が一致団結した場合は勝ち目は薄い。更には各種バリアやシールドなどに守られている。
極め付けが、善悪判断機構だ。ミュセナ達が調査した所、デュネセア一族の大宇宙船団にはバリアとシールドがないとの事だった。つまり、連中は悪心に満ち溢れていると言う事だ。ただ、各種迎撃機構は健在なので、それだけでも今の人類には手出しができない。
それに、劇中の宇宙大帝みたいな様相を発揮するなら、私利私欲を持つ地球人は直ぐに魅入られるのは言うまでもない。下手をすれば、先の各種事変の様相に逆戻りである。
まあ、決定的な差は俺達の存在だろうな。根底に絶対不動の原点回帰を持つ面々の存在、それが連中にとっては特効薬そのものだろう。何処まで暴れられるかは不明だが、可能な限りは暴れてやるわ。
第2話へ続く。
対話と言う名の雑談、それが一同の力を底上げする最強の修行法。案外これは、今の世上にも当てはまっているのかも知れません。ともあれ、第4部の最初の悪役との対峙は近し。劇中の話ですが、まだまだ課題は山積みです(-∞-)




