第5話 市街地の共闘5(通常版)
「ウマウマわぅ~♪」
「試合中に休憩はねぇ・・・。」
「ハハッ。まあこの気質がなければ、勝てるものも勝てませんよね。」
それからも襲来者の撃破は続いていた。商店街が凄まじい惨状となっているが、周りへの被害は全く以て皆無である。バリアとシールドの恩恵は計り知れない。そんな中で茶菓子を頬張り寛いでいるミツキに呆れるしかないが。
「前にも言ったが、警察群の独立部隊を作ったのは成功だったね。」
「本当ですね。実際に総力を挙げて対応も可能でしたが、それだと要らぬヤッカミが飛ぶのは目に見えていますし。」
「それに今回の独立部隊は、格闘術を得意としている面々が集っています。言わばこの場が今までの鍛錬を披露する場でも。」
「正に稽古場だわ。」
前の黒服事変でもそうだったが、肉弾戦を演じれる場こそが試合会場そのものになる。格闘術をベースとしている俺達にとって、その瞬間ほど本当に修行になる場はない。つまり相手は大損を繰り返している事になる。
「何度か思ったんだが、各種のRPGのラスボスの位置付けだ。特に“竜の冒険”関連は最終ボスが鎮座していて、配下に主人公達を抹殺するように仕向けていく。しかし実際はそれらを下し、力を付けていくのが流れになっている。完全に大損をしているわ。」
「究極論理の極みな感じですよね。ラスボスが本当に悲願を達成させたいなら、力を付けず弱い状態の主人公達を完全駆逐する事。これが本当の戦略とも言えますし。」
「でもそれだとストーリーが成り立たなくなるのですよね。諸々の壁を乗り越えて成長していく過程、それを見るのがユーザーサイドの醍醐味ですし。」
この考えはストーリーとしては成り立たなくなる。だが本当に主人公サイドを潰したいのなら、序盤から最大戦力で攻めてくるべきだ。しかも世界自体を滅ぼすほどの力で、である。それでも劣勢から優勢に走っていく様は、もう定石中の定石と言えるだろう。
「もぐもぐ・・・“幻想冒険6”の“狂乱魔導士”ちゃんは、最初からラスボスに鎮座してなかったわぅよ。“三つの闘いの神”の力を吸収し、実質的なラスボスに変化したわぅし。」
「元は列記とした魔法使いだったらしいがね。魔石の抽出か何かを自身に施すも、精神的異常を来たしてあの言動になったとも。むしろ“炎の紋章”、特に“聖戦”は・・・。」
「あー、前半の主人公サイドが大凡5人以外皆殺しに合いますよね。途中離脱の“青髪の槍騎士”様は別になりますが、“その主君”様と“主君の妻”様は砂漠で奇襲を受けて戦死されますし。」
「・・・実力で覆したくなってくるわ。」
「何とも。」
警護者として至る前は、諸々の作品を楽しんだ経緯はある。やはり何度も思うのは、理不尽・不条理な展開は覆したいと。しかしこれらは敷かれたレールを走るだけのもので、覆す事は絶対にできない。
「・・・それが淵源、ですか。マスターが死亡という概念を極端に嫌うのは。」
「味方は無論、敵ですら死なせたくない。悪道に走った報いは受けさせるが、それでも誰1人として死なせたくない。それが今の根底概念だ。」
「うむぬ、Tちゃんの超絶的執念は見事に据わっているわぅね。」
「幸いにも今は各種の実力が備わっているしな。俺の目が黒いうちは、誰も死なせたりはしない。この生き様は今後も貫いていく。」
人外たる機械兵士は問答無用で破壊し続けるが、人工生命体たる人間兵士は気絶のみにしている。生命体なら如何なる場合であれ、先ずは手を差し伸べる事から始めたい。その後の流れ次第では超絶的な鉄槌を下す事になるだろうが。
「警護者に成り立ての頃は、全く以て実力が備わっていなかった。不測の事態で死者を出した事もある。あれほど遣る瀬無い瞬間はない。」
「実際には生と死とは表裏一体で紙一重なのですけどね。そもそも利他の一念を出した時点で負ける可能性もあります。自分が銃弾に倒れては話にならない。」
「まあな。俺の生き様は現実逃避とも言えかねない。だが俺はそれを捻じ伏せ続けるわ。そのためのこれらの力だ。昔を苦節として胸中に刻み、それらを糧として今後を貫き続けていく。誰が何と言おうが、俺は俺の生き様を貫き続けてやる。」
この部分になると見境なくなる感じだが、それでも絶対に曲げてはならない生き様だ。それを徹底的に貫いてこそ実証となる。力があるなら使ってこそ意味がある。その淵源はここに帰結してくると確信している。
「ナツミYUの言葉も一理あるけど、それを実力で捻じ伏せられるのなら行うべきよね。それが世上の安寧に繋がるなら悪くはないし。」
「私達大企業連合の力もそこに帰結してきます。力をどの様に使っていくかが重要ですし。まあ根底が据わっているなら、後は恐れず突き進むのみでしょう。」
「力があるのに使わないのは愚か、か。屁理屈に聞こえなくないが、実際に力があるのが現実だからな。警護者の力、経済力の力。全ては世上の安寧の為に、と。」
言うは簡単・行うは難し、だろう。しかし実際に力が備わっているのだ、やってやれない事などはない。その繰り返しが全てに至っていくのだから。ただ、非常に難しい事に変わりはないが。
「Tさんは難しく考え過ぎる場合があります。目の前の課題を1つずつ見据えていかねば、先の大きな誓願に押し潰される怖れもありますよ。千里の道も一歩から、です。」
「そうね。宇宙的に譬喩すれば、地球などの惑星も細かい塵から今の姿に至ったし。」
「おういえい! “発見番組”は“宇宙の仕組み”わぅね!」
「恒星の比率が尋常じゃないのですがね。」
「ワンコの化身たる太陽以上に、デカい獲物は沢山いるわぅよ。」
「獲物ねぇ・・・。」
同番組での比較は、太陽は大相撲での土俵・地球はピンポン球の差である。その太陽ですら、この大宇宙では小さい部類に入る。数億倍以上の規模の恒星も存在しているのだ。
「飛ぶのは嫌いだが、地球外から地球を眺めてみたいわ。人間がどれだけ小さい存在かを思い知りたい。」
「あら、それなら簡単に実現できますよ。ミツキ様方は既に見ていると思われますし。」
「地球もワンコだった、わぅね!」
「地球もワンコ・・・地球はワンコじゃなくて?」
「生命の次元では、地球もワンコも同じ生命の1つわぅよ。」
「小なる宇宙・大なる宇宙、だな。」
見事な解釈だわ。ミツキのボケのワンコも生命体の1つである。俺達が住ませて貰えている地球も1つの生命体だ。生命自体はそこらかしこに存在しているとも言える。微生物から各種動物群に人間、そして惑星や恒星もしかり。
「人として生まれる確率は爪の上の砂。俺達がどれだけ恵まれた存在か痛感させられる。人として何を行い何を残せるのか。課題は山積みだわな。」
「そこも先程ポチが言った通り、難しく考え過ぎですよ。確かに人として生まれた幸運に感謝し、周りへ役に立つ生き様を展開するのが誓願でも。しかしそこに固執して目先が狭くなっては虚しいです。これもポチ縁ですが、楽観主義で突き進んでこそですよ。」
「姉ちゃんは実際に生死の境を彷徨った経験があるので、この部分の理は痛烈なまでに把握していますからね。Tさんが挙げた爪の上の砂という幸運度も、実際に痛感しています。」
「あの戦いはね、正に激闘と死闘そのものだったからね。」
サラッと語るナツミAだが、その激闘と死闘は少しながら俺も見てきた。ミツキや四天王がどれだけナツミAを支え抜いたか計り知れない。今でこそ意気健康だが、一歩間違えばここにいなかった怖れもある。
「生きるとは、難しくも素晴らしいものだわな。」
「そうわぅそうわぅ! 楽観主義でいきませう♪」
「本当に羨ましいというか、心から尊敬致します。その生命哲学の理を実際に体感されていらっしゃいますし。大企業連合や躯屡聖堕フリーランスもその理を誓願としています。しかし諸々の行動、先は長く険しい。」
「やはりミツキ様が仰る通り、一歩一歩進んでいくしか道はありませんね。」
大企業連合の総帥たるエリシェと副総帥たるラフィナは、常にこの理を痛感し続けている。生命哲学の理を根幹に定め、世上の安寧の為に只管突き進んでいるしな。
「ミソは前三後一わぅね!」
「獅子の姿勢よね、三歩進んで一歩下がる。それか三歩前を向き、一歩後ろを向く。これが正しいかな。」
「三歩進んで二歩下がるのではないのね。」
「じ~んせいは~わんつ~ぱんち♪」
「アッハッハッ!」
本当に見事な女傑だわ。姿勢の示しを前三後一と語り、そして俺のボケに見事にツッコミを入れてくれる。そして爆笑するシュームと。持ちつ持たれつ投げ飛ばすの気概が目立つわな。
「まあ何だ、後は進むだけだの。」
「さぁ~ゆく~んだ~そのかお~をあ~げて~♪」
「・・・主題歌作品の派生先に俺を連想するなよ・・・。」
「あらあらまあまあ。」
「私も金髪喪服美女嬢になりたいわねぇ~。」
「この野郎・・・。」
最後の最後でもボケで締め括ってくれた。しかも有名な歌詞を披露して。そしてそのネタが俺に関係性がある事を、周りの面々は改めて知ったようである。感心そうに俺を見つめてくる部分が非常に腹立たしいが・・・。
「ハハッ、まあネタで挙げられるだけ有名ですからね。そして、TさんがTさんである所以も恐らくそこにあると思います。まだ見ぬ父上が命名してくれたと思いますし。」
「まあな・・・。」
「マンガは“妹を溺愛する兄が主人公”作品に、“リボルバーヘッド男が主人公”作品って知ってるわぅか?!」
「・・・傷口に塩を塗る気か・・・。」
「ウッヘッヘッヘッヘッ♪」
またもネタを挙げるミツキ。この挙げた前者作品の主人公の名前と、後者作品の相棒の名前が見事なものだったが・・・。それを知った周りの面々が、更に感心そうに俺を見つめてくる。しかも今度はニヤケ顔だ。これにはマジで腹が立ってくるわ・・・。
「フフッ。皆様方の一念は常に貴方と共に有り、ですよ。決して貶している訳ではなく、それだけ貴方の事を気に入られている証拠です。」
「はぁ・・・ネタでの挙げは勘弁して欲しいわ・・・。」
「そこはナツミAちゃんが言った通り、T君がT君たる所以だから仕方がない事になるわ。むしろ挙げられるだけ凄いと思うけど。」
「妹を溺愛する兄の図式わぅか?!」
「溺愛も何も、俺からすれば一同に心を奪われている感じなんだがな。」
本当にそう思う。性転換を経て女性を経験すればするほど、周りの女性陣の素晴らしさが痛烈に理解させられる。彼女達が女体化した俺に触れると女性化が進むのと同じく、俺の方は心が彼女達一色に染まっていく感じなのだ。
「・・・それは、愛の言葉と受け取ってよろしいので?」
「はぁ、貴方もまだまだ甘いわね。T君が言ったそれは、恋愛感情度外視の純粋無垢の一念なのよ。言わば師弟の理そのもの。ミツキちゃんへの一念が正にそれだけど、最近は私達にも向けられているし。」
「ですね。今も思われましたが、女性化を繰り返す事による師弟の感情かと。この場合は生粋の女性として生まれた私達が、性転換を経て女性を知ったマスターのその一念。」
「女性としては大先輩だからね。女性化を繰り返せば繰り返すほど、その部分を痛感してくる。一同が俺の師匠的存在だと。」
まさか性転換により、周りの女性陣が俺の師匠という部分に帰結するのも見事なものだわ。先輩か後輩か、要はこれで済むだけの話なのだが。そこを師弟の理に結び付けるのは、やはり恩師や周りの強者達に触れてのものだろう。
「膝など折ってなるものか。結局はここに帰結するが、その都度奮起できるなら何でもいい。それが後の行動の起爆剤になるなら、お前さん達には悪いが何だって利用する。全ては世上の安寧という誓願に向けて突き進むために、な。」
「悪い気は全くしませんよ。仰る通り、全てが世上の安寧に帰結するなら上出来でしょう。私達の存在意義もそこに帰結してきますし。そのための大企業連合や諸々の力ですから。力は使ってこそ真価を発揮する、正にその通りです。」
「まだマスターとお会いして日が浅いのですが、何時もこの様な流れなのですか。」
「毎回私達にその疑問を向けられて、共に解決の道を歩み出す。答えは既に定まっているのに、その都度何のためのものなのかを問い質していますし。」
「この繰り返しで、各方面の会話への応対速度が向上しましたよ。皮肉にもそれが経営などに大活躍しているのが見事ですけど。」
「フフッ、本当ですよね。」
エリシェとラフィナには本当に苦労を掛けさせてしまっている。俺の変なクセにより、毎回胸中の疑問や不安を語っていた。その都度解決策を述べてくれるが、毎回必ず回帰するのは何時もの通りである。ただそれが皮肉にも、2人の対人話術のスキル向上に一役買っている。ここ最近の経営者としての姿勢は凄まじいほどに強くなっているしな。
「さっきもTちゃんが言ってたわぅが、敵は本当に大損の繰り返しわぅね。」
「そうねぇ。こうして何度も原点回帰し続ければ、外面より内面が強化され続ける。いや、超強化とも言うかな。人間の最終的な力はメンタル面で左右されるからね。」
「おんどらー! 最大戦力で攻めて来やがれわぅー!」
休憩を終えたミツキが再び暴走し出していた。周りで雑談の合間の護衛をしてくれていた面々と合流、怒れるワンコの如く暴れ出している。それに呆れ顔ながらも同調するナツミA。本当に素晴らしい姉妹である。
「これは市街地の共闘、でしょうかね。」
「いや、市街地大乱闘だと思う。」
「ハハッ、本当ですね。さあ、私達も押し切りましょうか。」
「完全駆逐と参りましょう。」
俺も含め休憩をしていた面々も総出で動き出す。今もまだ機械兵士と人間兵士の襲来は続いている。矢面立って動いているのが、先程目覚めた女傑四天王だが。彼女達は殆ど疲れ知らずの様相で、正にギガンテス一族の様な無限大の機動性である。
その後も大暴れは続いていった。今回は警察郡を表沙汰に出す訳にはいかず、ウインド達の独立部隊のみでの対処となった。よって終始喧嘩大乱闘そのものだ。収拾が付くのか非常に不安だが・・・。まあ安心なのは周りに被害が及んでいない事だろうな。
と言うか、地元の住人の方々が俺達の様子を陰から見守ってくれていた。そう言えば彼らには俺達の戦いは披露した事がない。この戦いはこちらの様相を認知して貰う流れになりそうである。
結局は無明・無知から発せられる偏見などが目立つ。世上の流れも全くその流れである。やはり実際に対話を繰り広げ、様子を披露していくしか道はない。地道な感じだが、それが最短で理解の輪を広げる手段になるだろう。今は足元を固めるには地元から、だな。
尽きる様子がない機械兵士と人間兵士を駆逐しつつ、俺達の戦いは続いていった。
第6話へ続く。




