第1話 闇の風来坊1(キャラ名版)
かつて警護の世界で、その名を轟かせた猛者がいた。
任務達成率100% いや、達成自体が完全成功そのものという意味合いだろう。猛者が警護を担えば、どんな困難な状況であろうが打破ができた。
その噂を聞きつけ、大企業の会長は挙って依頼を頼み込む。しかし、猛者は依頼者の生き様を明確に見抜く凄腕でもあり、根底が据わらない相手は絶対に警護をしなかった。それが任務の成功率を劇的に向上させる要素でもある。
猛者の生き様。それは報酬は二の次であり、生き様さえ据わっていれば、絶対に警護を完遂させるのだ。
俺の名はミスターT=ザ・レミニッセンス。その猛者たる人物。額から鼻頭までを覆い隠す覆面がトレードマークでも。当然髪の毛は表に出している。
人は俺の事を“覆面の警護者”と呼んだ。
少女「お母さぁ~ん!」
母親「ああっ! 無事だったのねっ!」
迷子になった少女を母親の元へ送り届ける。この場合は護送とも言うべきか。少女の母親に合いたいという強い一念は純粋無垢のもの。その彼女の願いを受けねば俺の生き様が廃る。
母親「あ・・ありがとうございました・・・。何とお礼をいってよいのか・・・。」
ミスターT「礼ならその女の子に言って下さい。彼女の強い一念が俺を突き動かした。それだけの話ですよ。」
本当にそう思う。どこぞのクソ社長や愚物成金などには、絶対に真似が出来ないものだな。この少女の一念は正に純粋無垢。その一念に応じてこそ警護者だろう。
少女「ありがとう、おじちゃんっ!」
ミスターT「どう致しまして。お母さんを大切にね。」
笑顔で手を振る少女と、深々と頭を下げる母親。そのまま帰路に着いていった。家族愛というのは素晴らしいものだな。その2人に手を振り見送ると、俺も事務所へと戻った。
秘書1「お帰りですの。」
事務所に戻ると、秘書に出迎えられた。そして呆気に取られる。変な喋り方をしていた。デスクでは、もう1人の秘書が苦笑いを浮かべながら、各種の雑務に明け暮れている。
ミスターT「・・・ミツキさ、今度は何の作品に感化されたんだ?」
ミツキ「某RPGの吸血鬼姫ですの。」
秘書2「はぁ・・・。」
ミスターT「何とも・・・。」
出迎えてくれたのはミツキ。デスクで雑務中はナツミA。この2人は姉妹である。かなり前に警護の依頼を受けて、それ以来の腐れ縁となった。また2人の直属の秘書たる人物もいる。ウエスト・サイバー・ナッツ・エンルイという。そんな彼らを、ミツキはナツミツキ四天王だと豪語していた。
ミツキ「依頼は終わりましたの?」
ミスターT「ああ、無事終わったよ。」
ミツキ「よかったですの。」
喋り方は相変わらずだが、依頼らしき資料を手渡してくる。スーツ姿の華奢な彼女だが、こう見えてもかなりの合気道の達人である。
ナツミA「普段の喋り方に戻せばいいのに・・・。」
ミツキ「それだとシラケてしまいますの。」
ナツミA「はぁ~・・・まあ好きになさい。」
呆れ顔のナツミAだが、目線と手はノートパソコンに集中している。ブラインドタッチが実に冴え渡っている。
こんな秘書の2人だが、ミツキは行動派でナツミAは慎重派とも言える。姉妹なのに属性は真逆なのだ。しかし、根底の一念と生き様は全く以てソックリであり、それが俺と共闘する事になった最大の所以と言える。
また、姉妹の専属の秘書たるウエスト・サイバー・ナッツ・エンルイの4人も全く同じで、彼らの生き様は凄まじいものだ。この6人は、1人の人物から分かれ出た存在にも思える。
女性「ごめんください。」
パイプ椅子に腰を掛け、一服しながら資料を見つめる。すると、入店してくる人物がいた。ロングヘアーの黒髪にノースリーブにミニスカートという、ワイルドウーマンさながらの女傑である。しかも、その身体から滲み出る覇気は相当なものだ。
ミツキ「いらっしゃいませ、どうぞこちらへ。」
茶菓子を頬張っていたミツキが、慌てて応対しだす。喋り方は普通に戻っている。おかしな喋り方は、完全にキャラクターを演じている証拠だろう。
女性を応接間に案内する彼女。俺も確認した資料をナツミAに渡し、応接間の方に向かう。こじんまりとした事務所だが、それなりの設備は整っている。
ミスターT「ようこそ、ケルベロス警護団のミスターTといいます。」
女性「あ、はい。ナツミ=ユウキと申します。」
・・・ミツキよ、何でこんな社名にしたのか・・・。警護団という名称も、何処か不自然さがある。それ以前に、地獄の番犬たるケルベロスを付けるとは・・・。まあ俺の性質からして、ドギツイ雰囲気を伝えるには十分だろうかね・・・。
ミスターT「ところで、ご用件は何です?」
ナツミYU「数日後に海外へ赴くのですが、その際のボディガードをご依頼したくて参りました。行き先はアメリカ・ニューヨークです。」
ミスターT「なるほど・・・。」
ナツミYUの雰囲気からして、とても護衛を必要とする人物じゃなさそうだが。しかし、その切羽詰っている様子から、何らかの要因を抱えているようだ。
ナツミYU「ご依頼の真の内容は、多分行動を共にされると分かると思います。」
ミスターT「ふむ・・・。」
ナツミYU「・・・引き受けて下さいますか?」
懇願するような眼差しで迫ってくる。それにドキッとするが、彼女の眼光は怖ろしい据わりを見せている。何らかの格闘術を身に着けているのは十分理解できた。
ミスターT「・・・了解です。ですが・・・移動手段が問題で・・・。」
ミツキ「マスターは高所恐怖症でして、高い所がダメなのです。」
ナツミYU「あらまぁ・・・。」
俺の意外な一面を垣間見た彼女。呆気に取られるも、表情の強張りが解れていくナツミYU。多分、俺自身が凄腕の警護者という事から、ここに訪れる時に身構えていたのだろう。
ミツキ「手っ取り早く運ぶには、気絶が一番効果的だと思いますよ。」
ナツミYU「フフッ、そうですね。」
怖ろしいまでの表情を浮かべつつ語るミツキに、同じく不気味に頬笑み便乗するナツミYU。この2人からしたら、間違いなく気絶させられるだろうな・・・。まあ確かに、その方が最短の移動手段となるが・・・。
ナツミYU「まあ、移動に関してはお任せを。飛行機になりますが、問題なく移動できるかと。」
ミツキ「暴れそうでしたら、ヘッドロックでも放って気絶させて下さいな。」
ナツミYU「ハハッ、分かりました。」
う~む・・・ミツキの発言には恐怖するしかない。と同時に感謝もしてしまう。この場や俺の雰囲気から、ほぼ完全に萎縮気味だったナツミYUを、たった数言で落ち着かせてしまうのだから。姉のナツミAやナツミツキ四天王も、こうした荒業を持っているため、対人話術では無敵だわな。
ナツミYU「それと、報酬の事なのですが。」
ミスターT「いや、後でいいですよ。実際に完遂しない事には何とも言えませんし。」
ナツミYU「分かりました、全て貴方にお任せ致します。」
完遂できるかどうか微妙な所だが・・・。アメリカか・・・う~む・・・。まあそれでも、彼女の生き様はかなり据わっているため、応じなければ俺の生き様が廃るというものだ。
その場に立ち上がり、ナツミYUと握手を交わす。その時感じたのだが、やはりこの女傑は只者ではない。格闘技のレベルは相当なものだろう。
ちなみに、護衛は数日後に行って欲しいとの事だ。それまでには、遠方に出発する準備を整えねばならない。長期滞在はしないだろうから、全く問題はないだろう。
問題があるとすれば移動手段か・・・。飛行機はなぁ・・・。
事務所を後にするナツミYU。ただ、彼女の移動手段を見て驚愕した。何とハイパーカーのランボルギーニ・ムルシエラゴではないか。この美丈夫はどこまでも凄まじいのやら・・・。
愛車に乗車すると、颯爽と去っていく。う~む、ワイルドウーマンとはこの事だろうな。しかし、何処か寂しげな表情が気になったが・・・。まあ何だ、依頼に私情は禁物、ここは黙っておこう。
第1話・2へ続く。
恒例(?)のキャラ名付き版です><;
現本はキャラ名有りでの執筆となるので、自分はこちらの方が見易いのですがね@@; 何とも・・・。
R2.8.21 金 PM15:02