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覆面の警護者 ~大切な存在を護る者~  作者: バガボンド
第3部・帰結の旅路
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第3話 策士と愚者5(通常版)

 どれぐらい経ったのだろう。ふと意識が戻り目を開けると、そこはレプリカヴァルキュリアの艦内だった。傍らにはシュームが編物をしていた。この情況下でも主婦魂を出す部分は、見事としか言い様がない。


「お、意識が戻ったみたいね。」

「はぁ・・・病室みたいだわ。」

「実際に右肩と右腕を撃たれたし、仕方がないわよ。」


 ゆっくり起き上がると身体を支えてくれる彼女。周りには慌ただしく動き回る面々がいる。その中でダークHが神妙な面持ちで座っていた。その様相と彼女の戦闘スキルを察知し、全てを把握した形になる。


「・・・右肩と右腕への狙撃はダークHだったのか。」

「本当に申し訳ありませんでした。しかし敵を欺くには味方から。この一件はマスターには一切知らせずに進めていましたので。」

「まあそこは気にしないが、お前の狙撃スキルは見事なものだわ。」


 傍に近付き安否を気にする。役割方とはいえ、俺を撃った事に負い目を感じている様子だ。その彼女の手に左手を沿え、優しく叩いてあげた。


「ダークHちゃんの狙撃もそうだけど、実は1つ実験をした事もあるのよ。」

「・・・バリアとシールドを貫通させる力、だな。完成していたとは。」

「あら、気付いていたのね。連中はどう見ていたかは分からないけど、君もあの時は態とバリアとシールドが解かれていたと思っている筈。でも実際はその逆で、超重厚な防御壁を構成していたのよ。」

「俺達の防御壁をバカ父達が察知していたのなら、連中以外の誰かが貫通射撃をしたのを目の当たりにした感じか。」

「そうね。連中が開発途中だったと思うその技術を、ミュセナちゃん達はいち早く開発して実戦投入した。相手はさぞ恐怖に震え上がったでしょうね。」

「マスターが仰られた貫通射撃も、実際のスナイパーライフルによるものです。その瞬間の射撃に貫通属性を持たせたものを、恐縮ながら撃たせて貰った感じで。」

「ダークHの腕もさることながら、超重厚防御壁をも貫通する能力か。敵に開発される前に先に作るミュセナ達も凄いわな。」


 敵に持たせる前に自ら持つ、か。今の核兵器の情勢と非常に似ている。しかしその実体自体が全く異なる。


 バリアやシールド・レールガンなどの兵装は、一切の放射性物質を放たない。そもそも、これらを開発して実装しているのは3大宇宙種族たる宇宙人である。地球人が実際に自らの実力では今だに得られていない。恐らく得る事など不可能だろう。だからあのバカ父達は手を結び、私利私欲を貪り出した訳だ。


 それに3大宇宙種族自体が核兵器を嫌っている。核物質自体を嫌っていると言うだろうか。故に既存の兵装を極限にまで高効率に運用し、最小限の力で繰り出せるようにしたのだ。以前ミュティナがナツミYUのジッポーライターを指し示し、それを増幅・増大化しレールガンのエネルギー源にする事も容易だと語った。母船・大母船・超大母船の動力源も微々たるもので済むだろう。


 そもそも今の人類が3大宇宙種族に勝てる訳がない。格の違いは歴然である。広大な大宇宙を流浪の旅路を繰り返し、ありとあらゆるものを見つめてきた純粋な宇宙種族だ。地球人の一部の愚者共が考えるような宇宙人の様相とは雲泥の差である。愚の骨頂極まりない。


 先見性ある目を持ったスミエは、それらを先読みして草創期に活躍したのが目に浮かぶわ。たった1人で3大宇宙種族の永住権を獲得するために奔走し続けていた。説得を繰り返し、地球種族に認めて貰えるように努力した結果が今である。


 ガードラント王も防衛庁長官も、所詮は私利私欲に溺れた愚者だという事だな。ただ1つ、非常に気になる事が何度も脳裏を過ぎるが・・・。




 今現在は東京湾で停泊中のレプリカヴァルキュリア。ドクターTに扮しているシルフィアが連中の内部に潜入しているとの事だ。向こうに全てが集中しているからか、こちらへの攻撃などはなくなったという。ここは恩師の手腕を大いに期待するしかない。


「俺が倒れてから、どのぐらい経過したんだ?」

「丁度1週間ね。ビアリナちゃんが君を態と仮死状態にさせて、相手へミスターT自身の死亡を流したのよ。レプリカヴァルキュリアが動かない理由も正にそれね。」

「つまり動かす理由がない、と言う事か。」


 何ともまあ・・・。あの襲撃から1週間が経過しているようで、その間に俺を仮死状態にさせて死亡を演出させたのだという。大胆な事をするものだ。まあその分、相手にとっては強烈な誘惑をぶちまけられている事になるだろうが。


「今は横槍から買収云々の流れになっています。マスターが死亡されたという事で、実質の大企業連合・躯屡聖堕フリーランス・トライアングルガンナー・警護者軍団を取り仕切る人物が不在。乗っ取りを狙うには都合が良いでしょう。」

「ふむ。だが実際にはエリシェとラフィナが実権を握って・・・って、そうか。以前俺を経済界のドンと仕立て上げたのはこれなのか。」

「そうね。エリシェちゃんとラフィナちゃんはオブザーバーに下がったと誤認してるわ。実質は君が取り仕切っていると勘違いしているし。」


 なるほど、そういう裏があったのか。以前デュリシラが俺を経済界のドンに仕立て上げたと言っていた。それは大企業連合・躯屡聖堕フリーランス・トライアングルガンナー・警護者軍団を取り仕切るボス的な存在にしていたのだ。だからこの流れに至ったのだろう。



「あ、お目覚めになられました?」

「俺が知らぬ合間にまあ・・・。」


 艦橋に向かうと、身内のヘッド群が大勢いた。俺に気付くと直ぐに安否を気に掛けてくる。この1週間気が気じゃなかっただろう。すまない事をしたわ・・・。


「ハハッ、まあそう仰らずに。ダークH様も仰っていたと思いますよ。敵を欺くには味方から、と。」

「ダークH自身は実行に相当抵抗していましたけどね。」

「面目ないです・・・。」


 やはり俺を狙撃した事に負い目を感じているダークH。しかしその演出があったればこそ、今の流れを構築しているのだ。苦役でも誰かが担わなければならない時がある。それを彼女を通して再度思い知らされた。


「大凡の流れはシュームとダークHから伺ったが、その他の流れはどうなんだ?」

「大企業連合・躯屡聖堕フリーランス・トライアングルガンナー・警護者軍団に所属する方々以外、見事なまでに騙されていますよ。誰もがヘッドたるミスターTの死亡を信じ込んでいるようで。」

「そこに各国からの買収云々・提携云々と。まあ買収できるぐらいの資金があるかどうか気になりますがね。」

「世界の全資産を掻き集めても、大企業連合の1000分の1ぐらいにしかならないと以前言ってたしな。逆に買収されるのが目に見ているわ。」


 地球上で最大最強の経済力を持つ大企業連合。地球全体を賄えるほどの資金や資源を持つとの事だ。買収する事は絶対に不可能である。逆に買収され解体されるのがオチだ。


「過去に世上を混沌とさせた企業を大企業連合が買収し、実質解体して消したという事例もあったな。」

「あー、あの事変ですか。むしろ当時の方が企業間抗争が激化していた頃なので、止むに止まれぬ苦肉の策でしたけど。」

「その程度で済んだ当時は本当に良かったわ。」


 企業関連の話だと、エリシェやラフィナの専売特許である。しかも彼女達が警護者になる前の流れだ。俺も彼女達とは出会っていないため、当時の事は分からない。だが大企業連合の話は何度か聞いている。警護者軍団も大企業連合からの出資がなければ成り立たないしな。


「まあともあれ、後は恩師次第か。それと1つ気になった事があるんだが。」

「フフッ、胸中がダダ洩れですよ。ティエラ様とエシェムL様のお父上の事ですね。」

「流石だわ。シュームやお前ほどじゃないが、以前の対話時の様子から気になってね。もしかしたらニセモノが演じているかも知れない。」

「私は流石にヘシュナちゃんほどの心眼読みは無理よ。」

「まあねぇ。」


 流石のシュームもヘシュナの前では赤子当然だろう。身内では初対面でも内情を察知する術を身に着けているシューム。他の面々でも同じ力を持つ者はいるが、彼女ほど強くはない。その彼女をしてもヘシュナは逸脱していると豪語していた。


 以前の話だと、ウインドとダークHの脳内を読み取ったヘシュア。その知識などを自らのスキルとするのだ。言わばコピー能力そのものである。同族のヘシュナも同じ力を持っているようだが、恐らく姉の力の方が遥かに強い。


 更には善心に回帰する事で、初対面の時以上の力を醸し出している。今のヘシュナは妹のヘシュアを超えているだろうな。いや、下手をしたら足元にも及ばないだろう。本当に凄い女傑である。


「お褒めのお言葉恐縮です。」

「はぁ・・・何から何まで筒抜けか。」

「私も大凡は分かるわよ。まあ今は置いておいて、続けて頂戴な。」

「了解です。先程マスターが思われたのは、十中八九間違いないと思います。あの小僧があそこまで肝っ玉が据わっているとは到底思えませんし。」

「ティエラやエシェムLの気質から、本当は超が付くほど優しい父親だろうな。」


 父親の性格が娘に似ているというのは希ではある。しかしあそこまで悪を徹底的に憎む姿勢を踏まえると、その力は父親譲りだろうな。母親は分からないが、今は父親を何とかするのが先決である。


「ただ気になるのが、何時何処で拉致されてすり替えられたかなんですが。」

「ティエラ様とエシェムL様の様相から、長い間その愚者道を進んでいたようですし。」

「ですね。またそれができるのも、恐らく私達の力・・・まさか。」

「カルダオス一族の誰か、という事か。でもお前やヘシュア、それに同士の面々の気質を見れば考え難い。だがクリソツに動くとなると、以前ウインドとダークHの能力を自身の力にしたアレしか考えられない。」

「あー、あの時ですか。」

「触れて直ぐに知識などを得るのは、カルダオスの方々しかできなさそうですし。」


 恐らく、カルダオス一族の相手の知識などをコピーする能力。これは全員が全員できる力ではないかも知れない。ヘシュアとヘシュナが一族の中で逸脱した力を持っている故に、あの流れを出せるのだろう。となればカルダオス一族が絡んでいるとは思えない。


(ミュセナとルビナに質問があるんだが。)

(にゃにゃ?! ミスターTが復活したわぅー!)

(おー、ご無事のようですね。)


 ミュセナとルビナに念話で語り掛けると、遠方のミツキとナツミAが即座に反応してきた。どうやらこちらに意識を傾けていたようである。本当に有難い女傑だわ。


(仮死状態の作戦は功を奏した形ですか?)

(まだ完全には現れていないが、それらを知らない連中には死亡したと思うだろう。見事なシナリオだよ。)

(全部ポチの発案ですよ。私も少し修正を加えましたが。それに実案に仕立て上げたのはデュリシラさんです。)

(それでもミツキ様とナツミA様のシナリオ作成には恐れ入りますよ。私には考え付かないものでしたし。)

(敵を知り・己を知り・全てを知る、です。敵を欺くには味方から、ダークHさんの実演が正にそれですよ。まあTさんを傷付けた部分は謝罪しますが・・・。)

(本当にすみません・・・。)

(はぁ、気にするなって。)


 今回のシナリオの発案が彼女達とあり、実行者のダークHと共にエラい重い雰囲気である。確かに役割方での狙撃で俺を傷付けた事には変わりはない。だがそれは世上の安寧の礎にもなる行動だ。そのための名誉の負傷とも言える。


(ともあれ、ちょっと気になった事があってね。ヘシュナ達の能力は、カルダオス一族以外にも出せる人物はいるかと。)

(真似る事はある程度はできますが、ヘシュナ様方の様な完全無欠とはいきません。それにその力は全ての生物にも備わっている、演じようという力にもなりますし。)

(マスターが懸念される部分を踏まえると、恐らく考えられないとは思います。)

(ふむ・・・該当はなし、か・・・。)


 ミュセナとルビナをしても不明となると、やはりカルダオス一族のテクノロジーが出ているとしか思えない。でもそこまで卓越的に繰り出せ、更に演じる事ができるのだろうか。当の本人達ですら不明な部分が多過ぎる。


(以前の南極事変や、その前の流れで提供したとは考えられる?)

(自分が知る限りでは一切ありません。むしろミュセナ様もルビナ様も仰っていましたが、善悪判断の理が絶対に阻害してきますので。私でさえ当時はバリアやシールドの恩恵を得られませんでしたし。)

(あの2人が本人じゃないのは分かるが、かといって誰かが演じるには荷が重過ぎる。となると・・・直接本人が洗脳されて動いている、これしかなくなるか。)


 こうなると結論は1つしか出ない。コピーキャット的能力を出せないのなら、直接本人を操るしかなくなってくる。しかし長い間その能力を維持させるのは、相当な力がいるだろうな。ここにも非常に謎が出てくる。


(ティエラちゃんとエシェムLちゃんは、お父さんに変な違和感はあったわぅ?)

(あの気質からして、全く本人そのものだったと思います。ただ、言動がおかしいという部分はありましたが。)

(皆様方が考えられるように、誰かが入れ替わっているとは思えません。ミスターT様が思われるように、操られていると思います。)

(以前の貴方達の怒りも、肉親だから出るものだったわね。コピーキャットなら違和感があり出せない部分もある。Tさんが思った通り、やはり本人が操られているとしか考えられませんよ。)

(う~む・・・。)


 こうなるとむしろ怖いわ。肉親の異変に気付かせないぐらいに、徐々に変貌させていったという事になる。しかし誰かが演じている訳でもなく、当の本人が様変わりして愚行に走っているとも考えられない。


(八方塞がり、か。後は恩師の動向を見守るしかなさそうだわ。)

(Tちゃんは暫くは動けなさそうわぅね。)

(右腕側はね。ただ、動けないという事はないが・・・。)


 俺の言葉にヘシュナがニヤリと笑みを浮かべる。ここは少し強引な形に出てみるとするか。それに連中は再び横槍を入れて来るに違いない。ヘッドが不在な現状、乗っ取りを画策するには今がチャンスである。


 しかし、本当に複雑過ぎる状況だわ。3大宇宙種族のテクノロジーを以てしても、バカ父達の言動が読めずにいる。当の本人達の本当の愚行とは考えられず、かといって誰かが演じているとも思えない。


 だが必ず突破口はある。この世に完全無欠という存在は絶対にない。何かしらの欠点が存在するのだ。そこを突き止められれば、一気に変化していくだろう。


 暗中模索が続くが、今は静かに進むしかない。


    第4話へ続く。

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