第9話 究極の姉妹喧嘩1(通常版)
無人飛行兵器を駆逐し、東京湾の桟橋で休息を取っている俺達。そこに突如として宇宙船が出現する。ヘシュナが駆る直径13km超の宇宙船だ。そして俺達の目の前に黒ローブを纏う彼女が現れる。
そこまでは通常通りな感じだが、その後に展開には驚いた。姉の出現に妹のヘシュアが凄い形相で対峙しだしたのだ。何時もの温厚な彼女ではない。全盛期に相当悪態を付いていた感じの彼女だろう。ただ根底には総意に迷惑を掛けている姉を許せない一念、これがあるのが昔との違いだろうな。
「な・・何故ヘシュアがいる・・・。」
「んー、バカ姉を戒めるために馳せ参じた訳でね。アンタ、自分がしている事を全て把握しているのか?」
「何を言い出すかと思えば・・・。」
「質問に答えろ阿呆っ!」
うわぁ・・・温厚なヘシュアが激変している・・・。総意の一念を知った彼女の心境は、愚行に走る姉が許せないようだ。荒々しい言葉を発する事が全てを物語っている。
「では答えようか。この地球人どもは、数多くの戦乱を巻き起こし混沌の世上を引き起こす要因となっている。それらを排除し、自然体の地球を取り戻すために動いている。これが私の行動理念だ。」
「それが愚行だと何故分からないかね・・・。私がこの目と耳と身体と生命で感じ取った限りには、お前が聞いた地球人の様相と全く以て違うんだがね。大凡、先日のとある御仁の図星を突かれた事に対する腹癒せだろうに。」
「・・・あの男か。私の考えを凌駕する事を、次から次へと読む奴だったな。私が世界を回って得た事では、奴こそが諸悪の根源だと言われたがね。」
「はぁ・・・これだから阿呆は・・・。」
ヘシュアが挙げた御仁は俺の事だろう。そしてヘシュナは俺に対して明確な敵意を持っているのも窺えた。更には彼女が接触した敵対者は、俺が全ての指揮を取り仕切っていると思っているようだ。見事なものだが、逆を言えば俺達の術中にハマっていると言える。
「・・・で、お前は何をしにここに来たのよ。まさかその御仁を捕まえ、その諸悪の根源の元に連れて行く算段か?」
「そうだな。だが見る限り、奴はこの場にはいないようだが。男の臭さには虫唾が走る。」
ヘシュナの言葉に周りの女性陣が苦笑いを浮かべていた。その視線の先には俺がいるのだ。性転換ペンダントの効果で女性化しているが、どうやらヘシュナはそれを見抜けていない。女性陣が考案した戦術は、見事に効果を発揮している。俺としては憤懣やるかたないが。
「過去に男性にからかわれた事を、今だに根を持つのは何ともまあ・・・。」
「・・・お前も相当にカンに障る事を言うな。」
「図星だろうに。お前のその下らない言動で、どれだけの人達が苦しんでいるか分かっていないんだろうが。」
「・・・私を本気で怒らせたいようだな・・・。」
「ハッ! その言葉、そっくり返すわバカ姉。こちとら既に怒髪天を超えてるんでね。」
・・・物凄い様相に周りの面々は呆れるしかない。見事な姉妹喧嘩だわ。しかしそれが宇宙人の姉妹だから性質が悪い。非力な地球人が介入しようも、とてもじゃないが無理だわ。
そこに突然現れるはミュティナ達。更には恩師にスミエもいる。どうやら事態を収束させるために駆け付けたようである。そして恐怖した。スミエの雰囲気が物凄い殺気と闘気に満ちているのだ。以前言ったあの事に至った事で、それに対しての威圧であろう。
「・・・言いましたよね、おいたをしないようにと。」
「・・・ですが、実際に地球人がしてきた事を見れば当然の事です。数多くの戦乱を世上に放つ要因を排除する、それが何故いけないのですか。」
「どうやら貴方は本当に間違った道を歩んでいるようですね。その言葉には一理ありますが、限定的な視野から得たものに過ぎません。貴方は視野が狭過ぎる。」
懐からキセルセットを取り出し、徐に一服をしだす。しかし以前見た優雅な様相ではない。自身を落ち着かせるための一服だと痛感した。スミエにもこの様な一面があるとは驚きだ。
「では端的に問いましょう。今後、貴方はどうされるのです?」
「諸悪の根源たる、あの覆面男を捕縛する。」
「・・・で、御仁を真の諸悪の根源に突き出すと。その後の展開が読めるけどね。バカ姉が連中に誑かされ利用されたと痛感すると。」
「何故そう言い切れる・・・。」
「返すが、何故恩人のスミエ様すらにも牙を向ける。その時点で常識を逸しているがな。」
「牙を向けるも、恩師であれ間違った事には顕然と問い質せと教えられてきた。その何処が間違っているというのだ。」
ヘシュナの言葉でヘシュアの雰囲気が更に一変した。その先は目に見えていたので、ここはこちらが介入するしかない。上手く収められれば良いが。
「お待ちなさいな。ここで無粋に言い争って何になるのです。とりあえず、今はマスターはいらっしゃらないのでお引取りを。事を悪化させては、貴方の信用問題にも至ります。」
「・・・そうだな。見ず知らずの貴殿に戒められるのは癪に触るが、貴方の見定めた一念を汲むとしよう。事を荒げてしまい、大変申し訳ない。」
サッと頭を下げるヘシュナに、妹のヘシュアも含め呆気に取られた。アレだけ己の信念を曲げずに断固として譲らなかった彼女が、素直に頭を下げて謝罪したのだ。これは誠意ある対応には誠意ある対応をするという信念の1つだろう。
「・・・そうですね、ここは私が人質になりましょう。今はマスターは不在ですが、交渉のテーブルに着かせるには問題ありません。あ・・失礼。私ですが、ミスTと申します。」
「・・・本当によろしいのですか?」
「貴方が絶対に曲げない信念があるように、私にも絶対に曲げない一念・執念・信念が顕然と据わっています。それを貫くのみですよ。」
「・・・了解致しました。貴方を今後の保険としてお預かり致します。全てが片付けば、再びこちらにお返し致しますので。」
「了解です。では参りましょう。」
トリプルマデュースシールドを近場のヘシュアに預けつつ、彼女に小さくアイコンタクトをする。それに大変申し訳ない表情で頷いた。周りの面々に小さく頷くと、一同も小さく頷いている。ちなみにこの時、近場にいたミツキの二対の爪銃を借りて腰に装着した。護身用としては申し分ないだろう。
準備が整った俺がヘシュナの元に近付くと、宇宙船から光が照射。一瞬で彼女と俺を船内に転送した。これが宇宙人の最新テクノロジーだわな。
現状では表の流れを把握できないが、他の面々からの意思の疎通を解して全てが分かる。俺達を回収した宇宙船は、転送航法でその場を去っていったようだ。船内ではそれが全く以て感じられない。これが重力制御の理だろう。
しかしこの巨大な宇宙船を即座に転送させる規模となると、やはりカルダオス一族の技術力は侮れない。まあ衛星軌道上ではギガンテス一族とドラゴンハート一族の母船・大母船が鎮座してはいるが。彼女達が地球に宇宙船を入れなかった理由を、改めて痛感させられた。
人質としてヘシュナの元に近付いたが、彼女の方は縛り上げる事も全くしなかった。自分の信念を貫く故の行動が如実に現れている。確かに意固地になり手が付けられない部分はある。それを良い方に向ければ、ある意味ヘシュアを超える存在になるだろう。まあ現状はとても寄り添えるような関係ではないが・・・。
ちなみに宇宙船内部にはヘシュナと同じ種族の面々がいた。男性嫌いの彼女である、周りの仲間達は全員女性で構成されていた。性転換して挑んだのは間違いではなかったわな。それにトラガンの女性陣と修行をした結果が現れる。女性陣の中で過ごす事で、より一層女性として振る舞えてもいるようだ。
俺は個室に案内され、そこで待機するよう言われた。内部は監房でもなく普通の部屋だ。ただ地球人からすれば、非常に殺風景としか言えない。まあ拘束されないだけマシだろう。
どれぐらい待っただろうか。宇宙船が停止したと思われ、暫く待つとヘシュナが入室してきた。全ての意図を知っているかのように小さく頷く。この場合は彼女の傍らにいた方が良いだろう。
「窮屈な思いをさせてすまない。」
「お構いなく。私も数多くの扱いを受けてきた身、このぐらい何ともありませんよ。」
「そうか。」
ヘシュアもそうだが、ヘシュナもエリシェ専属の警護者の3女傑と同じ巨女の1人である。俺より首1つぐらい背が高い。しかし彼女も驚いているのは、身丈に迫る長髪だろう。脛の部分まで伸びているそれは、本当に女性と思わせるようだ。まあ当の本人は野郎だが・・・。
「これからどちらへ?」
「成果が得られなかった報告をする。貴方と共にいた面々が探している連中だ。強引に事を進められもしたが、それでは意味がない。」
「なるほど。まあ私は部外者、諸々の詮索は致しません。黙って従います。」
「すまんな。」
悪そうに謝罪してくる彼女。言葉はトゲがある感じだが、その雰囲気はヘシュアと全く変わらない。バカ姉と言ってはいたが、もしかしたら色々と先を見越した動きをしているのかもな。
例の転送装置の元へと向かうと、そこには複数の仲間達がいた。彼女達と合流し、地上へと降りる。と同時に驚いた。そこは一面雪景色だったのだ。ただ寒さは感じられない。
第9話・2へ続く。




