第4話 超長距離精密射撃3(キャラ名版)
雑談をしながら海岸に到着。対岸には目的地の羽田空港が見える。今も引っ切り無しに飛び立つ航空機に、ニューヨークへ赴いた際の恐怖のフライトが脳裏を過ぎった。
身体が震え出して来るが、俺の手に優しく手を沿えるシルフィア。それに一瞬にして震えが止まるのが何とも言えない。
改めて自己紹介を行う面々。伝説の警護者たるシルフィアの前で、現在進行形の警護者の女性陣は恐る恐るといった形である。ミツキとナツミAは完全に慣れたようで、アッケラカンとしているのが見事であるが・・・。
またここに赴く際、シュームが全員分の弁当を作っていた。それを披露すると、女性陣が大いに湧きだした。しっかり恩師の分まであるのだから見事である。それを摘みだす彼女達。
シルフィア「今も飛行機はダメみたいね。というか高い所はダメか。」
ミスターT「思い出せませんが、その余波だと思いますよ・・・。」
サンドイッチを頬張りながら語る彼女。会心の出来だとシュームにアイコンタクトをする。嬉しそうに微笑む姿を見ると、母親パワーを感じずにはいられない。
シューム「先程も何度かアプローチをしたのですが、恐怖心の方が強いようで全く・・・。」
シルフィア「はぁ・・・君も罪な男よね・・・。」
呆れ顔で見つめてくる恩師に、何だか申し訳なくなってくる。確かにシュームやナツミYUからすれば、それ相応の決意で述べたと思う。それが殆ど無碍にされた事は、俺でも虚しさが否めない。
シルフィア「まあ実際に高所恐怖症なのは事実だから、そこは大目に見てあげて頂戴な。」
シューム「ええ、それはまあ・・・。」
シルフィア「逆に地上で口説き落とせばOKだし。」
シューム「ほほぉ~・・・それは確かに。」
恩師の同性の肩を持つという一面に、呆れるよりも驚くしかない。俺が知る限りでは、この様な姿は初めて見る。それか何度か見ていたとしても、俺自身が忘れてしまったという事か。やはり虚しさは否めないわな・・・。
ナツミYU「ところで、お嬢様。今まではどちらを回られていまして?」
ミスターT「お嬢様ねぇ・・・。」
シルフィア「何よ、実際にそうなんだから仕方がないじゃない。」
ミスターT「はぁ・・・。」
何だろうか。あの堅物で気が抜けないとされている恩師の姿じゃない。というかこの様な姿が当たり前だったのか。う~む・・・。
エリシェ「補足致しますと、国内最大規模となるホテル運営グループ会社の社長令嬢ですよ。」
ミスターT「マジか・・・。」
シルフィア「相当大昔の事よ。何不自由ない世界に嫌気が差して、年齢1桁の時に警護者の道に進み出したけど。」
ミスターT「それで俺が拾われたと・・・。」
この部分は改めて知ったわ。というか俺が恩師に半ば拾われたのは、記憶を失う前の話だ。しかもまだ警護者として至っていない時である。
シルフィア「例の航空機事変では君の大活躍で私達も助かったんだけどね。ナツミYUさんや他の強者の方々もしかり。」
ナツミYU「そうですね。ただそれが原因で、貴方は記憶を失ってしまった。」
シルフィア「私もそうだけど、君には返し切れない恩があるのよ。」
ミスターT「当時の俺が、後を期待して動いたとは思えないのですがね・・・。」
一服しながら語る。強かな野心があっての手助けじゃないのは明白である。ただ自分は当時の記憶は既にない。彼女達が言う当時の自分の行動から伺うしかないのが現状だ。
シルフィア「何を愚問、としか言えないけどね。当時の君は、自分が何とかすると豪語して動いていた。あの瞬間の君は、間違いなく利他の一念で突き動いていた。私達を命懸けで助けようとね。」
ナツミYU「事故直後は貴方以外、誰1人として怪我はない状態でした。見事な緊急着陸技術だと、航空関連に所属する仲間が感心していましたから。」
シルフィア「フライトシミュレーターで培った技術で命を救う、ねぇ。ゲーマーの私でも、とてもできる業物じゃないわね。」
余っていたサンドイッチを全部平らげるシルフィア。それにシュームは驚いているようだ。恩師は見掛けに寄らず大食漢だからな。満足そうに紅茶を啜る姿は、本当に何処にでもいる女性としか思えない。
シルフィア「君の命懸けの戦いと、その後の警護者への道に周りが奮起しだしてね。ナツミYUさんなんか、その後の活躍は目覚ましいものだったわ。伝説の二丁拳銃ガンマンとしての腕前も、その頃からだったからね。」
ナツミYU「恐縮ながら・・・。」
エリシェ「シルフィア様も努力されていらっしゃいましたよね。私達の大企業も何度か妨害工作をされて、その度に貴方様に助けて頂きましたから。」
シルフィア「T君やシュームさん出身の孤児院を守ってくれているんだからね。そのぐらいの恩返しは当たり前よ。」
エリシェ「本当にありがとうございます。」
今もエリシェの大企業連合の出資を受けている孤児院。それでどれだけ助けられているか分からないとの事だ。その報恩に恩師が報いている姿に、俺も貢献できていれば幸いだが。
シルフィア「君のその一念、以後のエリシェさんの依頼を受け持つ事で返しなさいな。」
ミスターT「うぇ・・・心中読むんですか・・・。」
シルフィア「私に隠し事は不可能よ。」
自慢気に語るシルフィアに落胆するしかない。その姿に周りは笑っている。彼女の場合は恩師である手前、頼り甲斐のある妹そのものなのが何とも言えない。シュームやナツミYUとは全く真逆の存在だろう。
シルフィア「・・・さって、残り2時間だけど。そろそろ向かおうかしらね。」
雑談に盛り上がる中、駆け付ける人物に気付いて語り出す恩師。その人物にエリシェが頭を下げだした。どうやら例のキャンピングカーの一件だろう。
エリシェ「後をお願いしても大丈夫です?」
運転手「お任せを。喫茶店の近くに停車しておきます。」
ミスターT「駐禁大丈夫かね・・・。」
ウインド「これを置いておけば大丈夫ですよ。」
何やら資料を手渡すウインド。それと俺が渡した鍵を持って、グローブライナーの元に向かう運転手さん。その中、エリシェが新しい鍵を手渡してくる。
ダークH「ウインドが渡したものですけど、警察庁長官直筆の駐車禁止免罪状です。」
ミスターT「・・・はぁ・・・。」
呆れるしかない。まさか警察庁長官直筆の駐車禁止免罪状とは・・・。確かにウインドとダークHに掛かれば、その手の行使は造作もないだろう。しかしまあ・・・。
シルフィア「力があるなら、最大限使ってこそね。後悔してからでは何もかも遅い。君が命懸けで守ってくれた時が顕著じゃない。」
ミスターT「まあそうなんですがね・・・。」
ミツキ「ここは素直に認めるわぅよ。」
遣る瀬無い雰囲気の俺の背中をバシバシ叩くミツキ。彼女達の言い分は分からなくはない。だが圧倒的な力を前にすれば、誰だってこうなるわな・・・。
シルフィア「では目的地に向かいましょうか。運転はT君に任せるわ。皆さんをしっかりエスコートしてあげなさいな。」
ミスターT「はぁ・・・分かりましたぬ。」
弁当セットを片し終えたシュームを見計らい、一同して駐車場へと戻った。何時の間にか一同と打ち解けているシルフィア。登場時の戦々恐々の雰囲気は何処へやら・・・。まあこの姿こそが本来のものだろうな。
何度も思うが、本当に真女性は強い。周りにいる女性陣の底力は、有無を言わず最強であると言わざろう得ない。その彼女達を支える事こそが、俺の役目なのだろうな。
駐車場に戻ると、見事なキャンピングカーが鎮座していた。内部を窺ったが、この規格なら20人以上は乗れそうな感じだ。現状の面々が窮屈にならなくて済みそうだ。
キャンピングカーと言うだけあり、トイレ・シャワー・キッチン・ベッドと至れり尽せりである。小型発電機も完備している事から、本格派仕様とも言えるわ。
運転は俺が担当、他の女性陣は後ろでワイワイガヤガヤと騒がしい。ここ葛西臨海公園から羽田空港まで1時間以内で到着できる。それまでは満喫して貰うとしよう。
ちなみに車両の後方にトレーラーも牽引している。最大の理由は大盾火器兵器などの兵装を置くためだ。これらも全て先読みして手配したエリシェの采配、見事としか言い様がないわ・・・。
ざっと1時間以内に羽田空港に到着した。当然こちら側は超VIP待遇らしく、別の入り口から進入する事になった。この場所は従来の航空機の離着陸に支障を来たさない所とか。
というか目の前の兵器郡には度肝を抜かれた。ヨーロッパで有名な垂直離着陸可能ジェット戦闘機ハリアーⅡ。詳しい事は分からないが、この護衛任務にウインドとダークHが派遣したという。所属は航空自衛隊との事。
もっと驚いたのが次世代最強ジェット戦闘機F-22ラプターだ。アメリカお抱えの門外不出機体じゃないのか・・・。それが平然とあるのには驚くが、周りからは関与されないといった形みたいだ。更にはF-35ライトニングⅡまでもある。
となると相当強烈な圧力が掛かって、むしろ平然としている感じなのか。とすると、関与しているのは彼女しかいない・・・。
ミツキ「うわぁ~お! ハリアーⅡにラプターとライトニングⅡわぅ~!」
ナツミA「場所問わず離着陸可能なハリアーⅡとライトニングⅡに、現行兵器最強のラプターと。」
ミスターT「う~む・・・俺的にはハリアーⅡの方が武骨で格好いいんだがね・・・。」
目の前の超兵器をマジマジと見させて貰っている。俺も飛行機は大好きだが、どちらかというとレシプロ戦闘機派だ。ジェット戦闘機は邪道としか思えない。確かに後者の方が戦闘力は凄まじいが、機体そのものの格好良さが欠落している。
ミスターT「というか・・・俺がメッチャ気になったのが・・・。」
仲間がハリアーⅡ・ラプター・ライトニングⅡを見入っている中、その奥にさり気なく鎮座しているレシプロ戦闘機が目に入った。というか現存しているのは知っていたのだが、まさかフルレストアが完了していたのには驚いた。
フォッケウルフTa152H。第2次大戦時の旧ドイツ空軍最後のレシプロ戦闘機である。あのレシプロ最強戦闘機で名高いP-51Dマスタング2機の追撃を、軽々と逃げ切ったという最速の機体である。
まあ非武装状態だったから成せた技だろうが、D型仕様のマスタングの追撃を逃れるだけでも驚異的だ。Ta152Hの推定最高速度は760kmとの事だが、本当に見事としか言い様がないわな。
ミスターT「完成していたとはね・・・。」
エリシェ「今度の航空ショーで用いるために、アメリカから運んできました。ついでにラプターにライトニングⅡとハリアーⅡもサンプル程度に。」
ミスターT「発端はお前だったか・・・。」
色々な資料を見ながら語るエリシェ。傍らのラフィナが忙しそうに連絡をしている。次世代戦闘機の方は恩師シルフィアが絡んでいたと思ったが、どうやらどちらもエリシェが絡んでいたようだ。
シルフィア「君はプロペラの方が好きだったよね。ジェット機は絶対嫌だと一点張りで。」
ミスターT「洗練されていませんよ。確かに戦闘力は雲泥の差ですが、それ以前に形そのものが論外の何ものでもありません。」
目の前に迫るTa152Hの姿には惚れ惚れさせられる。すると近場にいたエリシェが搭乗可能だと促してくる。う~む、大企業連合の総帥が成せる技か・・・。
ベストのポケットから手袋を取り出し装着。その出で立ちのままTa152Hの機体を吟味しだした。素手で触ろうものなら、指紋による錆び付きを招きかねない。
本当に素晴らしい出来だ、感動ものとしか言い様がない。憧れているレシプロ戦闘機を間近で拝見でき、更に触れる事ができているのだ。これ程の感動は類を見ない。
整備士さんに手解きを受けて、コクピット内部をマジマジと見つめる。資料などで見た類の知識でしかないが、内部は見事なまでにレストアされていた。これで動かないとなると、兵器詐欺としか言い様がないわ。それだけ見事なフルレストアである。
ただ高所からの恐怖があり、更に過去の事変からコクピット内に入る事ができない。身体が震え出してきており、近場にいたシルフィアに支えられる。
シルフィア「コクピットを見るだけでも厳しいようね。」
ミスターT「あの事変が淵源でしょうね・・・。」
目の前の超高級機とも言えるTa152H。これに乗れるチャンスなのに、身体の方は断固として拒否しているようだ。大観覧車の時よりも酷い。身体がそれ以上の行動を拒んでいる。
ミスターT「すみません、拝見ありがとうございました。」
近場の整備士さんに感謝を述べて機体から離れた。やはり俺は飛行機好きだが乗るのは勘弁なタイプだわ・・・。
エリシェ「これは完全なオリジナルですが、レプリカなら数機製造しています。お望みなら、その中の1機をお譲りできますが?」
ミスターT「何処に置くんだよ・・・。」
とんでもない事を言い出した。どうやら目の前のTa152Hはオリジナルのようだが、これ以外にもレプリカとして製造しているようだ。エリシェがそのうちの1機を提供できると言うのには度肝を抜かれるが・・・。
ミスターT「この手の骨董品は本物を持ってこそ真価を発揮する。正直な所だと、レプリカでは欲望を満たす事はできないよ。」
ミツキ「にゃらばっ! このオリジナルを買うべし!」
ミスターT「無理難題言わんで下さい・・・。」
同じく手袋装備で、怖じずにコクピット内部に座りだすミツキ。その手際の良さに整備士さんは驚いているが、俺と同じく骨董品に対しての姿勢には安堵している様子である。
ナツミYU「飛行機好きなのに、乗るのは好きじゃないというのは何とも。」
ミスターT「コクピット手前で身体が完全に硬直したからね・・・。」
流石のミツキも細心の注意を払って、方向舵やフラップを動かしている。しかしその姿に嫉妬心が出てしまう。やはり自身の身体で操ってみたいものだわ・・・。
ナツミYU「嫉妬心剥き出しですね。」
ミスターT「分かっちまうか・・・。」
シューム「私達が君に嫉妬心を出す感じが分かるわよ。」
ナツミYUとシュームが語る。そうか、彼女達はこんな思いを抱いていたのか。実際にその現状に至らない限り、その人の思いや痛みは理解できない。2人には毎回この思いを抱かせていた訳か・・・。
近場の2人の肩に両手を回し、ソッと胸に引き寄せた。それに驚く両者だが、今の心境から察してくれて大人しくなる。左側にはナツミYUが、右側にはシュームが寄り添う形だ。
シルフィア「そうそう、それでいいのよ。有限実行、勝負は一瞬。思い立ったら吉日、と。」
ミツキ「ありゃ~。それ、わたがTちゃんから聞いた名言わぅよ。」
シルフィア「フフッ、そうね。彼が口癖のように言っているものだからね。」
満足そうにコクピットから降りるミツキ。俺と同じ様に整備士さんに感謝を述べている。ただ手袋装備はそのままで、機体の各所を細心の注意を払って触って回っていた。
シルフィア「実際にその感情に至らない限り、人の痛みなどを理解する事など不可能よ。理解しようとするという一念に立つ事はできるけど、実際に至った人には敵わない。」
ナツミA「マスターは幸せですよ。そうやって心から思ってくれる人がいる。応じるかどうかは貴方次第ですが。私もシルフィアさんと同じ思いです。無様な姿は見せて欲しくない。」
シルフィア「私達の場合は純粋無垢の師弟の理の一念ね。対してナツミYUさんとシュームさんは女性の一念を出している。後は朴念仁の君でも理解できるでしょう?」
ミスターT「そこまで愚かじゃないですよ。」
2人の言葉に感無量な雰囲気のナツミYUとシューム。同性故に思える観点からの示唆は、痛烈に相手の心に響いているようだ。俺の方もその思いに応じねば、強いては生き様自体を否定しかねない。
シルフィア「まあ時間は一杯あるからね。ゆくゆくは2人を労ってあげなさいな。」
ミツキ「2人同時も有りわぅよ? ウッシッシッ♪」
シルフィア「そうねぇ~、その方が手っ取り早いかもねぇ~。」
ミツキの茶化しに同意のシルフィア。それに大赤面のナツミYUとシュームである。2人が何を指し示したかは、流石の俺でも痛いほど分かる・・・。
ナツミYUとシュームの亡くなったご主人。多分、当時はこの思いで過ごしたのだろうな。その集大成がアサミ・アユミ・リュリアという娘達の誕生だ。今はその思いを俺に向けてきてくれている。
何れ心から応じなければ、彼女達を否定しかねない。この場合は要らぬ感情は抜きで、純粋に接する方が正しい選択だろう。
抱き寄せている2人を胸の中へと収めた。それに身体を委ねてくれる。勝負は一瞬、思い立ったら吉日。本当にそう思うわ・・・。
第4話・4へ続く。




