第7話 守り人と愚か者1(通常版)
窃盗団とのカーチェイスが一変し、彼らをも守る戦いに発展した事変。今では無人兵器群が横行しており、それを警護者サイドが対処に明け暮れている感じになっている。実働部隊はトラガンのレディース部隊だ。
日本自体の反撃は乏しいというか、実質不可能に近い。法案やら世間体やらで雁字搦めになっているため、警察群や自衛隊群が動く事ができずにいる。だからこその俺達になる訳だ。
まあ何にせよ、俺達は俺達の生き様を貫き続けるのみだ。今はそれしかできない。それができるのもまた俺達以外にない。この世に生まれてきた理由が正にここにあるわな。
喫茶店のカウンターで物思いに耽る。葛西臨海公園の海岸で性転換ペンダントを発動してからは、ずっと女性の姿でいた。ミュティナやルビナはヘシュナへの対策が同性なら突破口が拓けると推測している。そこで切り札としてのこの姿である。
ただ実際問題は、どうやってヘシュナまでの道を開くかにあるが・・・。出会い頭の印象は最悪の状態になったため、野郎の姿で会うのはマズいだろう。この一手が相手にどれだけの効果があるか、今は様子を探るしかない。
「俺だったらこうするが・・・。」
俺が性転換をしてからは、トラガンの女性陣が引っ切り無しに訪れてくる。彼女達と初対面で会った姿がこれだったからか、それが自然体の姿だと無意識に思ってしまっているようだ。ただ喋り方は本来の俺自身なので、“私”ではなく“俺”で通しているが・・・。
毎回3~4人のメンツで来訪してくる。これは何時何処で襲撃されても対処するための、ナツミYUが考案した戦術の1つだ。まあ今ではトラガンの女性陣の戦闘力は、日本一だと言える程の凄腕揃いに至っている。襲撃されたら逆襲撃で蹴散らせそうだが・・・。
「君もよくやるわね・・・。」
「皮肉にしか聞こえんがね。」
厨房越しから茶化しを入れて来るシューム。ただ俺が野郎時の様な茶化しの類ではない。もしそうだとしたら、相当な殺気に満ちた視線で睨まれるだろう。この場合は同性からの感嘆の声と言えるだろうか。
「それにしても、あれだけの戦闘力を持ちながら女性ならではの悩みを出すのは何とも。」
「いいじゃない、ここに訪れる方は世間体の一切の柵を取っ払った状態で来る。だから胸襟を開いて対話できるというものよ。」
「確かにね。」
一服しながら思う。トラガンの女性陣の戦闘力は、今では日本一の力を誇っていると断言して良いだろう。しかしそれは警護者としての姿であり、それを除けば女性なのだ。諸々の悩みが出てくるのは当たり前である。ただ、中身は野郎な俺に女性の事で相談されてもな・・・。
「その考えの答えだけど、恐らく君が男性だから対処できる感じかもね。」
「野郎ならではなの解答、と言う事か。」
「そう。今もトラガンの女性陣は男性恐怖症の面々が多い。ナツミツキ四天王との免疫はできているみたいだけど、君の素体の姿には免疫がなさそうだし。」
「性転換している今だからこそ、コミュニケーションを取れるという訳だな。」
非常に複雑な心境だわ。できれば俺自身は野郎として接して欲しいものだが、それが適わないから女性の姿になるのだ。う~む・・・それだけ彼女達に至った出来事が、相当なものだったという事か・・・。
「・・・野郎の時以上に怒りが出てくるわ・・・。」
「フフッ、女性ならではの視線からの怒りね。」
俺の怒りの表情を窺い、呆れるも小さく笑う彼女。それだけ俺が女性に近い状態に至っている証拠だろう。スミエが言うは、幼少の頃に女性達の中で育ったのが淵源だとも。
「俺のもう1つの役目は、全部片付いたらトラガンの女性陣の支えになる事か・・・。」
「そうね。女性の目線を持つ君だからこその大役よね。そこは大いに賛同するわ。」
「世上は女性の時代、それをもっと広められればな。」
一服を終えると、紅茶を差し出してくれるシューム。頭を下げつつ受け取り、静かに啜った。
根本的な解決策は、各種の紛争を根絶してこそだろう。時間は掛かるが不可能ではない。それに俺達には絶大な力を有している。これらを全て使い切ってでも、世上から悲惨や不幸を無くせていければ幸いだ。まだまだ課題は山積みである。
まあ今は現状をどうにかする事を心懸けよう。ヘシュナさえ説得できれば、最終的な敵対者の炙り出しが可能になるだろう。既に彼女は当事者共と接触している筈だ。だが一筋縄ではいかないのも確かだな。
「こちらへ。」
カウンターで物思いに耽っていると、突然入店してくる面々がいた。そちらを向くと、恒例のトラガンの女性陣の他に見慣れない2人の男女がいる。しかしその雰囲気が殺気立っている事から、誰かしらの追撃を振り切った形か。
「どした?」
「すみません、急遽押し掛けて。こちらの2人が黒服連中に襲われそうになっていたので助けてきました。」
「へぇ・・・それは後ろの連中の事ね。」
厨房でノホホンと作業をしていたシュームが一変し、物凄い殺気立った表情で入り口を凝視しだす。颯爽と携帯している拳銃を取り出すと、入り口へと向けだした。
直後、押し掛けるように入ってくる黒服連中。明らかに場違いな存在で、その雰囲気からあの傭兵軍団に近い。つまり武器を携帯している事になる。
「何なんだアンタらは?」
「その2人をこちらに渡して貰おう。」
「嫌がっているのにかい?」
「お前達には関係のない事だ。」
この雰囲気は軍服連中に近いのか。しかし連中はあの後全員捕縛され、ミュセナがそれ相応の対応をしたとの事だ。となれば、コイツらは別の勢力と言えるか。
「何わぅ? 何わぅ?」
「あー、愚物ご一行様のご登場ね。」
「はぁ・・・マスターが諸々で自己嫌悪に陥る心境が分かりましたよ。」
喫茶店の奥でDJをしていたナツミツキ姉妹。最近はビアリナも参加してのトリオでのラジオ放送をしている。その彼女達が騒ぎを聞き付けて現れた。
「・・・どうしても渡さないつもりのようだな。」
「その兄ちゃんと姉ちゃんが喜んでいるなら別だがね。どう見たって嫌がってるだろうが。ならば話は早い、テメェらの様なカスには渡さんよ。」
「ならば強引に動くとしよう。」
黒服連中が拳銃を取り出すと、俺に向けて発砲しだした。しかし常時、バリアとシールドのペンダントを発動している状態だ。態とらしく左手をかざして、迫り来る弾丸を静止させて叩き落す素振りを見せた。それに相手は驚愕している。
「な・・何だと?!」
「何だ、この雰囲気から今の世上を把握していないのか。俺達に一切の攻撃は無意味よ。」
「これは正当防衛と取って良いわぅね!」
何振り構わず俺に向けて射撃したのは、完全にこちらを殺すつもりで撃ったという事だ。当然それに対しての反撃はしても良いだろう。それを正当防衛と豪語するミツキが、即座に反撃に出だした。
颯爽と黒服連中に接近すると、今では恒例の体術で相手を襲撃。続いてナツミAとビアリナも攻撃を開始しだした。居ても立ってもいられない雰囲気のシュームも加勢し、喫茶店入り口は凄まじいまでの修羅場と化していく。
そのまま黒服連中を引っ張り店外に叩き出していく面々。俺は急遽護衛対象となる2人を守る形に回った。それを窺ったトラガンの女性陣も乱闘に加勢していく。何と言うかまあ、今では警護者集団と言うよりプロレス集団に近いわ・・・。
暫くすると、騒ぎを嗅ぎ付けた地元の躯屡聖堕メンバーが現れる。こちらはトラガンが選抜した女性チームだが、その戦闘力は本家よりも断然強いのは言うまでもない。
トラガンの女性陣は依頼があれば出撃する形を取っているため、本社から動けずにいる事が多い。それを改善するため、エリシェとエルシェナが躯屡聖堕チームの中の女性陣を抜粋する事にしたのだ。それが今し方駆け付けてきた躯屡聖堕メンバーである。
先も挙げたが、躯屡聖堕チームの総合戦闘力は警護者軍団を超えている。その中で自由が利く女性陣を抜擢し、それぞれの地域の警護役として位置付けた。躯屡聖堕チーム自体の7割以上が女性なため、地域に隠れて有事に備えるのは打って付けだろう。
野郎の姿の俺ならその気概は分からない所があったが、性転換している今は痛烈に理解ができる。女性ならではの武器は、野郎よりも遥かに数多く力強い。女性の時代だと豪語するエリシェやエルシェナの一念も痛烈に理解できた。
第7話・2へ続く。




