第6話 再来のカーチェイス・後編1(通常版)
クラシックカー窃盗団の進行ルートが変更した流れを先読みし、ミツキが葛西臨海公園方面へと向かう。ナツミYUの戦術により、パトランプ搭載の覆面パトカーと化したウアイラを疾走させる。見事な機転と言うしかない。
しかし、これらトリッキーな戦術は時として相手の意表を突く。更に今回の相手は頭脳を使った戦略を展開しているため、非常に効果的と言えるだろう。頭脳は知略的と言い換える事ができるため、ミツキやナツミYUが取った行動は武勇的と言える。まあどちらも相手の裏を突く動きを考えるため、知略的と言えなくはないが・・・。
とにかく、相手の動きが前回よりも不明な部分が多い。今後どう出るか、葛西臨海公園方面へ向かいながら探るしかない。
(ああ~あなたに~こいごこ~ろぬすま~れて~♪)
環七を覆面パトカー化したウアイラが疾走する。ナツミYUに引けを取らない運転技術を披露するミツキは、某名曲を歌いながらの運転だ。本当にこの美丈夫は恐ろしい事この上ない。
(・・・何か喫茶店でラジオをやっている感じよね。)
(念話が伝わる方にお届けするぅ~、ワンコでワッショイ発動中のポチミツキわぅ~♪)
(で・・今だにポチが運転している所を見ると、ナツミYUさんは呆気に取られている感じになりますか。)
(え・・ええ、このお方には本当に脱帽です・・・。)
(さぁ~ゆく~んだ~そのかおを~あ~げて~♪)
(はぁ・・・。)
う~む、この美丈夫は・・・。何時如何なる時でもノホホン心を忘れていない。一見すると後手に回っているような姿も、実は先手の先手を行っているのだろう。だから余裕を以て行動できるのだ。本当にその生き様は肖りたいものである。
(ところで、国外の様相はどうなんだ?)
(あ、はい。国籍不明軍隊が攻撃を仕掛けるも、全てガンシップにより阻止。今は実質防戦一方ですが、下手に攻撃を仕掛ければ挑発しかねません。)
(そうだな・・・今は待つしかないか。)
この様相、国際問題に発展しかねない流れに等しい。それでも押されている事から、相手の私利私欲度の方が強い現われか。悪党は徒党を組んで動く事が通例だ。それが如実に現れていると言い切って良い。
(この窃盗団の問題は、国外からの横槍とは無関係ですかね。)
(だと思われます。しかし言わば漁夫の利を狙った感じなので、今は何時何処で何が発生してもおかしくありません。)
(手の届く範囲内ならまだしも、それ以外で行われると対処が厳しいわね。)
(俺達が複数いるか、それか東京上空でも威圧を掛けられる要因か・・・。)
この場合は手数を増やして草の根の鎮圧を試みるか、上空から強烈な威圧を掛けるしかない。しかし前者は俺達が有限である以上、絶対的に不可能でもある。後者はハリアーⅡ改程度では威圧にもならない。皮肉にもヘシュナの宇宙船が適任だろう。
(ぬぅーん、重装甲飛行戦艦ヴァルキュリアの出撃わぅか?!)
(某“空の目標”のアレか。レプリカ大和以上の巨大な船体を、飛行船に仕上げた仕様。むしろ空母信濃を飛行船にした感じだな。)
(空中でジェット戦闘機の離着陸が可能ですからねぇ。)
別途適任となる事例をミツキが挙げた。ゲーム“空の目標”はステージ3の分岐により遭遇できる、重装甲飛行戦艦ヴァルキュリアがそれだ。旧日本海軍は実質、幻の空母信濃を飛行船にした形に近い。数多くの武装を施し、更にはジェット戦闘機の離着陸も可能だ。
(ほむ、ではそれを実現しましょうか。今現在手配中の宇宙戦艦は建造が難しいですが、飛行戦艦なら短時間で実現が可能ですよ。)
(・・・大企業連合の力は化け物だな・・・。)
(相手が相手ですからね、それ相応の力を持ちませんと。それに諸々の宇宙船よりは遥かに小型で局地的なものですし。他国が言う軍事力には程遠い存在ですから。)
(皮肉よねぇ。日本に横槍を入れてアーダコーダ言っている流れが、本当に横槍を入れて来るから軍備が進む。連中の思惑通りに近いけど、あの宇宙船を見れば黙認できるし。)
(そこも警護者の存在で黙認でしょう。警護者専用ガンシップとして運用すれば問題ないと思います。それにこれら兵装は何れ解体する感じですし。)
その場凌ぎの武力を持つ、か。日本は過去の大戦の敗因から、必要以上の軍備を持たない流れを貫いている。が、今現在の警護者の力は絶大的である。日本全土をカバーできる4大艦船が守備に当たり、宇宙戦艦に飛行戦艦のプランである。横槍を入れるには申し分ない要因だ。
(このレプリカヴァルキュリアは、役目が終わったら貰っちゃって良いわぅ?)
(はぁ? 何に使うのよ?)
(護衛戦闘機だけ数機搭載で非武装化し、遊覧飛行を行うわぅよ。それに性能が戦闘用だから堅固さは折り紙付きわぅし。滅多な事では壊れないわぅ。)
(なるほど、遊覧飛行船化ですか。全てが片付いたら考えてみましょう。これらガンシップが戦い以外で役立つなら申し分ありません。)
(ワンコクルージングと銘打つわぅね!)
う~む、ミツキのプランは見事としか。しかし重装甲飛行戦艦なら、過去に大惨事を巻き起こしたヒンデンブルグ号の様な流れは皆無だ。そもそも簡単な要因で発火や破損をしては、飛行戦艦として全く成り立たない。その堅固さがあれば遊覧飛行船には打って付けだわな。
(はぁ・・・ポチの発想は世界標準的よね。)
(んにゃ、ワンコ標準わぅ!)
(アッハッハッ! 本当にそうね。)
(了解です。諸々の件は、全て片付いたら行いましょう。)
ナツミYUの頭に当たらないように一服する。ミツキの発案は戦いの後を見定めたものだ。しかも戦争遺物たる兵装を平和利用に転換するのは、非常に理に適う流れとも言える。全てが丸く収まれば、このプランには全面的に賛同したい。
(早く全部終わらせて、喫茶店でノホホンな日々を過ごしたいわ。)
(全て丸く収まるようにするには、今後のわた達次第という事わぅね。)
(そうだな・・・。)
疾走中のウアイラ内での雑談と、胸にナツミYUを抱いている心地良さから眠気が襲来してきだした。パトランプ搭載のウアイラをしても、葛西臨海公園までは30分ぐらいは掛かる。ここは少し仮眠するとするか・・・。
(ぬぅーん、分かったわぅ。ナツミYUちゃんを抱き枕に仮眠するわぅよ。)
(マジですまんな・・・決戦まで休ませてくれ。)
(はい、分かりました。)
そう言えば、記憶を失った後の俺が初めて彼女と出逢った依頼時。巨大ジャンボジェット機でアメリカに向かった際も、彼女の膝枕に厄介になった事があった。ナツミYUの長所は、相手を安心させる流れを作り出す事だろうか。またシュームも同じ様な雰囲気があるため、彼女の膝枕は相当の癒しになると推測できる。
(そうね、機会があれば遂行するわ。)
(むふっ♪ ヤキモチ妬かないわぅ?)
(意思の疎通による念話が、相手の心境を透写するじゃない。ナツミYUが思う一念が、私のと全くソックリだから反論できない。むしろそこに私がいる感じになってるし。)
(ですね。この意思の疎通の念話は、その人同士の意識を全て同期させる感じでしょう。と言うか、更に強くなっている感じがしますが・・・。)
そうなのだ、デュリシラの言う通りになる。以前はただ脳内にそれぞれの言葉が響くだけになっていたが、今では一挙手一投足全てが感じれるに至っている。意思の疎通による念話の精度が向上化した証拠か。
(意思の疎通・念話は文字通り、意思の強さが反映されます。その人の内在する生命力が強ければ強いほど、その一念が周りへとリンクしていきますので。)
(生命力の強さ、か。いや、この場合は生き様の強さに言い換えられるわな。)
(ですね。マスターの一念は一段と強くなっていらっしゃいますし。)
(生命力の強さを出すには、それ相応の生き様が必要不可欠と。ますます以て私達の重要性が示されますよね。)
本当にそう思う。ここまで戦況が拡大してくると、最終的には個々人の一念と生き様が不動であるかどうかに掛かってくる。特に相手が心理戦を展開するなら尚更だろう。窃盗団も前回とは異なり、今回は戦術・戦略を念入りに組んできているしな。
(まあ何だ・・・少し寝る。現地に到着するか、何かあったら起こしてくれ・・・。)
(はい、お任せを。)
(まっかせろーわぅ!)
今まで無理な姿勢でナツミYUを抱いていたのを、抱き枕を抱えるようにして瞳を閉じる。その俺の両手に優しく手を据えてくる彼女。本当に女性の癒しと言うのは絶大だわ・・・。
第6話・2へ続く。
重装甲飛行戦艦ヴァルキュリアの元ネタは、スカイターゲット「走行戦闘飛行艦フランベルジュ」でし><; フランベルジュの方が名前的に格好良かったのですが、そのまま使うのはマズいのでヴァルキュリアに@@; 警護者の続編、探索者でもヴァルキュリアの名前を使っていますm(_ _)m ミツキ嬢が歌う2つの曲は、有名なのでお察し下さい(-∞-)




