第10話 直接対決5(通常版)
「アハハッ、まあ先輩ばかりに押し付けるのは良くないですから。私もケアをしますよ。それにマスターの言わば地肌を直接触れられるのは幸せですし。」
「へぇ・・・それは聞き捨てなりませんね・・・。」
「本当ですよね・・・。」
ナツミYUの言葉に殺気に満ちた目線で俺を睨む女性陣。この場合は言い出した彼女に向けられるべきなのだが・・・。まあ毎度ながらの戒めの一撃は強烈過ぎるわ。
「はぁ・・・やっぱミスTの方が気が楽だわ。」
「勘弁して下さい。これ以上不出来な姉と接したら、私達がより一層女性化しますよ。」
「アッハッハッ! 見事な揶揄よね。確かに君の性転換状態で私達が接していたら、君が女性を知る以前に私達がより女性らしくなっていくし。」
「本当ですよね。」
「まあ確かにな。」
ウインドの揶揄は確かに当てはまっている。不思議な事に性転換時の俺に関わった女性陣は、例外問わず美女に変化しているのだ。それがペンダント効果かは分からないが、周りへ影響を及ぼすのは間違いない。南極事変に至る前までの長い間で、周りの女性陣は超が付くほどの美女に変貌していた。
「これもペンダント効果が外部に漏れ出したと言うべきか?」
「分かりません。あそこまで長時間性転換をされた方は貴方が初めてですし。それなりの副作用がご自身にも周りにも出たと思われます。」
「Tちゃんを使って、わた達もアップグレードを続けるわぅね!」
「貴方の場合は美しさよりもやんちゃ度が増している感じだけど。」
「わたの力を見縊っては困るわぅ。」
姉妹の揶揄で周りは笑う。確かにミツキは美しさよりもやんちゃ度の方が遥かに強い。彼女の方が男性に近いと言える。それはナツミAもしかり。またシルフィアもスミエも、どちらかと言うと男性の方が合いそうな気がする。
「まあ色々な手を使ってでも、己が生き様は貫き続けるわな。それに周りにはこれだけ強者がいる、恐れる事など全くない。」
「四天王やエリミナさん・トーマスMさんを除けば、マスターだけが男性ですし。」
「この場だとTちゃんだけが野郎わぅね! ウッシッシッ♪」
「・・・マジでペンダント効果使うぞ。」
姉妹のニヤケ顔での茶化しに、周りの女性陣から殺気に満ちた目線で睨まれる。と同時にペンダント効果で性転換すると言い返すと、即座に止めに入られるのも何とも言えないわ。案外、俺にも良い反撃できる要因ができたのかも知れない。まあ俺自身もどちらかと言うと、性転換時の方が楽ができるが・・・何とも。
「まあ何だ、俺にできる事を続けるのみだ。まだまだ完全に終わってはいない。最後の最後まで戦い抜かねばな。」
「大丈夫ですよ、皆さんいらっしゃいますし。それに異常者たる存在はごく僅か。地球人の全部がそうではありません。力を持てぬ故に虐げられている方々もいます。エリシェさんが気概の一念で、それら愚物を蹴散らしてやりますよ。」
「心から同意致します。私達の力を使い切ってでも、世上の安寧を勝ち取っていかねば意味がありません。そのための力です。私達の力を見縊って貰っては困りますよ。」
「うむぬ、ワンコパワー炸裂わぅ!」
ミツキとエリシェの言葉に周りの面々が力強く頷いている。警護者としての存在が、今では調停者や裁定者に至っていた。何度も思うが実に烏滸がましい感じだ。しかし、誰かが担わなければならない。それが偶々俺達だったという事だ。ならば後は突き進むのみである。
それぞれが新たな決意を胸にしている最中、静かに傍らへと進み出るヘシュナ。俺の右手を両手で優しく掴み、そのまま胸へと抱き寄せたのだ。その行動に周りの面々は驚いている。
「・・・本当に申し訳ありませんでした。貴方がそこまで強き執念と信念を抱き、動いていたとは思いもしませんでした。貴方は我が身を省みず、全生命を支えるべく動かれていた。それに、妹達をも支えてくれていました。それなのに私は・・・。」
「気にする事はないよ。もしヘシュナが行動してくれなければ、黒服連中や軍服連中を1つに纏められなかった。南極事変が最もたるものだ。終わり良ければ全て良し、よ。だから気にするな。」
俺の言葉に涙を流しながら頷く彼女。悪役を演じていた時は感じなかったのだろうが、全て終わった後には罪悪感が現れだしたのだろう。これが彼女の本当の姿だと痛感できる。妹のヘシュアが心から敬愛する意味合いを改めて理解できた。
「強い優しさを持つ故に、悪役を演じなければならない時がある。むしろその優しさがあるからこそ、悪役を演じるべきとも。ヘシュナさんが思われた一念がご自身を突き動かし、それこそ我が身を省みずに悪党三昧を結束させていた。」
「そうね。連中は殆ど烏合の衆だけど、それを1つに纏められたのはヘシュナさんの手腕になりますね。並大抵の一念で担えるものではありません。むしろ貴方がTさんと敵対する姿を見せた部分に、連中は付け入る隙を見つけてしまった。ヘシュナさんが見事なまでのエサを撒き、それに吸い寄せられたと言っても良いでしょうね。」
「引っ掛かった時点で負けが決定していたと言えますよ。」
ミツキとナツミAが締めの言葉を語る。過去にスミエが言っていたわ。ヘシュナこそがこの戦いのキーパーソンになるのだと。それをあの当時、既に見抜いていた部分には感嘆せざろう得ない。
「しかしまだ戦いは終わりじゃない。連中の様な奴等が数多く蔓延っている。そいつらを全て駆逐するまで、警護者の戦いは続くわな。」
「劣勢わぅか?! ふんっ、わた達がいれば負けんわぅ! やったるわぅー!」
「ますます以て頑張らねばね。」
毎度ながらの遠回りな思い返しも、全て根底の一念へと回帰する。むしろこの繰り返しをしておかねば、直ぐに道を見失いかねない。そして極め付けは戒めてくれる存在だな。これが欠落してしまうと、黒服連中や軍服連中の様な輩を出してしまう。やはり師匠の存在は偉大だわ。
この繰り返しが生きるという事になるのだろう。そしてそれは己の生き様と至っていく。自然とその道に至っていけるのは、本当に素晴らしい事だ。まだまだ膝は折れんわな。
それぞれが決意を新たにしていると、入店してくる人物がいた。そちらを向くと驚愕した。黒服と軍服の人物が数名入ってきたのだ。一気に店内は殺気立ち、臨戦態勢へと移っていく。すると黒服の1人が懐から何やら取り出した。それを見たミュセナが驚いた表情をしている。
「携帯原子炉の技術も流出していたとはねぇ。」
「と言うか、ここも人気になったものですよね。親玉が直接訪れるというのは。」
ミュセナの言葉に今度は相手の方が驚愕している。どうやらこちらがその技術力を知らないと踏んだ形で見せ付けたのだろう。
「それで、どの様なご用でこちらにいらしたのでしょうかね?」
「先刻は同胞が捕まったそうだな。それに秘密基地も奪われてしまった。ここへは直接侵攻し、リーダーとなる人物と直接交渉に来た。」
「で、その手に持つ一手を人質にという事ですね。」
「そう言う事だ。下手な真似をすれば周辺一体が火の海と化すぞ。」
黒服連中と軍服連中の最終手段を聞いて、一同して溜め息を付いてしまった。その絶対悪たる一手が俺達に通用すると思っている時点で、相手が3大宇宙種族のテクノロジーの恩恵を得ていない何よりの証拠になる。
「・・・で、お前達の目的は何なんだ?」
「簡単な話だ。超絶的な力を持つ女のリーダーがいると聞いた。その人物に我々の要求を受け入れて貰う。その人物がここにいるとの事だ。出して貰おうか。」
黒服の言葉に女性陣の視線が痛い。それは性転換をしていた俺自身だ。何処でどう情報が漏れたか知らないが、連中には相当強烈な印象を与えたようである。ここは1つ芝居を打ってみるか。
「生憎だが、妹はお前達と対峙して嫌気が差したと言って出ていった。何処に行ったかは全く分からん。まあ仮に居たとしても、お前達の要求を受け入れる事は絶対にない。」
「馬鹿な事を、こちらには究極の一手があるのだ。素直に要求を受け入れねば、自身の身勝手さで世界に災いをもたらす事になる。」
「身勝手ねぇ・・・私利私欲に溺れたカスどもが言う台詞じゃないわな。それに真実を見抜けないお前達には、俺達全ての総意は理解できんよ。」
「能書きはいい、その女を連れて来い。我々が最終手段に出る前にな!」
「はぁ・・・分かりましたぬ。」
俺の最後の一言で周りの女性陣は小さく沸き上がっている。滅多に見れない姿なだけに、直接見れるのは光栄な感じなのだろうか。何ともまあ・・・。
ゆっくりと席から立ち上がり、黒服連中と軍服連中の前で性転換ペンダントを起動させる。ものの数秒で野郎から女性へと変化していく様に、当然ながら相手はこの世のものではないものを見ているかのように驚愕していた。
「な・・なんだと・・・。」
「はい、お望みの妹の登場っと。まあ俺自身だがな。」
「貴様が諸悪の根源だったのか・・・。」
「だから言っただろう、要求を受けれる事はないと。それに俺達には必殺の絶対悪の無力化も可能でね。」
俺がそう語ると、ミュセナ・ルビナ・ヘシュナがそれぞれ相手に手をかざす。核兵器自体の無力化はミュセナが担い、ルビナの超能力が不測の事態に備えて喫茶店自体を完全封鎖する。そして極め付けはヘシュナの精神操作だ。それは相手を操るという事ではなく、自分の意思に反して身体を動かなくさせる事もできるという。
「き・・貴様ら・・・。」
「か・・身体が動かん・・・。」
「悪いが、俺達は南極事変から一切の情けを切った。特に貴様等の様なカスは絶対に容赦はしない。たった1つの小さな火種が、地球全体を火の海と化してしまう。それが何れ宇宙全体にまで拡散していく。」
動けず仕舞いの軍服黒服連中を尻目に、徐に一服しながら語り続ける。他の面々は暴れたくてウズウズしているが、俺に全て委ねてくれているようだ。
「俺は3大宇宙種族の名代で動いていてね、汚れ役は全部一手に引き受けている。貴様等が何人・何十人・何百人出てこようが、徹底抗戦を続ける。無論、死ぬまで永久にな。」
「という事です。飛んで火に入る夏の虫、とは正にこの事でしたね。」
更に手をかざし、連中の意識を奪うヘシュナ。その場に倒れ込む面々に驚くが、死んではなさそうだ。
「大丈夫ですよ、気絶させただけですので。まあ恐怖を植え付けて気絶させた方が良かったかも知れません。ですが今はこの程度で済ませましょう。後の記憶操作などはミュセナ様とルビナ様にお任せ致します。」
「任せて。二度と悪さをしないようにしないとね。」
「調停者と裁定者を演じるからには、情け容赦無用ですよ。」
言葉が怖すぎるが、それでも3大宇宙種族たる3人の力には脱帽するしかない。意図も簡単に記憶操作ができるのは怖ろしいものだ。しかしそれが宇宙全体の安寧に繋がるなら、汚れ役を徹底的に演じる必要がある。
「・・・一歩間違えば、俺もコイツ等と同じ流れになっちまうわな。」
「ご心配には及びません。私達がいる限り、間違った道には絶対に進ませませんから。」
「はぁ・・・何時ぞやはルビナちゃんが言ってた台詞を、今やヘシュナちゃんが代弁している感じよねぇ。」
「ヘシュアさんが仰った通り、見事なまでに覚醒された感じです。」
南極事変以後から劇的変革に至ったヘシュナ。特に先程涙ながらに胸中を訴えた時から、完全に変革していた。押し殺していたお淑やかさの部分が前面に出ていると同時に、他の2大宇宙種族のリーダーにはない迅速な行動力が備わっている。ミュセナとルビナも力を使うのを躊躇っているが、ヘシュナに関してはその躊躇いが全くないのだ。
後片付けに訪れた3大宇宙種族の警護兵達。ミュセナとルビナの指揮で、今も気絶している黒服連中と軍服連中を連れて行った。連中から全ての毒気が抜けて、元の人間に戻る事を強く願って止まない。
「力は使ってこそ真価を発揮する、だな。」
「ワンコの力は偉大なのだよ。」
「正にモフモフよね。」
「モッフモフにしてやんよ!」
呆気なく終わった最終決戦的な流れを踏まえ、ミツキが見事なシメで締め括った。それに周りは笑っている。確かにワンコの力でモフモフを得られるなら、それだけで幸せになるかも知れない。ニャンコでも十分有り得るが、俺はどちらかというとワンコ派だからな。ミツキのプランに乗りたいものだ。
「しかし・・・何時見ても逸脱した美貌としか。」
「それでいて力は据え置きというのが何とも。」
「外見だけはね。内面ではお前達全員に敵う筈がないわ。俺自体は野郎だし、性転換を用いたとしても絶対に女性には至れない。対して今世に生を受けた時から、女性のお前達の方が遥かに美しいわな。」
一服しながら面々を見つめる。性転換を繰り返せば繰り返すほど、周りの女性陣の素晴らしさが身に染みる思いになる。新しい生命を産み育む、これ程素晴らしい事など他にはない。
「対して・・・男性は破壊と混沌をもたらし続けた、と。」
「あら、見抜かれたか。」
「見抜くも何も、エリシェ様も同じ事を思われたかと。私達を申し訳なさそうに見る目を見れば把握できますし。」
「確かに一部はその流れでしょうけど、貴方自身は女性の味方側ではないですか。それを毎度ながらの自己嫌悪は・・・。」
「ハハッ、そのぐらいで腹を立てるぐらいじゃまだまだね。」
「私達なんか何度腹を立てた事か。」
うーむ、何時になく凄まじい殺気の目線を浴びせられる。しかしその視線の奥底には、慈愛の一念が込められているのは確かだ。その彼女達を守り通すのが、俺の今後の生き様となる。絶対に不幸になんかさせない。
「再度述べる事になりますが、私達も皆様方を不幸になんか絶対にさせません。ミツキ様が生き様たる“持ちつ持たれつ投げ飛ばす”の気概で突き進みますよ。」
「うむぬ、それこそが共助の理になるわぅ。やっと慣れてきた感じわぅね!」
改めて己の使命を語るヘシュナの背中をバンバン叩くミツキ。それに苦笑いを浮かべるも、込められた一念に頭を下げる彼女だった。
「さて・・・これで全て片付いた感じか。」
「いえ、油断はできませんよ。まだまだ燻っていると思われますし。」
「今後も根気強く探索を続けます。」
「了解。」
役目を終えたため、性転換ペンダントの効果を切ろうとする。しかし颯爽とミツキが待ったを掛けてくる。その瞳は妖しく輝き、何を抱いているのか直ぐに分かったわ・・・。
「・・・コミケに行くと言うんだろうに。」
「ウッシッシッ♪ 今回もみんなでワイワイやるわぅよ! Tちゃんはその姿で改良を加えたコスチュームで参加わぅ!」
「いいですねぇ、相応しいのを見繕ってみますよ。」
「へぇ・・・どんなのか見てみたいわねぇ。」
「はぁ・・・。」
ぬぅ・・・周りの女性陣もすっかり乗り気になっている。ただ前回遭遇したコミケ襲撃事変を踏まえると、それなりの武装で赴かないといけないか。逆を言えば、それで新たな火種を炙り出す事ができるなら万々歳かも知れないわな。ここは乗るしかないだろう。
呆気なく今回暗躍していた連中の残党を捕縛できた。あれだけカルダオス一族の恩恵を得ていたのに、いざここに来たらその効果を忘れているとは驚きだった。
外部から与えられた力ではなく、自ら開発したテクノロジーで挑まない限り必ず頓挫する。所詮は愚者の考える浅はかな事だ。オリジナルや創生の概念は本当に強いわな。
しかしそれでも完全駆逐とは至っていない。それだけ人間の野望と欲望は果てしないのだ。虱潰しな感じの流れになるが、今後も戦いは続くだろう。
それに諸悪の根源を完全駆逐したとしても、地球上から全ての悲惨や不幸をなくさない限り安寧は訪れない。それを勝ち取るための警護者の力だ。今後も己が生き様を貫いて行くわ。
第11話へ続く。




