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覆面の警護者 ~大切な存在を護る者~  作者: バガボンド
第4部・大切なものへ
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第1話 宇宙からの使者2(通常版)

 それからは後手の日々が続いた。デュネセア一族の宇宙大帝が地球を訪れるまで、待機するしかない。しかし、確実に訪れる事は分かっているようである。


 その中で、実質的に亡命をしてきた5姉妹。彼女達との生活も始まった。そもそも、突発的に喫茶店に現れたため、何の準備もしていなかったのが実状である。そこで、こうした不測の事態に対応し易いミツキとナツミAに一任した。


 既にエシェムLとティエラ、その母のカラセアとナセリス、更に闘神4姉妹すらも一騎当千の人物に仕立て上げた、育成のスペシャリストである。今の5姉妹はド素人の雰囲気が色濃く出ているが、2人に任せれば恐ろしい人物に化けるだろう。


 特に、5姉妹の気質からして、母親たる宇宙大帝を自らの手で阻止したいという一念が、これでもかというぐらいに感じられる。かつての偽者のカラセアとナセリスを、自ら警護者の道に進んでまで阻止しようとした、エシェムLとティエラの姿と全く同じである。


 それだけ、今は未知数ではあるが、話題の宇宙大帝は相当厄介な相手だと言う事が窺える。今度の相手は地球人ではなく、宇宙人という部分。言い方は悪いが、5姉妹の力を借りねば勝てなそうである。



 ミツキとナツミAが5姉妹を強化修行をしてくれている。また、他の大多数の女性陣も、姉妹直伝の修行を経験できるとあってか、我勇んで参加して来るという。持ちつ持たれつ投げ飛ばすの気概が色濃く感じられるわ。


「・・・結局は警護者に回帰、か・・・。」

「自ら選んだ道、それが今ですからね。」


 今はエリシェ達が新たに創設した、トラガン専用の修行場にいる。今では一騎当千の女傑達にまで覚醒しだした彼女達だが、ここで常日頃から修行に明け暮れているとの事。それ故に、あの個人戦闘力を叩き出すに至っているのだろう。


「1つ質問なんだが、お前さん達が得意とする脳内読み、それは失った記憶をも察知する事が可能なのか?」

「確証は掴めませんが、過去に記憶した事は全て脳内に記憶されるのが実状かと。これは万物全てに当てはまると思います。大宇宙でも、ビックバン直後の名残が検出できるのが通例ですし。」

「そうか・・・。」


 カルダオス一族がウリは、自らも含めた全ての生命体の記憶を辿る事ができる。ヘシュナの妹ヘシュアが、ウインドとダークHの脳内を読んだのが良い例だ。しかもそれを、一時的に己が記憶の1つとし、更にその記憶で得てきた行動すらも具現化できるのだ。


「スミエ様とシルフィア様が仰っていた、貴方の生き様の根本概念となる方ですか。」

「ああ、どうも気になってね・・・。お前さんの力なら、先に知れるかなと思って。」

「貴方が望まれるなら、喜んで探索しますが。」

「簡単な感じでもいい、読んでみてくれないか。」


 これはヘシュナにしか担えないものだろう。彼女の種族の特性を駆使せねば、人間がどんな力を使おうが、失った記憶を読む事などできはしない。


 静かにその場に立ち上がり、俺の前へと進み出る。そして、右手を俺の額に当てつつ脳内を読み出すヘシュナ。これだけで簡単に読めるというのだから恐ろしいわ・・・。



 触れだしてから数分後。突然、彼女の表情が曇り出した。と同時に、際限なく涙が溢れ出て来だすではないか。やはり、スミエとシルフィアが表情を曇らす程に、過去に大きな出来事があったのだろう。


「・・・こ・・これ以上は・・もう・・・。」


 俺の額から手を退けると、その場に崩れ落ちる。そのまま号泣しだした。遠方にいた面々が何事かと駆け寄ってくる。特に一際心配しているのがミツキとナツミAだ。


「こ・・こんな・・・こんな事があったなんて・・・。貴方が・・・貪欲なまでに・・・、己の生き様を貫く意味を・・・初めて知りました・・・。」

「・・・すまないヘシュナ、悪い事をさせてしまったわ・・・。」


 今も号泣し続けるヘシュナを胸に抱く。俺よりも体躯が良い彼女が、まるで幼子の様に泣く姿を見れば、俺の過去がどの様なものだったのかが読めて来てしまう。


「ヘシュナさんの言動からして・・・姉ちゃんの時を思い出します。」

「ああ、そうね・・・。明日をも分からない、そうドクターに告げられた時のポチの号泣、今でも鮮明に覚えているわ。」

「死ぬかも分からない現実に、最初は圧倒され続けていましたから。しかし、それでも一握りの希望があったから打開できた。特に終盤は、Tさんが加勢してくれた事により、病魔すら蹴散らせたと思えます。」

「・・・あの時のTさんの尋常ならざる覇気は、失うものへの痛みから発せられた、か。」

「ええ、ヘシュナさんの言動から推測すれば、恐らくは・・・。」


 過去を振り返る姉妹だが、自然と涙を流し出している。当時を思い出してのものだろうか。それに、ヘシュナに匹敵する感受性を持つ姉妹なだけに、直ぐさま現状を察知するのは容易い事かも知れない。即ち、俺の過去が壮絶なものだと言う事が痛感できる。


 今も泣き続けるヘシュナを胸に抱きつつ、落ち着くまで静かに待ち続けた。精神面での強さなら、4大宇宙種族でトップクラスの彼女。その彼女がここまで泣き崩れる現状、相当な記憶なのが痛感できる。ただ、今の俺には全く以て窺い知る事はできないが。


 簡単な読みと言ったが、ヘシュナは俺の深層心理まで探ったのだろう。しかも、俺が記憶を失う前の俺自身を見たのだろうな。それに彼女の言動を窺えば、俺が航空機事変を命懸けで乗り越えたのも肯ける。失うものの痛みを知っているからこそ、そこに回帰したのだろうな。


 ただ、1つだけ合点がいかない。ミツキとナツミAが語る様相、それは航空機事変後の事になる。俺もそれだけは明確に把握している。しかし、当時から理不尽・不条理な対応には、断固として反論をしだしていた。ヘシュナが探ってくれた事もあるが、どうやら俺の生命自体にその概念が根付いているとも言える。


 それだけ、失うものの痛みの淵源の存在は、相当大きなものだったという事だろう。それが一体何なのかは、今の俺には知る術はないが・・・。




「・・・落ち着いたか?」


 どれだけそうしていただろう。泣き止んだヘシュナだが、今も呆然としている。俺の深層を見た彼女は、相当ショックを受けているようだ。しかし、俺を見つめてくる眼光は、凄まじい程にしっかりしていた。


「・・・もう迷いません。いや、迷ったりしたら、貴方自身の生き様に失礼極まりない。今の私達は、貴方の生き様を根幹に据えて突き進んでいる手前。その貴方が、あそこまでの執念と信念を決意していた。ならば、それに同調せねばパートナーとは言えません。」

「そ・・そうか。」


 俺の顔を両手で優しく持ち、ジッと瞳を見つめてくる。見られている俺の方が、顔が赤くなりそうだったが、その眼光は凄まじいを通り越して恐ろしいまでの力強さだ。


「人は悲しみを乗り越えてこそ、本当の優しさを得られるとも。ただ、それは悲しみを経ないと得られない、その裏返しにもなりますが。」

「そこは絶対的に仕方がないわ。万物全てが生老病死の理からは逃れられない。大切な人との別れは絶対に避けられないしな。」

「だからこそ、今の瞬間を、今まで積み重ねてきた記憶を大切にする、ですか。」

「忘却ほど恐ろしいものはないわな。」


 身内に何度も語っている、忘却ほど恐ろしいものはない、と。ただ、そこに回帰するなら、ヘシュナが探索してくれた俺の過去、それを忘れてしまっている事自体で矛盾に帰している。


 失うものへの痛み。この概念への流れ、それがあまりにも強烈過ぎたのだな。だから今も、理不尽・不条理な対応に断固として反論をし続けている。この生き様は、過去の俺の、2つの概念への宣戦布告そのものだわ。


「・・・小父様が全く変わられていなくて安心しました。」


 ここに来て、5姉妹の声色を初めて聞いた。その中のシェレミナが感慨深いそうに、俺の事を小父と言ってくる。それに驚くが、過去に出会っている事を踏まえると、それは初出逢いではなく再会を意味しているとも言える。


「小父・・・小父ねぇ・・・。」

「ヘシュナ小母様は、今の記憶読みで分かったと思いますが、私達は小父様と遥か前にお会いしていまして。」

「しかも、私達が生まれる前、母デュヴィジェとも面識があります。」

「はぁ・・・もう何を聞いても驚かんよ俺は・・・。」


 言葉では難癖を付けるが、表情では相当驚いている様子。その姿を見て小さく笑っている5人である。初対面時に俺の事を懐かしそうに見ていたのは、過去に出会っていたからだろう。更に俺を小父と言っている事から、相当親しい間柄とも言えた。


「ヘシュナ小母様もそうですが、他の小母様方も大宇宙の時間と空間の概念からして、地球人に流れる時間と空間とは全く異なります。母は、私達が生まれる前に小父様とお会いしており、その後に私達が生まれた後に再度お会いしています。」

「・・・それが航空機事変だった、と。」

「ええ、その通りです。私達が5歳の頃ですね。」

「俺が今年で・・・幾つだっけか?」

「ぬぅーん、31歳わぅ。しっかり覚えておくよろし。」

「何とも。ともあれ、20歳の時に航空機事変と取れば、当時5人は5歳ですね。それから11年が経過したとなりますし。」

「11年か・・・。」


 何時の間にか雑談的な輪になっている。トラガンの女性陣もおり、完全に井戸端会議そのものだわ。まあ、この姿勢こそが最強の力の1つになるのだが。


    第1話・3へ続く。

 この展開は、一部分で実際にあった事を題材としています。失う者の痛みを知る故に、何事にも負けない強さを得る。これは今の世上にも十分当てはまると思いますし。そして、他者に寄り添う一念があれば、どんな苦痛であろうが立ち上がれる、と。人間は1人(単体と言うべき状態)では絶対に生きて行けませんからね。

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