第3話 策士と愚者1(通常版)
ガードラント王と防衛庁長官が実質結託し、世界各国との技術提携を結ぶ愚行に出始めた。3大宇宙種族としては驚異的なもので、彼らの関心も引く事にも至った。下手をすれば宇宙人と地球人との全面戦争になりかねない。
特に怖ろしいのが、エリシェやラフィナも危惧していたバリア・シールド貫通兵器である。地球人側の兵装からすれば、元からバリアやシールドはなかったものと取れる。しかし3大宇宙種族からしてみれば、それは死活問題になりかねない。宇宙空間ではバリアとシールドがなければ非常に危険である。
ミュセナ・ルビナ・ヘシュアが新たな技術開発に取り掛かっているが、そこに至るまでは時間が掛かるだろう。その間に愚行に走る連中が暴走しかねない。
そこで究極の一手を相手にぶつける事にした。発案はデュリシラ・ミツキ・ナツミAの3人からのシナリオだ。手順は実に簡単、エリシェ・ラフィナ・ミュティナを態と拉致するのだ。その役割を“ミスターTという役”を担う俺が行い、“ドクターTという役”の俺が裏切り全権を仕切るというものである。
更に拉致する瞬間は、対話を望もうと動き出した矢先を狙うのだ。エリシェ・ラフィナ・ミュティナが現地に赴こうという時に、ミスターTとドクターTが3人を拉致る流れという。そしてドクターTがミスターTを裏切る流れまで作るのだという。
俺は1人しかいないから無理だと述べたが、ホログラムとヘシュナの人体操作を行えば容易との事だ。ここは彼女の実力に託すしかない。
そして全権、この場合は大企業連合・躯屡聖堕フリーランス・トライアングルガンナー・警護者世界を得たドクターTとなる。その彼が愚行に走る連中にアポを取るか、向こうから歩み寄るのを待つという流れだという。これが前半のシナリオである。
後半は目に見えた結果になるだろう。相手にトコトンこちらを信用させ、そこを寝返るというものだ。裏切りではなく寝返りである。まあ内容は同じなのだが。その後の進攻は全て身内に任せてある。
とりあえず、今の俺はドクターTを演じ切るだけだ。ただ今回は仮面の帝王たるヘシュナがいてくれる。過去に悪役を演じ切っただけに、その手腕を大いに期待するしかない。
一歩間違えば全面戦争になりかねない現状。俺達の役割は否が応にも重要になってきたわ。烏滸がましい感じだが、それが俺達の使命なら徹底的に演じ切ってやる。それが俺の明確な生き様である。
「ふん、他愛のない。地球人と宇宙人は哀れなものだな。」
身辺警護の面々を撚り倒し、エリシェ・ラフィナ・ミュティナを捕縛する。仮面の帝王たるヘシュナが意図も簡単にそれを行うが、周りの面々は殆ど芝居である。しかしリアリティを出すために、かなり本気で周りの面々と戦ったのだが。怪我をしていなければ良いが・・・。
「如何致しますか?」
「そんなに地獄を見たいなら見せてやる。この3人を人質にする。殺されたくなければ、大企業連合・躯屡聖堕・トラガン・警護者の全権を明け渡すんだな。まあ小娘達の生命で地球最強とされる勢力が屈するとは思わんが。その時は3人の首と大量の血を曝してやる。」
態とらしく携帯イルカルラをエリシェ・ラフィナ・ミュティナに向けた。そのギラリとした刃に3人は恐れ慄くが、これも全て芝居である。
本当なら仲間のミスターTを裏切る形を演出する筈だった。しかし本家の方はそれほど顔を知られていないのと、ドクターTが悪としての影響があったために1つに絞ったのだ。それにガードラント王と防衛庁長官は俺の事を知っている。その俺が愚行に出た事をどう思うか、ある意味見物だわ。
その2人との交渉に赴こうとしていたエリシェ・ラフィナ・ミュティナを襲撃し捕縛。今の流れに至る訳である。しかもこれ、日本国内にライブ中継をしている。当然それは国外にも流されるとあるため、相当な事変へと変化するだろう。
縛り上げたエリシェ・ラフィナ・ミュティナをレプリカブリュンヒルデに乗せ、そのままその場を去っていく。途中でミュセナに転送装置で探索不能な北極に飛ばすようにも伝えた。エリシェ達が3大宇宙種族と共闘している故に、その技術力を俺が掌握した形としたのだ。
よくぞまあ考え付いたものだわ。全てミツキとナツミAの発案に、デュリシラが再構成したシナリオである。自身が敵であったらどう動くのか、という部分を考えてのものである。本当に彼らを敵には回したくないものだわ・・・。
(お疲れ様でした。)
(不貞寝したいわ・・・。)
(ハハッ、まあそう仰らずに。)
レプリカブリュンヒルデが転送装置で飛んだ先が北極と、流石の連中も思わなかった様子。艦内で世界情勢を見るが、何処も大企業連合の総帥達と秘書が拉致された事で盛り上がっていた。どうやら秘書という部分はミュティナの事のようである。
(今じゃ本当に秘書役だしの。)
(これは母の方が一番合うのですがね。)
秘書という位置付けに顔を顰める彼女。姉のミュティラと妹のミュティヌは、今も四天王と共に獲物の製造を行っている。自由奔放に近い2人を羨ましがるが、それでも己の使命を全うする部分には素直に頭を下げたい。
(さて・・・問題はここからどうなるか、だが。)
(連中の方からアポを取ってくれば、しめたものなのですが。)
(通信手段は通常のものですかね。こちらに連絡を入れて来るのは、今の地球人には非常に厳しいと思いますし。)
重役の拉致事変は一応成功はした。しかし次のステップが読めずにいる。まあ独裁主義に近い役割を演じている俺なら、連中から必ず連絡がある。大企業連合・躯屡聖堕フリーランス・トライアングルガンナー・警護者群・3大宇宙種族を手中に収めた形に至っているのだから。ノドから手が出るほど欲していた力が、自分達に近い属性の男に掌握されているのだ。アポを取らないのは大損である。
(そちらの状況はどうだ?)
(こちらですか? 至って普通な感じですよ。仲間内や同志内ではニヤニヤしながら、今後の動向を注視していますけど。)
(はぁ・・・今後の良いネタにされそうだわ・・・。)
デュリシラからの連絡から全てが把握できだした。意思の疎通たる念話は、使い手の力で大きく化ける通信手段である。今では彼女や相手とシンクロし、その様相が手に取るように分かるのだ。
(1つだけ気になるのは、連中がアポの代理人でミスターTを召集するという部分よ。)
(あー、確かにありますね。デュリシラさんが半年間植え付けられた先入観からだと、エリシェさん達に匹敵する力を持つ経済界のドンという位置付けもありますし。)
(何なんだそれ・・・。)
恐怖の暴君としての君臨は分かる。実際に半年間、俺はその役を担ってきた。同時にその間、デュリシラが俺自身を固定化させるために奔走していた。別の意味での恐怖の暴君である。それ以外にも経済界のドンとは・・・。何か半分面白がってやられている感じがするわ。
(あら、その面白半分での行動もありますけど?)
(人をどんな目で見てやがるんだ・・・。)
(こーんな目で見てやるわぅ!)
念話を通してミツキの変顔がドアップで描写された。それに驚愕するも大爆笑してしまう。それは俺を媒体として他の全員にも伝わっているため、同じく大爆笑していた。
(アッハッハッ! 何ともまあ・・・。それより、そちらは元気そうね。)
(おういえい、順調わぅよ。ティエラちゃんにエシェムLちゃんは、デュリシラちゃんみたいなゲーマー魂から発展した実力を持っていたわぅ。)
(お2人とも飲み込みが非常に早く、既にトラガンの女性陣と互角に近いですよ。)
(本当に女性は強いわな・・・。)
ミツキとナツミAを通して、現地の様相が脳裏に映し出される。場所は国内だとは思うが、人里離れた場所での修行のようである。
(この念話というのは伺っていましたが、実際に行うと本当に凄いものですね・・・。)
(しかもリアルタイムで通信可能と。この様な通信手段や技術力があれば、確かに父達がバカな真似をし出しますよ。)
(自分の父親をまあ・・・。)
(実際にそうですから。)
(呆れ返りますよ本当に。)
自分達の父親を批難するティエラとエシェムL。それに呆れるが、事実だとエラい気迫で反論してくる。確かにそうだが、ここまで徹底して言い切るのは見事なものである。
(2人とも正しい事は正しいとし、悪い事は悪いと言い切るみたいわぅよ。)
(エリシェさん達と同じく、主眼は世界の安寧を求めているからね。)
(何だ、あの護衛の最中は全く感情を出さなかったのに。)
2人の護衛を請け負った時は、まるで感情が無いかのような様相だった。しかしそれは仮の姿で、実際はエリシェ達に匹敵する熱血漢のようである。ここまで肉親を戒める姿は見事と言うしかない。まあもし俺も同じ立場なら、問答無用で同じ事をしたであろうが。
第3話・2へ続く。




