第9話 究極の姉妹喧嘩3(通常版)
念話で雑談をしつつ、現状はヘシュナ達と進む事数十分後。目の前に場違いな建物が見えてきた。ここは自然の境地たる南極だ。明らかに人が作ったとしか思えない人工物そのものだ。
というか以前ミュセナ達が地球自体を全球サーチして探索したが、真の黒幕を発見する事はできなかった。それが南極に位置しているという部分からして、極地故に見付け難かったという事になるか。地球がどれだけデカいかが十分窺えるわ。
ヘシュナを先導にその建物の中に入っていく。内部を見て驚いたが、警備の兵士と思われる人物が全部機械兵士そのものだった。以前喫茶店に襲撃してきた彼らである。まあ軍服連中事変を考えれば、要らぬ思考が出る人間を兵士にする事はないだろう。
そして2つの要因が挙げられる。1つは真の黒幕が効率化を図って機械兵士を導入した。もう1つは人を信じられない、または信じられなくなったから機械兵士を使っている。つまりこれは独裁者が考えるような概念だわな。ハッキリと相手が見えてきたわ。
(全部見えてるよな?)
(大丈夫わぅ、慎重に進軍わぅよ。)
念話で俺の身体の五感を媒体として、遠方の面々に全て伝わっている。見事な技術力だわ。そして先も挙げたが、俺1人ではないという事だ。
(了解。それとミュセナはいるか?)
(フフッ、全て分かりますよ。もしヘシュナ様方が相手側に敵対しそうになった場合、転送装置で私達を送ってくれ。ですね。)
(流石だ、その時は頼むわ。それと1つ頼みがある。後でこれも実行しておいてくれ。)
胸中が全て念話で伝わってくれている。邪な部分は参るが、それ以外では本当に大助かりだ。まさか連中はヘシュナ達の中に刺客が紛れ込んでいる事など思う筈がないか。もし読んでいるとしても、ヘシュナ達さえ味方に付ければこちらのものだ。反転攻勢の時が来たと言える。
かなりデカい建物のようで、長い間歩き続けている。複数の扉を通る事から、結構な防御設備が整っているようだ。これだと従来の通信装置では絶対に伝わらないだろう。どれだけ念話という存在が逸脱しているかが痛感できる。
「到着したぞ。」
「ほむ。」
ようやく到着したそこは、秘密基地の様相に近い。重厚な扉を開けて入ると、中には黒服を着用した面々が数多くいた。更には軍服を着用した面々も数多くいる。どうやらレプリカ大和などで対峙した軍服連中とも繋がるようだ。
「負け戦だったというのに、堂々とした帰還だな。戦利品はその女か。」
「相変わらず腹の立つ言い回しだな。彼女は望んで我々の元にいる。同族を物扱いしないで頂きたい。」
「大して変わらん。人類など所詮捨て駒に過ぎん。要らぬ感情に支配され、正常な思考で動く事すらできん。人工知能や機械兵器の方がよっぽど利口だ。」
「まあいい。それで、何らかの報酬はあったのかね?」
「目立ったものはない。相手の戦闘力が格段と増しているのが窺えたぐらいだがな。」
「大企業連合・躯屡聖堕群・警護者群か。奴らが阻害する事で我々の計画が進まぬ。本命は成層圏の宇宙船群のテクノロジーだというのに、その真の価値を知らずにいる。」
「直ぐに大規模な軍勢を送り、更なる圧力を掛けるべきだろう。場合によっては究極の兵器を出すべきだ。」
・・・ヘシュナが俺達にブチ切れそうになる理由が痛感できた。間違いなくストレスだわ。それだけこの黒服連中と軍服連中は腹が立つ。念話を通しても仲間達の怒りが痛烈に伝わってくる。
「何故頑なに技術力の提示を拒む。それだけの力があれば、全て滞りなく進むのだぞ。」
「宝の持ち腐れだと何度言わせるのだ。我々のテクノロジーは意思を持ち、善悪判断を行う特性がある。貴方達に加担する故に、私達でさえ力を出せずにいる。彼らが最大限の力を発揮できるのは、それが善心に満ち溢れている何よりの証拠だ。」
「ではその判断を行うものを排除し、善悪に囚われずに発動するように改良せよ。そうすればお主にも恩恵があろう。」
「残念ながらそれは絶対に無理な話だ。改良や改修といった類では変える事などできない。そもそもこの力は偉大な生命力の概念にも帰結している。貴方達が生命力を見下している時点で、この力を得る事は不可能だ。」
「ならお前が直接指揮を取り、連中を完全駆逐せよ。力を持ちながら使わない存在など、全く以て役に立たん。」
う~む、ヘシュナがブチ切れるのは時間の問題か。しかしよく耐えているわ。ここは1つ、引っ掻き回してみるかね。
怒りに満ち溢れるヘシュナの肩を軽く叩き、彼女の傍らに進みでた。それに驚くが、俺の意図を察知したのか委ねてくる。
「失礼ですが、貴方達の真の目的とは何でしょうか?」
「部外者が口を挟むな!」
「まあそう言うな。既に察していると思うが、我々の目的は世界の混沌だ。戦乱を助長し、紛争を拡大させていく。戦争こそ最大の力だ、利益にも繋がる。人の存在とはその様なものなのだよ。」
なるほどねぇ・・・。真の巨悪とは正にこの事だわ。問題はこれが全部かという事になるのだが、それは面々に任せて続けるとしよう。
「それら火種を繰り広げて、衛星軌道上の宇宙船群の介入を待つという事ですか。」
「そうだ。宇宙人などどうでもいい。連中の技術力や大企業連合の資源力があれば、地球を超えた別の惑星にまで手を延ばせる。」
「地球の資源では飽き足らず、他の惑星にまで手を伸ばすと。」
「お前は利益というものを何も分かっていないようだ。ここにいる我々が何不自由なく過ごす事ができればそれで良いのだよ。全ては我々の糧だけの存在でいい、それだけの事だ。」
ブチ切れ寸前のヘシュナの背中を軽く叩きつつ、その場でゆっくりと一服する姿を見せた。もし黒服連中や軍服連中が過去の俺の姿を見ているなら、何らかの合致点が付くと思うが。というか傍らのヘシュナが俺の姿に驚愕した表情を浮かべている。むしろ半分呆れ返ってもいる感じだが。
「・・・なるほどな、そこまで本音を訊き出せれば上出来だ。貴様等が真の巨悪だという事がよく分かった。」
「な・・何だと?!」
「貴様等以外にもいるかと思ったが、どうやらヘシュナが1箇所に纏めてくれたようだ。自身の怒りを抑え込み、妹や恩師とも口論をして敵対する姿を示し続けていた。どれだけの苦痛だったか、私利私欲を貪るカス共には理解できまい。」
「何者だ貴様・・・。」
「彼女の盟友、と言っておくかね。まあ実際は嫌われているが。それでも守るべき存在は徹底して守り切る。」
俺の言葉でヘシュナは全てを理解したようだ。と同時にかなり怒り気味にはなっているが、それが本当の姿ではないのも十分理解できる。
「悪いが、俺達の目が黒いうちはカス共の好きなようにはさせん。貴様等が諸悪の根源だというのは先刻確認済みだ。無論、総意も全て承知済みだがね。」
「何を訳の分からない事を。この場から生きて逃げられると思うなよ。」
「フッ、その逆よ。誘い出しではないが、対峙してくれてありがとな。」
不気味なまでにニヤケ顔をしつつ、指を小さく鳴らした。するとその場に遠方の盟友達全員が転送されてくる。完全武装のまま送られてきたため、既に臨戦状態である。しかもどの面々も怖ろしいまでの怒りに満ちた表情を浮かべていた。
突然の来訪者に周りの黒服連中と軍服連中は驚愕している。恐らくこの施設は侵入が厳しい堅固さだろう。それが突然謎の人物達が現れたのだから。その彼らを見たヘシュナも驚愕の表情を浮かべているが、何処か安堵した雰囲気になっている。
「見つけたわぅー! コイツ等が悪党三昧わぅね!」
「それ、悪党一味でしょうに。」
「んにゃ、一味だと一流に聞こえちゃうわぅ。三昧なら三流止まりという事になるわぅし。」
ミツキの見事な的を得たボケに周りは大爆笑しだした。実際にそのボケに対しての笑いと、黒服連中と軍服連中を嘲笑う事も踏まえているのが分かる。それだけ怒髪天を超えている感じだろう。
「だ・・・誰だ貴様等は・・・。」
「ヘッ、名乗る程のものじゃねぇ。バカ姉に何度も悪態付いてくれた礼をしに来ただけだ。覚悟しとけよ阿呆共っ!」
「漸く諸悪の根源を突き止められましたからね。今まで陰でコソコソと動き回っているのを察知するには骨が折れましたが。」
「世の中には、煮ても焼いても食えない奴がいるものよね。最後まで人を信じようとしていたヘシュナちゃんが、どれだけの怒りを抱いていたか・・・思い知らせてあげるわ。」
「衛兵! 奴等を始末しろ! ここから一歩も外に出すな!」
それぞれの連中が携帯している拳銃を取り出し射撃しだす。当然ながらバリアとシールドの恩恵が働く俺達には全く以て無害そのものだ。
「なっ・・・バリアだと?!」
「だから、ヘシュナ様が言ったじゃない。何故にバリアとシールドの恩恵に与れるのか。」
「どうやら貴方達は理解していないようですね。ヘシュナ様が態とバリアとシールドを出せないようにしていた意味合いを。貴方達に近付くための偽装工作だったのですよ。それを理解できないようでは、私達のテクノロジーを持つ資格などないっ!」
驚愕する展開になった。普段から非常に温厚でノホホンな感じのミュティナが、ブチ切れ状態で相手に襲い掛かっていった。手持ちの重火器は腰や肩に装着のまま、相手に思いっ切り殴り掛かる。当然本気で殴っては即死してしまうのは言うまでもない。相当力をセーブしての一撃だ。その一発を額に受けた軍服男は白目を向いて気絶する。
「ぬっ?! 出遅れたわぅか?! うぉー! 最強のワンコを見せてやるわぅ!」
「貴様等の方こそ、生きて帰れない事を思い知らせてやる!」
「坊や達、掛かってらっしゃいな。撚り潰してあげるわ。」
「磨り潰す方が楽しそうですけど。」
「どっちも楽しそうよねぇ、実行してあげようかしら。」
うわぁ・・・我慢の限界を超えた面々が暴れ出したわ・・・。一応は完全装備で集ったが、実際の戦闘は肉弾戦を行うようである。確かにこれなら致死率は低く、殴る事で憂さ晴らしもできるという事だ。まあ相手が極悪中の極悪なため、このぐらいは許されるだろう。
隙を見て同室内から逃げようとする連中がいるが、先に先手を打って貰っている。それはミュセナに一同を転送すると同時に、その場所を完全隔離するように促した。俺達は転送装置での移動ができるか、連中はここから出る事ができなくなる。
まだ世界中に残党が残っているかも知れないが、これ以上の火種を野放しにするのは非常に良くない。ここは心を鬼にしてでも徹底駆逐すべきだ。それに連中の先程の言動を伺えば、相手は地球はおろか宇宙全体にとっても有害となる。絶対に阻止せねばならない。
まあ何だ、現状は怒髪天を超えた仲間達の肉弾戦に為す術がない。前の連中もそうだったのだが、今回も致死率が高い重火器をメインとしている。それらが一切通用しないとなれば、否が応でも肉弾戦で応じるしかなくなる。まあ格の違いを見せ付けられている感じだが。
仲間達が大暴れしている様を、ヘシュナ達は呆然と見つめていた。多分身内の凄まじい怒りの様相に介入できないのだろう。彼女達も相当な怒りを覚えていたが、俺達が代弁して暴れているようなものだ。
俺も介入と思ったが、ここは身内に任せよう。ヘシュナ達と同じく介入するチャンスすらなさそうだ。自然と駆逐するまで一服しながら待ち続けた。
第9話・4へ続く。




