第8話 大混乱と決着と3(通常版)
「しまった、通常の服・・・まあいいか。」
「また肌蹴る事変ですか・・・。」
「調整する身にもなって欲しいですよ・・・。」
「まあまあ、そう仰らずに。」
「私達の場合は女性から男性へ変化したので、肌蹴る部分は殆どありませんでしたが。」
ミスTの時は特殊ボディスーツでないと衣服が肌蹴てしまう。通常衣服だと過去にドエライ姿になったため、それらを考案したのだが・・・。まあ今は着替えるには時間が惜しいので、このまま暴れるしかない。
「俺には女性姿は合わないのかも知れないわな。」
「何を今更といった感じだけどねぇ。」
「男性の姿でも女性の姿でも大して変わりませんよ。」
武器を一切使わずに、肉弾戦で相手を圧倒する面々。特に本家とはいかないが、力の出し加減の触りを心得だしてもいる。全て相手の力をカウンターする事で、倍化以上の威力を発揮する事ができるのだ。本当に怖ろしい戦烈の面々である。
「暴れている所申し訳ないが、今の世上はどうなってる?」
「あ・・・すみません。えーと・・・。」
試合を中断し、ノートコンピューターを取り出して様子を見る。どうやら喫茶店はサーバーブースと連動しているようで、その流れをこちらでも窺えるという。
「・・・そう来ましたか。連中は世界中の軍隊を日本に向けだしているようですよ。」
「そこまで腐ったか・・・。」
「その部分は後々断固とした鉄槌を下しますのでご安心を。今は現状打開をしませんと。」
調査中のデュリシラに襲い掛かろうとする兵士を、マデュース改で防ぎ蹴り飛ばすエリシェ。更にラフィナもガトリングガン改で殴り付け、蹴りで吹き飛ばしている。2人ともやり手の大企業連合の総帥だが、コンピューターに関してはド素人そのものだ。デュリシラに全てを委ねるしかない。
「自衛隊の3大戦力はどうされますか?」
「完全に領土内、この場合は島内と言うか。そこに来たら迎撃をと指令してくれ。それ以外からの海上・航空はガンシップ連合艦隊が何とかするとも伝えてくれ。」
「了解、直ぐに伝えます。」
漸く相手は本気を出してきたという事になるか。全世界の戦闘力を日本に向けてくるとは、宣戦布告もいいところだわ。またこれが真の巨悪が指揮しているのも事実だ。本当の世界の良識者方は各国で戦ってくれているのだ。
「・・・超えてはならない一線を超えた、だな。エリシェとラフィナ、後で真の巨悪に加担した私利私欲の連中を全部叩き潰してくれ。」
「大丈夫ですよ。既に該当する輩の目星は付いています。後は実行するのみですし。」
「各国に展開中の大企業連合と躯屡聖堕フリーランスが、諸悪の根源を掴んではいます。ラフィナ様が仰った通り、後は愚行に走った明確な証拠が必要になりますので。」
「分かった。連中は万策尽きた感じだわな。」
試合の最中にコンピューターで調査するデュリシラを守りながら戦う。今まで以上の相手が襲い掛かる手前、気が抜けない状態でもあった。ただそれを物ともしない面々には呆れるしかないが・・・。
喫茶店にはオールスターが出揃っていたが、俺達が動いたのを合図に行動を開始してくれと伝えてある。こちら側に目を向けるため、各戦力は地元から遠く離れた場所に待機していた。その面々が到来しだしたのだ。
大企業連合での選りすぐりの戦闘集団、躯屡聖堕フリーランスでの生粋の戦闘集団。そして警護者界での実働部隊、更には警察群の格闘戦部隊だ。日本を代表する最強の戦烈の面々を召集した形である。
また現状の喫茶店前の路地は狭過ぎるため、最初に襲撃を受けて移動した駐車場の方へと移動を開始。そこで喧嘩大乱闘さながらの戦いを展開しだした。不測の事態に備えて、空中にはレプリカヴァルキュリアが待機してくれている。
更にはミツキが考案したメカドッグ部隊が所狭しと走り回っている。相手側の無人兵器群とは異なり、完全独立の機械生命体型になっているみたいだ。こちらの支援をすれば、相手へタックルや噛み付きによる攻撃も披露している。メカなだけにスタミナはほぼ無限大であり、縦横無尽に走り回る力を得ている感じだ。
何だか完全に逸脱した様相に呆れ返ってくる。それでも今は突き進まねば意味がない。
「・・・馬鹿げてるわ。」
「ハハッ、本当ですよね。最終決戦さながらの戦いを、まさかここで戦う事になるとは。」
「直接出向かなくて良かったと取るべきでしょうね。態々向こうから来てくれますし。」
それぞれの胸中の生命力に呼応したペンダントがフル稼働している。特にバリアとシールドのそれが最大限生かされており、重火器で戦うよりは肉弾戦で戦った方が断然有利になっていた。正にプロレスラーそのものである。
「喫茶店の方は襲撃されてないか?」
「眼中になし状態よ。相手の目的は私達を潰す事でしょうから。」
「問題は偽者共がどのタイミングで出てくるか、ですがね。」
ナセリスとカラセアの戦闘法を初めて見た。俺が携帯している方天画戟の使い手、リョフ氏と同じ時代に生きていたカンウ氏とチョウヒ氏の獲物だ。ナセリスは双矛、カラセアは偃月刀になる。重火器の方は拳銃だったが、今は過去にミツキが使っていた二対の爪銃改を使っていた。
「カンウちゃんとチョウヒちゃんわぅね!」
「本当ですよね。母方の獲物は初めて見ましたが、まさか三国志の英傑方の獲物を使っているとは。」
「しかもマスターの携帯式ではなく、現物の獲物そのものの規模ですし。」
「実際に使うのは今回が初めてですが、デュリシラ様から見せて頂いた作品を応用させて頂いています。」
「マスターも何とかという戦術を使われているようですけど。」
「あー、アレか・・・。」
カラセアとナセリスが獲物のその淵源は、俺と全く同じ流れとなる。ただ実際に使うとなると相当な鍛錬が必要だ。俺も漠然と振っているに過ぎない。ゲーム内での本家となる動きはまず無理だわ。
「しかし・・・メカドッグ部隊・・・。」
「往けぃ! ワンコロ軍団!」
「ハハッ、何とも。ただ無限大の行動力を得ている部分は、実質最強のワンコ軍団とも。地球上でのテクノロジーでは成し得られないものですが、それが言わば特効薬になっているのも見事なものです。」
ミツキを司令塔にして、彼女を含めた他の仲間達に各1人ずつ護衛に回るメカドッグ嬢。基本ロジックが女性とあり、見事なまでの補佐を実現している。仕舞いには護衛者の背中にドッキングし、戦闘を補佐しているのだから驚きだ。
「彼女達も全て終わったら解体する流れか。」
「残念ながら。情報の流出などは極力抑えませんと。一応個別認識から全ての固体のデータを把握しており、未帰還などは一切ないようにはします。内部のチップによる人格の維持が重要な部分ですし。」
「その部分を複製ないしバックアップして持っておけば、何時でも個人でインスコできる流れになるわぅね!」
「ですね。最終的には10体ぐらいに減らしますが、基本ロジックは皆様方にお持ち頂く形になりますね。」
「完全な動くコンピューターと。」
「アイ・ロボットならぬ、アイ・ワンコわぅ!」
「正に愛犬と。」
相変わらずのボケとツッコミに周りの面々は笑い合う。そして驚くのはメカドッグの仕様だ。護衛者の喜怒哀楽を察知するのか、笑いに対しては尻尾を振るのだから見事である。ここまで完成されたロボット機構は見事としか言い様がない。
「・・・彼女達も含めた総意を守り通すのが、俺の使命だわな。」
「生命体故に、ですよね。まあ邪険に扱うのはご法度ですが、メカドッグの主旨は護衛者を身を挺して守る事ですから。基本ロジックさえ失われなければ、何時でも再建が可能です。私もTさんと同じく、犠牲という概念は嫌いです。しかし、彼女達あっての私達ですし。」
「私利私欲での利用でなければ問題ないと思いますよ。それにこのメカドッグ群は人間の心を読むようなロジックも組まれていますし。邪な悪心など直ぐに察知するでしょう。全部見てくれているから大丈夫ですよ。」
隣に座って護衛をするメカドッグ嬢の頭を撫でるデュリシラ。それに尻尾を振って感情を表現する彼女。確かに犠牲という概念は大嫌いだが、それに固執過ぎて俺達が倒れては話にならない。これは過去にナツミYUに痛烈に指摘された部分でもある。
「言わばコアロジックとも言いますか、それさえ無傷なら犠牲とはなりません。メカドッグの筐体は乗せ換え可能な仕様ですからね。コアさえ守れば問題ないと断言します。長年コンピューター関連に携わっている手前、それぞれのコンピューター筐体に乗り替えて来てますし。もしメカドッグさんにそれが当てはまるなら、私は何体のコンピューターを犠牲にしてきた事か。」
「本当にそう思います。根幹となる礎、概念とも言いますか。それさえ受け継がれるなら犠牲にはなりませんね。」
「バージョンアップを繰り返し、最強のメカドッグにパワーアップをするわぅね!」
「アッハッハッ! 本当ですよね。」
「大切なのは何のために使うのか、何のために戦って貰うのか。ここが重要ですよ。」
護衛者の気質にも反応するようで、ミツキ・ナツミA・デュリシラのメカドッグ嬢が今まで以上に奮起しだしている。自分を大切にされている意味合いを感じ取ったとも言える。つまり機械式でありながら、生命哲学の理が根付いているとも言い切れる。
これが4大宇宙種族のテクノロジーの真骨頂とも言える。各種のペンダントの能力も、このメカドッグ嬢も全く同じだ。持ち手の一念に呼応して無限大の力を発揮する事ができるのだ。
悪心を持つ面々には絶対に扱えない代物だ。根本的な部分で差異が生じている。それだけ生命哲学の理は偉大だという現れだわな。スミエが今まで戦い続けて来た部分も、ここに帰結するからこそだろう。
ますます以て膝は折れないわ。総意の一念を胸に秘め、今後も己が生き様を貫いて行く。もはやこれは俺の確固たる執念と信念である。
第8話・4へ続く。




